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第9話 任務完了

「いいな、俺の合図で一緒に突撃するぞ。部屋に入ったら俺が右に、お前は左に跳ぶ。まずは一旦様子を見るが、戦闘になったら挟撃が基本だ。本命の攻撃は俺がやるから、お前は牽制と陽動を目的に危険(リスク)を冒さず攻撃してくれ。状況次第じゃ、お前にとどめを頼むかもしれんが」


 バルムンクが囁き、ユニオンは無言で頷く。


 グシオン城三階最奥部――当主がいると思しき大広間。

 合流後も次々に襲い掛かってきた近衛兵達を打倒し、二人はついに目的地まで辿り着いた。


 暗色を基調とした厳めしいデザインはそのままに、建材の鉱石が怪しい輝きを放っている。邪と華を併せ持つ両開きの扉は、その先が城内で最も特別な部屋であることを物語っていた。


 バルムンクがすっと右手を翳し、三本立てた指を一本ずつ折っていく。

 最後の人差し指が折られ、拳となってからさらに一拍。

 バルムンクとユニオンは、両開きの扉を同時に蹴り開けた。


「オラァ! 正義のヒーロー様が天誅を下しに来てやったぞ糞野郎!」

 大広間の内部は薄暗かったが、中心に鎮座する異形が二人を釘付けにした。


 グシオン――魔王軍幹部にして、ショカツ谷一帯の魔族を統べる当主。

 巨大な体躯は二メートルを優に超え、ローブは闇に溶け込むような紫の艶を放っている。頭部は猛牛のそれで、肉体はオークのように分厚く迫力がある。


 室内に配下の姿はないが、単身ながらその重圧は広間全体を丸呑みする程に苛烈だった。

 その男が、二人を前にして鷹揚に言葉を投げかける。


「ようこそ我が城へ。歓迎するぞ、勇者達よ。して――今日は一体どういった用向きかな?」


「ふ、ふざけんな! 決まってんだろ! 先日の外道極まる凄惨な事件。俺達はその落とし前を付けに来た!」

 グシオンが放つ威容に圧倒されながらも、バルムンクが激怒を露に叫ぶ。


「事件? はて、それは一体何のことだ?」

 グシオンは心当たりがないとばかり、巨木のように太い腕を組んで猛牛の首を捻る。


「エール商店街での虐殺のことだ! よもや言い逃れできるなどと思うなよ! 目撃情報だって複数寄せられてるんだぞ!」

 グシオンの言葉を挑発と解釈したか、バルムンクの声音に一層の怒気が籠る。


「商店街? 虐殺? はて――そんなことをして、我々に一体何の益があるというのだ?」

「益だと? お前ら悪鬼外道に損得なんてあるか! それ自体が愉しいから、意味もなく無辜の人々を虐殺する。それがお前ら快楽殺人鬼の行動原理だろうが!」


「待て待て、やはり貴公は何やら勘違いをしている。我等魔の眷属は、人間よりもよぼど合理的だ。魔力が豊富ゆえこのショカツ谷を根城にし、恩賞を対価に魔王から指示があった場合に限り戦争を行う。それだけである。戦闘を好む生来の気質は否定せぬが、余計な敵を増やすような愚行に及ぶことはない。それはこれまでの我々とクラッドの関係からも明らかであろう?」

「だが……」


 グシオンの言は至って正論であり、バルムンクは思わず言葉に詰まる。

 困惑はグシオンからバルムンクにも伝染し、大広間を混沌とした空気が包みかけたそのとき、


「騙されてはいけません!」


 ユニオンの一言がそれを振り払った。


「騙す? 我はありのままの事実を述べただけなのだが」

「惑わされてはいけませんよ、バルムンクさん。魔王軍も幹部クラスともなれば、弁舌が立つのも必定。奴はああして貴方の心を乱し、その隙を突いて僕達を確実に仕留めようとしているのです。事実、奴もたった今口にしたでしょう? 戦闘を好み、合理的に行動すると。ならば戦闘を有利に進めるための猿芝居くらい、奴にとっては造作もないことでしょう」


「――なんと、おのれ卑劣な! 感謝するぞ、ユニオン。俺も危うく術中に嵌るところだった」


 ユニオンの忠告を受け、バルムンクの目に再び怒りの火が灯る。

 すっと二本の剣を抜くと、グシオンに向き直って構えを取る。


「もはや聴く耳を持たぬとな? いいだろう。虐殺とやらの関与は改めて否定しておくが、我が戦闘を好むのも事実。あの近衛兵達をも突破してくるほどの猛者ならば、矛を交えるのも吝かではない。おのが視野狭窄を悔やみながら――――我が魔剣の錆びとなるがいい!」


 グシオンはかぶりを振って紫のローブを脱ぎ捨て、背中の大剣を構えた。


「ご覧ください、あれが奴の本性です! では行きますよ、バルムンクさん!」

「ああ」


 ユニオンとバルムンクは左右へ展開し、同時にグシオンへ襲い掛かった。


「ふんっ!」

 グシオンの大剣が、バルムンクの蒼剣を弾き返す。


「チッ……」

 命中を確信したバルムンクが、歯を軋ませながら後退る。


 ユニオンは蛇の如く揺らめく大剣に気圧され、刃圏に踏み入ることすら叶わなかった。


 二人の優劣を瞬時に見抜き、ユニオンを足止めして本命バルムンクを迎え撃つ。

 完璧と言わざるを得ない体裁きは、二人を震え上がらせた。


「はああ!」


 しかし、バルムンクが攻撃の手を緩めることはない。

 それどころか初撃にも増して苛烈な連撃を、捨て身の勢いで叩き込む。

 援護するユニオンも、バルムンクに息を合わせるように倭刀を突き出す。


 バルムンクとユニオン二人がかりの挟撃すら軽くいなしてみせる、無窮の剣技。

 その底知れぬ実力を認めればこそ、二人は間髪を入れずに攻めに徹する他なかった。


 隅に退避して守りを固められれば挟撃のアドバンテージすらも失い、いよいよ勝機は薄い――それを理解していればこそだった。


「惜しいな。せめてもう一人(ユニオン)にも貴公バルムンクに伯仲する腕があれば、この首も容易く落とされていたことだろうに」


 バルムンクとユニオンの間断なき斬撃を躱すこと、既に二十合。

 未だ掠り傷一つ負っていないグシオンが、バルムンクを憐れむように呟く。


「くっ……」


 ユニオンは苦虫を潰すように顔を顰めた。

 バルムンクもワナワナと口を震わせているが、反論の言葉は出てこない。

 ユニオンの実力不足ゆえに決め手を欠いていることは、指摘されるまでもなく明らかだった。


 彼は既に立っているのがやっとで、バルムンクも随分息遣いが荒くなっている。

 二人が疲弊を隠せぬ一方で、底なしの体力を見せるグシオンは未だ余裕の笑みを崩さない。


「なぁユニオン、悪ぃんだけどよ……」


 意を決したように、バルムンクが口を開いた。

 それがジリ貧の戦況を打開する大勝負であることを、ユニオンは突入前に知らされている。


『場合によったら、お前にとどめを頼むかもしれん』――バルムンクから告げられた言葉を、ユニオンは反芻した。


「――分かりました」

 ユニオンはバルムンクの決意を噛み締めるように、短い返事で応えた。


「おい、デカブツ。せめてもう一人いればと言ったな?」

「事実であろう? 実際、貴公は一人の人間としては破格な腕だ。これほどの実力者はクラッドに二人とおるまい?」


 敵ながら天晴れと称えるグシオンの言葉に喜ぶでもなく、バルムンクは独特の構えを取った。


「ほう?」

 バルムンクの動きを見てグシオンが興味深そうに目を細め、ユニオンも覚悟を固める。


「主神ゼウスよ、我が血肉を依り代に裁きを下し給え」

 バルムンクが低く祝詞を呟くと、総身が俄に蒼白んだ。


「――〝|部分展開・双頭の雷霆《リミテッド・サマタジー=ツイン・ケラウノス》〟!」


「なに……!」

 グシオンの双眸が驚愕に見開かれ、悠然とした面構えは一転して殺気に満ちる。


 ゴスッ。強大な二つの力が衝突し、悲鳴を上げるように大気が軋んだ。

 電光石火、雷の具現と化したバルムンクは瞬く間にグシオンの首に蒼剣をあてがい、グシオンはそれを必死の形相で食い止めていた。


 しかし猛然と一転攻勢をかけるバルムンクの攻撃は、左右からグシオンを襲い続ける。


 これまで片手で揮われる二刀の斬撃は威力に乏しく、それゆえグシオンは短い握りで軽くいなすことでその全てを退けていた。

 だが閃光を身に纏いしバルムンクの連撃は、今やその一撃一撃が必殺の剛力を孕んでいる。


「くっ!」

 襲い掛かる二刀の乱舞に、グシオンの防御が少しずつ遅れていく。


 ゴトッ。それは果たしてどちらの音だったか。

 グシオンの首と大剣は同時に地へ落ちる。


 一秒程経った後にようやく世界がその速度に追いつき、血の雨が降り注いだ。


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