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第8話 奇襲成功

 陽は昇りきらず、鬱蒼と茂る樹木の影で依然として薄暗い早朝。

 満を持してグシオン城に奇襲をかけるべく、討伐隊は戦術の確認に先立って点呼を取った。


 討伐隊が異変に気付いたのは、そのときだった。


「おいおい、こりゃどういうことだよ……」


 狼狽を抑えきれず、討伐隊員の一人が口にする。

 総勢五十一名で編成された討伐隊のうち、およそ二割に当たる九名が忽然と姿を消していたのである。彼等は皆、商店街の虐殺に義憤した勇士達だ。逃走や気紛れで帰るなど考えにくい。


 何者かの襲撃を受け、人知れず姿を消した――そう考えるのが妥当だった。


「嘘だろ……シリアの奴、一体どこに行ったってんだよ……」


 バルムンクが肩を落として声を絞り出す。

 彼のパーティからもまた、弓使いのシリアが姿を消していた。


「なぁ隊長、これ日を改めた方が良いんじゃ? 仲間達が心配なのもあるけどよ、もしグシオン軍の闇討ちとかならやばいんじゃ……?」

「馬鹿を言え。今更引き返せるか」


 見るからに弱気そうな僧侶風の男を一蹴し、隊長は討伐隊を鼓舞した。


「いいかお前ら! 俺達はクラッドを代表して、悪を成敗しに来たんだ! 商店街を襲った糞野郎共に、正義の鉄槌を下すのが俺達の仕事だ! 行方不明の仲間達は気がかりだが、アイツらだって俺達が足を止めることなんて望んでねぇ! だからよ、奇襲は必ず成功させるぞ!」


 依然不安げな顔を浮かべる者達も少なからずいたが、隊長の言葉に討伐隊は奮い立ち、当初の予定どおりに、奇襲は決行となった。


 隊長らの作戦に従い、討伐隊はグシオン城を包囲するように散開した。


 氷結魔術を使えるウィザードや撥水加工魔術を使えるソーサラーは、各自が城の外堀で配置についた。水上移動や結界突破技能(スキル)を持たない戦闘特化の本隊は、正門前で気配を遮断して全体を窺う。バルムンク達と共に行動するユニオンも、本隊の一員として開戦の合図を待った。


「総員、突撃!」


 隊長が叫ぶと同時にテレパスで別働部隊にも号令がかかり、討伐隊は一斉攻撃を開始した。


 城内には警報の鐘が鳴り響き、あらゆる区画が戦闘の熱気に包まれた。

 討伐隊の狙いは的中し、突然の急襲にグシオン軍は混乱した。討伐隊はその好機に乗じて、敵兵を次々に打ち斃していく。


 討伐隊の負傷者も相次いだが、戦況は討伐隊の優勢だった。


 場内が騒然とする中、討伐隊に存在しなかったはずの男が行動を開始する。

 赤いサーベルを携え、黒の軍服に身を包んだ男――分離したドゥンとミュルだった。

 ユニオンもまた、戦場において己が性能を最大限に引き出すため、分離形態となっていた。


 戦乱に乗じて物陰に隠れ、必殺の一撃で首を刎ね落としていく。

 一人また一人と死角から的確に獲物を闇討ちする様は、まさしく暗殺者そのものだった。


「皆! 無事か⁉」


 先陣を切って最前線で戦っていたバルムンクが、振り返って問いかける。

 バルムンクが率いる八人編成の小隊は、正門を突破後西側の通路に進軍していた。前方から迫り来る敵をようやく殲滅し終えて仲間を省みたところだったが、応答はない。


 ――カラン。


「誰だ!」


 崩れた城壁の砂礫が地面に落ちる、微かな物音。バルムンクはそれを正確に聴き分け、死角にいる何者かを問い質す。


「……こふっ、バルムンクさん……ですか……」


 真紅に染まった左肩を押さえて岩陰から姿を現したのは、ユニオンだった。

 ドゥンとミュルは再び融合形態となっていた。


「なんだ、ユニオンか? 無事……じゃなさそうだな。敵は?」

「出血は多いですけど、骨や腱は無事なので大丈夫です。周りにいた雑兵は何とか倒しました」


 ユニオンは、ぽっきりと折れた倭刀を見せながら苦笑した。


「なぁ、他の皆はどうなった?」

「すいません、正直目の前の敵を斃すのにいっぱいいっぱいで……」

「そうか……いや、仕方ない」


 ユニオンが言葉を濁して俯くと、バルムンクは苦虫を潰すように呟いた。


「敵は手強かったですけど、バルムンクさんのおかげで後続はまだ楽に進軍できました。それにリンスさんが負傷した討伐隊員を治療していたので、きっと皆さんは大丈夫なはずです!」


「そうか……うん、そうだよな。うちの白魔導士の腕はピカイチだ。どんな重傷だってきっちり治して、きっと後を追って来るはずだ」

「はい。それにリンスさんも言っていました。『私達のことはいいから、グシオンをお願い』と」


「相変わらず献身的な奴だな。しかし、それは迷うな。俺は皆が来るのを待とうと思ってたんだが。ここまでは後ろの援護も兼ねてひたすら進軍を続けたが、付近の敵軍を全員ぶちのめした以上その必要はない。となれば、態勢を整えてから奴を狙った方が良いはずだ」


「通常の戦いならそうでしょう。ですが、この攻城戦では速攻を仕掛けるべきかもしれません」

「ん? それはどういう意味だ?」


 ユニオンにしては珍しい反論めいた発言に、バルムンクが目を眇める。


「グシオンも当然こちらの動向は見越しているはずです。ならば、裏をかいてこそ戦闘を優位に進めることができるというもの。交戦開始からあまり時間が経っていませんし、今なら奴の虚を衝けるでしょう。それに、中枢には強力な近衛兵も残っているはずです。数では劣る反面、先手を取って戦える――こうした少数精鋭の奇襲ならではの優位を活かさない手はない」


「なるほど、一理ある気はするが……」

 バルムンクはなおも気乗りしない様子で頭を捻るが、ユニオンはさらに言葉を続ける。


「何より、敵の強大さと卑劣を考えれば、他の誰でもないバルムンクさんのような英雄が個の力で打ち倒すのがかえって安全という可能性すらある」

「それは……どういう意味だ?」


「グシオンの卑劣さは、商店街の凄惨極まる虐殺から明らかです。それに雑兵の強力さから見て、奴本体も相当な手練れであると推察できる。ならば、仲間と同行すれば人質に取られるリスクがある。外道が相手では、愛する仲間を守らんとする貴方の気高き義侠心はかえって仇になります。それに強力な相手を打倒し得るのは、それをも上回る力を持った者のみです。つまり、バルムンクさんがここで一気に決着を図ることこそ、討伐軍にとって最高の戦術なのです」


「なるほどな。まったく、選ばれし英雄ってもんはつくづく辛いもんだぜ。だが話は分かった」

「ご安心ください、僕がご同伴します。僕くらいの浅い間柄なら、たとえ人質に取られても切り捨てることが可能なはずですから」


「馬鹿言え、俺は英雄だぞ。なら誰も犠牲になんてさせねぇ。確かに付き合いは短いが、お前はもう俺の大切な仲間だ。絶対に見捨てるような真似はしねぇ」


 バルムンクが手を差し出し、ユニオンがそれに応じる。


「敵兵の会話からグシオンの居場所の目星はついています」


 二人は固く握手を交わすと、再び前へ向かって走り出した。


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