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第7話 グシオン討伐隊

 グシオンの討伐に際し、ギルド主導のもとに特別討伐隊が編成された。


 敵は強力で危険な上、気取られぬよう急襲をかける都合により、少数精鋭の編成となった。

 ユニオンは討伐隊にしれっと紛れ込むと、行軍の最中でPCが全員いることを確認する。


「魔猪の群れだ! 皆気を付けろ!」


 ギルドからショカツ谷までの移動も折り返しに差し掛かろうという地点で、隊列の右端を歩いていた白装束の青年が叫んだ。

 ショカツ谷一帯は魔力濃度も濃く、魔獣も多い。長い行軍ともなれば、遭遇は不可避だった。


「へっ! 俺達は魔王軍幹部をぶっ殺しに行くんだぜ? こんな雑魚余裕余裕!」


 魔猪は十匹近い群れだったが、接敵した討伐隊員達は何ら苦もなく斃していく。

 最初に群れを発見した青年も、今は涼しい顔をしている。背中に背負った二本の剣の片方を抜くと、一瞬で直径一メートルはあるずんぐりとした魔猪を両断した。

 魔猪を粗方始末し、場の空気が弛緩しかけた――そのときだった。


「きゃあ!」

「リンス!」


 少女が悲鳴を上げ、青年が焦った様子で彼女の名と思しき叫びを上げる。

 その巨体を一体どこに隠していたというのか。通常の三倍はあろうかという巨大魔猪が、少女に襲い掛からんとしていた。


 一方の少女は膝を着き、得物もどこかにしまい込んで完全無防備の体勢だった。殺した魔猪の群れを供養するように祈っていたらしい。無論、応戦は叶わない。


「このぉ!」


 少女の近くにいたユニオンは、腰に差した倭刀を振りかぶって魔猪に突撃する。


「ぐああ!」


 鎧袖一触。巨大魔猪はその巨体どおりに凄まじい膂力を発揮し、ユニオンを弾き飛ばす。

 ユニオンは辛うじて受け身を取るも、無様に地面を転がった。


 しかし討伐隊にとっては、十分な働きだった。

 ユニオンが攻撃を受けている間に少女は魔猪から距離を取り、青年は両手の剣に蒼白い光を迸らせて必殺の攻撃を繰り出した。


「食らえ! 〝閃光斬撃(ブレード=スラッシュ)〟」


 小枝のように呆気なく弾き飛ばされたユニオンの倭刀とは異なり、青年の剣は巌を思わせる頑強な巨大魔猪を鮮やかに切り裂いた。


 ×××


 魔猪の群れ撃退後も討伐隊は進軍を続け、ショカツ谷手前の地点で野営を行っていた。長い行軍での疲労を回復するとともに、警護が手薄になる早朝を待つのが狙いだった。

 野営地では仲間同士で固まっており、ユニオンは巨大魔猪を鮮やかに仕留めた青年バルムンクのパーティに招かれていた。


「さっきは本当にありがとうございました」

 リンスが恭しく頭を下げ、ユニオンに礼を言う。金髪碧眼の美少女だった。


「いえいえ、僕は使い捨ての盾役で精一杯でしたよ。バルムンクさんの攻撃のおかげです」

「それは事実だけどよ、俺が攻撃するまで時間を稼いでくれる奴がいなかったらヤバかったぜ」


「焼けましたよぉ、バルムンクさん。えっとぉ、ユニオンさんでしたっけ? も、どうぞ」

 やや幼げな印象を残した銀髪の少女が、舌足らず気味で呼びかけながら金串を持ってくる。


「待てこるるぁ、シリア! タンパク質は全部、このアンナ様のもんだぁ!」

 燃え盛る炎のように逆立った赤髪の少女が猪のように突進してくるが、バルムンクはそれをひょいと躱して金串を二本受け取った。


「サンキュー、シリア。ほら、さっき俺達が斃したあのデカブツの肉だ」

 バルムンクはニカっと笑い、金串の一本をユニオンに差し出した。


「結構歯応えがありますけど、肉の旨味強くておいしいですね」

「魔獣は魔力蓄えてる分、癖が強くなりがちだからな。喜んでもらえて何よりだ」


 躱されてなお金串を取ろうと迫るアンナの顔を押さえつけながら、バルムンクも串を頬張る。


「皆さんは普段からパーティを組まれていらっしゃるんですか?」

「ああ、俺達はいつも四人だ。剣聖の俺と白魔導士のリンス、弓使いのシリアに、狂戦士のアンナの最強パーティだ。つっても、俺が強すぎて最近は皆に出番やれてないんだけどな」


「出番なんてなくていいぞ? アンナ様はバルムンクと一緒にいられるだけで楽しいからな」

「ちょっ、ずるいですぅ。バルムンクさん……あたしも……」


 アンナがバルムンクに抱きつくと、シリアも頬を赤らめておずおずと体を寄せた。


「こら、二人共何やってるの! ユニオンさんの前ではしたないわよ。君もちゃんとして!」

「いいじゃんリンス。お前も二人みたく素直になって良いんだぜ?」

「もう、バルムンクったら!」


 不機嫌そうに口を尖らせながらも、リンスはバルムンクに身を預けた。


「皆さんは、本当に仲睦まじくいらっしゃるのですね」

「ああ、俺も皆のことが大好きだし、皆も俺の事が大好きだ」


 順次焼けた魔猪の肉を食べながら、ユニオンはバルムンク達と暫し談笑した。

 これまでこなしてきたクエストや仲間との馴れ初めなどを、バルムンクは自慢げに語った。


「バルムンクさんは、勇猛果敢にして頭脳明晰。言葉では語り尽くせぬ偉大な御仁とお見受けしました。ときに――それほど優秀なバルムンクさんは、現実世」


「それが何なん?」


 先程までの饒舌な口振りから一転、バルムンクは露骨に不快感の籠った声で言葉を遮った。


「これは失礼。なにぶん、PC(プレイヤー)の方にお会いするのは久しぶりだったものでつい」

 彼の豹変を見て取り、ユニオンは慌てて謝罪する。


「いや、気にしなくていいよ。でもさ、現実世界(ミズガルズ)のことなんてどうでも良過ぎて論ずるに値しないだろ。俺達はワルキューレに導かれた仮想世界(アースガルズ)の住人なんだから。それに劣等世界(ミズガルズ)のことを話すのはうちの三人やその他大多数のNPCに悪いと思うし」


「それもそうですね。それより先程の邪竜討伐のお話をもう少し伺ってよろしいですか?」


「ん? お、おういいぜ。あのときは流石の俺もマジで苦戦してなぁ――」

 話題を戻すとバルムンクは再び饒舌に語り出した。


 和気藹々としたムードに包まれ、夜更けまで宴は続いた。


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