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第37話 限界

「お前は――これで満足か? これがお前の望んだ結末か?」

「――そらそうよ。それがワイらの任務やからな」


「あいつらは皆、お前の仲間だった。奴等は皆、お前を見殺しにしたことを悔いていた」

「せやな」


「分からなくなってきた。俺は一体何をしたいのか? 俺は――今のままでいいのか?」


「知らんがな。とりあえず合法なんは確かやで。NPCなんて、いくらぶっ殺そうが何の罪もあらへん。PCを現実で殺すのは重罪やし、あかんけどな? キミは世界と人間が憎くてしゃーないから、とにかく何でもええから一人でも多くぶっ殺して回りたい。ちゃうんけ?」


「ああそうとも、俺は世界も人間も大嫌いだ。俺を拒んだ世界が。俺をサンドバッグにしてきた糞野郎共が。俺を踏み台にしていい生活をしてた連中が、こぞって仮想世界に逃げたことが!――てめえらの現実は、俺の犠牲のおかげで確かに素晴らしいものだったんじゃないのかよ! 何もかも売って仮想世界に逃げる程クソみてぇなもんだったのかよ! そんなお前らの〝普通の生活〟に憧れてた俺は何なんだよ! てめえらがそこまで心酔する仮想世界がどんなかと思えば、入ることすら拒否! てめえらまで俺を拒むのかよ! お前のおかげでやっと入れたと思えば、紛い物の偽物でイキってるだけの糞野郎共! 本当に、糞味噌で反吐が出て大嫌いだった! だから殺して殺して殺して殺して殺して殺してぶっ殺し尽くてやりたかった!――だが、連中の中にも話せば分かる奴等はたくさんいた。NPCの連中は、触れて確認しねえと区別がつかねえレベルで人間だった。あいつらは、俺が世界を滅ぼせば死ぬ。あいつらにはガチで何の罪もないのに。考えないようにしてきた。憎悪に任せてひたすら殺し尽くしてきた。だが――俺がやっていることは――」


「だから言うてるやんけ。NPCはなんぼ殺してもええねん」

「ルールの話じゃない! 道理の話だ!」


「道理? 何を今更。〝俺は間違っているが、世界はもっと間違っている〟――それがキミの出した答えやろ? ほんなら、あとは命ある限り破壊し尽くすだけやんけ」


「あらあら言い争いですかー?」


 そのとき、二人を嘲笑うかのような声が背後から聴こえてきた。

 一体いつからどこまで会話を聴いていたのか? 上官のホログラムがぼうと現れる。


「お前には関係ない話だ」


「えー私これでもお二人の上官なんですよぉ? 部下の人間関係を管理したり精神衛生を守ったりするのも仕事なんですけどぉ? お悩みでしたら、私相談に乗りますよぉ? ホラ、何でもおっしゃって。さぁ!」


 ベトゥが双眸を弓なりに歪ませ、パンパンと手を叩く。ペットの犬に芸を催促する飼い主そのものだった。軽蔑と嗜虐の念が全身から滲んでいた。


「黙っていろ。任務は既にほぼ完了した。お前が出る幕はない」


「そうですねぇ、ほぼ完了しているはずですよねぇ? じゃあ、何でさっさと神器を回収しないんですかぁ? アレですかぁ? もしかして、この世界の可愛いアイドル達に目が眩んで発情中とかぁ? えーでも死姦はどうかと思いますぅ! 変態レベル高過ぎですぅ!」


「だから――消えろと言っただろうが!」


 ドゥンはサーベルを振りかぶり、ホログラムを袈裟切りにした。

 影はサーベルが触れた一瞬微かに揺らぐのみで、通過した直後には完全に元へ戻る。当然の結果でありベトゥにも当然掠り傷一つなかったが、


「奴隷の分際でてめぇ喧嘩売ってんのか! このゴミクズが!」


 悠然と二人を見下していたにやけ顔に、憤怒の皺が刻まれる。精神的には幾何かの攻撃になったようだった。


 ドゥンはベトゥの罵倒を無視して神器が眠る位置へと歩み寄り、サーベルに手をかける。


 だが鯉口をカタカタと鳴らすばかりで、一向に抜かない。これまで数多の人間を斬り伏せてきたサーベルであるのに、まるで重すぎて抜くことができないかのようだった。


「もしもし? あの――」


 背後からベトゥの呆れた声が投げかけられた頃合いで、ドゥンはようやくサーベルを抜く。そしてステージの床へと突き刺した。


 その後はいつもと何も変わらなかった。

 ミュルは刀身を僅かに変化させて触手を這い出させ、神器をみるみる吸収していく。回収を終えると触手も元に戻り、程なくしてパラパラと砂礫が崩れ落ちるようにPLISMは崩壊していった。


「あーあ、この玩具も潮時ですかねぇ」


 崩壊するべくして崩壊していくモノへ、至極どうでも良さそうな声が投げかけられる。


 それを聞きながら、ドゥンは仮想世界から姿を消した。


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