第22話 壊れた幻想
「クソっ!」
千載一遇の神器を回収する好機を逸し、ドゥンはサーベルを地面に思い切り突き立てた。
「いや、この形態はつるはしちゃうねんけど」
「分かっとるわそんなもん! お前こそ理解してるのか? 俺達は失敗したんだぞ? ここまでほぼ計画どおりに進めながら、あと一歩で仕損じた。連中にまんまとしてやられた」
敗北者はみっともなく膝を折り、地面を殴りつけた。
「うーんこの危機的状況。これ、久しぶりに本格的にヤバいんちゃうか?」
「それも分かっている! ああ、悪手だった! 迂闊だった! いっそこの場は見送って、ポイントBで待ち伏せるべきだった。ワンダーだけなら機を窺って暗殺するだけで済んだ。だが奴等はこちらの手の内を知った上で警戒を固めている。しかも分離形態ではワンダーを斬れないのに、融合形態ではボルグが斬れない。その二人が互いを守り合う形で。これでは――」
口数が少なく感情を隠したがるドゥンが、珍しく激しい後悔を露にしていた。
そして――それを好機と捉える者がいた。
既に住民軍は、ほぼ全員が死に絶えた。ボルグとワンダーは、〈徘徊〉の発動によりこの場から離脱した。だがドゥンとミュルの他にもまだ一人、この焼け野原で生き延びてしまった者がいた。
ブルタスは腰を抜かして怯えるばかりだったが、自分が殺人鬼の眼中にないらしいことを悟ってゆっくりと移動を開始していた。
さながら、熊に遭遇してしまった登山者のように。
「あっ」
ブルタスは足を滑らせ、堪らず声を上げてしまった。彼の足元にはちょうどラウルの首があり、半径二十センチほどの血溜まりができていた。
ドゥンはゆっくりと首を回し、ブルタスへと白仮面を向けた。
「ああ、何という皮肉か。この世界はひょっとしたら、俺達以上だ」
「ん? それはどういう?」
「単純なことだ。破壊と自傷行為が大好きな、死にたがりのド変態ってことだ!」
ドゥンはサーベルを片手にブルタスへと襲い掛かった。
× × ×
「何でだよ……」
悲哀の滲む声でそれだけ言い残し、ボルグは絶命した。
議事堂前での激戦を辛うじて生き残り、ワンダーの〈徘徊〉で戦場を離脱してから、実に三時間後の出来事だった。
腹からは背後から深々と突き刺された真紅のサーベルが咲いている。
ドゥンはそれをすっと引き抜くと、即座に融合。そしてユニオンは、倭刀ですぐ傍にいたワンダーの首を撥ね飛ばした。
ユニオンが周囲を見渡すと、どうやらそこはクロン村とはまた別の村らしかった。
だが一連の騒動を見ても近づく者は一切なく、騒動が起こる前も周囲には誰もいなかった。
ユニオンは再度分離し、
「――〈形態第零番〉」
首のないワンダーの亡骸にサーベルを突き立てた。
うねる触手が彼女の肉を貪り、やがて神器の回収は終了した。
「仲間を信じる心、素晴らしいな。もしお前らがバラバラに行動していたなら、本気でヤバかった」
白仮面の男は、ぼそりと呟いた。絶望とも怒りとも自嘲ともつかない、あらゆる負の感情が綯交ぜとなったような声だった。
核を失った世界は、加速度的に実体を失っていく。
彼等の任務が完了するのを待っていたベトゥが、二人が世界を離脱するための門を開く。
世界を崩壊させた張本人達は、何事もなかったかのように平然と仮想世界を離脱した。




