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第13話 技能

「いやぁ、礼を言うぜ。まさか見ず知らずの俺のために協力してくれてたなんて」

「いえいえ。私は咄嗟に身を守ろうとしただけですよ。急に襲い掛かられたもので」


 殺した鹿を回収した後、ユニオンは鹿を追っていた青年ボルグに同行していた。彼は自分達が暮らす集落へと戻るところなのだという。


「だからって凄ぇよ。あんな致命傷を、簡単につけちまうなんて。俺なんてしばらく睨めっこして格闘して一発くれてやるだけが精一杯で、あとは逃げられっぱなしだったのに」


 ボルグは、右手に握られた武器と思しき道具を振り上げる。ユニオンはまじまじとそれを観察するが、やはりただの枝のようだった。


「殺すためにわざわざ追っていたというのはなぜでしょう?」

「……へ? 今日の飯にするためだけど? もしかしてあんた、この辺の住人じゃないのか?」

 ボルグはきょとんとした様子でユニオンを見返す。


「と言いますか、実は先ほどこのモティカに来たばかりでして。この辺りはおろか、モティカ全体のことがよく分かってないのですよ」

「そんな状態で、いきなり鹿に襲われたってか? 災難だったな」


「こうしてボルグさんとお話するきっかけになりましたから、あながち不幸とも言えません。こうして着いて行けば、とりあえずこの森は抜けられますしね」

「ダンテの森は広くてずっと同じような景色だからな。いいぜ、一緒に俺の集落まで行こう」


 ユニオンは改めて周囲を見渡す。

 言葉どおり、代わり映えのない景色が無限に続いていた。


「食料調達が目的とのことでしたが、お住まいの集落に商店とかはないのですか?」

「店ねぇ。あるにはあるが、あんま金持ってねぇからなぁ。安い干し肉なら手に入るが、不味いし。良い肉食おうと思ったら、こうやって自分で捕まえんのが手っ取り早いんだよ」


「自給自足というわけですね。生活で苦労したりすることはないんですか?」

「別に? 鹿を狩る能力は人並だが、俺だって俺にしかできねぇ技能はあるからな。それがある限り、何も困ることはねえし不満もねえさ。毎日楽しくやってるよ。それよりあんたの武器すげぇな。それが技能か?」


 ボルグが視線を落とす。見下ろす先にはユニオンの腰、そして吊られた倭刀がある。ボルグの枝に比べれば随分と立派だが、何の変哲もないただの刀だ。


「いえ。これは、いただきものです」

「鍛冶の技能を持つ奴からもらったとかか? 随分と気前がいい奴なんだな。そんなすごい武器をぽんぽん他人にあげてたら、自分自身が困りそうなもんだが」


 ボルグは不可解そうに目を眇める。

 やがて前方から光が射していることに気付くと、詰問することもなく顔を見上げた。


「見えてきたぞユニオン。あれが俺の住んでる村、クロンだ」


 ボルグが前へ駆け出して指を差し、ユニオンがそれに続く。

 目の前にはなだらかな下り坂が続いていて、周辺を一望できた。広がる景色の中心に、藁や萱と木材で組まれた住居と思しき建造物が点在する区画があった。


《〝もしもし〟――俺だ、ボルグだ。皆聴こえるか? ダンテの森から集落に帰るとこなんだが、森の中で新参に会ってちょいと世話になった。今から連れてくから、暇な奴等は来てくれ》


 ボルグは耳にすっと手を当てたかと思うと、虚空に向かって突然そんなことを唱え出した。


「あの……一体……」

「これが俺の技能なんだよ。〈送信〉つってな、〝もしもし〟って宣言してから相手を思い浮かべて喋れば、距離に関係なく声を伝えられる。会ったことがある奴なら、誰でもどこでもな? ま、知らない奴に伝えたり、俺の方が声を聞いたりはできねえが。俺にしかできねえことだ」


 ボルグは自慢げな笑みを浮かべて、鼻を鳴らす。


「先程もおっしゃいましたが、技能とは?」

「あ? いや技能は技能だろ。あんたもこのモティカにいる以上、持ってるはずだぜ? 他の誰にも真似できない能力、他の誰にも果たせない役割ってヤツがな?」


「ああ、なるほど。ええ、私の技能は確か――」

 ユニオンはコンソールを開き、自身の技能を確認した。


「ええ、私の技能は〈探索〉です。簡単な能力としましてはまあ、物探しが人よりも少しだけ得意なのだとでもお考えください」

(まあ、嘘やけどな)

 全くの嘘というワケでもなかったが、ユニオンの技能は実際にはもっと限定的なものだった。


 松露――現実世界でも超高級食材として珍重される、球形の茸である。その異常な高値は、何より莫大な供給コストに起因する。まず人工培養が困難なために、主に自然生育に頼らざるを得ない。そして生育量自体も少なく、何よりも地中に埋まっているために発見が困難を極める。家畜を使うことで何とか発見が可能だが、極めて効率が悪い。こうした事情から松露は現実世界でも高値で取引されており、松露を発見できる技能は十分に有用と言える。


〈松露〉――それがこの世界でユニオンに付与された、真の技能だった。松露を半径十メートル以内において地中から発見できるという、まさにメス豚そのものの能力である。


「へぇ、そいつは凄ぇ技能じゃねえか。何かあったときはよろしく頼むぜ」

 ボルグはユニオンの肩を叩き、屈託のない笑みを浮かべた。


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