とある勇士の回顧
その内 書きたいなーと思ってる勇者モノの登場人物を切り取って短編にしました。
読んでもらえるとありがたいです。
残虐描写有ります。
「あー、痛えなあ、チクショウ」
多くの呻き声と漂う血の匂いの中にその男は居た。
ここは最前線に近い小都市の外曲輪にある聖霊教会。
今は臨時で軍に接収されて野戦病院になっている。
昨日の最前線になった村での迎撃はかなりの激戦だったが どうにか撃退に成功。
その撤収作業中、折り重なった遺体に軽く躓いた。
すると、痛みに呻いた者が居たので その生存に気がつき 拾ったのだ。
見た所 既に血は止まり あとは聖霊様次第、と言ったところか。
運んだついでに俺自身も治療を受け、立ち去る前にと気まぐれにその男の元に立ち寄った所だ。
「ああ、あんたが助けてくれたらしいな。ありがとう、助かったよ。」
と言うが、その向く先は実際の俺より人一人分外れている。
「いやあ、左目にまで包帯を巻かれた所為でよく見えねえんだよ。右目の傷だけ巻くのが面倒だからってそりゃ無えよなぁ。」
感覚が無いのか…包帯は頭部の傷と共に巻かれた右眼側だけだ。 おそらく眼の神経が切れたかどうかしたのだろう。
「あんまりにも痛くて寝てられなくてよう、雑談に付き合ってくれや。」
同じ戦さ場で戦った仲、これも縁か と思い付き合う事にした。
「俺ゃあ元はカルビナの生まれでよ、 爺さんの親までは城勤めだったとかで家は郷士だったんだ。 でいざとなったら兵役が割り振られる、ってんで夜んなると剣と槍を練習する訳よ。」
カルビナか…あそこは確か…。
「それが12の歳だったかな?帝国に併合されちまってよう。 そうなったら郷士なんて百姓と一緒だ。」
そうだ、思い出した。あの国は帝国に最初に飲み込まれた国だった筈だ。
一応は未だ王家は存続していたと記憶しているが…。
「それまでの剣と槍の修練の成果なんて使う事もなく終わった。 尤も毎夜の修練と言ったって爺さん相手に1から10まで型をなぞる形稽古だったからな。帝国相手に役に立つ訳も無かったんだがな。」
……兵農一致の郷士ならいざの時の為の稽古で怪我をする訳にも行くまい。形稽古のみというのも仕方ないだろう。竹刀の様な物でもあればまた違うんだろうが、な。
「当時のうちの王様は偉く気の良いってえか、お優しい方でなあ。」
男の 包帯の無い左眼から涙が溢れている。
「自分が戦わずに膝を屈した事をとても悔やんでいらっしゃってなあ。領内の元兵士と郷士を順繰りにしょっちゅう晩餐に呼んで下さるんだよ。 で酒が入るとその席で涙流して済まぬ済まぬって手を取って頭を下げてお詫びなさる。」
「晩餐って言ったって 没落して直轄領は以前に比べりゃすずめの涙。親類筋の豪商の援助が有るっていっても限界がある。だから豪華な晩餐でもねえんだ。そんな無理して毎夜晩餐するよりは もう少し自分達の暮らしをどうにかした方が〜って思ったんだよ。着ているもんとか…物は良いが着古してるの、郷士の俺ががわかるんだぞ。 何より、それ以上に泣き上戸の王様相手じゃ飯も美味くねえからな。」
喋りすぎたのか男は水を欲しがる。横たわった身を起してやり水差しの水を与えた。
「ああ、美味え。……同じ様に思ってた連中が結構居てなあ。みんなで談合してから側近の貴族様に伝えたんだ。……そしたらなあ………っ。」
男の声が詰まって後が続かない。
しばらくして落ち着いたのか再び語り始めた。
「そしたら、実は王様 素面だって言うんだ。 戦が出来なかったのは実は譜代や一部親類筋の貴族が国を売ったのが原因で、泣く泣く併合に応じたんだそうだ。でその事を詫びずに居れなかったとかで晩餐をーって事になったらしいんだが 痩せても枯れても王族が兵士や郷士なんかに頭は下げられねえ。 で毎夜酔ったふりして泣いて詫びてたんだそうだ……。実は一滴も飲めねえ下戸なんだと。」
そんな王ならばとても慕われているに違いないだろう、愚王の類かも知れんが 英邁と評判だが同時に血も涙も無いと言われる帝国の皇帝よりよほど好い。
一度会ってみたいと言うと王を褒められて嬉しいのか明るい口元で
「もう亡くなったからな。その気になりゃいつでも会えるさ。本当に最期の最後まで苦労なされた方だからな。あちらでゆっくりしていて欲しいもんだ。」
そんな王の後継とはどんな人物なのか、と尋ねる。
「跡継ぎか?これも酷えはなしだ!」
男は吐き捨てる様に言った。
「親類筋の豪商の倅が養子に入って継いだよ。元々王様は娘が一人でな、幼馴染の今の王が婿に入る事になってたんだ。 で来月ご成婚って時に皇帝の命令で後宮に取られちまった。 こんなあからさまな嫌がらせも無えってもんだ!」
ああ、あの皇帝らしい話だ。 男が憤るのも無理は無い。
「余りの事に 王様 御髪の色が全部抜けちまってな。歳も二十も老けて見える様になって寝込んじまった。」
一つ溜め息を吐いて落ち着いたのか少し間を取った後話続ける。
「であちらに御渡りになったんだよ。 ある意味で救いは今の王様は王女様を想ってか、側女も娶らず後宮の代替わりでの王女様のご帰還を待つってさ。 まだ17だからな。50の皇帝との長生き勝負なら何とかなりそうだろ?」
「俺ゃあ先王様と今代様の手助けをしたいんだ、それが今の目標だ。」
疑問に思う。
そこまで心酔した王とその後継に仕えるつもりならば何故ここに居る?
「あー、そうだなあ…………。」
そう言うと男は黙り込んでしまった。
様子がおかしいので確認してみると男は失神していた。
傷が塞がったばかりだ。随分と血を流していたのだろう。顔色もすこぶる悪い。
周囲を見渡し問題無いか確認してから回復の方術札を使う。
自作ではあるが用意が面倒なのだ。作れる人間もそれほど多く無い為、わりと高価で取引されている。
こんな場所で迂闊に使うと我も我もと集りが出て大変なのだ。
「あっ…あぅう…。」
半刻もせずに男が目を覚ました。
声を掛けて水を与える。
「済まない…。気が遠くなってな。」
また次の機会にしようかと言ったがまだ話したいと言う。
「こうも戦が続くとな、次の機会ってのに期待出来なくてな。折角の機会を得たのだ。是非聴いて貰いたい。」
この男のどう言う想いが底にあるのかはわからないがそう言われれば聞かぬと言う訳にも行かない。
「どこまで話したかな…………あー………そうだ。今代様の純愛話だったな。」
男は今の王の心積もりを想ってか、ふふふっと笑うと先を語った。
「あれは今代様が跡を襲ってから2年だったか3年だったか…ここ数年は俺もがむしゃらに戦場を駆けたからな。今一はっきりと覚えていないんだ。」
じっくり記憶を絞り出す様にして話す。
「結婚したんだよ、俺も。王女様は美人だったが俺の嫁はそういうのじゃ無かったが、何というか 可愛くてなあ………。幼馴染だった。 近隣の村のこれまた郷士の娘でな。 幼い頃から俺の背後を「にー様、にー様、」と付いて回るんだがこれが可愛くてな。気が付いた時には大人になったら嫁に迎えようと思ってたよ。」
余程楽しい思い出が詰まっているのだろう。声を聴くだけで判る。
「で俺が17、嫁が15だった…。 幸せだったよ。俺の女神だった。惚れた欲目だったのかも知れんがな。」
思い出したのか暫く遠くを見る様な姿勢で想いを巡らせている様だ。
真に幸せだった記憶というのは色褪せないものなのかも知れないな。
俺にもそういう存在…だったのかもうわからないが、護りたいと思った女は居た。
「その頃は帝国に呑まれた国家も随分有ってな。国境だったうちの国も気がつけば帝国の内地よりになってた。 取り上げられた王家の直轄領は帝国の代官が治める様になってた。
結婚して半年も経ってなかった……な。 拡大した戦線に兵を送る為の駐屯地を作るって言う賦役があったんだ。アレは本当に辛かったが、これが終われば嫁の元に帰れる。3か月 それだけを考えていたなあ。」
少し黙るとうつむき加減になった。声は重たく暗い。紡がれる言葉がヘドロの様だ。
「家の帰ったら遠くからでも判るほど荒れていた。まるで屠殺場の様な………。まあそれほど間違ってもなかった。 玄関先に爺さんと親父、お袋の首が転がっていた。その時はそれが何なのか分からなかったがな。分からないと言うより理解出来ないって感じか。ちゃんと見れば人の頭なんだ。でな、家族の人数と合わない。…探したよ。で、よく見るともう一つあった。くっちゃりと潰れていてそれが頭だとは分からなかった。
ーーあ?いや、嫁じゃなかった。歳の離れた弟だ。10になったばかりでな。大人しい奴で嫁にとても懐いてた。ありゃあ…多分惚れてたんだろうな。」
何か重たい物を引き摺る様な……しかしとても静かな……凪いだ海の様な怨嗟の声。
「家の中はこれ以上ないほど荒れてたな。首を失った身体が四つ…。 そこでやっと気が付いたんだ。あんなに惚れてたのにな、薄情なもんさ。探したさ、それほど広くも無い家の隅から隅まで 繰り返し、繰り返し、大声張り上げて嫁の名前を…何度呼んだんだろうなあ……。」
「便所の壺の中、鍋の中、飼い葉桶の中、敷布まで全部ひっくり返してな。今更 多少汚れても大差なかったしな。」
「で半日くらいして日が落ちたら力が入らなくなってな。立って居られない。腰から下が何かと入れ替わったみたいに重い。重いのにふわふわして重さが無いんだ。何だそりゃ?って思うだろう?でも実際そうなんだ。で、立ち上がろうにも脚も腰も言う事を聞いてくれないんだ。笑い事じゃ無いんだが勝手に小便や糞が漏れ出すんだ。アレには参ったよホント。」
くっくっくと笑う男。
「そうこうしてたら近所で一緒に賦役に参加してた奴らがうちに来た。ーー奴らには悪いことをしたなあ。足腰の立たない大の大人の男 しかも小便塗れ糞塗れ へたり込んだ時に弟の臓物も浴びたからな。そいつら、そんな俺を数人がかりで洗ってくれてなあ。替えの服をくれてそのままそいつの家に泊めてくれた。」
言葉に重量が増した……まさに呪言。
「そこで聞いたんだ。 嫁は代官の野郎に連れ去られたってな。妾として差し出せと本人が兵士20人ほど連れて来たそうだ。だが 娘ならいざ知らず 他所から貰った嫁だぞ。当然だがオヤジは断固として断ったらしい。」
「でも、どっちも引かないから 当然揉める。とうとう痺れを切らした代官が嫁を力尽くで連れ去ろうとした、それを弟が嫁を離さない代官の腕に噛み付いたんだと。その瞬間にしこたま蹴り飛ばされた弟は反吐を撒き散らして…それを契機にオヤジと爺さんが抜き身で応戦。」
「まあ皆殺しまであっという間だったそうだ。 弟の奴だけエラくぶっ壊されてたのは噛み付かれた腹いせなんだろうな。」
ふうと息を吐いて咳払いをする。痰が絡んだのだろう。水分を取らせて少し休憩を取る。
その間、話を聞いてばかりも何なので俺にも好いた女が居た事、もうこの世に居ない事を話す。
それ以外の事は大抵の事の口外を禁じられているのでいくら引き伸ばしてもほんの数分で話す事が尽きる。
男は笑いながら言った。
「余り気にするな。俺が俺の為に聴いて貰っているんだ。」
「ーーーでな、次の日代官屋敷に行ってみた。 そりゃ、あわよくば嫁を取り返すつもりでな。でもなあ。17やそこいらの郷士の倅風情がそんな事出来るわきゃねえんだよ。 あっさり捕まっちまった。 」
「まあ殺されるだろうとは思ったな。俺も何考えてるだろうな、全く。考えて無えからそうなった?そりゃそうだ。」
「ーーーでも殺されなかった。帝国の連中にもまともな奴も居てな。釈放する、嫁の事は時間は掛かるかも知れねえが待ってろ、って言うんだよ。…従ったさ、仕方ねえだろ。
「でな、そいつの手引きで嫁とあったんだ。帝国の軍服着込んでよ。ネズミみたいに小部屋でコソコソとほんの一言だけ…いや二言か…。「愛してる、必ず迎えに来るから待ってろ。」ってな。嫁か?涙目で「はい。待ってますから。」と。口づけしてそれっきり、もう…何年になるかな…俺は今…21か?いや20だったかな?……まあ、それは一旦置いとくさ。考えても歳は変わらねえからな。」
「で、その時、偶然代官の顔を見て驚いた。俺を手引きした奴と同じ顔してやがる。偉そうなクソ代官が向こうに居るのに真横にも同じ顔した野郎がいるんだぞ。流石に気になって仕方ねえからな。屋敷出る時に聞いたんだ、そしたら双子だとか言いやがる。陰子って奴だ。聞いた事無えか?」
「帝国の東部辺りの慣習なんだが、双子は縁起悪いから片方だけ里子に出すんだ。それでそいつの場合は家臣の子として育って今はそこの婿養子やってるらしい。」
「形の上では主従だがあんな下衆に捧げる忠誠など爪の先程も無い、いつか取って代わる積りだ、とよ。」
で、その取って代わるというのは上手く行ってるのか、と聞くと 男曰く、これからの事だと言う。
「それも話のうちだ、まあ待て、順序がある。」
そういうと、話を続けた。
「で、逃げ帰ったのは良いんだが、問題は我が家の有様だ。村の仲間は家の事は忘れて好きなだけ家に泊まれば良いと言ってくれてたんだよ。でもなあ、流石に家族の遺体をそのままってのは余りに忍びない。」
「で 村の連中には黙って、夜中にこっそりと村の墓地に埋葬したんだ。でも、それが拙かった。代官に刃を向け処分された極悪人どもの晒し首を勝手に埋葬したって内容で追っ手が掛かってな。まさかの賞金首だ。」
「で、国境破ってこちら側で傭兵始めて それ以来先の見えない戦場の日々だ。」
「だがしかし、我が嫁をこの手に取り戻せるなら! そう思って戦っていたある日、思っちまった。 ただ ただ 殺し続けたこの俺の手で嫁を抱き締めて良いのか? 血に塗れたこの手! この血塗れの日々を! 嫁にどう伝えてどう誇るのだ ⁉︎………思っちまった。」
男は 恐らくは自分のその手を心の中で見つめているのだろう。伏し目がちの様な姿勢で肩が少し前に傾いている。
「それからは、嫁の為には戦わなきゃならんのに、戦うのが辛くてなあ、毎日毎日おかしくなりそうだった。 ん?そんな訳あるか。それでも殺し続けたさ。何日経った?何年過ぎた?何人殺った?そんなモンが判らなくなるまで来る日も来る日も。」
「ホント、帝国がやる気に溢れた連中で良かったよ、毎日戦があるからな。悩む時間が減る。」
ここで声に喜びが溢れた。
「それがなあ! 昨日の迎撃戦だ! あの村は傭兵になって以来結構出入りしててな。そこに若い夫婦が居るんだよ。」
「その嫁の方がな、何というか俺の嫁に似てるんだ! でその夫婦が本当に仲睦まじい! 俺ゃあその夫婦を見るのがとても好きなんだ! あ?いや、きっと向こうは俺の事なんて知らねえよ。そんなもん、口も利いた事無えのに 当たり前だろ。」
その夫婦に自身と妻を重ねて見ていたのだろう、男の語り口は初恋の相手からOKを貰った少年が恋の武勇伝を語っている様で初々しさに溢れている。
「それが昨日の帝国の襲撃で危うい所でなあ。旦那の方も手傷負って拙い感じの所に救援が間に合った!」
「神様ってのは居るもんだな。 襲撃したのが例の代官の部隊なんだ!後方で何があったのか知らねえよ。だが奴が最前線に立ってるんだよ! 奴が!奴が‼︎ 俺の頭はもう奴の首を飛ばす事でいっぱいだった。」
「その夫婦を後ろに背負って片端から切ったよ。多分今までで一番の出来だ。軽い。何もかもがな!鳥の羽を振ってる様だった。それで相手を撫でると勝手にバラけるんだ。何ていうか、触ったら弾けて種を飛ばす雑草あるだろ!そんな感じでパンパン面白い様に弾けるんだ!」
「その時気がついた…。 爺さん相手に毎夜やってた型稽古…まんまアレなんだよ!そこからもっと勢いついた気がするなあ。で代官の前に辿り着いた! やっとだ!長かった!で奴の右手首を切り上げて落とした‼︎ あとは首を!」
「でもなあ、そこまでだった。 型がな、そこで丁度終わりなんだ。あと一振り、肘を!手首を!返して払えば終わる!って言うのに さっきまでの身体の軽さが嘘みたいに重い。何が重いって まず空気がもう重い。纏わりつく空気が水を吸ったシーツの様でな。蝋人形にでもなった気がしたよ。」
「腕が動かないなら喉笛喰いちぎって 喉がダメなら首筋でも、鼻っ柱でも、なんでも良かった。飛びついたんだ。そこまでは覚えてる…………。」
「仕留め損なったとしても代官の陰子の助けにはなっただろ、あとはあいつ次第だ。」
「だが!俺はやった! あの夫婦を救った!俺が、だ!あの夫を!あの嫁を! 他でも無い、俺がだ!。」
「俺の嫁は未だだが、救い出したら話してやるんだ!俺が救った夫婦の話を!」
男はそのまま咳き込んでしまった。背をさすって介抱する。
ーーーー可哀想だがあの村の生き残りに夫婦揃った者は居ない。
ーーーーお前の倒れていた辺りで助かったのは女一人だけだ。
ようやっと落ち着いた男が聞く。
「教えてくれ…。俺に右手はあるか? 左手はどうだ? 立って歩けそうか? 」
ーーーー男の右手は肘の先の中程で潰れていた。
ーーーー左手は二の腕の半ばから無い。
「俺は未だ嫁を取り戻してねえんだ! 戦わなくちゃならねえ! シスターは教えてくれなかった!」
ーーーーもう視力は戻らないだろう。
「なあ! 俺は! 俺!……俺は!俺はまだ戦えるのか⁉︎ ………また戦えるのか⁉︎ 」
哭いている。 生命を削ってでも成し遂げたい目標を それでも生命にしがみつき戦った男が哭いている。
ーーーーもう戦えまい。
だが、俺はこの男が気に入った。
ーーーー生命を削った理由は一人の女を救う為だと?
ーーーー口を聞いた事すらない夫婦を救った事が誇りだと?
ーーーーなんて愉快なんだ!
生きる目的以外の何もかもを失った俺のなかに戦う為の火を入れてくれた。
「お前のその怒りを! 哀しみを!全て俺に寄越せ! 全てだ! それが俺を奮い立たせる!」
「対価はお前の五体満足だ!」
◆
「まさか俺を救ってくれたのが勇者様とは…。」
「役立たずの元勇者だ。それに救った訳じゃない。回復呪は呪いだ。」
「いや、それでも感謝する。嫁を救える道が残されたんだ。ありがとう。」
「感謝なんぞ要らん。今から死にたくなるほどこき使うんだ。行くぞ。」
「おうよ!」
ーーーーーー目的だけが残った二人の勇士の旅が始まる。
力量不足で短編と言いづらい長さになってしまいました。
なるべくハッピーエンドを目指しました。
ここでネタバレしときます。
ここでは書いてませんが、傭兵の嫁ちゃんは陰子の彼が引き取ってほごしてくれてます。
夫婦は嫁ちゃん助かってて、旦那も嫁と離れてしまってますが生きてます。
代官も生きてます。