表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/95

郊外学習(入江)(2)

今日もきりの良いところで更新終了です。分量的にあと2回程度の更新で書き溜めた小説は終了となりそうです。

「そろそろ、出発しましょう。」

 瞬の合図で私たちは一斉に立ち上がった。そして、山から海岸に向かってせり出している岩沿いに歩き始めた。できる限り海岸から離れた場所を歩くことにしたのは、敵が船を持っていたこと、巨大な亜種が海上で確認されたことから瞬が判断したことだった。

「島の裏側での出来事とはいえ用心にこしたはありません」

 瞬の言葉に納得した私たちは、壁のようにそびえ立つ岩壁を右手に見ながら、崩れ落ちてきた石ころが敷き詰められた場所を慎重に進んでいった。

 しばらく進むと次第にせり出した岩と海岸の間が狭くなってきて、最後には砂場がなくなり完全に磯になってしまった。打ち寄せる波を横目に見ながら月明かりを頼りにゆっくりと進んでいくと、目の前に大きな二つの岩が重なり合って道を塞いでいるのが見えた。

「ここで待っていてください」

 そう言うと、瞬は一人で確認のために先へと歩いていった。

(どれくらい経ったのかな)

 空を見上げると、いつの間にか月が真上に来ていた。砲撃の音で目を覚ましたのが、日が落ちる前だったから、もうかなりの時間が経ったことになる。ふと、自分たちの置かれた状況を考えると今までとは違う強い不安がよぎる。分からないことだらけのこの世界で、何一つ不安でないことなんてなかったはずなのに、なぜか今までとは違う不安感が胸をしめつけてくる。

(どうしてこんなに不安なんだろう)

 何度も振り払ったはずの不安な気持ちがことあるごとに私の心を揺さぶるのは何でなんだろう。瞬の帰りを待ちながら、私は自分の心に問いかけてみた。

(私には頼りになる仲間がこんなにいるのに)

 瞬、知己、真友ちゃん、刹那ちゃん、そしてミズキ。みんな私の大切な友だちだ。みんながいてくれてこれほど心強いことはないはずなのに、不安がどんどん大きくなってくる。

(今までと今とでは何が違うんだろう)

 この世界に来てからのことを私は思い起こしてみた。気づいたときにはノブレス=オブリージュに乗っていて、周りのみんなは私たちがいることが当然のように振舞ってくれていた。巨大なイカが襲ってきて、ミズキと出会って、戦って、友だちになって、また、それを繰り返して、もっと深くつながって、リノンさんと一緒に島に渡って今までにない経験をいくつもしてきた。その度に、いつも誰かが私たちの知らないこの世界のことを教えてくれた。そうして、私はだんだんこの世界のことが好きになってきたんだ。

(そっか!そうなんだ!)

 今まではいつも私たちの側に大人の人がいたんだ。分からないことがあったら尋ねることのできる大人の人が。

(呼び方は違うかもしれないけれど、きっとみんなが私たちの先生だったんだ)

 先生がいてくれる。それだけで、世界は明るく広くなり、不安や恐怖から私たちを守ってくれる。けれど、今はその先生が近くにいない。だから、

(こんなに不安なんだ)

 私たちよりも先にこの世界に生まれて、私たちよりも先にこの世界と出会って、私たちよりも先にこの世界のことを知った人たちがいない。そんな風に感じたのは、きっと生まれて初めてだ。

・・・初めてはいつも不安・・・


「どうしたの、希望」

 ミズキに声をかけられて私は我に帰った。

「ううん、なんでもない。ちょっと、考え事をしてただけ」

 そう言って私は、瞬が向かった岩陰のほうへと目を向けた。

「それよりも、大丈夫かな?」

 私の言葉に、知己がその場でさっと立ち上がった。

「よしっ。俺、見てくる」

 そう言って駆け出そうとした知己を真友ちゃんが引きとめた。

「おい、なんで止めんだよ」

「別に、引き止めてなんてないわよ」

「だったら、この手を離せよ」

 知己の言葉に、真友ちゃんは呆れ顔で大きなため息をついた後、一言。

「離せるものならね」

「・・・あ。そっか」

 ようやく真友ちゃんの言っていることの意味を理解した知己はしぶしぶと腰を下ろした。

「おい、希望」

「何?」

「もし、もうしばらくして瞬が帰ってこなかったら、様子を見てきてくれねえか」

「うん、分かった」

 頷いた私に、知己は申し訳なさそうに頭を下げた。

「すまねえな。本当は俺が行ったほうがいいだけど、この状態じゃいざというときに足手まといになるかもしれねえからよ」

(いざという時)

 知己の言った言葉に、胸の奥に居座り続けている不安がまた目を覚ました。

(もしも、今、『いざという時』になったら)

 そう考えると背筋が冷たくなるのを感じた。知己と真友ちゃんの手がつながれたままでは、敵と戦うどころか、逃げることさえ難しいかもしれない。思い起こしてみると、巨大イカとの戦い、ミズキとの戦いでも先頭で戦い、守ってくれたのは二人だ。知己の力と運動神経、真友ちゃんの技とスピード。そして、二人の敵を恐れない闘争心と勇気が私たちを守ってくれていた。

 そこまで考えたとき、突然、私の中からメラメラと闘争心が湧き上がってくるのを感じた。

(よしっ!今度は私が二人を守る番だ!)

 不思議だけど、そう心の中で叫んだ時にさっきまであった不安な気持ちがスッと消えてしまった。そして、その代わりに二人を守るために今何を考えて、何をしなければならないのかを考え始めていた。

(誰かのために、何かをしようと思っただけで、人ってこんなにも元気になれるんだ)

 瞬がどうして、あんなにも強くて賢いのか、少し分かったような気がした。そうして、私がみんなを守るためにどうすればいいのかを考え始めてからしばらくして、瞬が帰ってきた。


いつもつたない文章を読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ