放課後 銀杏の木の下にて
今回は閑話休題。夢の世界の終りに関わる話です。分量は短いですが、区切りがよいので今回はこれでご了承下さい。あと、本日も会議で午前様になりました。トホホです。
「『金色の小さき鳥のかたちして』とはよく言ったものだ」
そう言って夢見君は、指先で銀杏の葉をくるくると回してみせた。いつか、どこかで見たことのある真っ赤な夕日が、銀杏の木の向こうに見えた。近くのジャングルジムでは1、2年生くらいの男の子たちが高鬼をしながら楽しそうな声を上げていた。
「君は帰りたくないのかい?」
夢見君の言葉が理解できず、首を傾げてみせる。
「質問の仕方が悪かったかな。それとも、君はこれを夢か何かだと思っているのかな。まあ、夢でないとはいえないし、夢であるともいえない。あえていうなら、これは純粋な記憶の産物と言った方がいいかもしれない。なぜなら、君は今から僕が話すことを一度聞いているからだ。聞いていることなのに、君は一向に思い出そうとしない。いや、無意識のうちに思い出すことを拒否しているようにも見える」
やはり夢見君が何を伝えようとしているのか、私にはさっぱり分からなかった。だから、私は問い返した。
「夢見君は何を伝えようとしているの?」
夢見君は私の問いかけには答えず、くるりと背を向けた。
「君が帰ろうとしないかぎり、他の三人は決して帰ろうとはしないだろう。君は、そのことをもっと強く自覚しなければならない。その上で、君は君の選んだ道を行くといい。それは、現実でも、そうでなくても君に与えられた責任ある自由なのだから。だからこそ、この世界に生きるという選択肢と共に、この世界を去るという選択肢ももたなければならない。故に、君は今から言うことを思い出さなければならない」
そう言うと、夢見君は私のすぐ傍まで歩み寄ってきて、耳元で囁いた。
「この世界の持ち主に手を差し伸べて告げよ。『あなたと、あなたの創ったこの世界を・・・・・』」
(何?)
最後の言葉だけが聞き取れなかった。もう一度、聞こうと思って声を掛けたけど、返事はなかった。
(夢見君?)
慌てて周りを探して見たけれど、銀杏の木の下にも、ジャングルジムにも、誰もいなかった。
「夢見君!」
大声で呼びかけても返事はなかった。
「夢見君!もう一度だけ教えて!ちゃんと覚えるから!」
私は一不安に駆られて大声で叫んだ。叫び続けた。けれど、返事はなかった。空を赤く染めていた夕日もいつのまにか遠くの山に消えていた。星の瞬かない夜。光のない世界。返事のない世界。心が縮こまりそうになる。人の身体は寒さで凍えるけど、人の心は寂しさで凍える。そんな言葉が頭をよぎった。
(それでも)
縮こまりそうになった自分の心に「NO」を突きつけた。
(それでも、光はあるし、返事もある)
どこに?
(ここに!)
そう心で叫んで、自分の胸元をぎゅっと握り締めた。
(ここに、みんなを信じる自分がいる。だから、絶対に一人にならない!)
こんな時、尾田先生だったらなんて言葉を掛けてくれるだろう。こんな私を褒めてくれるだろうか。
(誰に負けたって、自分にだけは絶対負けたくない!)
そう決めた途端、真っ暗だった夜空に、ポツリポツリと星の光が瞬きだし、あっという間に満点を覆う星星の光で埋めつくされていった。私は自然とその夜空に手を差し伸べていた。そして、呟いた。
「あなたと、あなたの創ったこの世界に・・・・・・・ます」
その瞬間、一つの世界が確かに終わりを告げた。
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