休息二日目 校外学習(22)
今日は一応休みだったので更新が午前様になりませんでした。とはいえ、朝から人と会ったり、持ち帰りの仕事をしていたりしたらこんな時間になりました。また、今週一週間頑張ります。
「さーて、そろそろ寝ようか」
リノンさんの提案に、知己が異論を唱えた。
「えー、そりゃねえよ。俺、まだ眠くねえし。それに、聞きたいことはまだまだあるんだぜ」
「あ、それ。あたしも知己に賛成!」
真友ちゃんも声を上げると、ミズキも「賛成!」と手を挙げた。
「うーん」
リノンさんは腕組みをしたまま、少し考えた後、瞬のほうを向いた。
「委員長はどう思う?」
「僕は明日に備えて、もう眠ったほうがいいと思います」
瞬が即座に答えると、知己が抗議の声をあげた。
「この裏切りもん!てめえ、いつからそんなチキンになっちまったんだよ!あの夜、朝まで語り明かした男の友情はこんなもんなのかよ!」
「こんなことで裏切り呼ばわりされるような友情なら、最初からないのと一緒だと思うが、そんなことをお前に言っても無駄だろうから理由を説明してやろう」
「おう、言ってみろ」
「お前は、山に登りたいって言ってなかったか?」
「おう、言ったぞ」
「俺たちには、明日の夕方までしか自由時間がない。分かるな?」
「おう」
とぼけたような返事をする知己に、瞬は噛んで含めるように説明し始めた。
「お前のもっと話を聞きたいという気持ちは分かる。俺だって聞きたいことは山ほどある。きっと、お前以上にな。だが、リノンさんに話を聞く機会はこの先何度もあるだろうが、この島で過ごせるのは明日一日だ。この島に来て、まだ半日だがお前はここで過ごした時間をどう思う」
「どうって?」
「つまり、楽しかったかってことだ」
「当たり前じゃねえか。美味いものも食えたし、温泉にも入った。しょうもねえようなこともひっくるめて、みんな楽しかったぜ」
「そうだろ。俺も、そう思う。だったら、今日は早めに寝ておいて、明日の朝早くからこの島での最後の一日を満喫したほうが得だと思わないか?」
瞬の言葉に、知己は首をかしげた。
「何で早く寝ることが、明日を満喫することにつながるんだ?」
瞬のこめかみにしわが寄った。
「つまりだ。早く寝れば、早く起きられるだろ。違うか?」
「違うな」
知己は眼をキラリと光らせ、自信満々に答えた。
「それは、お前の考えが小さいからだ!早く寝れば、早く起きられる。確かに分かりやすい話だがそこには見落としてることがあるぜ。一日をもっと楽しく生きるもっといい方法があるってことをな」
「ほう?例えばどんな方法だ?」
瞬が冷ややかな目を知己に向けながらそう言うと、知己はずばりと答えた。
「徹夜だ!」
自信満々に答えた知己は、今日一番の決め顔で話し始めた。
「ようは、寝なければいいじゃねえか!寝なければ睡眠時間をそのまま遊びの時間に使える。ということは、一日をもっとたくさん楽しめる!」
「それで、次の日はどうするんだ?」
「当然、次の日も寝ない。寝るのは、寝てもいいような時だけだ。そうすれば、きっと一日が1.5倍くらい長くなる。つまりだ」
コホンとひとつ咳をして、知己は話をつづけた。
「今日も、明日も大事な日だから、今日と、明日は寝ないでおこうってことだ。賛成の人!」
「はい!」
と、大きく返事をしたのは、当の本人の知己だけだった。
「え、なんで?」
知己の言葉に返事することもなくリノンさんは就寝の合図を告げた。
「よーし、吸光石をしまえ。そして、おやすみだ」
「おやすみなさい」
知己以外のみんなが一斉に返事をした。
「えー!俺、まだ全然眠くねえぞ!」
枝に括りつけられていた吸光石を集めながらリノンさんが言った。
「寝るっていうのも、一日を楽しむことのうちなのさ。違うかい?」
優しく諭すようにそう言ったリノンさんの言葉には、大人の説得力があった。
「・・・ちぇっ。わかったよ。寝ればいいんだろ」
ふてくされたように答えた知己の頭に、リノンさんの平手が落ちた。
「いてっ。なにすんだよ」
「あんたは、先生って呼ぶ人に対して、そんな態度をとるのかい」
声は優しかったけど、厳しい言葉だった。一瞬だけど、尾田先生の姿が浮かんだ。きっと、知己も同じ事を感じたと思う。少し驚いた表情を浮かべた後、知己は素直に頭を下げた。
「すみませんでした」
リノンさんは、満足そうにうなずいた。
「そう、それでいい。じゃあ、そこにある吸光石をこの袋に入れてくれないか。それが最後の一個だ」
知己が最後の吸光石を袋の中に入れると、あたりは一瞬で真っ暗になった。
「うわっ!ちょっと、リノンさん。突然、灯りを消さないでよ!それに、こんなに真っ暗じゃ、あたし逆に眠れないよ」
真友ちゃんが不安の声をあげた。
「いいから、しばらくじっとしてな」
リノンさんの言葉に、みんな口を閉じた。
(本当に真っ暗だ)
自分の手の先も見えない。さっきまで、近くにいたはずなのに、まるでこの世界にたった一人だけ取り残されてしまったような気になる。
(光がないって、こんなにも不安なことだったんだ)
目を凝らしても、何も見えない。何かが動く様子さえ分からない。けど、音だけは聞こえくる。灯りがあるときよりも、はっきりと世界の音が聞こえてくる。
世界樹の葉が風に揺れる音だ。
どこかで小さな生き物が枝を渡っている音だ。
虫たちの歌っている音だ。
もっと、耳を澄ませてみる。
小さな息遣いが聞こえる。
(このかわいらしい息遣いは、たぶん刹那ちゃんだ)
私はその息遣いの聞こえるほうに近寄ってみた。
「刹那ちゃん?」
声をかけると、立ち上がる音が聞こえて、草を踏む足音が私の方に近付いてきた。私も立ち上がりその方向へと足を進めてみた。
トン
右手に何かが当たった。すかさず、手を伸ばす。すると、その手を伝って刹那ちゃんが私に抱きついてきた。
「刹那ちゃん?」
「・・・うん」
「大丈夫?真っ暗で怖くない?」
「・・・大丈夫。もう少ししたら見えてくるから」
刹那ちゃんに問い返そうと口を開いた途端、近くで小さな悲鳴が上がった。
「っひ!」
驚いてそちらのほうへ目を向けると、暗闇の中にぼんやりと人影が浮かんできた。
(・・・光ってるの?)
目を凝らして見て見ると、その人影が何かに照らされて映し出されたものではなく、自ら淡い、ほのかな光を発していることが分かった。そして、その人影の輪郭が徐々にはっきりしてくるにつれて、誰のものかが分かってきた。
「リノンさん!」
「ん、ようやく見えてきたようだね。まあ、もうちょっと待ってな、そろそろ一斉に来るころだからね」
リノンさんがそう言った瞬間、真っ暗な世界のいたるところに小さな光が瞬き始め、そして、それはそれこそ瞬く間に点は線となり、線は面となり、面は立体となり、奥行きが生まれ、自分の立っている場所が分かり、そして、最後に世界が生まれた。
(うそ!)
心が叫び声をあげた。けれど、声にはならなかった。だって、多分、今見えてるこの世界の光景は、今まで見たことがない。ううん、夢に見たことも、想像したこともない光景だった。
(世界そのものが光ってる)
驚きの声をあげ、この感動を誰かに伝えたかった。けれど、言葉はでなかった。
(この世界に来て、初めてあの海と空を見たときと同じだ。きっと、感動が大きすぎて心の中が一杯になっちゃったんだ)
ごくり
誰かの唾を飲む音で、私は始めて自分自身に目を向けた。まだ、うっすらではあるけれど、身体の隅々が淡い光を発し始めていた。
(手や身体だけじゃなく、服や髪の毛も光ってる)
刹那ちゃんへ目をやると、私の視線に気づいた刹那ちゃんが笑顔を返してきたのが分かった。私もすかさず笑顔を返す。
(もう、表情が分かるくらいになってるよ)
周りを見渡すと、座っていたはずのみんなが全員立ち上がっているのが分かった。
「ねえ、瞬。私のこと見える?」
声をかけると、即座に返事が返ってきた。
「はい、分かります。知己、お前から俺は見えるか?」
知己は右手の親指をぐっと立てて見せた。
「当たり前じゃねえか。お前に俺が見えるんだから、俺にお前が見えねえはずねえだろ」
「わあ。なんだか、かっこいい言い方だね」
私がそう言うと、知己は「だろ!」と嬉しそうな声で答えた。
「ねえ、のぞちゃん。私の姿、どう?変に見えない?」
「ううん。全然ん変じゃないよ。いつもより、もっと綺麗なぐらいだもん」
「よかった。身体全体がぼんやり光ってるから、もしかしたらお化けみたいに見えてるんじゃないかって心配だったの。でも、すごいよね。身体の隅々まで光ってるんだから・・・あ、そうだ」
そう言うと真友ちゃんは、髪を縛っていた紐を後ろ手に解いた。そして、腰まで届く長い髪を下ろした。
「ねえ、のぞちゃん。見ててね」
そう言うと、真友ちゃんはその場で手を広げてくるりと回って見せた。
(わあ!)
真友ちゃんの身体の動きに合わせて、長い髪が光の模様を描き出した。風になびく銀色の糸が、幾重にも織り成して、はっと息を呑むような綺麗で可憐な光景だった。
(まるで光の妖精が踊ってるみたいだ)
「ねえ、どうだった?」
陽気に聞いてくる真友ちゃんに、私はほんの少しだけ嫉妬心を感じながらも、
「とても綺麗だったよ。まるで、妖精みたいだった」
「もう、のぞちゃんたら。お世辞を言ってもなにも出ないよ」
「ううん、お世辞じゃないよ。本当に、綺麗だったもの。正直に言うとね、私、少し悔しいなって思っちゃったんだから。本当だよ」
「本当に?」
「うん!ねえ、瞬。真友ちゃん綺麗だったよね」
私の声かけに瞬は即座に「はい、本当に綺麗出したよ」と答えた。
「えー、でも、瞬の言うことじゃ信用できないかな。だって、瞬はのぞちゃんの言うことならなんでも『はい』って言うじゃない」
そう言いながらも、真友ちゃんはなんだか嬉しそうだった。
「そんなことないですよ。高山さんと僕の名誉にかけて本当のことをお伝えしました。そうですよね、高山さん」
「うん、本当に、本当だよ」
私がそう言うと、真友ちゃんは「そっか」と応えて、黙ったまま俯いたり同じようにくるりと回ってみたりして、なんだか落ち着かない様子になった。そうしているうちに、何度か知己のほうへと視線を向けた後、意を決したように口を開いた。
「・・・知己は、どう思った?」
「うーん。もう一遍やってみてくれるか?」
「・・・うん」
真友ちゃんは、ためらいながらも、さっきやってみせたようにくるりと回って見せた。螺旋を描く真友ちゃんの髪が光を放ちながら宙を舞った。
「・・・どう?」
不安そうに尋ねた真友ちゃんに、知己ははっきりとこう答えた。
「やっぱ、綺麗だ。希望が妖精みたいだって言ってたけど、俺もそう思った」
ボッ
火がついたような音が聞こえた(ような気がした)。見ると、真友ちゃんは、両手で顔を覆っていた。顔の色は分からないけれど、真友ちゃんの顔が燃えるように熱くなっているだろうということは、簡単に想像できた。だって、
(好きな人に、あんな風に言ってもらえたら嬉しいもんね)
私は真友ちゃんのそばに歩み寄ると小声で「よかったね」と囁いた。真友ちゃんは、何も答えず、顔を両手で覆ったまま、小さく頷いた。
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