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休息二日目 校外学習(20)

少し中途半端な場所での区切りとなりますが、これでご容赦ください。明日も仕事がハードなので今日は速めに休みます。京都アニメーションでなくなられた方々のご冥福をお祈りします。

「ところで、リノンさん。さっきの答えってなんなの?」

 真友ちゃんが尋ねた。

「ん、あれか。まあ、あんたたちが忘れてるって言うんなら、べつに忘れていてもかまわないことだけどね。時が来れば、現実になることなんだから」

「ああ、もう、じれったい!あたしは、宿題とか、やらないといけないことを後に残すのは嫌いなほうなの!だから、答えを教えてください!」

「仕方ないなあ。ていうか、あんたたちみんなが知ってるはずのことなんだけでね」

「???」

「明日の夕方って言えば分かる?」

(明日の夕方。船に帰らないといけない時間・・・他に何かあったかな?)

 この島での時間が楽しすぎて、帰らないといけないことがつらいから、ってことなのかな。でも、それだったら瞬があんな風に気を遣ったりするかな。それは、当たり前のことで仕方のないことだし、むしろここにみんなで来れたってことのほうが大きいことなんじゃないかな。いっぱい思い出を作ったし。まだ、明日もあるわけだしね。うん、そう考えれば、やっぱり船に帰らないといけないことは、そこまで苦になることじゃないよね。

(だったら、他に何か大切なこと・・・・・・・・あ!)

「あ!」

 思わず声に出た。

「お、希望は分かったみたいだね」

「明日の夕方から、私たち全員、ユリアン副長の作戦に参加しなければいけないんだ!」

「あー!忘れてた!」

「俺もだ!」

「私も!」

「・・・覚えてた」

 刹那ちゃんを除いた全員が、こんな大切なことを忘れていた。ううん。瞬だけは覚えていたんだ。だから、楽しい時間に水を差すまいと思って、あんなことを言ったんだ。

「まあ、そういうこった。なんたってあんたたちは、あのユリアン副長の指揮の元、『特別任務』につかなくちゃいけないんだからね。そりゃあ、特別扱いくらいしてくれるってもんだよ」

 にこやかにそう言ったリノンさんの言葉からは、『特別任務』の重要性が全く伝わってこなかった。けれど、今、こうして私たちのために大切な場所を譲ってくれているという事実事態が『特別任務』の重要性や、困難さをあらわしているように感じた。

(やっぱり、瞬はすごいや!)

 誰よりも、みんなのことを考えてくれている。きっと、その責任感が瞬の一番の魅力なんだと思う。

「先生、質問です。『特別任務』って一体何をすればいいんだ?」

 知己の言葉に、生ける屍のようになっていた瞬がムクリと起き上がってリノンさんのほうへと向き直った。

(やっぱり、瞬だ)

 たとえ、自分がどんなに大変な状況にあろうと、みんなを守ることにつながる情報には誰よりも敏感に反応する。防災訓練のとき、他の誰よりも真剣に質問をしていたのも瞬だった。瞬の質問があまりにも素晴らしかったので消防署の所長から子供のための防災知識を掲載した小冊子作りの手伝いを依頼されたほどだ。尾田先生は、瞬のそういうところを評価していたな。

「『特別任務』っていうのは、特別な任務のことさ。それ以上でも、それ以下でもないよ」

「なるほど」

 知己は納得したように手を打った。

「なるほどじゃないわよ!あんた、今の説明で分かったていうの!」

「だから、特別な任務ってことだろ。特別って言うのは、いつもと違うってことだ。いつもと違うって事は、今の俺たちには分からねえってことだろ。違うか?」

 何、当たり前のこと聞いてんだ、と言わんばかりの知己の顔に、真友ちゃんも言葉を失ってしまったようで、「まあ、そう言われてみれば、そうかもしれなけどね」と言ったきり口を閉じた。そんな二人の様子を見て、リノンさんは拍手をした。

「素晴らしい!今の知己の答えで正解だよ。あたしから、あんたたちに『特別任務』が何なのかは教えられない。もし、教える権限があるとすればユリアン副長だけだ。それが組織ってもんだ。そして、付け加えるならあの時、ユリアン副長があんたたちに『特別任務』の内容を伝えなかったということは、この『特別任務』の内容を事前に伝えてはならないということを意味してるってことだ。副長は決して無駄なことをする人ではないからね。必要だからそうした。それだけ。他に質問はあるかい?」

 瞬の手がすっと上がった。

「お、委員長。もう、立ち直れたのかい?」

「一つだけ聞かせてください」

 真剣な眼差しで瞬がそう尋ねた。

「あたしの権限で許すことならね」

「その任務は、命の危険を伴うものですか。そして、その場合はその任務を放棄することは可能ですか?」

「そのものズバリなこと聞くねえ。うーん、答えていいものやら、ちょっと考えちゃうなあ」

「あなたは、僕のことを委員長と呼びましたよね。なら、僕の立場も分かるはずです。船の責任者が船長であるように、大切な仲間の安全を最優先に考えるのは委員長の責任であるはずです」

「ふーん」

 リノンさんは、今までと打って変わった鋭い目つきを瞬へと向けた。けれど、瞬はたじろぐことなく真っ直ぐにリノンさんの視線を受け止めていた。しばらくの沈黙の後、リノンさんはくすっと、笑いを漏らした。

「いいよ。教えてあげる。たしかに、それはあんたが背負う責任だ。だったら、あたしも真剣に答えるまでさ。一つ目の質問の答えはイエスだ。場合によっては命を失うかもしれない任務だ」

 リノンさんの答えに、緊張が走った。みんなの唾をゴクリと飲み込む音が聞こえると、リノンさんは言葉を続けた。

「分かりやすく言えば、命がけってことだ。そして、二つ目の質問だ。あんたたちは、その任務を放棄することができる。つまり、『特別任務』につかなくてもいいってことだ」

「なんだよ、びっくりさせるなよな」

 知己が安堵の声をあげた。

「じゃあ、やめときゃいいじゃねえか。だって、そうだろ。死ぬかもしれねえんだぜ。な、真友」

「そうね。そんなに危険な任務なら、もっとベテランの戦いに慣れている人がやったほうがいいよ。ね、のぞちゃん」

 私は真友ちゃんの言葉に返事をしなかった。

「のぞちゃん?」

 頭の中で今までのことや、『特別任務』のことがぐるぐる回った。

「どうしたの、のぞちゃん?」

 心配そうに顔を覗き込む真友ちゃんに、私は意を決して口を開いた。

「たとえ、その任務を断ることができたとしても、私は断らないよ」

 私の言葉に、二人が驚きの顔をこちらに向けた。私は、あの時、ケネス艦長の前での約束を思い起こしながら言葉を続けた。

「だって、私は約束したから。ミズキのことを任せてもらう代わりに、特別な任務につくことを。でしょ?」

 私が確認すると二人は小さく頷いた。

「だけど、もしかしたら死んじゃうかもしれないんだよ。リノンさんだって言ってたじゃない、命がけだって」

 真友ちゃんの言葉に、私は「そうだね」と答えた。そんな私の答えを聞いてミズキが突然立ち上がり叫んだ。

「それは、絶対に嫌!!」

 悲痛な声だった。

「希望が死ぬなんんて絶対に嫌!それくらいだったら、私のことなんか見捨ててくれたほうがいい!」

 心からの声だった。目に涙を浮かべながら真剣にそう言ってくれたミズキの心が本当に嬉しかった。だから、私は笑顔を返した。

「ありがとう、ミズキ。あなたの気持ち、本当に嬉しい。でもね、ミズキがそう言ってくれるように、私も絶対にミズキを見捨てないよ。それだけは、何が起きても、何が変わっても、私の中の絶対だから」

「・・・でも、死んじゃったらどうするの?」

 泣きながらそう言ったミズキに、私は尾田先生から教えてもらった言葉を伝えた。

「『人間にとって大切なのは、いつ死んだのかではなくて、なんのために生きたかだよ』」

「・・・どういうこと?」

「私の先生が教えてくれた言葉なの。意味はね、多分、自分の命の使い道を間違えちゃだめだよってことなんだと思う。だから、私は私が一番大切にしているもののために、この命を使おうと思うの。私の中の絶対はね、ミズキ」

 私は、一層の思いを込めて告げた。

「私がみんなにとっての本当の友だちであり続けることなんだ」

 頬を伝う涙が熱かった。

(あれ、私、泣いてる。きっと、鼻水も出てる。かっこわるいな)

 でも、もう一人の自分が、私のことを褒めてくれていた。

(よく、言えたね)

 って。早くなる鼓動を抑えるように、静かに大きく息を吸った。そして、知己、真友ちゃん、瞬のほうへと目を向けた。

「だから、ごめんね。みんなの気持ちは嬉しいけれど、私はたとえどんなに危険な任務だとしても逃げない。それは、約束だから。誰とじゃなくて、自分とした約束だから」

 真友ちゃんが、嬉しそうな笑顔を私に向けながら言った。

「うん、分かった。のぞちゃんの中の絶対がそれなら、あたしの中の絶対は、のぞちゃんを絶対に守るってことだから。のぞちゃんが、行くのなら私も絶対についていく」

 知己が照れくさそうに言った。

「ちぇ、しようがねえな。まあ、俺はまだ命が二つくらいはあるみたいだから、そのうちの一個くらいはお前のために使ってやるよ」

 最後に瞬が言った。

「なら、その絶対が守られれば、約束を破ってもいいのではないですか?」

 その声は、優しく穏やかなものだった。

「どういうこと?」

「つまりです。ケネス艦長と交わした約束は、ミズキさんの処遇を僕たちに任せてもらう代わり、といった形でなされたものです。船の上なら、この約束は絶対的なものとなったでしょう。なぜなら、海の上で生きていくためには、船に頼らざるを得ない。けれど、ここは違う。敵に発見されず、水や食料も豊富でおよそ生活に必要なものは全てそろう。この島なら、僕たちは船や船の仲間たちに頼ることなく生きていくことが出来る。ケネス艦長に、ミズキさんを任せてもらう必要なんて全くありません。違いますか?」

 瞬の言葉に、胸を突かれた。私は返事を詰まらせた。

「命をかける必要もなく、仲間と一緒に生きられるのなら、それが一番なのではないですか?」

「・・・だけど」

「高山さんの絶対は、本当の友だちであり続けることなのなら、そのために友だちを危険な目にあわせるのは間違いではないのですか?」

 胸の奥がざわついた。

(瞬の言っていることは、きっと間違っていない。だけど・・・)

 だけどの後の言葉が思いつかなかった。瞬の言葉は正しいけれど、私の心は反対の声をあげていた。

「きっと、リノンさんもそのつもりがあってこの島を案内してくれたのだと思いますよ。恐らく、ケネス艦長の指示で。違いますか?」

 瞬の指摘に、リノンさんは肩をすくめて両手を広げて見せた。

「ご明察通りだよ。やっぱり、あたしが委員長に推薦しただけのことはあるね。なにか、ご褒美でもあげようかい?」

「いいえ、結構です」

 瞬は私の目の前に立つと、本当に優しい目をして、こう言った。

「もう、がんばらなくてもいいんですよ。高山さんは、今までだって精一杯がんばってきたじゃないですか。それに、この世界は・・・分かっているはずですよね」

 瞬の言葉に、心がぐらついた。

(どうしたらいいの?)

 迷いが生まれた。

(本当の友だちであり続けるって、どういうことなの?)

 自分の言葉の意味が分からなくなってきた。

(私の中の絶対のために、友だちを危険な目にあわせてもいいの?)

 でも、それじゃあ絶対じゃない。絶対は、絶対のはず。だけど・・・

(絶対ってなんなの?)

 ミズキも、みんなも危険な目にあわずにすむ方法があるのに、あえて危険な道を歩く必要が本当にあるの?

「高山さん、迷ったら進むのではなかったのですか?」

 瞬の言葉に、胸の奥底で何かが光を放ち始めた。

(『迷ったら進め。迷ったときには、もう答えは出ている』そうだ!もう答えは出ているはずなんだ!あとは、その道を迷わずにすすだけだ!)

 私は深く深呼吸をして、自分の思いを尾田先生の言葉と照らし合わせてみた。

(うん、そうだ。たしかに、絶対はありました。そうですよね、尾田先生!)

 そうして、次第に形になり始めた私の思いを、ゆっくりと思いを込めながら言葉にしていった。

「瞬。それでも、私は約束どおり行こうと思うの。たとえ、それがどんなに危険なことであったとしても」

「それは、なぜですか?」

「私の絶対は、みんなにとって本当の友だちであり続けることだから」

「だからこそ、無用な危険を避けるべきなのではないですか?」

「うん、そうだね。けれど、この危険は決して無用じゃないよ。あの時、モレルさんが言ってたよね『ミズキちゃんをこんな目にあわたしたやつらをぶっ潰しに行くんだ』って」

 私は、思いをめぐらし、記憶を呼び覚まし、一つ一つ言葉をつむぎだした。

「友だちが乗り越えなければならない壁があるのなら、その隣に立って一緒に悩み、手を貸し、共に乗り越えるのが本当の友だちなんだと私は思う。だから、私はミズキのために戦ってくれる船のみんなと一緒に戦いたい」

 私は一度目を瞑って、深く息を吸って、胸に手を当てた。

(うん、大丈夫。前に進むための勇気は確かにここにある)

 目を見開いて、告げた。

「瞬。命がけっていうのはね、きっと、何かのために命をかけるって事なんだと思う。だったら、私は自分の命を大切な友だちのために使う。私は、瞬みたいに賢くないから、どうしてそうしたほうがいいのか、理由ははっきり分からないけれど・・・心がね、私に訴えてくるんだ」

「・・・何をですか?」

「人のために使ってしか、見えてこない光景せかいがあるんだって。ふふふ、おかしいよね。理由も、何もないんだけど、なんとなくそう感じるんだ」

 私が笑顔を向けると、瞬はさっと目を反らした。そして、一言。

「・・・分かりません」

 そう言うと、うつむいてしまった。それでも私は構わずに言葉を続けた。

「うん、私も分からないもの。それに、瞬に言われるまで『特別任務』のことをすっかり忘れていたんだから、偉そうなことなんて言えないね。本当、無責任だよね。ごめんね、瞬。一人で悩ませてしまって。本当にごめんなさい」

 そういって、私は深々と頭を下げた。

「けど、私は行くよ。そう、決めたから。自分の中の絶対を貫き通すために。そして、尾田先生に、胸を張って『友だちのために命を使いました』って言うために」

(そうだ!これが私の中の理由だ!『何のため』は確かに私の中にある!) 

 胸の奥に確かなものがあるのを感じた途端、強い力が全身に漲ってきた。多分、これが『勇気』なんだと思う。私は、勇気がこみ上げてくるのを全身で感じながら、瞬に向かって言葉を続けた。

「だけど、これは私の理由。みんなが無理に付き合うことはないと思う。だから、この島に残って待っててくれても構わないよ。それと、もし、私が間違っていると思うのなら、どんどん言って欲しい。その度に、私は精一杯悩んで、考えて、答えを出すから。ねえ、瞬」

 私は言葉を区切り、もう一度姿勢を正し、自分の思いを込めて言葉を続けた。

「言葉足らずで、なんとなくばっかりの私の言葉じゃ何も伝わらなかったかもしれないけれど、それでも私の今の気持ちが本気だってことは分かって欲しい」


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