休息二日目 校外学習(19)
京都アニメーションでの事件、仕事が終わってからニュースで知りました。思い出に残るアニメーションを作り出してきた会社での事件に心が痛みます。今日も更新が午前様になってしまいました。明日も早いので今日はもう休みます。
季節で言えば夏だというのに、夜が更けるにつけ気温は低くなり、涼しい心地よい風が時折吹き始めた。静寂に包まれた森のいたるところでは、虫たちが慎ましやかに歌声を披露し始め、まるで日本の秋のようなたたずまいを見せ始めた。
「そう言えば、リノンさん。他のみんなはどこに行ったの?」
横に寝そべりながら真友ちゃんが聞いた。
「ああ、いつもはここにみんなが集まって宴会を行うんだけど、今日はあんたたちのために別の場所でやってる。」
その言葉に、少し離れたところに寝転がっていた知己が声を上げた。
「えー、俺も宴会に行きたかったぜ」
「そうですよ、私も参加したかったです」
ミズキも不満を口にする。
「まあ、そう言いなさんな。みんな、あんたたちのことを大切に思ってるからこそ、この場所を空けてくれたんだからさ」
「それって、どういうことですか?」
私が尋ねると、リノンさんは「よっ」と勢いよく身体を起こし、立てひざをついて座る姿勢をとった。
「あんたら、まだ眠る気がないようだから、しばらく話そうか」
「はい!」
威勢のいい返事を返すと、私たちはリノンさんの周りに腰を下ろした。
「この世界樹の下は、特別な場所なんだ。どう特別なのか分かるかい?」
知己が手を挙げた。
「ここは、寝心地がいいんだと思います!」
「うーん、確かに寝心地はいいけど、それだったらふかふかのベッドの上のほうがいいんじゃないかい。他には?」
今度は真友ちゃんが手を挙げた。
「ここだと、敵に襲われないんじゃないですか」
「お、いいとこついてるね。けど、ちょっとちがうかな。他には?」
刹那ちゃんがおずおずと手を挙げた。
「お!珍しいね。よーし、刹那、言ってごらん」
刹那ちゃんは、小さな声で恐る恐る話し始めた。
「・・・風が、枝葉を通って、歌ってるみたい・・・だから、心が・・・」
「心が、どうしたんだ?」
「・・・優しくなっていくような気がする」
「おー!さすが、刹那だ。拍手!」
(あ!)
思わず心の中で叫んで、みんなと一緒に拍手した。
「刹那の答えで、ほぼ正解だ。この世界中の木の下にいると、不思議と優しい気持ちになるんだ。そのせいか、この木の下では争いがおきにくい。分かりやすく言うと、この木の下では狼がウサギを襲ったり、狐がねずみを捕ったりはしないってことだ。まあ、絶対ってわけじゃあないけどね」
「へえー、すげえな!」
知己がしきりに感心していると、瞬が手を挙げた。
「お、委員長。何か聞きたいことがあるのかい?」
「いえ。確認です。先ほど、リノンさんがおっしゃったことがらには、人間も含まれるということでよろしいですか?」
「ああ、もちろん。人間だって生き物だからね。生きてるって言う点では、ウサギも狼も人間も、なんら変わりはないからね。聞きたいことは、それだけかい?」
「・・・はい」
「もっと、他に聞きたいことがあったんじゃないのかな?」
そう言って、リノンさんは挑戦的な笑みを浮かべながら、瞬のほうに視線を送った。瞬は、少し考えた後、口を開いた。
「僕たちをゆっくりと休ませて上げたいという艦長や、みなさんの配慮は正直ありがたいことですし、感謝もしています。ですが、それだけの理由でこんな大切な場所を僕たちのためだけに使わせていただけるとは到底思えません」
「ほう、なるほどね。ちなみに、そう思った根拠を聞かせてもらってもいいかい」
「・・・先ほどの話では、この世界樹は大きな山のそばに一本だけしか生えないとおっしゃっていました。ということは、大陸の内陸部ならいざしらず、このような島で世界樹が自生しているケースはめったにあることではないと思います。また、この島には食料、水が豊富にあり、しかも温泉まである。しかも、天にも届くような高い山があるこの島が、なぜ無人島なのか。その方法は分かりませんが、その理由はなんとなく分かります。それは、この島が『ノブリス・オブリージュ』の前線基地だからです。今回は補給のために寄航しただけかもしれませんが、場合によってはこの島の隠密性を活かして通商や、交易、様々な会談を秘密裏に行っているのではないでしょうか。これが、今日、この島に渡ってから今まで集めた情報から僕が導き出した推論です」
「おー!なかなか、突拍子もない推論だね。根拠は薄いし、説明も不十分だけど、まあ、合格点としておこうかな」
「えー!じゃあ、ここって『ノブリス・オブリージュ』の秘密基地ってこと!」
興奮した真友ちゃんがリノンさんに詰め寄った。
「まあ、まあ、あわてなさんなって。大体はあってるけど、正解とは言い切れないからね。それに、今の委員長の推論は、この島のこの場所が大切な場所だということを説明しただけであって、なぜその場所をあんたらのために開放したのかってことの答えはでてないよ。ちなみに、委員長の考えはどうなんだい?」
リノンさんの質問に、瞬は口を開きかけたけど、また口を閉じてしまった。そんな瞬の様子にリノンさんは苦笑いをしながら言葉を続けた。
「別に答えをいうことをためらう必要はないよ。あんたが言わなくたって、明日の夕方には、ここにいる全員が厳しい現実を直視しなくちゃいけないんだからね。ちがうかい?」
「・・・そうかもしれませんね。けど・・・」
「自分の言葉で、せっかくの楽しい時間に影を落としてしまうんじゃないかって、そんなことを心配してるのかい?」
「・・・・・・」
瞬は答えず、リノンさんから目をそらした。
「ちょっと、さっきから何を話してんのよ?なんで、こんな素敵な場所にいるのに暗い雰囲気になってるのか、あたしにはさっぱり分からないんですけど」
真友ちゃんが不満げにそう漏らすと、知己がここぞとばかりに食いついてきた。
「そりゃあ、お前みたいなお気楽なやつには分からない苦労っていうのがあるんだよ」
「なによ、知己。じゃあ、あんたに分かるって言うの!」
「当たり前じゃねえか。俺と瞬は親友同士だぜ」
「だったら、あたしに説明してみなさいよ。なんで、瞬が暗い雰囲気になってるかってことを」
真友ちゃんの言葉に、瞬はすかさず口を挟んだ。
「ちょっと、待ってください。僕は別に暗い雰囲気になんてなってませんよ」
「瞬は、だまってて!あたしは知己に聞いてるの!」
真友ちゃんの勢いに、瞬は口を閉じた。瞬はさっきよりもずっと暗い表情をしてひざを抱え込むようにしてうずくまってしまった。
「おい、俺の親友をいじめんなよな」
「別に、いじめてないわよ。あたしは、瞬が暗くなってる理由を知って、なぐさめてあげようと思ってるだけよ。だから、早く説明してみなさいよ。瞬が暗くなってる理由を」
知己は「しかたねえな」と言うと、立ち上がって少し離れたところまで歩いていった。そして、真友ちゃんを手招きした。
「もう、めんどくさいわね」
知己の元まで歩いていった真友ちゃんの耳元に、知己は小声で何かを囁いた。
「うそ!」
悲鳴にも似た真友ちゃんの驚きの声が聞こえると、二人はなにやら神妙な顔で瞬の前に立った。
(一体、何を話したんだろう?)
私が頭をかしげていると、今にも泣きそうな顔の真友ちゃんが瞬の肩に手を乗せた。
「瞬、ごめんね。気がつかなくて。一人で苦しんでたんだね」
真友ちゃんの言葉に瞬は顔を上げて、ニコリと笑顔を返した。
「そんなことないですよ。むしろ、こちらこそ申し訳ありません。こんなことで思い悩ませてしまうのなら、最初から口に出すべきではなかったのでしょうが、好奇心に負けてしまいました。まったく、リーダー失格ですね」
「そんなことないよ!」
真友ちゃんは瞬の手を強く握り締めると、真剣な眼差しで訴えた。
「瞬は、いつでも立派なリーダーだよ!たとえ、少し『・・・』なところがあったとして、瞬はあたしたちのリーダーだよ!だから、自信を持って、元気出して!それに『・・べ』なのは、男の子なら仕方のないことだって、お母さんも言ってたし、気にすることないよ!」
「・・・何を言ってるのですか?」
怪訝な顔を向ける瞬に、真友ちゃんは憐れみの表情を深めながら言った。
「もういいよ、瞬。自分をさらけだしたほうが楽になるよ。たとえ、瞬が『・ケベ』だったとしても、あたしたちは気にしないから。ね、のぞちゃん」
そこまで真友ちゃんが言い終わった途端、瞬は鬼の形相で立ち上がり、知己の胸倉をつかんだ。
「おい、お前。何を言った」
「俺が語るのは、いつも真実だけさ」
「だから、何を言ったかと聞いている。いいから、話せ」
そう言いながら、つかんだ腕に力を込めた。
「ぐぇ。これじゃ、話せねえよ。力を抜けよ。・・・そう、そう。ああ、死ぬかと思ったぜ。お前、この世界に来てから暴力的になったんじゃねえか?って、そんなに睨むなよな。別に変なことは話してねえぜ。お前が落ち込んでる理由を話しただけだ」
「何て?」
「言っていいのかよ?」
「言わなきゃわからないだろうが!」
「俺だって、ちょっとくらいは空気が読めるほうだから気を遣ってやってんだぜ」
「能書きはいいから、話しやがれ」
すごんだ瞬に、知己は一瞬ひるんだ後、小声で「どうなっても知らねえぜ」と呟いた。そして、すーっと息を吐くと、直立不動の姿勢のまま大きな声で質問に答えた。
「瞬が暗くなってる理由は、『希望の裸を見損ねたからだ』って言った」
(な!)
「あと、『そんなスケベな自分を許せなくて悩んでる』とも言った。以上!終わり!」
知己の言葉を瞬は真っ青になりながら呆然と聞いていた。そして、突然その場に崩れ落ちた。まるで、身体中の力が抜けてしまったみたいに。
「大丈夫?」
私が駆け寄ると、瞬はうつぶせに倒れたまま、今にも消え入りそうな声で言った。
「・・・怒りすぎると力が抜けるんですね、ハハハ」
力なく笑った瞬が何だか可哀想になった。
「さっきの知己の話なら気にしなくていいよ。私は、信じてないから。瞬はスケベなんかじゃないよね」
私の言葉に、瞬は一瞬の沈黙の後、うつむいたまま答えた。
「・・・すみません、少しの間、そっとしておいてくれませんか」
そう言って瞬は、俯いたままピクリとも動かなくなってしまった。私は何か声をかけようかとも思ったけれど、真友ちゃんの「一人にしてあげたほうがいいこともあるよ」との言葉に、その場を離れることにした。
(瞬が早く元気になりますように)
心の中で、そう祈った。
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