休息二日目 校外学習(17)
今日も更新完了です。ふと気がつくと書き溜めた分量の8割近くを更新していました。のこりわずかですが、とりあえず書き溜めた分までは毎日更新を目指して頑張ります。
「そう言えば、どうして二人はここにいるの?」
私が尋ねると、瞬が背中を向けたまま答えた。
「僕たちの捜索範囲の中で後藤さんを見つけることができなかったので、一度高山さんたちと合流して情報を交換しようと元の場所に戻ってきました。すると、ミズキさんから滝の裏側に向かったと聞いたので、二人で滝壺に飛び込んでここまで来たんです」
「よく、あの滝壺の中を潜り抜けてここまで来れたね。すごいね」
正直に感心すると、知己が自慢げに声を上げた。
「まあ、流されそうになった瞬を抱えて、あの中を泳ぎきったのは俺様だけどな」
「あ、そっか。知己は泳ぎが得意だもんね」
「そうそう、それでさ瞬を抱えて泳いだときに滝壺の底にキラッって光るものがあったんだよ。それで、なんだか気になっちまって瞬を安全なところまで引っ張って行った後、引き返して確かめてみたらよ、こんなものが見つかった」
そう言って、腰の布にくくりつけてあったものを取り出した。
「真っ黒な石のついた銀色の指輪なんだけどよ、これって結構すげえお宝なんじゃねえかって思うんだよ。な、瞬」
「ああ、その指輪に刻まれた文字はこの世界の古代語で書かれている。はっきりとは分からないが、おそらく『原因と結果』『過去と今』という意味の言葉が刻まれている」
「うそ!」
驚きの声を上げたのは真友ちゃんだ。
「ちょっと、あんた、それを見せなさい!」
知己の腕をつかみと指輪を取り上げようとした真友ちゃんに、知己は思い切り抵抗した。
「なんだよ、お前!これは俺が見つけたんだぞ!」
「そんなこと言ってんじゃないわよ!とにかく見せなさい!」
「なんで、命令されて俺の宝物を見せなきゃいけねえんだ!物事には順序ってものがあるんじゃねえのかよ!」
真友ちゃんの腕を振りほどくと、知己は真友ちゃんをにらみつけた。真友ちゃんも、負けじと睨み返す。
「真友ちゃん?」
私は恐る恐る声を掛けた。
「あのね、真友ちゃん。私は事情を知ってるから真友ちゃんのあせる気持ちは分かるけど、それでも今は知己の言ってることのほうが正しいって思うよ」
「でもね、のぞちゃん!この指輪はあたしが預かったものなんだよ!」
「それでも、見つけてくれたのは知己だよ。なら、指輪を見せろって言う前に、言うことがあると思うんだ。尾田先生が言ってたでしょ。『親しき仲にも礼儀あり』って。だからね、真友ちゃん。分かるでしょ」
「・・・・・・分かった」
しばしの沈黙の後、そう言った真友ちゃんは知己のほうに向き直り、頭を下げた。
「取り乱して、すみませんでした。もしかしたら、その指輪は私がケネス艦長から預かったものかもしれないんです。だから、お願いです。その指輪を私に見せてくれませんか」
落ち着いた、丁寧な言葉だった。馴れ合いではない、真剣な言葉だった。だから、知己もふざけたり、茶化したりせず、素直に指輪を差し出した。
「ほらよ」
「ありがとう」
指輪を受け取った真友ちゃんは、指輪の宝石部分に吸光石の光を照らしてみた。すると、“the future”と同じように七色に変化した後、小さな灯りがともった。その途端、真友ちゃんはその場に座り込んでしまった。
「大丈夫?」
私が駆け寄ると、真友ちゃんは震える手で私の手をつかんだ。
「・・・よかった。戻ってきたよ。ありがとう、のぞちゃん。本当にありがとう」
そう言った真友ちゃんの目には、うっすら涙が浮かんでいた。
「私は何もしてないよ。見つけてくれたのは知己なんだから、お礼を言わなくちゃね」
「・・・うん」
私の言葉に素直に頷いた真友ちゃんは、深呼吸を三度した後、さっと立ち上がった。そして、背中を向けたまま待っている知己のすぐ傍に立った。
「指輪、見つけてくれてありがとう」
「おう。その指輪、お前のだったのか?」
「ううん。あたしのじゃないよ。けど、ケネス艦長から預かった大切な指輪だったから」
「そっか。なら、見つかってよかったじゃねえか」
「うん・・・知己ってさ」
「ん?」
「何だかんだ言って、あたしのこと助けてくれるよね」
「そうか?」
「そうだよ」
「けどよ、お前だって俺が悩んでたり、つらい目にあってたら助けてくれるんじゃねえのか?」
「それは・・・そうだけど」
「だったら、それと同じことだ。それに、今回のことはたまたまだ。偶然、奇跡みたいな確率で俺が見つけたってだけで、何も特別なことはしてねえよ。だけど、まあ、真友が助かったんなら、よかったぜ」
その言葉に、吸い寄せられるように真友ちゃんは知己の背中に歩み寄った。そして、知己の背中に寄り添うようにして身体を預けた。
「ちょ、おい!何してんだよ!」
突然の真友ちゃんの行動に、知己は驚きの声をあげたけど、真友ちゃんは知己に寄り添ったままだった。そして、思いのたけを知己の背中に語りかけた。
「それでもね、あたしは嬉しかったんだ。あの時も、今も・・・」
そう言うと、真友ちゃんは両手を知己の胸に伸ばし抱きついた。
「ありがとう。知己、・・・・・・」
最後の言葉は、小さくて聞き取れなかった。もしかしたら、言葉にさえしてなかったのかもしれない。だけど、なんて言ったのか、私には分かった。胸の奥がチクリと痛んだ。
「あのさ、真友」
知己が上ずった声で呼びかけた。真友ちゃんは、知己の背中に顔をうずめたまま「何?」
と小さく答えた。
「あのさ、さっきはごめんな」
「ううん」
「さっきのあれって、俺の誤解だったみてえだ」
「何のこと?」
「だから、あれだよ。服の上からだと分からねえもんだよな」
「???」
「やっぱり、男とは全然違うよな。」
真友ちゃんが、怪訝そうに顔を上げる。
「何のこと言ってんの?」
「だから、あれだよ。お前の胸って結構あるんだな。やたら背中に当たるから、さすがの俺もドキドキしちまったよ」
そう言って、知己は恥ずかしそうに頭の後ろをかいた。真友ちゃんは、一瞬目を丸くして呆然となった後、瞬間湯沸かし器のように顔を真っ赤にした。そして、知己の胸にまわしていた両手を慌てて解いた。そして、飛ぶようにそこから離れると、
「ばっ、ばかっ!変態!最低!無神経!・・・」
と、両手で胸を押さえながらあらん限りの罵詈雑言を知己に浴びせ始めた。けれど、知己は何を浮かれてるのか、真友ちゃんの言葉には耳も貸さずに言葉を続けた。
「やっぱり、男と女って違うんだな。希望とちっこい頃、よく一緒に風呂に入ったけどよ、あの頃とは全然違うのな。そういえば、あいつの胸をもんだ時も、こんな感じにはならなかったな。なあ、真友。何でだと思う?」
「知るか!バカ!」
「なんだよ、さっきは『ありがとう』とか、『嬉しかった』とか言ってたくせに」
「うるさい!あれは一時の気の迷い!忘れなさい!」
「うーん、それは難しいな」
「いいから、忘れろ!これは命令よ!」
「へい、へい、分かったよ。忘れりゃいいんだろ。忘れりゃ」
「そうよ。約束よ」
「あ、それ無理」
「なんでよ!」
「約束は守らなくちゃいけないだろ?」
「当たり前でしょ!何言ってんのよ!」
「だったら、無理だ。諦めてくれ。いくら俺の意思が強靭だったとしても、初めて感じた女の子の胸の感触を忘れることは、不可能だ。まあ、よかったじゃねえか。おかげで、これからはお前のことを男と勘違いすることはねえからよ。な」
そう言って真友ちゃんに笑顔を向ける知己は小さな子供のように無邪気で、私はそんな知己のことを純粋に可愛いと思った。言われた当の本人もきっと同じようなことを感じ取ったようで、顔をぽっ、と赤く染めると慌てて顔を背けた。
「嘘でもいいから、忘れろ!これは命令よ!」
「了解。嘘でいいなら、約束してやるよ。それより、みんなが待ってんだから、早く帰ろうぜ・・・って、瞬。お前どうしたんだ?」
見ると瞬が顔を、ううん、正確には鼻を両手で押さえていた。
「大丈夫、瞬?」
私が駆け寄ろうとすると、瞬は鼻を押さえていた右手を解いて、私を制止した。
「はんへほふぁいへふはら、ひひひふぁひへふははい。」
何を言ってるのかさっぱり分からなかった。けど、そう言った瞬の右手には、真っ赤な血がべっとりと付着していた。
「瞬!」
私は瞬の制止を無視して、駆け寄った。瞬は慌てて顔を隠そうとしたけれど、私はかまわず瞬の顔を覗き込んだ。見ると、鼻を押さえた瞬の左手の隙間からは、血がぽたぽたとこぼれ落ちていた。
「どうしたの、瞬!」
「ふひはへん」
ひどい鼻声の返事が返ってきた。
「ごめん、瞬。なんて言ってるのか分からない」
「はひひょうふへふはら、ひんはひひはひへふははひ」
瞬は鼻を押さえたまま笑って見せてくれた。
(きっと、大丈夫ですよって意味のことを話してくれたと思うんだけど、本当に何を言ってるのか分からないよ)
私が困っていると、知己が得意げな笑みを浮かべて近づいてきた。
「ちっ、ちっ、ちっ。これだから素人さんは困るぜ」
「何?」
「親友であり、同じ男であるからこそ分かることもあるんだぜ」
「そりゃあ、そうだけど」
「つまりだ、瞬はこう言ったんだ。『なんでもないですから気にしないでください』『すみません』『大丈夫ですから、心配しないでください』だろ、瞬」
瞬は、右手で親指を立てて見せた。
「すごい、なんで分かったの?」
「だから、言ったろ。俺と瞬は親友で、男なんだって」
「親友だからってとこは分かったけど、男って事は関係あるの?」
「そりゃあ、あるぜ」
「どういうこと?」
「つまりだ、瞬は希望や真友のあられもない姿を見ちまって、興奮のあまり鼻血が止まらなくなったってことだ」
「え!そうなの、瞬?」
私が尋ねると、瞬は流れる鼻血も気にせずに両手を大きく振りながら「違います!誤解です!」を連呼した。
「瞬も、結局ただの男だったってことね」
ため息混じりに真友ちゃんがそう言うと、瞬はその場に崩れ落ちるようにひざまずくと、地面に両手をついたまま動かなくなってしまった。
(ショックを受けてる)
あまりにも分かりやすい、ショックの受け方だった。分かりやすすぎて、一瞬なんて声をかけたらいいのか分からなくて、思わず。
「瞬だって男の子なんだから、仕方ないよ」
そう言ってしまった。
ガーン
目に見えるようなはっきりとした効果音がなったような気がした。私の一言の後、瞬は明らかにその落ち込み具合を増してしまい、知己に声を掛けられてもそこから一歩も動こうとはしなかった。
「ちょっと、のぞちゃん」
真友ちゃんが私の耳元で囁いた。
「何?」
私も小声で返す。
「嘘でもいいから、瞬をフォローしてあげて」
「どういうこと?」
「つまり、瞬はのぞちゃんのことをスケベな目で見てたと思われたことがショックなのよ」
「え、私そんなつもりないよ」
「まあ、のぞちゃんがそんなつもりで言ったんじゃないとは思うんだけどね。だけど、瞬にとっては、そう思われたかもしれないってことだけで大事件なのよ」
「そうなの?」
「そう。だから、瞬のことをそんな風には思ってないよって事を言ってあげて」
「真友ちゃんは、言わないの?」
「そりゃあ、あたしも言ったほうがいいけどね。でも、一番はのぞちゃんのほうが絶対いいの」
確信を持ってそう力説する真友ちゃんの言葉に、私は小さく頷き、瞬の背中に声をかけた。
「ごめんね、瞬。変なこと言っちゃって。瞬に限って女の子をそんな目で見ることなんて絶対ないよね。鼻血だって、温泉にのぼせただけで、変なことを想像して出たわけじゃないよね」
「・・・・・・」
瞬の身体がより一層小さくなったように見えた。真友ちゃんが私の肩を叩いてこう言った。
「のぞちゃん。それ、フォローになってないよ」
「え、え、でも、私」
知己が反対の肩を叩きながら言った。
「希望、とりあえずお前は真友と一緒に先に行ってろ。俺が瞬を見ておいてやるから」
「でも、大丈夫?」
「ああ。どうやら鼻血のほうは止まったようだし、後は心の問題だけだからな」
「私、瞬を傷つけるようなこと言ったの?だったら、教えてほしい。もし、本当にそうなら、それがたとえ私の本心でなかったとしても謝りたいから」
私の言葉に、知己は大きなため息を一つついて、こう言った。
「いいか、希望。一つだけ言っておくぜ。」
「何?」
「『真実ってのは、時として残酷なんだぜ』」
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