休息二日目 校外学習(15)
今日は休みでしたが、朝から用事と残った仕事を終わらせていたらあったい間によるになっていました。といっても、ゆっくりと過ごせたので身体は楽になりました。今日は早めで多めに更新完了です。
しばらくして、私の涙がようやくおさまったころ、滝壺の中からリノンさんが息を切らせて現れた。
「あー、死ぬかと思った」
肩で息をしながらそう言ったリノンさんは、一目散に私の元に来た。
「希望。あんたの力が必要だ。あたしと一緒に来てくれ」
真剣なまなざしに、私は息を呑んだ。
「真友ちゃんのことですか?」
尋ねると、リノンさんは深く頷いた。それだけで十分だった。
「連れて行ってください」
「よしっ。じゃあ、あたしの手をつかみな。そして、ぜったい離すんじゃないよ。この滝壺の中に一箇所だけ滝の裏側に抜けられる場所がある。そこを抜けるのに息を1分は止めていなけりゃいけない。泳がなくていい、動かなくていい。ただ、息を止めてあたしの手をしっかりと握っているんだ。そうすれば、必ず向こう側に連れて行ってやる。いいな、出来るな」
リノンさんの目を見つめ返しながら、思いを込めて返事した。
「はい!」
「いい返事だ。じゃあ、しっかりとついて来なよ!」
リノンさんの左手をぎゅっと握り締め、大きく息を吸い込み滝壺の中へと飛び込んだ。とたんに、身体が右へ左へ上下へと流される。とてもじゃないけど、どちらが前で、後ろなのか分かったものじゃない。だから、私はきゅっと目を瞑ったまま、握り締めた右手に力を込めた。すると、リノンさんの左手が私の右手を握り返してくれた。その温かさと力強さを頼りに、私は荒れ狂う滝壺の中を進んでいった。
「・・・・・・希望」
遠くで私を呼ぶ声が聞こえて、私はあわてて右手を強く握り締めた。リノンさんの左手がまだ私の手の中にあることを確認して胸をなでおろす。
(よかった。まだつながってる)
安心したら、また意識が遠のいていった。
(また?)
そういえば、いつ意識を失ってたんだろう。そう思い至ったと同時に、頬を軽く叩かれた感触にあわてて目を開けた。薄暗い空間の中にリノンさんの笑顔が浮かんだ。
「おはよう。よく眠れたかい?」
「・・・・はっ!す、すみません!」
私が慌てて起き上がると、リノンさんは顔をしかめた。
「どうしたんですか?」
心配になって尋ねると、リノンさんは苦笑いしながら左手を私に見せた。
「あっ」
リノンさんの左手は指先が真っ白になっていた。私の指がリノンさんの右手にきつく食い込んでいたからだった。
「そろそろ、離してもらってもいいかい?」
「すみません!」
慌てて指を開こうとしたけれど、まるで石みたいに固まって動こうとしなかった。私は左手で右手の指を引き剥がそうとしたけれど、びくともしなかった。
(どうしよう!)
突然の出来事に、パニックになりかけていた私にリノンさんは優しく微笑んでくれた。
「大丈夫、大丈夫。とりあえず、深呼吸してみな。まずは気持ちを落ち着かせてみな」
「はい」
私は大きく息を吸って、深呼吸をしてみた。
(まだ、足りない)
もう一度、深呼吸をしてみると、さっきよりいくらかましになった。のかな?不安だったので更にもう一度深呼吸をしてみた。
「どうだい、少しは落ち着いた?」
「はい。なんとなくですけれど」
「そりゃ、よかった。じゃあ、次は確認だ。左手は動くかい?」
私は左手を握ったり開いたりしてみた。
「はい。大丈夫です」
「じゃあ、右足は?左足は?首は?ひざは?」
私は言われたとおり、順番に動かしてみた。
(うん、大丈夫。ちゃんと動く)
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、右手も動かないはずないんだから、落ち着いてゆっくりと動かしてみな。あんたの身体はあんたを裏切ったりしないんだから」
リノンさんの言葉に、右手に入っていた頑なな力が、ストンと音を立てて抜け落ちたような気がした。私は、ゆくっりと右手から力を抜いてみた。
「あっ」
と言う間に私の右手はリノンさんの左手から離れた。
「はい、よくできました」
そう言ってリノンさんは笑顔を返してくれた。けれど、私が握りつぶした形となった左手はまっしろのままだった。
「・・・すみません。ひどいことをしてしまって」
私が謝ると、リノンさんは不服そうな顔して答えた。
「別にあんたはひどいことなんてしてないじゃないか。だから、あやまる必要なんてない。そうだろ、あんたはあたしとの約束を精一杯守った。そのおかげで無事滝の裏側に来ることが出来た。それが一番大事なことだ。違うかい?」
「それは、そうですけど・・・だけど、私をここまで連れてきてくれたリノンさんに痛い思いをさせてしまって・・・」
「けれど、そこまで強く握らなければ、あんたは滝壺に飲まれていたかもしれないだろ。本当に大事なことがあるときに、よそ見をしているやつは一流にはなれない。あんたはそれをやった。それだけで十分だ。あんたには分かってるはずだろ。今、あんたが何を一番大切にしなくちゃいけないかを」
そう言ってリノンさんは薄暗い洞窟の奥を指差した。
「ここから少し先に言ったところで真友が待ってる。話は真友から聞いてくれ。あたしができるのはここまでだ。真友はあんたを待っている。あんただけにしか話せないことがあるって言っている。だから、早く行ってやってくれ。あたしは、ここで待ってる。それと、これをもって行きな」
リノンさんは右手に握っていた石鹸くらいの大きさの石を私に手渡しくれた。見ると、蛍光灯のように明るい光を放っていた。
「これは何ですか?」
「それは、『吸光石』といって太陽の光を吸って夜になると光を放つ石だ。この先はどんどん暗くなっていくから灯り代わりにもっていきな。とくに足元には十分気をつけて行きなよ。岩場の上が濡れていて、かなり滑りやすくなっている。それとこれ」
そう言ってリノンさんは、腰にスカートのように巻いていた赤い布を取り外すと、私に手渡した。
「真友は素っ裸のまんまだから、それを渡してやりな」
「はい、ありがとうございます」
「よし、じゃあ真友のとこに行ってきな。あの娘はあんたのことを首を長くして待ってるだろうから」
「はい!」
リノンさんの心遣い、優しさ、強さが嬉しく、頼もしかった。
(だからかな、こんな暗い洞窟に一人でいるのにちっとも怖くない)
でも、とふと考えた。
(真友ちゃんは、こんなところに一人でいるんだ)
どんなに不安だっただろう。さっきリノンさんが見つけ出してくれたときは、きっと真友ちゃんも嬉しかったに違いない。それなのに、リノンさんには頼らず私を待ったんだ。
(こんな暗闇の中で)
きっと真友ちゃんはつらい思いをして私を待ってる。そう思うと自然と足取りが速くなった。リノンさんに借りた『吸光石』で洞窟の中を照らしながら進んでいくと水の流れる音が聞こえてきた。洞窟は突き当たりで左へと抜けていた。『吸光石』で奥を照らしてみると温泉が川のように流れているのが見えた。
「誰!」
声が上がった。私は声のほうに『吸光石』を向けた。
「誰がいるの!」
(真友ちゃんだ!)
私はすぐさま声を返した。
「真友ちゃん!私だよ!希望だよ!」
うずくまってこちらを見ていた真友ちゃんは、すぐさま立ち上がると私に向かって駆け寄ってきた。
「待って、真友ちゃん!走ったら危ないよ!」
そう言った矢先、真友ちゃんは足元を滑らせ地面にひざを打ち付けた。
「真友ちゃん!」
私は真友ちゃんの元に駆け寄ると、打ち付けたひざを調べた。ひざからは血がにじみ出ていた。
「大丈夫!真友ちゃん!」
真友ちゃんはひざを両手で押さえながら痛みをこらえている様子だった。私はとっさに自分の身体に巻いている布の端を岩の角にあてて一気に引き裂いた。
「真友ちゃん、ちょっと手をどけて」
そう言って、私はひざの怪我の部分に切り裂いた布を巻きつけた。
「ありがとう、のぞちゃん」
「ううん。気にしないで。それより、本当に大丈夫?」
「うん。もう平気だよ。これでも武道をやってるから痛みには強いほうなんだ」
「けど、すごい勢いでひざをぶつけてたから・・・無理しないでね」
「もう、のぞちゃんは心配性なんだから」
そう言って笑顔を見せた真友ちゃんは、いつもの真友ちゃんだった。だから、私は一安心した。
「よかった。真友ちゃん、元気そうで。私、てっきり真友ちゃんがとんでもないことに巻き込まれてるんじゃないかと思って心配してたんだ」
「あー!!!!!」
洞窟が震えるくらいの叫び声が上がった。
「そうだった!こんなことしてる場合じゃなかったんだ!のぞちゃん、ねえ、力を貸して、お願い」
そう言って私の肩をつかんでぐらぐら揺すってくる真友ちゃんの目は鬼気迫るものがあった。
「ちょっと、待って!落ち着いて真友ちゃん!」
「これが、落ち着いていられますか!本当に、大変なんだって!ねえ、私どうしたらいい?どうしたらいいの?」
「真友ちゃん!!」
私は真友ちゃんを怒鳴りつけた。真友ちゃんの身体がぴたりと止まった。私は機を逃さず、すかさず真友ちゃんの目をじっと見つめながら言葉を続けた。
「私は真友ちゃんの親友だから。出来ることなら、なんでもするから。だからね、真友ちゃん。落ち着いて、私に何があったのかを説明してくれないかな。でないと、力になれないよ。ね、お願い」
真友ちゃんは静かに頷いた。
「じゃあ、一つずつ聞いていくね。まずは、どうして、こんなところにいるの?」
「ミズキを追って泳いでたら、滝に落ちちゃって・・・その後、しばらく気絶してたみたいで、起きたらこんなところにいたの。大声でみんなのことを呼んでも返事はないし、あたりは真っ暗で身動きはとれないし・・・本当に怖かった。怖かったよ」
そう言って身体を震わす真友ちゃんに、私はリノンさんからあずかった赤い布を身体に肩から掛けてあげた。
「これは?」
「リノンさんが、真友ちゃんに渡してくれって。裸のままじゃ、かわいそうだからって」
真友ちゃんは、肩に掛けられた赤い布をぎゅっと握り締めたまま俯いた。そして、小さな声で呟くように言った。
「・・・ありがとう、リノンさん」
「優しいよね、リノンさん」
「うん」
「せっかくなんだから、その布を身体に巻いちゃたら。私みたいに」
そう言って、私はくるりと回って見せた。
「あ、かわいい。どうしたの、その布」
「これもリノンさんが用意してくれたの。先にここに来てた人の忘れ物だから使っていいよって。でも、真友ちゃんのは違うよ。リノンさんが身に着けてたものなんだ」
「そっか・・・じゃあ、大事に着なくちゃね」
「うん」
真友ちゃんは、赤い布を器用に身体に巻きつけ、ミニのワンピースのように着こなした。
「かわいい!真友ちゃん、すごく似合ってるよ」
「へへへ、ありがとう。あ、でも、そうだ。こんなことしてる場合じゃなかったんだ」
「うん、そうだね。だから、次の質問。どうして、リノンさんでなく、私に助けを求めたの?」
真友ちゃんは、先ほどのような深刻な表情をして左手の甲のほうを私に見せた。
(あれ?)
違和感に気がついて、私は自分の左手を見た。薬指にはケネス艦長から預かった“the future”があった。慌てて、もう一度真友ちゃんの左手薬指を見る。
(ない!)
私の表情を読み取って、真友ちゃんは深く頷いた。
「気がついたら、なくなってたの」
「・・・・・・・」
「ねえ、のぞちゃん。どうしたらいい?」
すがるような真友ちゃんの眼差しに我に帰った。
「落ち着いて、真友ちゃん。真友ちゃんが、私に助けを求めた理由は分かったから。事の重大さも分かった・・・と思う」
(あれ?)
ふとした疑問が私の心に芽生えた。
「ねえ、真友ちゃん。この指輪ってそんなに大事なものなの?」
「え?」
何を言ってるのか分からない、といった表情の真友ちゃんに私はもう一度尋ねた。
「だから、この指輪ってそんなに大事なものなの?確かに、ケネス艦長から預かったものなんだから、失くしたりしちゃだめなのは当然なんだけどね。あと、真友ちゃんが言ってた『世界を変える力』っていうのがあるんだろうなっていうのも知ってるけど。あんまり実感がわかないって言うか・・・うーん。たとえばね、真友ちゃん。この指輪で何ができるの?」
「・・・・・・」
「どうしたの?」
「・・・・・・」
「真友ちゃん?」
真友ちゃんは何かを考え込んだまま、口を開かなかった。
(きっと、何か思いついたんだね。)
だから、私は真友ちゃんが口を開くのを待つことにした。
5分後(くらい?)
「・・・はっ!」
何かを思いついたのか、真友ちゃんはつむっていた目をぱっと見開き、声を上げた。
「そうだ!海賊紳士、6巻だよ!」
「????」
「のぞちゃん!海賊紳士、6巻に書いてあったの!あー、もう。なんで、こんな大切なことを忘れるかな。特に、6巻なんて何度も何度も読んだっていうのに、もう!けど、これでなんとかなるよ!」
よほど嬉しかったのか、真友ちゃんはすっかり興奮していた。
「何が書かれていたの?」
私が尋ねると、即座に答えが返ってきた。
「“the future”の使い方!」
「本当に?」
「うん。今の今まで忘れてたけど、すっかり思い出した!ケネス艦長が囚われの島から逃れるために“the future”の力を使ったの。“the future”の力はね、現在からつながる未来を変える力を持ってるの。」
「未来を変える?」
「そう。未来を変えるの。だけど、どんな未来も変えられるってわけじゃないんだ。さっきも言ったけど、現在からつながる未来だけしか変えることはできないの」
「どういうこと?」
「たとえばね、知己が未来に女になりたいって思って“the future”の力を使っても、その力は解放されないの。だって、男が女になる未来なんてつながらないでしょ」
「うん。男が女になるなんて話、聞いたことがないもの。あ、でも、最近『男の娘』っているみたいだ。この前、ニュースで紹介されてるのを観た。本物の女の子よりも、女の子っぽくて可愛かった」
「そうそう、びっくりするよね・・・って、違う!そう言うことを言ってるんじゃなくて、いくら格好や姿を変えても、男は男に生まれてくるし、女は女に生まれてくるでしょ。朝、目が覚めたら突然胸がなくなって男になってたなんてことないでしょ」
「あ、うん。そういうことなら分かるよ」
「そうでしょ。だから、それは未来につながってないことなの。今、ここからつながってる未来だけをたぐりよせることができるの」
(あ、そういうことか!)
私は真友ちゃんが何を言おうとしているのか分かると、自分の左薬指から“the future”を抜き取って渡そうとした。
(え!)
私はもう一度右手に力を込めてみた。
(抜けない!)
「え、何で?」
「どうしたの、のぞちゃん?」
「指輪が抜けないの。」
「うそ!ちょっと、見せてみて」
言われたとおり私は左手を真友ちゃんに預けた。真友ちゃんは、指輪を回してみたり、軽く引っ張ってみたりした後、さっぱりした顔でこう言った。
「まあ、いいんじゃないの。そのうち抜けると思うよ」
「えー。そんなー、人事だと思って」
「別にそんなつもりはないよ。けど、あたしみたいに落としたりするよりは絶対にいい。それに力を使うのは誰だって構わないんだから」
「まあ、そうかもしれないけれど」
「じゃあ、お願い。指輪が戻ってくるように未来をたぐりよせて」
「うん、分かった」
(真友ちゃんの指輪が戻ってきますように、真友ちゃんの指輪が戻ってきますように、真友ちゃんの指輪が戻ってきますように・・・あれ?)
ふと疑問に思って、真友ちゃんに尋ねてみた。
「“the future”の使い方って、ただ祈るだけでいいの?」
「へ?」
「だって、私、真友ちゃんから“the future”の使い方聞いてないよ」
「あ、そうか。そうだったよね、ごめん、ごめん」
真友ちゃんは、頭の後ろをかきながら笑った。
「えーと、ちょっと、待ってね。今、思い出すから」
そう言って、額に人差し指を当てると「うーん」と唸り始めた。
「思い出した!“the future”を額に当てて、たぐり寄せたい未来を願うの。それから、“the future”をはめた手を額の前で十字を切る。十字の切り方は額にかざした手を下、左、右の順番で動かせばいいの。それから前、後の順番で手を動かす。そうして、最後に自分の胸の前に“the future”を持ってくる。やってみて」
私は真友ちゃんに言われたとおりやってみせた。
「オッケー!そうしたら、その後にその手を握り締めて、こう心の中で念じるの『因果は倶時なれば、今も未来もしかるべし』」
「『いんがは、ぐじ』?」
「あ、そうか口で言っただけじゃ分からないけど。原因の因に、結果の果で『因果』、『倶時』は私もあんまり詳しくは分からないんだけど、二つであって、二つじゃないものって意味があったと思う。まあ、原因と結果は同じってことかな」
「???」
私が頭の中にはてなマークを沢山浮かべると、真友ちゃんはそのことを察したのか慌てて言葉を続けた。
「まあ、今は言葉の意味よりも、指輪を探すことのほうが大事だから。のぞちゃん、頼んだよ」「う、うん。やってみる」
私は真友ちゃんの言われたとおり、“the future”を額にかざすと心の中で願った。
(真友ちゃんの失くした指輪“the past”が見つかりますように)
そして、その手をそのまま下、左、右、前、後の順に動かし胸の前に持ってきた。
(『因果は倶時なれば、今も未来もしかるべし』)
心の中でそう念じた途端、胸の奥から声が聞こえた。その声は、きっと私の声だったと思う。何て言ったのかは分からなかったけれど、何故かとても嬉しそうな声だった。
(・・・ありがとう・・・)
不思議だけれど、私はその声に向かってそう応えていた。そうすると、胸が熱くなって、涙がこぼれた。
「あれ?ど、どうしたの!のぞちゃん!」
私の涙に驚いた真友ちゃんが私の顔を覗き込んだ。
「ううん、なんでもない。大丈夫だよ」
私は笑顔を返した。けれど、涙はあふれ続けていた。
「全然、大丈夫じゃないよ!どこか、痛いの?まさか、指輪の力を使ったから?」
私は涙をぬぐいながら、もう一度笑顔を返した。
「本当に、大丈夫。この涙は、痛いからとか、苦しいとかの涙じゃないから」
「???」
首をかしげた真友ちゃんに私は言葉を続けた。
「この涙はね、きっと心が満たされた時に流れる涙なんだと思うよ」
「心が満たされたとき?」
「うん。この指輪に思いを込めた途端、胸の奥がぽかぽか暖かくなった気がしたの。ここに来るまで、不安で一杯だった心の中がね、まるでからっと晴れ渡った青空みたいになったの。ほら、覚えてる。尾田先生に言われて空を見に運動場に出たこと」
「うん、覚えてる。そう言えば、あの空は綺麗だったね。それに、気持ちよかった」
「なんだか、あの時と同じような気持ちになったの」
「じゃあ、指輪の力の副作用とかで身体が痛いとか、苦しいとかじゃないの?」
「うん。むしろ、その逆ですごく気持ちがいいよ」
真友ちゃんは胸をなでおろすと、私の首に両手を回して抱きついてきた。
「え、え、何?」
「ありがとうね、のぞちゃん。ここまで、探しに来てくれて。本当に、嬉しかった」
その声は心なしか、震えていた。肩にぽたり、ぽたりと雫が落ちた。また、私の胸の奥が熱くなった。私は真友ちゃんの背中に手を回しぽんぽんと軽く叩いた。
「私は、真友ちゃんが大好きだから。どこへだって探しにいくよ。そのかわり、もし、今度私が一人ぼっちになってしまうことがあったら、探しにきてね」
「・・・うん。約束する」
「じゃあ、もう少しこうしててあげる。落ち着いたら、みんなのところに戻ろうね」
「うん」
そう言って、真友ちゃんは私に抱きついたまま目を瞑った。私は、背中をぽんぽんと優しく叩いてあげながら、不思議な感覚に捉われていた。私よりも身長が高くて、私よりも強い女の子が、なぜか私よりも小さく、弱弱しいもののように感じた。守ってあげたい、支えてあげたい、そんな強い気持ちが次々と心の中から湧き上がってきた。
(お母さんになったら、こんな気持ちになるのかな)
ふと、そんなことを考えた。
ご意見、ご感想お待ちしています。




