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休息二日目 校外学習(12)

今日は会議で帰りが遅くなったので、午前様で更新完了です。分量は少なめなのはご了承下さい。

 リノンさんを先頭に岩の隙間を縫うようにして進んでいくと一際大きな岩の前にたどり着いた。そして、その岩場を右回りに迂回していった。巨大な岩の向こうからもうもうと立ち込める水蒸気と温泉特有の卵の腐ったようなにおいが目的地がすぐ傍にあることを物語っていた。

「リノンさん、ここの温泉て大きさはどのくらいあるんですか?」

 真友ちゃんの問いかけに、リノンさんはにやりと笑ってこう言った。

「それは、ついてのお楽しみだ。おっと、言ってる間にゴールだ。そこの岩の隙間をくぐったら、もう目の前だ」

 そうして、私たちは岩と岩との間にできた人一人通るのがやっとの隙間へと入っていった。隙間の向こうからドライアイスの煙のように濃厚な湯気が流れ込んできていて、向こう側に近づけば近づくほど視界が悪くなっていった。私は、不安になり声をあげた。

「刹那ちゃん、ミズキ、まゆちゃん、大丈夫?」

 すぐ後ろの刹那ちゃんが私の袖を軽く引っ張った。ミズキは「大丈夫です!」と答え、真友ちゃんは「心配ないよ、のぞちゃん!任せといて!」と頼もしい言葉を返してくれた。

「うん、分かった!ありがとう!」

 それから、すぐにリノンさんが口を開いた。

「到着だ!さあ、驚け!」



「・・・・・・嘘」

 夢の中なのに、夢みたいな光景に圧倒されて出た言葉がこれだった。リノンさんの言葉通り、私たちは見事に驚いた。

(こんなに広い温泉なんて、見たことないよ!)

視界の端から端まで、すべて温泉だった。規模にして、学校のプールの十倍以上はありそうだった。目を凝らしてみると温泉の中にはいくつもの苔むした岩がまるで島のように浮かんでいて、まるで小さな海のようだった。

「あれ?」

 真友ちゃんが声を上げた。

「今って、もう夜だよね?」

「うん。そうだと思うけど。」

「じゃあ、何でこんなに明るいの?」

 言われて気づいた。そうだ、今は夜のはずなのに辺りはぼんやりと明るく見える。

(何で?)

 そう思ってリノンさんに、質問をしようとした時、どこからか声が聞こえた。

「おーい、こっちだー!」

 巨大な岩に囲まれた空間の中に大きな声が反響して木霊した。声の先に目を向けると向こう岸で誰かが手を振っていた。目を凝らして見てみるけど、湯気のせいで誰だか分からなかった。

「おーい、希望!俺だよ、俺!」

 知己の声だ。

「そんなところで何してるのー!」

「瞬と二人で現地を調査してたんだよ!とりあえず、俺たちもそっちに行こうと思うんだけど、大丈夫かー?」

 何が大丈夫なのか、質問の意味が理解できなかったけど、べつだん来てもらって困ることもなかったのでこう答えた。

「別に大丈夫だと思うけどー!」

「何かさ、瞬がお前らがもう素っ裸なんじゃないかって心配しちまっててよー!って、何すんだよー!」

 瞬らしい心配に、私は頬が緩んでにやけてくるのを止められなかった。

(本当に、瞬らしい)

 私は思い切り大きな声で返事をした。

「大丈夫だよー!まだ、みんな服着てるよー!」

「じゃあ、今から行くぞー!」

 そう言うと、知己の影は温泉の中に飛び込んだ。

(うそ!)

 そうして、そのままバシャバシャと温泉の中をクロールで泳ぎ始めた。

「バカ!汚いでしょ!服のまま入るな!」

 真友ちゃんが知己に向かって怒鳴りつけた。けど、当然のことながら知己にその声は届かず、見る見るうちに私たちの側の岸まで泳ぎきった。

「あっちー。温泉で泳いだのは初めてだったけど、結構きついな。服もビショビショで気色悪いや」

 体をぶるぶると震わせて水滴を振り落としながら近づいてくる知己に、リノンさんが呆れ顔でこう言った

「この温泉で泳ぐやつはめずらしくないけど、服を着たまま端から端まで泳ぎきったやつは初めてだよ。ある意味、歴史に名を残したかもね」

「やったぜ!俺が第一号だ!」

 得意満面の知己に、ミズキが嬉しそうに近寄った。

「すごいですね、知己さん。歴史に名が残るなんて」

「まあな」

 照れながらそう答えた知己に、真友ちゃんが一言。

「バカの歴史がまた一ページ増えただけよ」


 しばらくして、岸沿いに岩場を歩いてきた瞬が合流した。

「遅くなって申し訳ありません。どこかのバカと違って常識を持ち合わせていましたから」

 そう言って知己を睨みつけた。当の知己は瞬の皮肉にまったく気づかず、大きなあくびをした。

「ふわあぁ。まあ、無事全員そろったことだし、さっさと温泉に入ろうぜ」

 知己の言葉にミズキが目をきらめかせながら返事をした。

「はい、入りましょう」

 そう言って知己の前で服を脱ぎ始めた。

「え・・・うわあ!なにやってんだミズキ!」

 動揺する知己を尻目に、ミズキは前のボタンをすべて外し着ていたワンピースを下ろそうとした。

「させるか!!」

 電光石火の動きで落ちかけたワンピースを持ち上げ、動揺する知己の下腹に蹴りを入れたのは、真友ちゃんだった。

「ミズキ、あんた何やってんのよ!知己も、あんたもこっち見るんじゃない!」

「え、でも、知己さんが温泉に入ろうって言ったから」

 少しふてくされたようにそう言ったミズキに、真友ちゃんは噛んで含めるように説明し始めた。

「いい、ミズキ。『男女七歳にして同衾せず』っていう言葉があるように、男と女っていうのは、距離が大切なの。いつも一緒の兄妹でも男と女なら距離をおかなくちゃだめなの。火と人との関係を想像したら分かりやすいわ。火は明るくと、温かいけど、近づきすぎると熱いし、まぶしい。反対に、離れすぎると寒いし、暗い。近すぎず、遠すぎない関係が火と人の一番いい関係なの。それと同じで、男と女の関係ってのは、近すぎず、遠すぎない関係が一番なの。だから、裸で一緒に温泉に入るなんてことは絶対だめ!分かった、ミズキ!」

 一息にそこまで言うと、真友ちゃんは大きく息を吸い込んだ。

「瞬!!」

「はい!!」

「これだけ時間があったんだから、いいアイデアでたんでしょうね!」

 有無を言わさぬ真友ちゃんの言葉に、瞬は反射的に返事をした。

「はい、もちろんです!」

 瞬の言葉に、みんなの視線が集まった。瞬は咳払いを一つしてから話し始めた。

「ミズキさんに質問です」

「はい?」

「ミズキさんが知己とした約束をもう一度、教えてください」

「『お風呂があったら一緒に入ってくれますか?』って言ったことですか?」

「そうです。ありがとうございます。つまり、お風呂があったら一緒に入るという約束で、お風呂が実際にあったので知己はミズキさんと一緒にお風呂に入らなければなりません。これが約束です。間違いありませんか?」

「間違いありません」

 ミズキの答えにうなずいた瞬は声の音量をさらに上げながら話を続けた。

「ということはです。一緒のお風呂に入ることが条件で、その他の制約は一切受けないということです。つまり、この広い温泉の中であればお互いがどこにいようと構わないという結論に達します」

「あ、なるほど!」

 私は思わず声をあげた。

「え、どういうこと?」

 真友ちゃんの問いかけに、私は答えた。

「えーとね。これだけ広い温泉なら、男の子と女の子で入る場所を決めておけば、お互いの目を気にすることなく温泉に入ることができるってこと。しかも、知己は『お風呂に一緒に入る』っていう約束を守ることができる。そういうことだよね、瞬」

「さすが、高山さんです。まあ、屁理屈みたいな理屈で申し訳ないですが、これが最善のアイデアではないかと思います。どうでしょうか、ミズキさん」

 瞬の提案にミズキは少し残念そうな顔をしながらも、笑顔でうなずいてくれた。

「はい、いいですよ」

「すみません、こんな方法しか思いつかなくて・・・」

 瞬が頭を下げると、ミズキは首を横に振った。

「ううん。私、うれしいです。知己さんだけでなく、みんなが私の勝手な約束のために一生懸命になってくれて。こんな素敵なことってなかなかないですよね」

 ミズキの言葉が、胸に響いた。

(約束のために一生懸命になる。誰かのために一生懸命になる。本当だ!当たり前のようで、なんて素敵なことなんだろう!)

 そう思うと、胸の奥底が明るく開いていくような感じがした。歓喜って言葉を尾田先生に教えてもらったことを思い出した。もしかしたら、こんな気持ちのことを『歓喜』っていうのかもしれない。そんなふうに思った。


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