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休息二日目 校外学習(11)

今日は早めに帰ってきましたので、早めの更新です。といっても、この後持って帰った仕事をする予定です。

 私たち一行が、温泉についたのは、それから更に一時間ほど歩いた後だった。

「よーし、委員長、お疲れ様!ほら、あそこの岩場から湯気が昇っているのがみえるだろ。あれが、待望の温泉だ!みんな、温泉でゆっくりしたいか!」

 リノンさんの呼びかけに全員が拳を振るい挙げて叫んだ。

「おー!!!!!」

「よーし、ここからは、男女別行動になる。委員長と、知己は向かって左側に見える大きな岩陰で着替えてこい。あたしたちは、向かって右側のあの大きな岩陰で着替えるぞ」

「あの?」

「なんだ、真友。」

「着替えるって、何にですか?」

「水着に決まってるだろ?」

「???」

「持ってきただろ?」

「はい」

「じゃあ、それに着替えればいいだろ。まさか、素っ裸で男どもと一緒に温泉に入りたいのか?」

「違います!あたし、そんな変態じゃありません!」

「じゃあ、何だよ」

「だから、水着がないんです!海の底に、消えたんです!」

「・・・・・・あ、そっか」

「あ、そっかじゃありませんよ!どうするんですか!」

「まあ、あたしはこの下に水着兼下着を着込んでるから大丈夫なんだけどね。まあ、いざとなったら裸でもいいんじゃない」

「よくないです!!」

 顔を真っ赤にして怒る真友ちゃんに、ミズキが不思議そうな顔で尋ねた。

「お風呂は裸で入るものではないのですか?」

 あまりに当然のことを、当然のように言ったミズキに、真友ちゃんは戸惑いながら答えた。

「そりゃあ、そうだけど。それは、女同士の時だけで、今回は男が一緒にいるんだから」

「私、知己さんと一緒にお風呂に入る約束をしました。だから、楽しみです。ね、知己さん」

「へ?」

「約束しましたよね。お風呂があったら一緒に入るって」

「えーと、そんなこと言ったっけ。俺、最近、物忘れが激しいから」

 とぼけようとした知己に、ミズキは背中の翼を震わせながら詰め寄った。

「確かに、約束しましたよね!まさか、知己さんは約束を守らないつもりなんですか!」

「いや、そんなつもりはねえよ!・・・あ、そうだ。うん、今、思い出した。そうだった、そうだった。さっき、約束したよな。一緒に入るって」

 知己がしどろもどろになりながら約束したことを認めると、ミズキはニコリと笑顔を見せて知己の腕に自分の腕を絡めた。

「よかった。知己さんが、約束を忘れたり、破ったりする人じゃなくて。もし、そんな人がいたら、その人は最低ですよね」

「ははは、そうだな。最低だよな」

 力なく笑う知己に、真友ちゃんは鬼の形相で睨みつけた。

「最っ低」

 知己は黙って頭を下げた。

「さあ、知己さん。一緒にお風呂に入りましょう」

 ミズキが知己の腕を引っ張って温泉に向かおうとしたので、私は慌ててミズキを呼び止めた。

「ちょっと、待って。ミズキ」

「何?」

「うん。あのね、やっぱり裸で一緒にお風呂って言うのはいけないと思うんだ」

「でも、私の家族はいつも一緒にお風呂に入っていましたよ。親しい仲の者同士なら当たり前のことだと思います」

「それは、そうかもしれないけど。でもね、きっと知己も裸で一緒にお風呂に入るとは思ってなかったと思うんだ」

 助け舟を得た知己はここぞとばかりに声をあげた。

「そう、それだよ!俺はてっきり水着でも着て一緒に入るってことだと思ってたんだ。やっぱり、裸はやべえよ。な、ミズキ」

「でも、知己さん。水着を失くしてしまったんですよね。それじゃあ、どうやってお風呂に入るんですか?約束は約束ですよね・・・」

 ミズキの瞳の置くに赤い光が揺らめいたように見えた。

(ミズキ、怒ってる)

「そりゃあ、約束は約束だけど。時と場合ってものがあるし。この場合は仕方ねえよな」

 ミズキの心の変化に気づきもしない知己は平然とこんなことを言ってのけた。だから、私は心の中で

(知己のバカ!)

 と悪態をついた。いつも、真友ちゃんが知己に対して腹を立てている理由が改めて実感された。

(本当に、知己は空気を読まない。女心を分からない。すぐ調子に乗る)

 私はだんだん腹が立ってきた。知己のいいところをたくさん知っているはずなのに、この時は、知己の悪いところばかりが思い起こされた。だから、私は知己に文句を言ってやろうと口を開いた。

「ふざけんじゃないわよ!」

 私が怒鳴る前に、真友ちゃんが怒鳴っていた。

「あんた、約束をなんだと思っての!ミズキはあんたとの約束を楽しみにしてたんだよ!それを、簡単に仕方がないとか、無理だとか平気で言うな!」

 真友ちゃんの剣幕にたじろぎながらも知己は反撃を試みた。

「だってよ、水着がねえんじゃ仕方ねえだろ」

「そこをなんとかするのがあんたの役目じゃないの!約束を守るつもりがあるのか、ないのかはっきりしなさいよ!」

 知己は、はっと何かに気がついたような顔をした後、急に真剣な表情になった。そして、ミズキのほうに向き直って頭を下げた。

「ごめんな。ミズキ。いいかげんなこと言っちまって。俺、約束守れるようにがんばってみるから。それで許してくれねえか?」

 知己の言葉に、ミズキの瞳の奥に揺らいでいた赤い光が小さくなった。そして、いつもの柔らかな笑顔を見せた。

「はい。知己さんが、約束を大切にしてくださるなら、私はそれで満足です」

「サンキュ。ミズキ」

 そう言って、今度は真友ちゃんへと向き直った。

「お前も、サンキュな」

「何がよ?」

「怒ってくれたことだよ。お前のおかげで自分が間違ってることに気がつけた。だから、サンキュだ」

「別に、あんたのために怒ったわけじゃないからね。あんまり、ミズキが可哀想だったから、腹が立っただけよ」

「それでも、やっぱりサンキュだ。ありがとな、真友」

 知己が微笑みかけると、真友ちゃんは慌てて知己に背を向けた。

「ん、どうした?」

 知己は真友ちゃんの顔を覗き込もうとした。

「こっち見るな!もういいから。あんたの気持ちは分かったから。だから、もういい」

「そっか」

「それよりも、あんたどうするつもり?」

「何が?」

「・・・お風呂のこと」

「ああ、それか。まあ、なんとかなんじゃねえか」

「どういう風に?」

「まあ、それは俺の親友であり知恵袋。こういう時の委員長様がいるからな」

 そう言って、知己は瞬に駆け寄り肩を抱き寄せた。

「なあ、委員長。何かいいアイデアはねえか?」

「・・・」

 瞬はむくれたまま返事をしなかった。

「おーい、聞こえてんのか?おーい、委員長。おーい」

 耳元で何度も繰り返しながら、瞬の頭をぽんぽんと叩き始めた。最初のうちは無言で我慢していた瞬も、知己のあまりのしつこさに堪忍袋の緒が切れたようで、知己の耳元めがけて怒鳴り散らした。

「聞こえてるよ!何度も、何度も言うな!このバカ!自分で考えもせずに簡単に人に頼りやがって、お前の無責任な約束に、俺を巻き込むな!」

 すっかり毒を吐ききった瞬は少しすっきりした顔になり、知己は耳を押さえたまましばらく動かなかった。

「―っっ。鼓膜が敗れるかと思ったぜ」

 そう言って、知己は耳をぽんぽんと叩きながら「あー、あー、聞こえますか」と口にしては、耳の調子を確かめた。

「そんなことでお前の鼓膜は破れないよ」

「なんで、そんなこと言い切れんだよ」

「いつも自分で出してるバカでかい声は、俺の数倍以上だからな。もし、俺の声で破けるようだったら、とっくの昔にお前は自分の声で鼓膜を破ってるはずだ」

 瞬の説明に納得がいったのか、知己は「なるほど。そりゃそうだ」と言ってうなずいた。


「で、正直なところ委員長には、いいアイデアはあるのか?」

 知己の言葉に、瞬が露骨に嫌そうな顔をした。

「その委員長って言い方は、何とかならないのか?」

 不機嫌そうに瞬が言うと、知己はあっけらかんと答えた。

「ならねえな。だってよ、さっき決まったことじゃねえか。お前が委員長で、希望が副委員長。だろ」

「知ってるか、知己」

「?」

「正論って言うのは、時として一番むかつくんだ」

「へえ、なるほどね。ところで、その正論ってやつが何の関係があるんだ?」

「・・・なんでもない。言ってみただけだ」

「変なやつだな。まあ、お前が委員長って呼ばれるのが本気で嫌なら呼び方変えてやってもいいぜ。その代わり、何かいいアイデアだしてくれよ。な」

 知己は瞬に両手を合わせて頭を下げた。瞬は、小さなため息をつくと「分かったよ」と答えた。

「サンキュ。助かるぜ。じゃあ、早速、教えてくれ」

 瞬は少し考えた後、口を開いた。

「男女が一緒に入浴し、なおかつお互いの裸を見ないで済む方法は、とりあえず二つある。一つは、お互いに目隠しをして入浴する方法。もう一つは、水着に替わる何かを今から用意して入浴する方法だ。前者は、すぐにでも実行可能だが、視界が奪われるため岩場にある温泉の中では非情に危険だ。後者は、一番無難な選択だが、無人島の中で、そう都合よく水着に替わる衣類が見つかるとは思えない。よって、実行はかなり困難だ」

「なるほでね。で、瞬のお薦めは?」

「二つの案を組み合わせた、第三の方法だな」

「第三の方法?お前、方法は二つって言ったじゃねえか」

「とりあえず、二つと言ったまでだ。第三の案は、俺と知己だけ目隠しをして入浴する方法だ。俺と知己の二人なら腰に布でも何でも巻いておけば水着の替わりくらいにはなる。この方法なら、女性陣の負担も少なく、最低限の用意で実行可能だ」

「おお!さすが、委員長!」

 知己は両手をぽんと打つと、私たちの方へ向き直った。

「ということだ。この方法でどうだ?」

「はい、大丈夫です!」

 ミズキが満面の笑顔で応えた。

「冗談じゃないわよ!」

 叫んだのは真友ちゃんだった。

「それじゃあ、あたしたちは裸のまんまじゃない!いつ取れるか分からない目隠しであたしたちの裸を守れっていうの!そんな危険なことできるわけないでしょ!」

「ちょっと聞いていいか?」

「何よ!」

「お前の裸って、そんなに大切なものか?」

 一閃!

 鈍い音と共に真友ちゃんの拳が知己のわき腹にめりこんだ。

「ふざけてんの、あんた」

「・・・ぐぇ・・・げほ、げほ・・・はぁ、はぁ・・・すみません。失言でした」

「分かればいいのよ。分かれば」

 真友ちゃんが拳を引くと、知己はわき腹を押さえながらしゃがみこんだ。

「大丈夫ですか、知己さん」

 ミズキが駆け寄ろうとすると、真友ちゃんは両手を大きく広げてそれを阻んだ。

「だめよ、ミズキ。変態が移るから」

 しゃがみこんだままの知己が顔を上げて怒った。

「誰が、変態だ!誰が!」

「あんたのことよ、この変態!」

「てめえ、せっかくいいアイデアを思いついたのに、教えてやんねえぞ」

「へえ。あんまり期待してないけど、参考までに聞いておこうかしらね」

「取っておきのアイデアだぜ」

 そう言いながら知己はゆっくりと腰を上げた。

「つまりだ。発想の逆転だ。」

「つまり?」

「俺たちが裸で、お前たちが目隠しをして水着か何かを着るんだよ。そうすりゃ、一石二鳥じゃねえか。どうだ、いいアイデアだろ」

 得意満面の知己に、真友ちゃんは心底がっかりした様子で大きく長いため息をついた。

「もういいわ。あんたには期待してないから。で、どうすんの瞬。他にいいアイデアは本当にないの?」

 知己を完全に無視した真友ちゃんの問いかけに、瞬はためらいもなくきっぱりと言い切った。

「現状を考えれば、これが最善だと思います」

(本当に、最善なのかな?)

 正直、そう思ったけど瞬が瞬なりに一生懸命考えてくれたことを否定する気にはなれなかった。けど、真友ちゃんは私が思ったことをそのまま口にした。

「はぁ、がっかりだわ。ねえ、ちょっと聞いた、のぞちゃん」

「何のこと?」

「今の瞬の言葉よ。だってそうでしょ。知己と一緒ですぐに考えるのをあきらめちゃうんだよ。あたしたち、女性の立場になって考えてくれてない。まったく、がっかりだわ」

「そんなことないよ。瞬は一生懸命考えてくれたよ」

 私が瞬をフォローしようとすると、真友ちゃんは首を横に何度も振った。

「けど、やっぱりね。正直がっかりよ」

「でも、他にいいアイデアもないし・・・」

「ねえ、のぞちゃん。想像してみてよ。あの二人だけ服を着て、あたしたちは素っ裸で一緒にお風呂に入る様子を」

「う・・・」

 私が言葉に詰まると、追い討ちをかけるように真友ちゃんは言った。

「裸で、男たちと一緒にお風呂に入ることに抵抗はないの?」

「・・・そりゃあ、抵抗はあるよ。けど・・・」

「恥ずかしくないの?」

「・・・恥ずかしい」

 そうだ、確かに真友ちゃんの言うとおりだ。理屈で言ったら、瞬の言ったアイデアが最善かもしれないけれど、その行為が好きか嫌いかで言えば嫌いになるし、良いか悪いかで言えば悪いになる。つまり、

「やっぱり、ちょっと嫌かな」

 そう言った瞬間、瞬の目がきらりと光った。(ように見えた)

「分かりました!」

叫びにも似た声だった。

「僕が必ず何とかします!だから、高山さん」

「は、はい!」

 突然の瞬の言葉に私はとっさに返事をしていた。

「これ以上、決して思い悩まないでください」

「え、あ、うん。あ、でも、そんな大したことじゃないよ。悩んでるとか、そんなのじゃなくて、ちょっと恥ずかしいだけだから」

「それで、十分です!」

「へ?」

 瞬が何を言っているのか分からなくて、間抜けな返事をしてしまった。けど、そんな私にお構いなしに瞬は、より真剣さをまして言い放った。

「高山さんが恥ずかしい思いをされるのなら、僕が断固それを阻止します!それが、委員長としての僕の責任です!」

 そう言って、瞬は知己の腕を引っ張ると温泉のほうへと早足で歩いていった。

「効果覿面だね。さすが、のぞちゃん」

 そう言って、真友ちゃんは私の肩をぽんぽんと叩いた。けど、私は何が効果覿面なのか正直、全然分からなかった。だから、口をついて出てきた言葉は

「・・・分からないや」

「ん、そう。私はよく分かるよ」

「だって、私、何もしてないよ」

「それでいいんだよ、のぞちゃんは」

「???」

「まあ、まあ、深く考えない、深く考えない。それよりも、とりあえず私たちも温泉に行ってみない。まだ、いいアイデアは浮かばないけどさ、ここにずっといてたって仕方がないしね。どう、リノンさん?ねえ、聞いてるの、リノンさん?」

 リノンさんは近くの岩の上に腰掛けてニヤニヤしながら頷いた。

「ホンと、飽きないね、あんたたちは。よっこいしょ」

 そう言って、岩からポンと飛ぶと、すぐに私たちの先頭に立った。

「ここまで、副委員長の役目ご苦労様。もう、眼の前だけど、ここからはあたしが先頭に立つよ。真友は殿しんがりだ。いいね」

「はーい」

「よーし、出発進行!」


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