休息二日目 校外学習(10)
昨日は、会議で帰りが遅くなった為、疲れ果てて更新できませんでした。トホホです。
「よーし、じゃあ決まりだ。あんたは、今からこのグループの中では『委員長』だ。じゃあ、さっそくだが委員長、提案があるんだ」
「なんですか?」
「あんたは委員長なんだから、先頭を歩いたほうがいいと思うんだ」
「ですが、僕は道を知りません」
「ああ、それなら心配いらないよ。ほら、あそこを見てみな」
リノンさんが指差した先を見てみると、山の麓にいくつか灯りが見えた。
「なんせ、航海に出て温泉に入れる機会なんてめったにあるもんじゃないからね、他の仲間たちも一日の疲れを癒すために温泉にやって来ているのさ。それが、あの灯りだ。あの方向に、向かって歩くだけでいい。途中に、崖や危険な場所もないし、少ししたら林を抜けるから見通しも良くなる。つまり、あんたでも十分に先頭を歩けるってことだ」
「ですが、行き方を知っている人がいるのに、あえて僕が先頭を歩く必要があるんですか?」
「今は必要がなくても、いつか必要になるかもしれないだろ。今なら、道を間違えたって、あたしが指摘してやれる。なら、誰も頼れる人がいない時、初めて経験するよりも、頼れる人がいる時に経験しておいたほうがお得なんじゃない」
「頼れる人がいる、というところには少し抵抗を感じますが、言いたいことは分かりました」
そう言うと、瞬はさっとリノンさんの前に立ち先頭を歩き始めた。
「おい、瞬・・・じゃなかった、委員長」
知己の呼びかけを、瞬は無視した。
「おーい、無視すんな委員長」
「・・・・・」
「返事がねえぞ、委員長。おーい、委員長。ちょっと、言いたい事があるんだ。おーい、聞いてくれよ」
瞬は歩みをぴたりと止めて後ろを振り返った。
「何の用だ」
「いや、用ってもんでもないんだけどよ」
「じゃあ、話しかけるな。俺は、今、忙しいんだ」
「そう、それだよ。初めての道、しかも夜道で自然に囲まれた場所を歩くのってめちゃくちゃ大変じゃねえか。だからよ、お前の隣に誰かついてもらってサポートしてもらったほうがいいんじゃねえか」
「あ・・・」
瞬は驚いた顔をして、知己を見つめた。
「ほら、学校でも尾田先生が言ってただろ。リーダーはいつも自分の立場に立って考えてくれる副リーダーを育てなくちゃいけないって。せっかくの機会なんだから、今回も副リーダーを作ったらいいんじゃねえか」
「あんた、本当に知己?」
目を丸くして問いかけたのは真友ちゃんだ。
「熱でもあるんじゃない?」
「別に、熱なんてねえよ。なんだよ、意外そうな顔しやがって」
「意外そうっていうか、意外だったからこんな顔してんのよ」
「失礼なやつだな。まあ、そんなことはいいや」
知己は親指を立てて自分に向けた。
「まあ、言わなくても分かってると思うけどよ。瞬の隣と言えばやっぱり、俺じゃねえかって思うんだけど」
(確かに、知己の言うとおりだ。瞬のサポートをするなら、知己がうってつけだ。だって、クラスでもリーダー、副リーダーの間柄なんだから)
ふと、クラス選挙のことを思い出した。
「それでは、クラスのリーダーを決めたいと思います。だれか、立候補する人はいますか?」
尾田先生の呼びかけに、二人の手が勢いよく上がった。それが、瞬と知己だった。尾田先生は、二人を前に呼んでみんなの前で名前と抱負を発表させた。
「川崎 瞬です。僕は、クラスのみんながお互いに認め合い、支えあえるクラスを作りたいと思います。」
「前田 知己です。俺は、みんなが仲良く、明るく、楽しく過ごせるようなクラスを作りたいです!」
二人の言葉に、みんなが拍手をした。だって、二人とも一生懸命に、真剣にみんなに向かってその言葉を言ってくれてから。
「他に立候補はいませんか?」
私たちが瞬と知己がクラスのリーダーでいいやと思っていたら、尾田先生は少し首をかしげてこう言った。
「このクラスには、男の子が19人、女の子が22人います。それなのに、男の子だけにクラスのリーダーを任せてもいいんですか?」
女の子たちははっとして、お互いに目を合わせあった。私も、真友ちゃんのほうへと自然に目を向けた。真友ちゃんも私を見て、小さく頷いた。その合図で、私たち二人の手が上がった。
「「はい、私も立候補します!」」
その後、男の子3人、女の子4人が新たに立候補した。そんな私たちの様子を、尾田先生は嬉しそうに見守りながら、最後にこう言った。
「一週間後に、クラス選挙を行います」
クラスが少しざわついた。けれど、尾田先生はお構いなしに話を続けた。
「立候補した人は、自分がどんなクラスにしていきたいのかを画用紙一枚に書いて、後ろの掲示板に貼っておくように。それが、選挙ポスターになります。それから、一週間後の学級会で、一人3分まででスピーチをしてもらいます。原稿用紙で言うと、3、4枚程度の内容になります。もちろん、3分を超えなければ、1分でも30秒でも構いません。自分の思いをクラスのみんなに伝える事が一番の目的ですから。あと、選挙期間中に、直接友だちに投票をお願いすることは禁止とします。つまり、立候補した人が、みんなに思いを伝える方法は、3つあります。一つは、選挙ポスター、もう一つはスピーチです」
先生はそこまで言い終わったとき、終業のチャイムが鳴った。
「では、起立」
みんなが一斉に立ち上がった。
「礼」
礼を終えると、クラスのみんなは席から離れ、帰りの準備を始めた。そんな中、瞬はすぐさま尾田先生のもとに歩み寄った。私もすぐに後を追った。
「先生、質問があります」
黒板に明日の用意を板書していた尾田先生は、振り返らずに返事をした。
「どうぞ。」
「選挙ポスターとスピーチ。あと一つは何ですか?」
尾田先生は、瞬のほうを振り返った。
「川崎さんは、何だと思う?」
「分かりません」
「考えてみたか?」
「・・・いえ。まだ、少ししか考えていません」
「じゃあ、もう少し考えてみなさい。それを考えることは、きっと川崎さんのためになることだからな。それと、もしよければ、立候補したみんなと一緒に考えてみるといい。どうだ、できそうか?」
尾田先生は、優しい目でじっと私たちを見つめた。
「はい、やってみます。さっそく、放課後、残れる人を集めて一緒に考えてみます」
瞬がきっぱりとそう答えると、尾田先生は本当に嬉しそうな笑みを浮かべた。そして、私と瞬の頭の上に手をぽんと軽く乗せた。
「頼んだよ」
そうして、私たちは放課後残って、最後の一つが何なのかを話し合った。結論は出なかったけど、二つ大切なことが分かった。それは、立候補した人みんなが、このクラスをもっと良いものにしたい。みんなのために役立ちたい。と思っているということ。もう一つは、同じ思いを持っていても、物事の考え方、見方は全然違っているということ。
次の日、尾田先生に昨日の話し合いの報告をしにいったら、本当に嬉しそうな顔をして立候補者全員を自分のもとに呼んだ。
「あと一つが何なのか分かった人はいますか?」
誰も手を挙げなかった。尾田先生は優しく微笑んで話を続けた。
「なら、分かるまで考えてみること。一人で分からなければ、みんなの力を借りればいい。自分とは違う見方、考え方を学び、受け入れ、自分のものとすることはリーダーにとって必要な力です。けれど、一人で頑張っているとなかなかそのことに気がつけないものです。その時に、力を貸すのが副リーダーです。副リーダーは、リーダーと同じ思いを持って、その上でリーダーが気がつかずにいることを気づかせていかなければなりません。そういう意味でリーダーよりも副リーダーの方が大変な役割かもしれません。来週の選挙で、君たちの中からクラスのリーダーが選ばれます。けれど、たとえリーダーに選ばれなかったとしても、昨日話し合ったことを忘れずに、立場は違ってもクラスをもっと良くしたいという思いを持ち続けてください。そして、その思いを胸に今、ここで自分にできる精一杯をやり通してください」
尾田先生の話が胸に深く染み込んだ。その6日後、私と瞬はクラスのリーダーに、知己と真友ちゃんは副リーダーに選ばれた。
(そういえば、あの時、尾田先生が教えてくれなかった3つ目の方法って一体何だったんだろう)
そんなことを思い出していた時、不意に名前を呼ばれた。
「高山さん。お願いできますか?」
「はい!」
私は反射的に返事をしていた。
「ありがとうございます。助かります」
笑顔でそう言われる、「ごめん、聞いてなかった」とは言えず、やはり反射的に
「え、あ、うん」
と答えていた。
「じゃあ、前に来てください」
「うん」
私は言われるがままに、前へと歩み出た。すると、
「ちょっと、待った!異議ありだ!」
声をあげたと同時に知己が瞬に詰め寄った。
「何か用か?」
冷ややかな目を知己に向ける瞬とは対照的に知己は瞬に熱いまなざしを送った。
「何か、じゃねえよ!納得いかねえから、理由を聞きに来た。それだけだ。それと、これは俺個人の気持ちの問題だから、別に話さなくてもいいことかもしれねえけど、ちょっとな・・・」
そこまで言って、知己はもじもじし始めた。
「えーと、その、なんだ・・・あれだよ」
そう言って頭の後ろをかいてみたり、
「んー、なんて言うのかな。そう、あれだ」
そう言って、手を打ってみたり。けれど、話は一向に進まなかった。しばらく、我慢していた瞬もいいかげん痺れを切らしたのか、とげとげしい言い方で一言。
「男ならさっさと話せ」
「お、おう」
瞬の言葉で踏ん切りがついたのか知己は深呼吸をすると、自分の気持ちを話し始めた。
「まあ、あれだよ。俺は、お前のこと親友だと思ってんだ。男の中なら、お前が一番だと思ってる。だから、正直言うと、裏切られたような気がしてよ。ほら、分からねえか。そういう気持ち。まあ、俺だけのことかも知れねえけど。その、なんだ。そんなわけだから、お前が俺を副に選んでくれなかった訳くらい聞いときてえと思ったわけだ」
知己の話に、私も同感だった。というか、ようやく私が聞き逃していた話の流れが分かった。つまり、瞬は自分の補佐役に私を指名したんだ。それで、知己はそのことを不満に思って、理由を問い詰めた。
(そっか、それで納得)
納得と同時に私は、物思いにふけって大事な話を聞き逃していたことを反省した。そして、その上で私も瞬に聞いてみたいと思った。だから、私も尋ねた。
「瞬。私も聞きたい。どうして、私なの?」
瞬は知己と私を見渡してから、他のみんなを呼び寄せて話し始めた。
「もしかしたら、高山さんと知己のほかにも同じ疑問を持っている方がいるかもしれませんので、僕の考えを伝えておきます。まず最初に、僕が考えたことは、一番後ろを歩く人を誰にしようかということでした。一番後ろと言うのは、危険を伴う場所で背後からの攻撃、真ん中を歩く人たちのフォロー、そして、グループ全体の状況の把握。とても重要な役割です。そこで、僕は、戦闘力があり、僕が最も信頼する知己が最適だと判断しました。ゆえに、知己は僕のサポート役から外しました」
「なんだよ、それならそうと早く言ってくれりゃあよかったのに」
照れくさそうに知己がそう言うと、瞬は憮然としたようすで
「話す前に異議を唱えて詰め寄ってきたのは、どこの誰だ」
「まあ、細かいことは気にすんなよ。まあ、お前の言いたいことも分かる。けど、俺だってちょっとは傷ついたんだから、まあ、おあいこってことでいいじゃねえか」
笑いながらそう言う知己に、瞬はため息を一つついてから話を続けた。
「そこで、必然それ以外のメンバーから選ぶことになりました。僕と違う観点から物事を見るという点ではミズキさん、刹那さんは適役ですが、最初の並び方でのリノンさんの意図を考えるとミズキさん、刹那さんは列の中央に位置すべきだと判断しました」
「それって、どういうことですか?」
ミズキが不安そうに尋ねた。
「敵から襲撃を受けたときに、ミズキさんを中心とした防御体制を組むためです。つまり、このグループの中で敵の標的にされる可能性が最も高いのはミズキさんと言うことです。このことに関しては、ミズキさん自身が自覚している通りです。あなたは、単身で島から脱出しました。つまり、敵から見ればあなたは脱走者で、裏切り者です。僕は、その組織の実態をあまり知りませんが、話を聞く限り、そのような行為を決して許すようなところではないはずです。違いますか?」
ミズキは少し俯いたまま首を横に振った。
「つらいことかもしれませんが、これは事実です。たとえ、この島が無人島で敵からの襲撃を受ける可能井が万に一つであったとしても、常にこのことを考慮して行動しなければなりません。油断とは、得てしてそういう時に起こるものだからです」
「・・・そうですね。瞬さんの言うとおりです。彼らは、決して私を許しはしないし、見逃してもくれないでしょう。たとえ、どこにいたって、何をしていたって・・・」
ミズキは消え入るような声でそう言うと、つらそうに顔をしかめた。
「すみません。嫌なことを思い出させてしまって。けれど、現実を知っておかなければ、現実に起こりうる問題に対処することはできません。ですから、その・・・」
瞬が言いにくそうにくちごもると、ミズキは間髪入れずに
「ありがとうございます」
と言って笑顔をみせた。
「こちらこそ、つらい役を押し付けてしまったみたいで、本当に申し訳ありません。瞬さんのおっしゃったこと、胸に刻んでおきます。周りの人が、私のためにこんなにも心を砕いてくれているのに、当の本人が自覚がないようではかっこわるいですよね」
そう言って、もう一度笑顔を見せると、ぺこりと頭を下げた。
「どうか、みなさん。これからもよろしくお願いします」
そんなミズキの健気な姿に、私はじんと胸が熱くなった。
(そうだ!私も瞬に負けないくらい、みんなのために心を配ろう。大切な仲間のために、もっと力を尽くそう!)
そう心に決めると、身体の奥底から強い力が湧いてくるのを感じた。そして、その思いはそのまま言葉になって現れた。
「私も、瞬の力になれるよう、精一杯頑張る。だから、気がついた事があったら、何でも言ってね」
瞬は力強くうなずいて言った。
「そんな高山さんだから、僕はサポート役をお願いしたんです」
ご意見、ご感想お待ちしています。




