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休息二日目 校外学習(9)

遅々として進まない物語ですが、少しずつは進んでいます。読み返してみるともっと展開を早くしたほうが良かったなと思う箇所がいくつも見つかるものです。

「よーし。レクレーションはここまでにして、そろそろ次の予定へと進もうか。こっちに集まれ」

 リノンさんの呼びかけに、みんなはもう一度もとの場所へと集まった。

「腹ごしらえもしたし、貴重なダイヤモンドの実も食べた。海岸ですることは、ここまでだ。しかも、太陽もじき沈む。となるとだ、次にあたしたちがしなくちゃいけないことって何だと思う?」

 一斉に手が挙がった。

「よし、じゃあ瞬!」

「はい!」

 素早く立ち上がった瞬は、眼鏡に指をかけながら答えた。

「日のあるうちに、安全に宿泊できる場所を確保することだと思います。その際、獣よけのため、火を起こしておく事、火の番及び周囲の警戒のため見張りの順番を決めておく事も重要となります」

「さすが優等生だな。そつのない意見をありがとう。けど、外れだ。他には?」

 今度は一人しか手が挙がらなかった。

「じゃあ、ミズキ」

「はい!」

 元気よく立ち上がったミズキは、少し恥ずかしそうに答えた。

「えーとですね。せっかく、陸地にあがったんですから湯浴みをしてはどうかと思います」

「湯浴み?」

 声を上げたのは知己だった。

「あんた、そんなことも知らないの。湯浴みっていうのは、簡単に言うとお風呂に入るってことよ」

「へえー。真友、よく知ってたな」

「まあ、こう見えても『海賊紳士』は最新刊を除いて全巻読んでるからね。その中に、湯浴みのシーンも出てくるわけよ」

「そういえば、お前って見かけによらず文学少女だもんな」

「そうそう・・・って、見かけによらずってどういうことよ!」

「深い意味はないから気にするな。それよりもだ」

「ちょっと、待ちなさいよ!」

 食って掛かろうとする真友ちゃんを無視して知己は話を続けた。

「それって、いいアイデアじゃねえか。俺も正直風呂に入りてえぜ」

「そうでしょ。知己さん」

 ミズキは知己の手を取ると、ぎゅっと握り締めた。

「せっかくですから、二人で一緒に湯浴みしましょう!」

「いや、それはまずいだろ」

 ミズキの発言に、知己は真っ赤になってうろたえた。けれど、ミズキはそんなこと気にせずに言葉を続けた。

「えー、いいじゃないですか。楽しいですよ」

 そう言ってミズキは知己の腕に抱きついた。

「なにしてんのよ、この変態!」

「俺じゃねえ、ミズキが勝手に」

「あんたに、隙があるからでしょ!ちょっと、ミズキ、離れなさいよ!」

「嫌」

 ぷいっ顔を横に向けて、頬を膨らましたミズキは、まるで小さな子どものようだった。

「ねえ、いいでしょ。知己さん」

「ねえって言われても・・・あ、そうだ。第一、こんな無人島に風呂なんてあるわけねえじゃねえか。な、ミズキ。残念だけど、風呂がねえんじゃ仕方ねえだろ」

「じゃあ、もし、お風呂があったら一緒に入ってくれますか?」

「おう、いいぜ」

「ちょっと、知己。安請け合いしていいの!」

「ああ、もう、うるせえな。こんな無人島に風呂なんてあるわけねえだろ。な、先生」

「ああ、もちろん」

「だよな」

「けど、温泉ならある」

「へ?」

 知己の目が点になった。

「温泉ならある」

 大切なことなので、ミズキさんは二度言った。

「というわけで、ミズキが見事に正解だ。今からあたしたちは温泉に向かう。ここから歩いて半時ほどのところだ。あんまり暗くなると迷うかもしれないから、準備ができしだい出発する。よーし、急いで支度だ!瞬と知己は刹那の指示にしたがって急いで火を起こせ。ほかのものは、食べ残した食料を運ぶ用意をしろ。以上、速やかに行動せよ!」

 リノンさんの号令で、私たちは一斉に動き出した。その際、「マジかよ。」と何度もつぶやく知己のわき腹に真友ちゃんが肘鉄をすばやく打ち込んでいたことは言うまでもない。 


 リノンさんを先頭に、真友ちゃん、刹那ちゃん、私、ミズキ、瞬、知己の順で歩き出した。陽はいつの間にか沈み、紺色に染まった空のいたるところに小さな明かりが点り始めた。

「もう、すっかり夜だね」

 木々の間からのぞく星空を見上げながら私はつぶやいた。

「本当ですね」

 瞬が返事をしてくれたので、私は言葉を返した。

「私の思い違いかもしれないけれど、船の上から見た星空と、今こうして見ている星空って違うように思えない?」

「ああ、それ分かる気がする」

 真友ちゃんが言葉を挟んだ。

「それって、あれでしょ。えーと、なんて言ったらいいかな・・・」

 真友ちゃんが考え込むと、瞬が答えた。

「船の上で見た星空のほうが近く感じたということではないですか?」

「そう、それよ!さすが、瞬ね。あたしの言いたいことをばっちし当てたわ」

「それは、光栄ですね。ちなみに、高山さんが言いたかったことも、そういうことではないですか」

「うーん。多分、そうかな。なんとなくだけど、そう感じてるみたい。ミズキはどう?」

 隣を歩いていたミズキは少し考えた後、上を見上げながら答えた。

「空が、なんだか遠い気がします。不思議ですね。言われてみると、そう感じます」

「そりゃあ、船より低いところにいるからだよ。船のほうが、今、俺たちがいるところよりも断然高いからな」

「さすが、知己さん!名推理です!」

 ミズキは大はしゃぎで、知己を褒め称えた。当の知己もまんざらではないようで、しきりに照れていた。

 ギリリリ

 真友ちゃんの歯軋りが背中越しに聞こえてきた。私は怖くなってとっさに、ミズキに話しかけていた。

「でも、それだけじゃないと思う」

「え、そうなんですか?じゃあ、他にどんな理由があるんですか?」

 ミズキの問いかけの返答に困っていると、刹那ちゃんが私の袖を引っ張った。

「何?」

「・・・あれ」

 刹那ちゃんの指差す方向を見ると、洋上に浮かぶノブレス=オブリージュが木々の間から見えた。

「船がどうしたの?」

「・・・ここのほうが高い」

「え?」

 刹那ちゃんの言葉に、あらためて自分たちのいる場所を確認してみた。出発してから20分くらいは歩いただろうか。少しずつ勾配のきつくなる斜面を私たちは木々の間を縫うように歩いてきていた。そして、木々の隙間から見える海と船にもう一度目を凝らしてみると、確かに私たちの今いる場所のほうが洋上に浮かぶ船よりも高い位置にある事が分かった。

「本当だ。私たちのいる場所のほうが高い」

 私の声に、皆が一斉に後ろを振り向いた。

「いつのまに、こんなに上ってたんだ、俺たち」

 知己の言葉に、リノンさんが答えた。

「そりゃあ、これだけ歩けばな。それに、あたしたちが目指してる温泉は、あの山のふもとにあるんだからな」

 そう言って指差したのは、出発前に知己が登りたいと言っていたあの山だった。すかさず、瞬が言葉を挟んだ。

「つまり、目的地が山のふもとである以上、必然、高いところへと上っていかなければならなく、今現在、僕たちのいる場所は船の上よりも高い場所にいる。よって、先ほどの知己の立てた仮説は無効となる。そういうことですね」

「説明的な台詞をありがとう。まあ、そんなにこ難しく話さなくてもいいとは思うけどな。けど、得られた情報から現状を分析し、判断する力はさすがだ。・・・ところで、瞬。」

「なんですか?」

「あんたのこと、今度から『委員長』って呼ぶことにする」

 にやけながらそう言ったリノンさんに、瞬は少しむっとした様子だった。

「なぜですか?」

「だって、あんた、いかにも『委員長』って感じがするから。まあ、『委員長』が嫌なら、他の呼び方を考えてもいいけど」

「おお、さすが先生。いいところに目をつけてるな」

 知己の言葉に、真友ちゃんや、ミズキはくすりと笑った。きっと、私も笑っていたかもしれない。けど、笑っちゃいけないことだということは十分過ぎるほど分かっていた。なぜなら、これは瞬が一番嫌がることだからだ。

「人を見た目や、一部の行動で判断し、レッテルを貼るという行為を僕は憎んでいます。ゆえに、あなたのその申し出は一切拒否します。もし、どうしてもそのあだ名で僕のことを呼びたいというのなら好きにすればいいでしょう。ただし、今後、一切の僕からの返事を期待しないでください。」

 リノンさんを除く皆が瞬の言葉に口を閉じた。

(やっぱり、瞬、本気で怒ってる。)

 私は恐る恐るリノンさんの様子を窺った。

「なら、いいや」

当の本人はけろりとしてそう言いながら、またニヤリと笑った。

「あんたにはさ、なんとなく『委員長』って呼び方が似合うように思ったんだ。まあ、あんたが嫌がるのなら、べつに無理に呼びたいとは思わないよ。けど、瞬」

「なんですか?」

「あんたは、もう少し『丸く』なったほうがいいよ」

「言ってることの意味が分かりません」

「言った通りの意味さ。あんたは鋭いけど、細くて弱い。確かなものを持っているようで、持っていない。だから、いつも理由が必要になる。自分以外の理由がね。だから、感情と折り合いがつかない。そして、知らない間に人を傷つける。あんたが必要とした理由のせいでね。違うかい?」

 瞬はくやしそうに唇をかみ締めながら、目を反らした。そんな瞬に、リノンさんは畳み掛けるように言葉を続けた。

「いいかい、瞬。本当に強いものは、自然と『丸く』円に近づくものなのさ。しっかりとした、中心軸を持った円にね。円には角がない。だから、傷つけないし、傷つかない。そんな人を、あんたも知っているはずだ。だからこそ、その人に憧れ、尊敬し、近づきたいと思うんだろ」

 瞬は何かを言い返そうとして、口を閉じ、小さく頷いた。

「なら、あんたもその人に近づく努力をしなくちゃいけない」

 ニコニコと笑顔を向けるリノンさんに、瞬は恨めしそうな顔を返した。

「それと、あだ名をつけられることと関係性が全く見えません」

「あんたには見えなくても、あたしには見える。それだけのことだ」

「では、説明してください」

「んー、つまりだね。あんたは、『委員長』にならなくちゃいけないんだ」

「???」

「今は、分からなくていいよ。けど、あんたが『丸く』なるためには、必要なことかもしれない。自分には理解できないことを、受け入れてみるってことはさ」

「ただの詭弁にしか聞こえません」

「じゃあ、あんたの好きな皆の意見を聞いてみようじゃないか。希望」

「は、はい」

 突然の振りに、私はどきどきしながら返事した。

「瞬に『委員長』は似合うと思わないか?」

「はい」

 私は正直に答えた。

「そうだろ。ほら、見てみろ、希望だって似合うって言ってる」

「けど、瞬が嫌なら、私はそう呼びません。瞬が本当にそう呼ばれることを嫌だと思っているのなら、私はそれだけで十分な理由になると思います」

「なるほどね。つまり、瞬の気持ち次第ってことだ。じゃあ、ちょっと質問を変えてみようかな。希望は、どうして瞬に『委員長』が似合うって思ったんだ」

 私は少し考えて、返事をした。

「瞬が、いつもみんなのことを考えてくれているからです」

「それは、あんたも同じじゃないのかい?」

「違います。瞬は私なんかよりずっとたくさんみんなのために考えて、悩んで、苦しんで、そして、行動してくれています。そして、何よりそれをするだけの知識も力も持っています。だから、私はリーダーとしての『委員長』という呼び名なら瞬にぴったりだと思いました」

 リノンさんは、二カッと白い歯をみせて笑った。

「って、ことだ。瞬。これでも『委員長』って呼ばれるのは嫌か?」

「ちょっと、待ってください!」

 私はとっさに口を挟んだ。

「今のは、あくまでも質問に答えただけで、私はやっぱり瞬が嫌なのならその呼び名は止めたほうがいいと思います」

 私は、瞬のほうを見て『私は瞬の味方だよ』という思いをこめて笑ってみせた。けれど、なぜか瞬は驚いた表情をして、すぐさま顔を私から背けてしまった。

「どうかした、瞬?私、何か余計なことを言っちゃったかな」

 瞬は顔を背けたまま、消え入るような声で「いいえ、そんなことはありません」と答えた。その姿を見て、私は何だか悪いことをしてしまったような気がして、何が悪いのかも考えずに

「ごめんね」

 と瞬に謝っていた。その途端、瞬は慌てた様子でこちらに顔を向けた。

「高山さんは、悪くないです!」

「でも、瞬が何だかつらそうだったから」

「それは、誤解です!つらくなんてありません。むしろ、嬉しかったです」

「何が?」

「それは・・・高山さんが・・・」

「あたしが、どうかしたの?」

「・・・つまり・・・」

 言い淀んだまま、瞬は口を閉じてしまった。しばらく、私が返事を待っているとリノンさんが、やれやれといった表情で瞬のそばに歩み寄った。

「まあ、これくらいにしとこうかね」

 リノンさんが瞬の肩をぽんと叩くと。瞬はほっとした様子で、小さく「そうですね」と答えた。

「ところで、本題に移ろうか。あんたの呼び名『委員長』でいいよね。理由は、希望が言ったのが全てだ。けど、最終決定はあんたに任せるよ」

 ウインクしながらそう言ったリノンさんに、瞬は小さくため息をつきながら答えた。

「・・・別に構いませんよ。『委員長』と呼ばれるのも悪くないと思えてきましたから」


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