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休息二日目 校外学習(7)

今日の更新完了です。明後日も休日出勤なので早く休みます。

(助けは、来ない。だったら、私がなんとかしなくちゃ)

 誰も助けに来ないと分かったら、逆に元気が出てきた。

(そうだ!二人は私の友だちなんだから、私は二人を信じて自分の思うままの答えを言うだけだ!)

「どうなの、のぞちゃん!」

「早く答えて、希望!」

 いよいよ険悪の度を増す、二人の言葉を聞き流しながら、私は二人に伝える言葉を選びに選び抜いた。

「じゃあ、答えるね。そのかわり、私が話し終わるまできちんと聞くこと。いいね!」

 二人がうなずくと、私は言葉を心の中で探りながら口を開いた。

「私は、こう思うんだ・・・」

「むにゃ、希望・・・」

(へ?)

 誰かが、私を呼ぶ声が聞こえた。

(今のって・・・)

 私たち三人の視線が知己の口元に集中した。

「・・・希望・・・むにゃ」

(・・・・・・・は?)

 目が点になった。真友ちゃんも、ミズキも思考回路が停止してしまったように、呆然としていた。そんな、微妙な空気の中、知己の寝言(?)は続いた。

「・・・ありがと・・・一緒にな・・・約束だぜ・・・希望・・・」

 知己の寝言(?)に、茫然自失していた二人の瞳に光が宿った。そして、その瞳は一斉に私へと向けられた。

「な、何かな?」

「のぞちゃん、どういうこと?」

「どういうことって?」

 私が問い返すと、真友ちゃんは目を細め、睨みつけるようにして言葉を続けた。

「今の言葉の意味。のぞちゃんなら分かるでしょ」

 ゆっくりとした言葉だったけど、一言一言が重く響くような口調で正直怖かった。だから、思わず。

「真友ちゃん、なんだか怖い」

「本当ですね、そんな聞き方をしたら希望が可哀想じゃないですか。ねえ、希望」

 ニッコリ微笑むミズキだけど、逆にその笑顔が怖かった。だって、

(目が笑ってない!目が笑ってないよ、ミズキ!)

「知己さん、きっと夢を見てるんですよ。だって、こんなに嬉しそうな、楽しそうな顔をしてらっしゃるんですから。一体、どんな夢を見てるんでしょうね。どんな夢を・・・」

 そう言って、ミズキは知己の頭を撫でた。心なしか、さっきより乱暴で、見ようによってはこすりあげているようにも見えた。

「・・・いて、いて・・・止めろよ、希望・・・むにゃ」

「まあ、知己さん。私を希望と勘違いしてるのかしら。うらやましいな・・・それに、『約束』ってどういうことなのかしら。ねえ、真友さん。気になりませんか?」

「あんたのこと、本当にむかつくけど、その点だけは激しく同意するわ。ねえ、のぞちゃん、『約束』ってなんのことなの?それって、私たちが会う前の話?二人が小さかったころのこと?」

 二人の質問攻めに、私は何も答えられなかった。

(だって、『約束』って言ったって、私も何のことだかさっぱり分からないよ!)

 最近の話じゃないことは分かる。きっと、知己が一度引っ越す前の話。幼稚園から小学一年生まで間のことだ。私が覚えている『約束』っていったら、アレしかない。もし、あの『約束』のことだとしたら、二人に話すのはまずいような気がする。だから、私は

「うーん、やっぱり分からないなあ」

 と、とぼけてみせた。そして、横目でちらりと二人の様子を窺ってみると、明らかな疑いのまなざしでこちらをじっと見つめていた。

(あーん、もう、どうしたらいいの。知己!あんたの責任なんだから、なんとかしなさいよ!)

「・・・ふわあああ。何だよ、呼んだか?」

 ミズキの膝枕の上で知己が突然目を覚ました。

「あれ、ミズキじゃねえか?そんなところでなにしてんだ?」

「あ、いえ。知己さんが気絶したまま起きなかったので介抱していたんです。もう、大丈夫ですか?」

「気絶?俺が?」

「はい」

「何で?」

「それは、真友さんに頭を殴られて」

「マジかよ。本当に凶暴だな、あいつは。しっかし、なんだかこうしてると気持ちがいいな」

 そう言って知己はあろうことか、ミズキの膝の上で頭をぐりぐり動かした。

「ひゃん。知己さん、くすぐったいです」

「へ、何で?」

「だって、知己さんが私の膝の上で頭を動かすから・・・ぽっ」

 ミズキは頬を染めると、恥ずかしそうに俯いた。その様子を見て、あわてふためいたのは知己だった。ミズキの膝の上から飛び起きると、転がるようにして距離をあけた。そして、まわりを見渡し、私や真友ちゃんの姿を見つけると顔を真っ赤にして叫んだ。

「誤解だ!!」

「へえ、何が誤解だっていうの?」

 真友ちゃんが、にじり寄りながら問い詰めた。

「だから、誤解だって言ってんだろ!俺は、わざとミズキの膝の上でぐりぐりやったんじゃねえ!やわらかい枕かなんかだと思ってたんだよ!」

「それで?」

「それだけだよ!別にHなことをしようと思ってしたわけじゃねえ!信じてくれ!」

「私は、別に構いませんよ。なんなら、もう一度膝枕しましょうか」

「ミズキは黙ってて!」

「はーい!(ジェラシーは怖いですね)」

「心の声、しっかりと聞こえてるわよ、ミズキ」

「(すみません)」

「とにかく!あんたがやったことは万死に値するわ!」

「ちょっと待て、いくら俺でも一万回も殺されたら生き返れねえよ!」

 叫ぶようにそう答えた知己は、砂浜にしりもちをついてへたり込んだ。真友ちゃんは、じりじりと知己に近づきながら言葉を続けた。

「よりにもよって、ミズキの膝を頭でぐりぐりするなんて、恥ずかしいと思わないの!」

「思ってるよ!だから、誤解だって言ってんじゃねえか!」

「何が誤解だって言うのよ!」

「俺は、ミズキだからあんなことしたんじゃねえ。昔のことを思い出したから、なんだか懐かしくてしちまったんだ!」

「懐かしかったら、Hなことしてもいいっていうの!」

「何回言ったら分かるんだよ!そんなつもりはねえ!」

「じゃあ、それを証明してみなさいよ!」

 知己の目の前まで歩み寄った真友ちゃんは、腕を組んで仁王立ちしたまま知己に詰め寄った。

「俺の言葉が信じられねえのかよ!」

「あんたの言葉だから信じられないの!約束しては、忘れて。何回も何回も調子に乗っては、あたしにちょっかいかける!ちょっとは、あたしの気持ちも考えなさいよ!」

 真友ちゃんの言葉に、知己の顔色が変わった。

「・・・俺、もしかしたらお前のこと傷つけてたのか?」

「そうよ!あんたには、何度も傷つけられてるわよ!今もそう!」

 そう言った真友ちゃんの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。知己は、何かを言おうとして口をつぐみ、すくっと立ち上がった。そして、頭を下げた。

「ごめんな。俺ってバカだよな」

「今頃、気がつくな。バカ」

「ごめん。でも、今回のことは本当に悪気があったりいやらしい気持ちがあったりしたわけじゃねえんだ。頼むから信じてくれ」

 そう言って、知己は真剣なまなざしを真友ちゃんに向けた。真友ちゃんは、はっと驚いたような顔をしたあと、知己から目をそらした。

「じゃあ、あたしの質問に正直に答えてよ」

「ああ、いいぜ。何でも聞けよ。正直に答えてやるから」

 そう言って胸を叩いて見せた知己に、真友ちゃんは緊張した面持ちで尋ねた。

「のぞちゃんと、あんたがした『約束』って何?」

「『約束』?何だそりゃ?」

「とぼけないでよ!さっき、あんたが寝言で言ってたんだからね!『一緒にな、希望』って!」

 知己は首をかしげると、「うーん」と唸った後、ぽんと手を叩いた。

「あー、あれか。昔のことだろ。さっき、昔のこと思い出してたんだよ。俺と希望がまだ幼稚園だった頃」

「そう、そのことよ。さあ、正直に話して」

「何をむきになってんだよ。別にいいけどよ。大したことじゃねえぜ。な、希望」

 知己の言っている事が何のことかを私は知っていたけれど、あえて知らんふりをした。

(だって、そんなこと二人に言えるはずないじゃない!ちょっとは、空気を考えなさい、バカ知己!)

 心の中で、さんざん文句を言いながら、「何のこと?」ととぼけて見せた。

「ちぇ、覚えてねえのかよ。まあ、昔の話しだしな。それに・・・まあ、これはいいか」

 言いかけた言葉を途中で止め、知己は真友ちゃんに向き直った。

「じゃあ、話すぜ。正直に。だから、さっきのはわざとじゃないって信じてくれよな」

 こくりと頷いた真友ちゃんに、知己は言葉を続けた。

「俺と希望は昔、結婚の約束をしたんだ」

「!!!」

 声にならない悲鳴が聞こえたような気がした。

「ちょっと、知己なに言ってんのよ!」

 私はたまらなくなって口を挟んだ。

「あれは、子どものころの話でしょ!」

「けど、約束は約束じゃねえか・・・って、何だよ。覚えてんじゃねえか」

「今、思い出したの!」

「そうかよ」

ふてくされたようにそう言った知己の姿に、少し心が痛んだ。

(だけど、このタイミングで本当のことなんて言えるわけないじゃない)

 知己は言葉を続けた。

「けど、ちゃんと約束したよな。いつまでも一緒にいよう。だから、大きくなったら結婚しようって」

 そうなんだ。知己は、今でこそお調子者で、いかにも男の子って感じだけれど、幼稚園のころはどちらかというと内気でいじめられっ子だった。背も低くて、同い年なのにとてもそうは思えなくて。何かあると、私は知己を励ましていたように思う。今、思えば知己は一人っ子の私にとっては弟のような存在だったんだ。だから、あの時も・・・


 幼い頃の記憶の中の知己が泣いている。

「めそめそしない!」

「・・・だって、あいつら、僕なんていらないって」

 弱気になる知己に私は正直な気持ちをぶつける。

「私は知己がいたほうがいいよ」

「本当に?」

「うん、本当だよ」

「嘘じゃない?」

「嘘じゃない」

「いつでも一緒にいてくれる?」

「いつでも一緒にいるよ」

「約束してくれる?」

 知己がおずおずと右手の小指を出してくる。

「約束するよ」

 私は、その小指に自分の小指を絡ませる。

「じゃあ、約束・・・・・・・・」


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