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休息二日目 校外学習(6)

今日は日をまたいでの更新になってしまいました。トホホです。

「・・・嫌だよ」

 砂浜に座り込んだままの真友ちゃんがつぶやいた。

「あたし、こんな力なんていらない」

「けど、事実だ」

 冷徹にそう言い放ったリノンさんに、真友ちゃんは怒りの表情をあらわにした。

「あたしは、こんな力望んでないし、欲しくもない!リノンさんはさっきから『事実』『事実』ばっかり!あたしは、こんな力を持ってるなんて知りたくなかった。知らなければ、使うこともないし、こんな嫌な思いをすることもなかった。全部、リノンさんがおせっかいであたしに余計なことを教えたからじゃない!あたしがこんな嫌な思いをして、苦しい思いをするのは全部、リノンさんのせいだ!返してよ!あたしの今までを!楽しかった、今までを返せ!」

 最後は泣きじゃくりながら、そう言い放った真友ちゃんは大きな声を上げて泣き出した。

「真友ちゃん!」

 私はたまらなくなり、真友ちゃんのもとへ駆け寄り、肩を強く抱いた。

「大丈夫だよ。大丈夫だから。真友ちゃんは、何も変わってないよ」

「・・・本当に?」

「本当だよ」

「・・・私のこと、怖くない?」

「怖くない」

「・・・本当?」

 その時、ミズキと刹那ちゃんが私たちの元に駆け寄ってきてくれた。そして、私と同じように真友ちゃんの肩を抱いた。

「本当だよ、真友ちゃん。私だけじゃなくて、みんなもそう思ってる。だから、みんなここにいるんだよ。それに、真友ちゃん。よく聞いてね。リノンさんは、『その気になれば』って言ったでしょ。私は、信じてるよ。真友ちゃんは、どんなことがあっても世界を壊したり、人を傷つけたりしないって。『そんな気』には絶対にならないって。そうでしょ、真友ちゃん」

 真友ちゃんは、涙でぐしょぐしょになった顔を上げると力強く「うん」とうなずいた。

「今、真友ちゃんは自分の持っている力のことを知ったんだよ。それってすごいことだよ。だって、知らなかったら自分の力の使い方を考えることも、悩むこともできなかったんだから。考えたり、悩んだりすることは大変だし、つらいことかも知れないけれど、そうすれば、きっと自分の力を何のために使えばいいのかが分かるよ。それって、すごいことだよ。力っていうのはそこにあるだけじゃだめなんだと思う。何のために使うのかが分かって力っていうのは初めて意味を持つんだよ。尾田先生が言ってたよね。『何のため』が一番大事だって」

 私はそこまで話すと、真友ちゃんの肩を両手でつよく握ってこう言った。

「真友ちゃんは、絶対に間違ったりしない!私が保証する!真友ちゃんはみんなのためにしかその力を使わない!だって、それが真友ちゃんなんだから!私の大好きな真友ちゃんだから!元気を出せ、真友!」

「うん!」

 暗かった真友ちゃんの表情に笑顔が蘇った。

「そうだぜ、真友。お前はすげえことをやってくれたんだから。もっと、胸を張れ!胸を!もっとも、そのうすっぺたい胸を張っても大したこと・」

 ゴスッ

 目にも止まらぬ速さで知己の胸板に、真友ちゃんの左拳が突き刺さった。

「一言多い!」

「・・げほっ、げほっ、すまねえ。言い過ぎた。それより、これ・・・げほっ」

 そう言って知己は綺麗な半球となったダイヤモンドの実を真友ちゃんに差し出した。

「嘘、何これ?」

 真友ちゃんは恐る恐るダイヤモンドの実を受け取った。見ると、ダイヤモンドも実の中から真っ白い湯気が沸きあがっていた。

「ねえ、のぞちゃん。これ、すごいよ!めちゃくちゃ、甘い香りがする!」

 興奮気味にそう言った真友ちゃんの下に、みんなが集まってくる。真っ白い湯気と一緒に甘い香りが漂ってきた。

(本当だ、甘い香りがする。この香りは・・・)

「アイスクリームみたいな香りですね」

 瞬はそう言うと、指でダイヤモンドの実を指ですくい取ってなめて見せた。

「!!!」

 目を大きく見開いた瞬は、言葉にならない声を発した後、たった一言、こう言った。

「・・・嘘だろ」

「お前だけずるいぞ!」

 知己も瞬にならってダイヤモンドの実を指ですくいとると口に含んだ。含んだと同時に叫んだ。

「なんだこりゃあ!めちゃくちゃ、美味えじゃねえか、それに、これ、嘘だろ。こんなのが木の実だなんて絶対信じられねえぜ」

「そんなに、美味しいんですか?」

 ミズキが興味深そうに近づくと知己はもう一度、ダイヤモンドの実を指ですくい取ってミズキに差し出した。

「めちゃくちゃ、美味いからなめてみろよ」

「え、いいんですか?」

「いいに決まってんだろ。早くなめてみろよ」

 ミズキは少しためらいながら知己の指先に唇を近づけた。

 次の瞬間、真友ちゃんがダイヤモンドの実で知己の頭を殴った。

「いいわけあるか!バカ!何してんのよ、この変態!」

「・・・・・」

 知己からの反応はなかった。というか、両手で頭を抱えてうずくまったまま全く動かなかった。驚いて呆然とするミズキに真友ちゃんは、まるでお母さんか、お姉さんのような口調で注意をした。

「いいこと、ミズキ。たとえ好きな人であったとしても、変態的な行為を簡単に許してはいけません!特に、こいつはすぐに調子に乗るんだから」

「さっきの行為は変態的な行為だったんですか?」

「もちろんです!男の指をくわえるなんて、はしたないことを女の子は絶対にしてはいけません!いいですか、ミズキ!」

 熱弁を繰り返す真友ちゃんの姿に、ミズキも感じるところがあったのか、最後には納得した様子で「わかりました」と笑顔で応えていた。

「大事なことを教えてくれて、ありがとうございます。真友さん」

「どういたしまして。じゃあ、これ以上みんなを待たせてもいけないから。ほら、ミズキ。自分で取って食べて。のぞちゃんもどうぞ。刹那ちゃんもこっちに来なよ」

 真友ちゃんの言葉に誘われて、私たちは一斉にダイヤモンドの実を指ですくって食べてみた。口に含んだ瞬間、濃厚で、それでいてしつこくない甘さが口一杯に広がった。そして、なにより驚いたのは、ダイヤモンドの実が氷のように冷たかったことだ。

(まるで、世界で一番美味しいアイスクリームを食べてるみたいだ)

 さっき、知己が言っていた『こんなのが木の実だなんて信じられねえぜ』って言葉がぴったりだった。

「私も、食べていいかしら?」

 私たちの間からリノンさんがひょっこり顔を出した。真友ちゃんは、一瞬緊張した表情を浮かべたけど、すぐにいつもの笑顔を見せた。

「いいですけど、少しは遠慮してくださいね」

「なんで?」

「だって、リノンさんは今までに何度も食べた事があるんでしょ」

「いーや、今回が初めてだよ。」

「へ?」

 意外な返答に、真友ちゃんは言葉を失った。

「あたしもダイヤモンドの実を割って食べるのは初めてだよ」

 重ねてそう言われて、ようやく真友ちゃんは言葉を返した。

「でも、だったらどうしてダイヤモンドの実のことを知ってたんですか?」

「そりゃあ、有名だし。実際に見たこともある。けど、食べるのは初めて。だって、こんな固い実を割る方法なんて、簡単にあるわけないじゃない」

 さも当然そうにそう言うと、リノンさんは指でダイヤモンドの実をすくい取って口に含んだ。

「ん~、おいしい!さすが、世界三大珍味の一つ!あれ、みんな食べないの?ぼさっとしてると、あたしが全部食べちゃうわよ」

 そう言って、リノンさんがまた指を伸ばすと、真友ちゃんもあわてて指を伸ばした。

「ずるい、あたしだって我慢してたんだから!」

 二人がそろってダイヤモンドの実を口に運ぶと、刹那ちゃんやミズキ、当然私も一斉に指を伸ばした。

 そうして、あっというまにダイヤモンドの実を隅から隅まで食べつくしてしまった。

「あたしたち、蟻みたいだね」

 真友ちゃんがそう言うと、ミズキが笑いながら

「本当ですね。でも、こんなに美味しいものが食べられるんだったら蟻でもいいかなって思ってしまいますね」

「本当だね。私もそんな蟻だったらなってみたいな」

 私がそう言うと、リノンさんが笑いながら言った。

「じゃあ、ここにいるやつはみんな女王蟻の素質十分だな」

「女王蟻?」

 私が首をかしげると、リノンさんは後ろを指差した。指の先には苦笑いした瞬が立っていた。

「男どもをほったらかしにして、美味いところ全部持っていっちまうんだから」

(しまった!)

 あまりの美味しさに、瞬と知己のことをすっかり忘れていた。私はあわてて瞬に頭を下げた。

「ごめんなさい、瞬。本当にごめんなさい」

 他のみんなも頭を下げた。

「別にいいですよ。気にしないでください。そのダイヤモンドの実を取ってきてくれたのはミズキさんですし、割ってくれたのは後藤さんです。一番働いたのが女性陣なのだから、一番堪能するのは当然です。それに、僕は最初に一口いただいていますから、それで十分です。それよりも」

 そう言って瞬は私たちの足元を指差した。

「自業自得とはいえ、文字通り一口しか食べられなかったやつもいるわけですから」

 瞬の指の先には、砂浜にうつぶせになって倒れたままの知己がいた。

「嘘!あんた、まだ気絶してたの!」

 真友ちゃんは驚いて、すぐさま知己を抱き起こした。

「知己さん、大丈夫ですか?」

 ミズキが心配そうに覗き込む。刹那ちゃんが、ついと身体を乗り出し知己の口元に耳を寄せて、唇に人差し指を立て『みんな静かに』の合図をした。話し声が聞こえなくなった砂浜に、波の音と風の音にあわせて小さく息をする音が聞こえてきた。

(というか、寝息?)

「・・・大丈夫。寝てるだけ」

 刹那ちゃんは、それだけ言うと、知己からさっと離れた。

「何よ、心配して損したじゃない」

 真友ちゃんは、ほっと胸をなでおろすと知己の頬を指先でつついた。頬に付いた砂がぱらぱらとこぼれ落ちていく。それが面白いのか、鼻の頭や、額を指先でなでるようにしては砂を落としていった。それがくすぐったいのか、寝息を立てたままの知己は、顔をしかめたり、嬉しそうに笑ったりした。その様子は、なんだか、生まれたての赤ちゃんのようで可愛かった。そんな知己の様子を嬉しそうに眺めている真友ちゃんの横顔がいつもより綺麗に映ったのきっと気のせいじゃないと思う。真友ちゃんは、もう一度知己の頬を指先でつついてみせた。

「ふふ、こうしてると結構・」

「結構、何だというんですか?」

 少し不機嫌そうな様子でミズキが聞いた。真友ちゃんは、はっと我に返ったのか慌てて腕を引っ込めた。

 ドサッ

 音を立てて砂浜に倒れる知己。だけど、知己は相変わらず寝息を立てたまま、目を覚まそうとはしなかった。それを見て、ミズキは真友ちゃんと知己の間に割って入ると、知己の頭を自分の膝の上に乗せた。

「知己さん、ゆっくり身体を休めてください」

 そう言って、膝枕をしながら知己の頭を優しくなで始めた。

「ちょっと、ミズキ、何やってんのよ?」

 今度は真友ちゃんが不機嫌そうな声で聞いた。

「見ての通り膝枕です」

「それくらい、見れば分かるわよ。あたしが言ってんのは、なんであんたが膝枕をしてるのかってこと」

「だって、このほうが知己さんも気持ちよく寝られていいんじゃないかと思って。それに、私もこうしていると嬉しいんです。だって、こうしてる私たちって恋人同士に見えませんか?」

 笑顔でそう言ったミズキに、真友ちゃんはたった一言。

「見えないわね」

 ぴしっ

(あれ、何か割れたかな)

 そう思ってしまうほど、はっきりと二人の間の空気に亀裂が入ったように感じた。私はとっさに、

「ほら、私たちってまだ子どもだから、恋人とかそんなのってあんまり似合わないっていうか、見えないっていうか、きっとそういう意味で真友ちゃんも言ったんだよね」

「・・・・・」

 真友ちゃんは黙ったままだった。だから私は、

「ね、瞬。そうだよね」

「え、ぼ、僕ですか」

 とっさに振った話題に瞬はしどろもどろしながら答えてくれた。

「僕は、あんまりそういうことには、興味がなくて、明確な答えはだせないかもしれません。けど、高山さんがおっしゃったことは、的を得ているようにも感じますし、えーと、その、なんて言ったらいいのか分かりませんが、」

「だったら、黙っていてくれませんか」

 ミズキの有無を言わさぬ冷たい一言で瞬は口を閉じ、俯いてしまった。

(ごめん!瞬!本当に、ごめん!)

 私は心の中で瞬にお詫びを言いつつ、一触即発となった雰囲気をなんとか和ませようと二人の傍まで歩み寄った。けど、何て言葉をかけたらいいのか思いつかず、そこに立ち尽くしてしまった。

(リノンさん、なんとかして!)

 私が目で語りかけると、リノンさんはすかさず

(無理!)

 と首を振った。私は、もう一度、瞬に助けを求めようと視線を向けたけれど、当の瞬は俯いたままだった。そうこうしているうちに、二人の局面は、新たな展開を迎えていた。今まで沈黙を守っていたミズキが口を開いた。

「私たちが恋人同士に見えないって、どういうことですか?」

「そのままの意味よ。見えないものを見えないと言って何が悪いの」

「もし、よろしければその理由を説明していただけませんか。今後の参考にしたいので」

「いいわよ」

 そう言って真友ちゃんは、知己を指差した。

「こいつと、ミズキじゃあ釣り合いが取れてないからよ。こいつはバカでお調子者で、どこからどう見たって一般人そのもの。ううん、平均以下っていってもいいやつ。だけど、ミズキはどこからどう見たってお嬢様で、お姫様じゃない。身分違いもはなはだしいわよ。こいつみたいな、一般人には、やっぱり一般人の恋人が似合うに決まってるでしょ」

「・・・それって、知己さんの恋人には真友さんの方が似合うって言いたいんですか?」

「はあ、何言ってのよ!バカじゃないの!」

 ミズキの問いかけに真友ちゃんは真っ赤になって否定したけれど、傍から見ても、聞いてもそうとしか思えなかった。

「つまり、真友さんは、知己さんの恋人はわたしのほうが相応しいって、そう言ってるんですよね・・・結局、ジェラシーじゃないですか。そんな歪んだ目で私と知己さんを見ても、正当な評価が下せるわけありません」

「あんた、何言ってんの。あたしが、ジェラシー?そんなわけないじゃない。あたしは、一般の意見を言っただけよ。誰だってそう思うし、そう見える!」

「じゃあ、他の人の意見を聞きましょう」

「いいわよ!のぞちゃん!」

「はい!」

 突然の問いかけに、私は身体をびくっと震わせながら返事をした。

「話、聞いてたよね!」

「はい!」

「だったら、この分からず屋に言ってやって。あんたたちが恋人同士に見えるなんてことは、絶対にないってことを!」

(真友ちゃんが怖くなってる)

 恋っていうものは、こんなにも人を情熱的(狂気的)にしてしまうんだね。いつもの、優しい真友ちゃんに戻ってほしいな。あ、そういえば、ダイヤモンドの実は、あと二つあるんだから、今度は瞬も知己もそろって一緒に食べたらいいよね。うん、そうしよう。

「希望」

「はい!」

 ミズキの呼びかけに、我に帰った私は、またまた身体をびくっと震わせて反射的に返事をした。

「希望なら、ジェラシーで濁った目ではなくて、見たまま、ありのままのことを言ってくれるよね」

 そう言って笑ってみせてくれたミズキだったけど、

(目が笑ってないよ・・・)

 二人の質問者は、有無を言わさぬ勢いで私に答えを求めてきている。けれど、見えるといえば、真友ちゃんを傷つけ、見えないといば、ミズキを傷つけてしまう。

(誰か、助けて)

 リノンさんに目をやると、ニヤニヤ笑って見ていて助けてくれそうにない。刹那ちゃんに目をやると、うなだれている瞬の頭を小さな手のひらで撫でていた。


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