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5月11日(金) 「放課後 社会見学」(2)

はじめての小説投稿となります。つたない文章ですが、書き溜めたものを少しずつ更新していきたいと思います。

 新しい手がかりが私たちの足取りを軽くした。行きの半分くらいの時間で『桃福』に着いた。

「ここから道なりに30メートルほど行った所が橋のあった場所のはずだ」

「でもよ、瞬。30メートルなんてメジャーか何かないと測れないんじゃないか」

「ばかね、知己。だいたい30メートルが分かればいいんだから、歩幅を測ってだいたい何歩で30メートルか調べればいいじゃない。」

 真友ちゃんが得意げにそう応えた。

「じゃあ、瞬の歩幅にしようぜ。真友の短い足だと、何時間かかるか・・・」

 言い終わる前に知己は真友ちゃんから発する殺気に気づき身構えた。真友ちゃんは声を少し震わしながら言葉を発した。

「・・・知己、昨日ここで約束したこと覚えてる」

「すまん、忘れた」

 その瞬間、真友ちゃんの右足が一瞬のうちに綺麗な弧を描いて知己の左耳の横でぴたっと止まった。知己の髪がその風圧で横になびいた。知己は両手をあげた。

「・・・今、思い出した」

「じゃあ、何か言うことは?」

「ごめんなさい」

 知己が謝った(謝らせた?)のと同時に真友ちゃんの右足が静かに元の位置に戻った。私は、真友ちゃんの足の動きを見ていたら思わず言葉が漏れた。

「真友ちゃん」

「なに、のぞちゃん?」

「綺麗な足だね。私、なんだかうらやましいな」

「え?え?」

 脈絡のない私の言葉に、真友ちゃんはとまどっているみたいだった。

「知己は、こんな性格だから真友ちゃんのことをからかうけど。きっと心の中では、真友ちゃんのこと綺麗だって思っているよ。ねえ、知己。」

「そんなことあるか!なに、恥ずかしいこと言ってるんだよ」

 知己は真っ赤になって反論した。いつもなら、口を出さない瞬がこの時は口を開いた。

「後藤さんが綺麗なのは、みんなが認めていることだろ。それをむきになって否定するということは、知己が後藤さんのことを個人的に嫌いか、好意をもっているかのどちらかしかない。個人的に嫌いなら、一緒に宝探しをしたりはしないし、先日の図書館でしたような行為を行ったりはしないだろう」

「なんだよ、図書館でしたことって?」

「あ!」

 何か思い出したのか真友ちゃんは声を上げると真っ赤になってうつむいてしまった。きっと、瞬は知己が真友ちゃんに抱きついたことを言ってるのだろう。

(やっぱり、真友ちゃんて知己のことが好きなのかな?)

 真友ちゃんの様子を見て、なんとなく、そう感じた。いつも当たり前のように一緒にいると気づきにくいこともある。

(知己は真友ちゃんの気持ちに気づいているのかな?)

 瞬の言葉は私にいろいろなことを考えさせた。さっきまでは、宝探しのことしか考えていなかったのに、今は違うことを考えている。

(人の気持ちは、一瞬で変わってしまうんだな・・・)

 私は心の奥に少し寂しさを感じた。


「あーもう。分けの分からないこと言ってる暇はねえんだからな。とりあえず、この話はここでお終い。俺たちに目的は橋を探すことだろ。なあ、希望」

「う、うん」

 知己の言葉に思わず返事した。

「そうだよね、せっかくみんなで宝探しに来たんだから、ケンカせずに楽しく行こうよ」

 私がそう言うと、真友ちゃんは「そうだよね。」といつもの笑顔を返してくれた。ただ、瞬だけは私から目をそらして「高山さんがそう言うのなら、そうしたほうがいいんでしょうね」と

小さな声で返事した。

(私、何か悪いことしちゃったのかな・・・)

 理由は分からないけど、なんとなくそう思った。


 その後、私たちは、瞬の歩幅を測って桃福から道沿いに30メートルほどの場所までやって来た。そこは細い道が左右に伸びる十字路だった。向かって右側には比較的新しい家が並び、左側には小さな社があった。瞬の提案で知己と真友ちゃんが右側の道を調べ、私と瞬が左側の道を調べることになった。

(やっぱり、気になるな)

私は瞬と二人きりになったのを見計らって、思い切ってさっきのことを話してみた。

「ねえ、瞬。私、何か嫌なこと言ったかな」

少し驚いた顔をした瞬に私は言葉を続けた。

「もし、私が瞬を傷つけるようなことを言ったり、していたりしたら遠慮なく教えて欲しい。私にとって瞬は大切な友だちだから。私の嫌なところは少しでも早く直しておきたい」

 瞬は、少し寂しそうな顔をして笑顔を返した。

「高山さんが僕を傷つけることはありませんよ。今までも、これからも」

 私は何て返事をしたらいいのか分からなくなってしまった。そんな私の様子に気づいたのか、私から目をそらしてまなざしを遠くに向けた。

「どうやら、こちらには橋の手がかりはなさそうですね。そろそろ戻って知己たちと合流しましょう」

 そう言ってもと来た道を戻っていく瞬の後を私は黙ってついていった。


 私と瞬が右側の細い道に入って行くと、最初の角に知己たちはいた。真友ちゃんと知己はちょうど道路の端と端で向かい合うようにして座り込んでいた。

「後藤さん。何か手がかりらしいものありましたか?」

 真友ちゃんは、自分の目の前に人差し指でバッテンを作った。

「知己はどうだ?」

「ぜんぜん、まったく、これっぽっちも・・・なし!」

 知己は勢いよく立ち上がって瞬のほうを向いた。

「瞬たちのほうはどうだったんだ?」

「こちらも手がかりなしだ」

「これからどうする?」

 知己が訊ねると、瞬は難しそうな顔をして何かを考え始めた。

(瞬が考え込んだ時は静かにしてあげるのが一番。)

そう思って私は、座り込んだままの真友ちゃんに話しかけた。

「真友ちゃん、疲れた?」

「ううん、ぜんぜん大丈夫。あ、でも少し疲れたかな。精神的にだけどね」

「そっか。ところで、真友ちゃん何に座ってるの?」

 よく見ると、真友ちゃんはアスファルトから竹の子のように突き出た白くて丸みを帯びた石の上に座っていた。

「ああ、これのこと。何だか知らないけど、座りやすかったから座っちゃった。のぞちゃんも座りたかったら知己が座ってたところが空いてるよ」

 知己が座っていたところを見てみると全く同じ石がアスファルトから突き出ていた。

「ねえ、瞬。この石が何か分かる?」

 目を閉じて考え込んでいた瞬は、ちらっと石のほうに目を向けた。そして、次の瞬間を目を大きく広げてつぶやいた。

「あった・・・」

「何が?」

 知己が尋ねた。

「あったんだ!ここに、この場所に確かに橋がかかっていたんだ!」

 興奮した声で瞬が叫んだ。

「これだ!これが橋があった証拠だ!」

 瞬の指差す方向には真友ちゃんと知己が座っていた白い石があった。

(これが橋の証拠?)

 二つの白い石を見比べてみて、ピンと閃いた。

「分かった!これ橋の欄干だったんだ!」

「高山さん、大正解です」

 私はうれしくなって瞬に向かって右手を高く掲げた。瞬はすかさず笑顔でハイタッチした。

「あ、なるほど。そうか。そういうことね」

 真友ちゃんも気づいたみたいで、笑顔で私に近づいてきた。すかさず、ハイタッチ!

「イエー!」

 私たち三人がはしゃぎ回っていると知己が叫んだ。

「ちょっと待ってくれ!」

 私たちは一斉に知己を見た。

「さっぱり分からん。誰か説明してくれ」

 真顔でそう言う知己は、何だかかわいらしかった。

「じゃあ、私が説明してあげるわ」

 真友ちゃんは得意げに説明を始めた。

「頭の悪いあんたにも分かるように説明してあげるから、よくお聞き」

 真友ちゃんは、アスファルトから突き出ている白い石を指差した。

「あそこにある二つの石が、ここに道ができる前からあったのは分かるでしょ」

「そりゃあ、道の脇にわざわざこんなもの生やしたりしないからな」

「そう。この石はこの道がアスファルトに覆われる前からここにあったの。なぜだか分かる?」

「だから、橋があったからだろ。でも、この石のどこが橋なんだ?」

「さっき模型で見たでしょ。あそこにあった橋の四つの角に赤く塗られた手すりがあったの覚えてる?」

「でも、あれは赤だっただろ。これは白じゃねえか。」

「だから時間がたって色が剥げ落ちたの。それで、石のもともとの色が出てきたわけ」

「でも、ここにはこの二つしかないぜ。お前の話が本当なら全部で四つ同じものがないとだめなんじゃないか?」

(知己が考えて話してる!)

 私は驚いた。知己はいつも考える前に話すタイプだし、話すよりも行動するタイプだったから。それが、真友ちゃんの話を聞きながら、自分の納得できないことをきちんと話している。真友ちゃんもいつもと違う知己の反応に少しびっくりしたみたいで、知己の質問に答えられずにいた。すかさず瞬が真友ちゃんに助け舟をだした。

「知己、ちょっとこっちに来てくれ」

 瞬は知己を呼び寄せると再び石のほうを指差した。

「ここから見るとよく分かると思うが、二つの石がある場所のほうがここより低くなっているのが分かるだろ」

 よく見てみると、確かに白い石のところから傾斜がついて徐々に土地が高くなっていた。

「おそらくだけど、知己の言うとおりここには四つの石の欄干があったが、川を埋め立てて住宅地を作る時に山側に立てられていた欄干は地中に埋もれてしまったんだと思う。だから埋め立てが行われなかったこちらの欄干は残った。」

「ちょっと待ってくれ。とりあえず、欄干って言葉の意味を教えてくれ。」

「欄干って言うのは、簡単に言えば“手すり”だ。よく階段とかにあるあれと一緒で、人が落ちたり転んだりしないようにするためのものだ」

「OK!理解した」

 そう言い終った途端、知己は私めがけて突進してきた。そしてうれしそうな顔で右手を高く掲げた。私も右手を高く掲げた。二人の手と手が重なり合って大きな音が鳴り響いた。

「やったぜ!」

「やったね!」

 思わず叫んだ。図書室で見つけた不思議な言葉が一歩一歩現実と重なり合って、私たちに新しい世界を見せてくれる。住み慣れた町の通い慣れた道が、まるで違って見えてくる。友だちと一緒にこんなことを経験できることが嬉しくてしようがない。私は思わずみんなに言った。

「ありがとう、みんな!」

 私がどんな顔をしてそう言ったのかは分からなかったけど、みんなお日様みたいな笑顔を私に返してくれた。その笑顔に私は心の中でもう一度「ありがとう」を言った。


 ふと気づくと五時を回り、茜色に染まった空が由愛美市を覆っていた。真友ちゃんの習い事や瞬の塾の時間が近づいていた。そこで私たちは興奮冷めやらない知己をなんとかなだめて「宝さがし」の続きを、明日の昼三時からに決めて解散した。


この度は、私の作品をご覧頂き誠にありがとうございます。感想、ご意見などございましたら、ご連絡をいただければ幸いです。

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