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休息二日目 校外学習(5)

5年近く前に書いたものなので、設定など細かいことを忘れていることが多いです。更新しながら読み返してみるといろいろな発見があります。

「先生。質問があります」

 知己が手を挙げた。

「なにかな、少年」

「こいつがめちゃくちゃ固いのはよく分かったし、木の実だっていくこともわかったけど。じゃあ、どうやったら、こいつを割る事ができるんだ?」

「いい質問だ。もし、あたしたちに割る術がないのなら、せっかく採ってきてもらった実も台無しだ。けど、幸いあたしたちにはそれを可能にする人材に恵まれている」

「おお、それって誰だ?」

「あんたじゃないことは確かだね」

 ここでリノンさんはいたずらっぽい笑みを浮かべて言った。

「よーし、じゃあ、知己に一回だけチャンスをやろう。もし、それが誰なのかを一回で当てる事ができたら、あんたにあたしのナイフをやろうじゃないか。言っておくけど、あたしのナイフはあんたらが持っているナイフよりも断然切れるし、頑丈だよ」

 知己は俄然やる気をだしたのか、私たち全員を何度も何度も見渡しながら必死で答えを考え始めた。

「ヒントはねえのか?」

「ないね。あったとしても、教えないよ。あたしだって、このナイフを気に入ってんだから」

「ちぇ、けち」

 そう言って、知己はもう一度考え始めた。私は瞬のそばに行って小声で話しかけた。

「ねえ、瞬は誰だと思う?」

「僕は、ミズキさんだと思います。あの翼の鉤爪の威力は昨晩、一昨晩と経験済みですからね」

「なるほど。さすが、瞬だね」

「けど、もし、答えがミズキさんだったとしたら、リノンさんはあまりにも考えなしだと思います。ミズキさんはできることなら翼の鉤爪を使いたくないと思っているはずですから」

「うん。そうだね」

 私も瞬の意見に賛成だった。私もできることなら二度とミズキに鉤爪を使わせたくなかった。

(翼はミズキを助けたけど、鉤爪はミズキを孤独にさせていくから)

「よし、決めた!」

 知己は右手を振り上げ、人差し指を立てた。

「犯人は、お前だ!」

 言葉と同時に知己は真友ちゃんを指差した。

「誰が、犯人よ!」

 犯人扱いされ文句を言う真友ちゃんを尻目に、知己はリノンさんの方へと向き直った。

「どうだ、先生。俺の推理は完璧だぜ」

「ほほう。じゃあ、あんたの推理を聞かせてもらおうじゃないか」

 知己は得意げに鼻を鳴らすと、自分の推理を語り始めた。

「まず、第一に真友はバカ力だ」

 言い終わるや否や、真友ちゃんは知己の胸ぐらをつかんだ。

「あんた、いい度胸してるじゃない。そんなに、痛い目にあいたいわけ」

「ちょっと、待て。言葉を間違えた。真友は武道をやっていて強いって言いたかったんだ」

「それにしては、やけにあっさりと間違えたじゃない」

「だから、誤解だって。とにかく、俺の話を聞いてくれ」

 両手をあげて降参の意を表している知己をもう一度じろりと睨んだ後、真友ちゃんは突き放すように胸ぐらから手を離した。

「いいわ。あんたの話、聞いてあげる。けど、次はないからね」

「わかってるって。まあ、俺の名推理を最後まで聞けば、お前も納得するからよ」

 知己はコホンと咳を一つすると、話を続けた。

「まあ、もともと真友は強いが、この世界に来てからの強さは異常だ。なんたって、あの化け物イカをナイフ一本で切り刻んじまうんだからよ。瞬も見てただろ、あの動き」

「ああ、すごかった。おそらく、本来持っている力の数倍以上速く鋭かった」

「そうだろ。だから、この中で一番強い真友なら、この実を割る事ができるんじゃねえかって思ったんだ」

「ほほう。なかなか、考えてるじゃないか。けど、それだけじゃ、推理としては弱いんじゃないかな。強さで言うなら、あんただってそれなりのもんだ。知らずにやったこととはいえ、ナイフの刃の部分を折って、はるか向こうまで飛ばしてしまうくらいのバカ力があるんだからね」

 リノンさんの反論に、知己は即座に答えた。

「そう。そこで、俺は考えた。考えて、考えて、考え抜いたあげく、あることに気がついた」

 知己は真友ちゃんをずばりと指差した。

「こいつも、俺も戦闘班だってことをだ!!」

「???それで?」

 真友ちゃんは、頭をかしげながら知己に尋ねた。

「それでじゃねえだろ。俺も、お前も戦闘班。だろ?」

「うん。だから、それで?」

「お前、本当に分かんねえのか?」

「だから、分からないから聞いてんでしょ!」

 知己はやれやれと首を振った。

「これだから、単細胞は困るぜ」

 ゴスッ

 真友ちゃんの手刀が知己のわき腹に突き刺さった。

「次はないって言わなかったっけ」

「ごほっ。すまねえ、口が滑った。だけど、ちょっと待ってくれ、俺の推理はここからがいいとこなんだからよ」

 目をキラキラさせてそう言った知己の顔を、疑わしそうに睨みつつ真友ちゃんはため息を一つついた。

「じゃあ、言ってみなさいよ。だけど、三度目はないからね」

「わかってるよ。えーと、どこまで話したっけ」

「お前と後藤さんが戦闘班だってとこまでだ」

 瞬の言葉に、知己は大きく手を打った。

「おー、そうだそうだ。つまり、そこが重要なわけだよ。瞬はなんとなく気がついてんじゃねえか。」

 瞬は眼鏡をキラリと光らせて、小さくうなずいた。

「さすが、俺の親友だぜ。つまりだ。同じ戦闘班の俺に『不死』って特技があるんだったら、真友にも何か特技があるんじゃねえかってそう思ったわけだよ。どうだ、リノンさん」

「んー、やっぱりそれだけじゃあ弱いかな。それに、戦闘班の人は他にも何人もいたはずだよ。なんで、あんたたちだけが特別だと思ったんだ?」

「そりゃあ、戦闘班の中で青いスカーフを巻いてるのが俺と真友、それとあと何人かしかいなかったからだよ。これって、ほかの戦闘班の人と違うってことじゃねえのか?」

 リノンさんは、ニコリと笑って自分の腰に挿していたナイフを知己に投げて渡した。

「賭けはあんたの勝ちだ。そのナイフはとっときな」

「よっしゃ!」

 知己は歓声を上げると、もらったナイフを大事そうに受け取った。そして、そのナイフを真友ちゃんの前に差し出した。

「ほれ」

「なによ、見せびらかすつもり」

「違えよ。これは、お前のもんだ。さっさと、受け取れよ」

「え?」

「え?じゃねえだろ。お前のナイフは俺が折っちまったんだから、これを代わりにやるっていってんだよ。さっさと受け取れよ」

 真友ちゃんは、おずおずと手を伸ばし、知己の手からナイフを受け取った。

「これで、貸し借りなしだからな」

「うん」

 受け取ったナイフを胸元でしっかりと握り締めながら小さくうなずく真友ちゃんは、なんだかいじらしくて可愛かった。

「ところで、先生。真友はどんな特技を持ってるんだ?」

 知己が思い出したようにそう言うと、みんなは一斉にリノンさんのほうに向き直った。

「よーし、じゃあ教えてやろう。自分たちのことも思い出せないような、頼りないお前たちにこのリノンさんが懇切丁寧に教えてあげるから、心して聞くように。」

 コホンと一つ咳をしてから、リノンさんは話を続けた。

「まず、第一に、あんたたちはそれぞれに特技といわれるものを持っている。その中でも、戦闘に特化した特技を持っていたのが知己と真友だ。知っての通り知己は『不死』の属性を持っていて、ある一定の法則で命のストックを増やすことが出来る。そこまでは、みんな知ってるわよね。」

 みんなが一斉にうなずいた。

「よろしい。では、本題に移るわね。知己が防御、つまり自分の命を守ることに特化した能力だとしたら、真友の特技は相手の命を奪うことに特化した能力だといえる」

 リノンさんの言葉で、みんなの間に緊張が走った。

(『相手の命を奪う』)

 真友ちゃんが人を殺す。そんなことはありえない。あってほしくない!

 だから、私は思わずこうこぼしていた。

「冗談ですよね、リノンさん」

 きっと引きつった笑顔でそう言ったにちがいない。私は、リノンさんが『冗談だよ』と笑って返事をしてくれることを期待していた。けれど、現実は

「冗談なんかじゃないわ。真友の特技は、その気になれば一瞬で相手の命を奪うことができるんだから」

「嘘よ!あたし、そんな力なんてないし、欲しいとも思ってない!」

 真友ちゃんが、目を吊り上げてリノンさんに食って掛かった。けれど、リノンさんは平然と言ってのけた。

「あんたがどう思おうと事実は事実。変わることはない。それは、あんたが持って生まれた力なんだからどうしようもない。そのために、嫌な思いをしたり、つらい目にあったとしても、他の誰かになることも、自分から逃げることもできやしないんだから」

「でも、あたし、人を殺したりなんか絶対しません!」

 涙を浮かべながらそう訴える真友ちゃんに、リノンさんは笑顔でこう応えた。

「知ってるよ。あんたは、人を殺したりなんかしない」

「だったら、なんでそんなこと言うんですか?」

「それが事実だからさ。自分に何が出来て、何が出来ないのかを知らなきゃ、何も始められないだろ。まあ、落ち着いてあたしの話をきちんと最後まで聞いてみな。その上で、聞きたいことや文句があるのなら言ったらいいさ」

 リノンさんの言葉に、落ち着きを取り戻した真友ちゃんはコクリとうなずいて口を閉じた。

「では、話を続けよう。真友の特技は「黒刃こくじん」といわれるものだ」

「黒人???」

 知己が頭をかしげたので、すかさずリノンさんが注釈を入れた。

「黒い刃と書いて『黒刃』と読むんだ。この技のすごいところは、いくつかあるけれど、その最大の理由は真友にしか使えないということだ」

「私にしか使えない?」

「知己の『不死』の属性と同じように、真友の『黒刃』も生まれたときからその能力を身に宿して生まれてきている。あとから、いくら努力しても身につけることのできない特技だ。その意味で『黒刃』は真友の代名詞といってもいい。なんたって、世界に一人しか使い手がいないんだから」

「へー、すげえな。たしか、俺の『不死』は、世界に何人かいるって聞いたけど、真友の『黒刃』は世界で一人だけかよ。それって、めちゃくちゃすごいことじゃねえのか?」

 しきりと感心する知己の様子に、真友ちゃんは照れくさそうに「へへへ」と笑った。

「それで、『黒刃』ってどういう技なんだ。早く、教えてくれよ」

 知己の言葉に、みんなが固唾をのんだ。リノンさんは、真友ちゃんのもとに歩み寄ると、真友ちゃんの手をとり砂浜の上まで連れて行った。そして、ダイヤモンドの実を真友ちゃんの前に置くと、大きな声でこう言った。

「今から、あんたらに見せてやる。口で説明するより手っ取り早いだろ」

 言い終わると、リノンさんは真友ちゃんの耳元で何かをささやいた。真友ちゃんはリノンさんの言葉に何度かうなずいた後、右手を手刀の形にして左わき腹の横にそっとそえた。そして、目を閉じ、こう呟いた。

「・・・私は切る 万物の理を・・・」

 言い終わるや否や、まるで居合抜きのように右手が前方へと弾けとんだ。

「黒刃!」

 真友ちゃんが叫んだ瞬間、まるで時が止まったように、何も動かず、何も聞こえず、何も感じない空間が目の前に広がった。

(息が出来ない。)

 そう思った途端、一斉に時が動き始めた。

「嘘!!」

 真友ちゃんの目の前にあったダイヤモンドの実がまるで最初からそうであったように真っ二つに割れて転がった。私たちが歓声を上げて、真友ちゃんに近づこうとしたその時、地鳴りのような音が鳴り響き、次の瞬間、海が割れていた。

「!!!!!」

 驚きのあまり、声が出なかった。目の前に起こっている出来事が、今まで経験したことのないものだったからだ。ううん、想像すらしなかったからだ。

 海が割れている

 違う

 一つにつながっていた海と海との間に大きな隙間が出来たようだった。そして、その隙間の奥は吸い込まれそうな漆黒に彩られていた。

(・・・怖い)

 本能的にそう感じた時、止まった時間が動き出したかのように隙間めがけて海水がどっと流れ込み始めた。巨大な海水と海水とが隙間に向かって押し寄せた結果、ぶつかり合った海水は見上げるほど高く空に向かって水しぶきを上げた。

「・・・・・」

 誰もが言葉もなく、目の前に起こった壮絶な出来事をただ見つめていた。

「おい、大丈夫か!」

 声を上げ、駆け出したのは知己だった。見ると、真友ちゃんがふらりと身体を揺らし、砂浜に腰を落とした。

「真友ちゃん!」

 私も叫び、駆け寄った。

「大丈夫か、真友!」

 いち早く駆けつけた知己の呼びかけに、真友ちゃんは腰を落としたままうなずいた。

「真友ちゃん、どこか怪我したの?」

 私が問いかけると、真友ちゃんは首を横に振った。

「こりゃ、また、派手にやったな。さすがの、あたしも腰が抜けそうになったよ」

 驚き半分、おかしさ半分のような様子でそう言ったリノンさんは真友ちゃんのもとに駆け寄ったみんなに噛んで含めるように話し始めた。

「いいか、お前さんたち。これが、真友の持つ特技『黒刃』だ。ここまでいけば、特技と言うよりは絶技と言ったほうがいいかもしれないけどな。あんたらが見た通り、この絶技は真友が切りたいと願ったもの、切れると確信したものを空間ごと切り裂くことができる。つまり、真友がその気になればあたしらが今立っている、この大地も切り裂き消滅させることもできるってことだ」

 リノンさんの言葉に皆が言葉を失った。

(その気になれば、真友ちゃんは世界さえ壊す事が出来る)

 嘘みたいな言葉なのに、先ほどの壮絶な光景が頭の中に何度も映し出され、強い真実味を帯びた言葉として胸に迫った。


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