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休息二日目 校外学習(4)

今日の更新は少し中途半端な内容になりましたが、ご了承下さい。

「おまたせしました!」

 ミズキの声で目が覚めた。見ると、ミズキがたくさんの果物を抱えて空から舞い降りてくるところだった。

「おお、ようやく帰ったか」

 待ちかねたようにそう言ったリノンさんは、ミズキから果物を受け取ると持っていたナイフで果物を切り分け始めた。

「おお!すげえ、美味そうじゃねえか。ミズキ、お前、やっぱりすげえな」

 果物のそばに駆け寄った知己は、しきりにミズキに感心した。ミズキはなんだか申し訳なさそうに両手を横に振った。

「そんなことないですよ。すみません。こんなことしかできなくて」

「何言ってんだよ。こんなにたくさんの果物を運んできてくれたんだ。これで、十分。だから、ミズキは少し休んでろよ。俺たちは十分休んだからな」

 知己の言葉に、リノンさんは即座に反応した。

「だったら、ちょっと手伝え!知己と、瞬は果物を並べる皿の代わりになるものを用意しろ。真友は、こいつをむくのを手伝え」

「分かりました!」「了解!」「OK!」

 三人は、一気に仕事に動き出した。私は身体を起こした。

「リノンさん、私はどうしたらいいですか?」

「希望は、もうしばらく休んでろ」

「でも・・・」

「でもも、へったくれもあるか!無理して身体を壊したら、せっかくの休暇が台無しだぞ。いいから、今は休んでな。刹那」

「・・・はい」

「もうちょっと、希望のそばにいてやってくれ」

 頷いた刹那ちゃんは、私の身体を半ば強引に寝かせると、また、膝枕をしてくれた。

「希望、どうしたの?」

 ミズキが心配そうな顔をのぞかせた。

「大丈夫だよ。もう、よくなったから」

「ごめんね。私、肝心なときに役に立たなくて・・・そのせいで、希望もこんなことになってしまって」

 泣きそうな顔でそう言ったミズキの姿に、胸が締め付けられた。

「これは、ミズキのせいじゃないよ。それに、あの時は翼が言うことを聞かなかったんでしょ」

「うん」

 あの時。

 そう、ボートが転覆したあの時。ミズキだけが海に放り出されることなく、難を逃れることができたんだ。

ボートがぐらりと大きく揺れ、ひっくり返りそうになったその瞬間、ミズキの翼は知己を跳ね除け、ロケットのような勢いで空中へと飛び出した。後から聞いた話だと、ミズキ本人にも、その時は何が起こっているのか全く分からなかったそうだ。ふと気がつくと、自分が空の上にいて、見下ろした先には転覆したボートと呆然としたまま海を漂う私たちの姿が見えたらしい。そこで、ミズキは私たちを島まで運ぼうと何度も試みてくれた。けど、海面まであと1メートルほどのところまで来ると、途端に翼は言うことを聞かなくなったそうだ。海の中の私たちから見ても、ミズキの意思に反して、翼が勝手にミズキを海面から遠ざけているようにしか見えなかった。

(きっと、水が怖いんだ)

 その時、私は何となくだけど、そう感じた。そういえば、初めてミズキと出会ったとき、ミズキは海の上を漂っていたっけ・・・

「どうしたの、希望?」

「ううん。なんでもない。それより、ミズキありがとう。みんなのために、あんなに沢山の果物を探してきてくれて」

「・・・私には、これくらいしかできないから」

「そんなことない!」

 私は思わず強い声で否定した。ミズキが自分を不当に低く評価しているのが嫌だったから。

「ミズキは、ミズキにしかできないことを精一杯やってくれたんでしょ。だったら、それ以上のことなんてない。これくらいでもない。この上なく、一番のことをミズキはやってくれたんだよ!本当にすごいことなんだよ!だから、胸を張っていいんだよ!」

「希望・・・」

「だから、ありがとう。ミズキ。みんなのために、がんばってくれて」

 ミズキの頬にうっすら赤みがさした。

「そうだぞ、ミズキ。本当に、お前はよくやったよ」

 リノンさんが声をかけた。

「お前がいなけりゃ、あたしたちは服のまま泳いでへとへとになった身体で食料探しにでなけりゃならないところだったんだから。本当に感謝してる」

 リノンさんの言葉でミズキの頬の赤みが更に増してきた。

「あ、そうだミズキ」

 何かを思いついたようにリノンさんが声をあげた。

「頼んでおいた実は見つかったか?」

「あ、はい。ここから西のほうへ少し行ったところにありました。」

「そうか。それじゃあ、申し訳ないけど。三つほどで構わないから、採りにいってくれないか」

 ミズキは嬉しそうな笑みを浮かべると、大きく頷いた。

「はい!よろこんで!」

 言うやいなや、背中の翼を大きく羽ばたかせると、あっという間に木々の向こう側へと消えてしまった。そんなミズキの姿を悔しそうな目で見つめながら、独り言のようにつぶやいたリノンさんの言葉が胸に残った。

「・・・どうしたら、あの娘を救えるのかね」


 それから少しして、瞬と知己が何枚もの大きな分厚い葉っぱを持って帰ってきた。リノンさんと、真友ちゃんはその葉っぱを敷くと、切り分けた果物を並べ始めた。オレンジ色の柑橘系の果物、バナナのように長細い実が房のように実っている果物、そして、スイカそっくりの果物が深緑の大きく広い葉っぱの上に並べられた姿は、向こうに見える真っ白な砂浜とエメラルドグリーンに光る海と合わさって、いかにも南国という感じがした。

「めちゃくちゃ、美味そうじゃねえか!」

 興奮した知己が騒ぎ出すと、瞬はすかさず知己をたしなめた。

「高山さんが、まだ横になっているんだぞ、静かにしてろ」

 その一言で、知己は借りてきた猫のようにおとなしくなった。

「ごめんね、瞬。気を遣わせてしまって。でも、もう大丈夫だから。知己も、気にしなくていいよ」

 私がそう言うと、真友ちゃんが言葉を挟んだ。

「のぞちゃん、身体の調子っていうのはね、よくなったかなって思ったときが一番大事なときなんだよ。だから、今は身体を休めて、栄養を摂ること。いいですね!」

(今度は、真友ちゃんがお母さんみたいだ)

 そう思ったら、自然と笑いがこみ上げてきた。

「ふふ」

「どうしたの、急に笑ったりして?」

「ううん、なんでもない。じゃあ、もう少しだけ休ませてもらうね」

 そう言って、私は横向きに寝ていた身体を転がし、上を向いて目を閉じた。


 遠くの方から風を切る音が聞こえた。その音は徐々に近づいてきたかと思うと、突然、大きな羽ばたきの音へと変わった。私は目を開けた。

(ミズキが帰ってきた)

私は一番にミズキに伝えたくて急いで身体を起した。そして、笑顔でこう言った。

「おかえり、ミズキ!」

「ただいま、希望」

 両手に大きな黒い楕円形の実を抱えたまま、笑顔で応えてくれた。

「ミズキ、それがリノンさんから頼まれたもの?」

「うん、多分」

 ミズキの持ってきた黒い実は、大きさはラグビーボールくらいで、表面は黒くつやつやとしていて、木の実というよりは金属か石の塊のように見えた。

「リノンさん。これでよろしかったですか?」

 ミズキが黒い実を手渡すと、リノンさんは黒い実を拳で軽く叩いてみた。

「おー、かっちかちだな。うん、これで間違いない。ありがとう、ミズキ。これで、メインディッシュがそろった。ご苦労さん」

 リノンさんは黒い実を足元に置くと、手を大きく二回叩いた。

「よーし、全員そろったし、食事とするか!」

 みんなの歓声があがり、すこし早めの夕食が始まった。気が付けば、空はうっすらと赤みがかっていた。


「しっかし、この果物めちゃくちゃ美味えな。なんていうんだ?」

 知己が果物を頬ばりながら聞くと、リノンさんが笑いながら教えてくれた。

「それは、ナナバっていうんだ。この辺りの島々の特産品だな。乾燥にも強いし、一本の木から何本も取れるから重宝されている。栄養価も高いし、常温で保存できるから船乗りにも大人気だ。多分、食料担当の補給班が大量に収穫しているはずだ」

「先生、ちょっと聞いていいですか」

 知己が声を挙げた。

「あたしは、あんたの先生じゃないけどね。まあ、悪い気はしないからそう呼んでくれてもかまわないよ。で、なんだ?」

「ジョウオンってなんだ?」

 リノンさんが答える前に、瞬が答えた。

「常温っていうのは、冷やしたり、温めたりしない普通の温度のことだ」

「おー」

 リノンさんと知己がそろって拍手した。そんなやりとりが私には楽しくて、ついついニヤニヤしてしまう。

「のぞちゃん、なんだか楽しそうだね」

 そう言う真友ちゃんも、なんだか楽しそうだった。

「ところで、先生」

「何かな、知己君」

「真ん中に置いてある黒いのはどうやって食べるんだ?」

「そりゃあ、割って食べるんだ」

「じゃあ、割っていいか?」

「へえ、こいつを割ってみようってつもりかい?」

「固いって言ったって鉄より固いってこたあねえだろ。ナイフ貸してくれたら俺が割ってやるよ。」

「やなこった。あたしのナイフは上等だからね。使うなら自分のを使いな」

 リノンさんの言葉に知己は頭の後ろをかきながら苦笑いした。

「無くしちまった。ていうか、泳いでるとき邪魔だったから海に放り出した」

 リノンさんは、すくっと立ち上がると知己の頭を思い切り拳で殴った。

「ってえええ!!何すんだ!」

「それはこっちの台詞だ!!海で生きていく男がナイフを捨てるなんて話聞いた事がない!ロープを切る、道具を手入れする、食事を作る、身を守る、さまざまなことをする時に最低必要になるアイテムがナイフだろ!そんなことも忘れたのか!あんたのやったことは、騎士が剣を、農民が鍬を、商人がそろばんを放り出すのと一緒のことなんだ!」

 リノンさんの怒声に、さすがの知己もうなだれたまま一言も言い返さなかった。

「この中で、知己のほかにナイフを捨てたやつはいるか?」

 誰も手を挙げなかった。リノンさんは、少し語気を和らげて、今度は諭すように話し始めた。

「ほら、見てみろ。他のだれもそんなことはしてない。当たり前のことだからだ。しかも、島に行くのだからとケネス艦長から特別に新しいものが渡されたはずだ。人から受け取った好意の品を簡単に放り出すということは、その人の気持ちを踏みにじったことになるんじゃないのか?あんたは人の気持ちを大切にできない男なのか?」

 知己はうっすらと涙を浮かべながら、首を横に大きく振った。

「じゃあ、あんたがすべき行動は?」

 知己は頭を上げ、真剣なまなざしを向けた。

「本当にすみませんでした。船に帰ったら、ケネス艦長に謝ります。そして、自分のできることでケネス艦長に罪滅ぼしをします」

「よろしい。じゃあ、この話はここまでにして、早速この実を割ってもらおうかしら」

「はい!」

「えーと、誰か知己にナイフを貸してあげてくれるかな」

 私を含めてみんなが手を挙げる中、真友ちゃんだけが無言で立ち上がると知己のもとに歩み寄った。そして、自分のナイフを知己に差し出した。

「ほら、貸してあげる。大事に使いなさいよ」

「いいのか?」

「いいわよ」

 知己は二カッと笑みを浮かべるとナイフを受け取った。

「サンキュ。すぐに返すから、ちょっと待ってろよ」

 真友ちゃんのナイフは柄の部分が赤色に装飾されていて、鞘の部分はつやのある黒色をしていた。知己は鞘からナイフを引き抜くと、目の前に置かれている黒い実のちょうど中心にナイフの先端を合わせた。

「せーの!」

 掛け声と同時にナイフを大きく振りかぶり、そして、思い切り振り下ろした。

「あ、バカ!」

 リノンさんが叫んだ。

 ガキーン

 鋭い金属音が鳴り響き、それと同時に何かがキラキラと光りながら放物線を描いて浜辺のほうへと飛んでいった。

「あー!!!」

 叫び声を上げたのは真友ちゃんだった。

「あたしの、ナイフ!!」

 見ると、知己の手にはナイフの柄の部分だけが握られていて、刃の部分は丸ごとどこかへ消えていた。

「あんた、なんてことしてくれんのよ!何が大事にするよ、速攻で壊してるじゃないの!黙ってないで、何とか言いなさいよ!」

 そう言って真友ちゃんがにじり寄っても、知己は俯いて右手首を左手で押さえたまま何も言い返さなかった。その様子がなんだかいつもと違った様子だったので、私は少し不安になり知己に言葉をかけた。

「知己、もしかして怪我でもしたの?」

 私の言葉に、真友ちゃんはさっと顔色を変えた。そして、知己の右手首に顔を近づけた。

「ちょっと、知己。痛いの?左手をどけて、見せてみなさいよ。」

 真友ちゃんが知己の手首へと手を伸ばすと、

「なんじゃ、こりゃあぁぁ!」

 突然立ち上がって、絶叫した。私たちが唖然ととして見守る中、知己は右手に握ったナイフの柄を左手に持ち替えてしげしげと見つめた。

「果物を切って、ナイフが折れるなんて、ありえねえ。このナイフ不良品だったんじゃねえか?」

 すかさず真友ちゃんが知己の頭をはたいた。

「そんなわけあるはずないでしょ!艦長からもらった新品よ!なんてことしてくれんのよあんたは!自分のナイフは捨てる、あたしのナイフは壊す!捨てる、壊す、なくす、あんたそればっかじゃないの!」

「だから、わざとじゃねえ!言っただろ、果物でナイフが折れるなんて思わなかったんだよ!」

 言い合いがエスカレートし始めたとき、リノンさんが二人の間に割って入った。

「ごめんな、真友。あんたのナイフが無くなったのは、私の責任でもあるんだ。知己を責めないでやってくれ。」

「なんで、リノンさんが謝るんですか?」

「でも、まさか、知己がフルスイングでナイフを振り落とすとは思いもよらなかったもんだから。それこそ、知己の言葉じゃないけど、普通は刃を当てた状態からゆっくりと力を入れるもんだろ」

「じゃあ、俺が悪いっていうのかよ」

 知己が拗ねてみせると、リノンさんは苦笑いしながらこう言った。

「いや、あんたは悪くない。悪いのは、あんたに普通の反応を期待したあたしだ。それに、あの実のことを知らないあんたたちを驚かせてやろうと思ったことも事実だしな」

「この実は、何か特別なものなんですか?」

 そう言って黒い実を手に抱えて持ってきたのは瞬だった。

「触った感じは、まるで石か鉄のように思えます。これは、本当に木の実なんですか?」

「ああ、そうだよ。それは、『ダイヤモンドの実』と言って、世界で一番固い木の実なんだ。その木の実は、高い木の上から落とそうが、石や金棒で叩こうがびくともしない」

「嘘だろ。そんな木の実なんてあるはずねえよ。俺たちをだまそうと思って、鉄の塊を用意したんじゃねえのか」

 知己がふてくされてそう言うと、ミズキが恐る恐る言葉を挟んだ。

「あの、でも、私、木に生っているのを見ました」

「嘘だろ。本当かよ」

「はい。すごく太い幹の木で、木の高さは30mくらいありました。普通の木と違って木のてっぺん付近には枝も葉もなくて、私の身の丈くらいありそうな大きな花が咲いていました。その花の中にこの黒い実がいくつもなっていたんです」

「じゃあ、これは本当に木の実だっていうことかよ」

 知己は拳で瞬の持ってきた黒い実を小突いて見せた。



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