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休息二日目 校外学習(3)

今日もぎりぎりセーフで更新完了です。仕事の繁忙期が近づいてきて、次、いつ休めるか検討もつきません。トホホです。

 波が砂浜を洗う音が聞こえる。ゆっくりと目を開けると、抜けるような青空の端に太陽が燦然と輝くのが見えた。冷え切った身体に注がれる温かな陽の光と、焼けた砂から濡れた服を通して感じられる熱さが心地よかった。指先や、身体の端々にしびれるような感じがする。私は、大きく息を吸って、ゆっくりと息を吐く。

「生きてるって、こんなに気持ちのいいことだったんだね」

 そんな言葉が自然とこぼれ出た。

「・・・ごめん」

 隣で同じように大の字になって横になっていた真友ちゃんは申し訳なさそうにそう言った。

「誰も真友ちゃんのせいだなんて思ってないよ」

 私が言うと、少しはなれたところでこれまた同じように肩で息をしながら大の字になって横たわっていた知己が即座に否定した。

「いいや、全部真友のせいだ!」

 知己は呼吸を整えた後、一気にまくしたてた。

「だいたい、お前がリノンさんの注意をしっかり聞いてればこんなことにはならなかったんじゃねえか!一度ならまだしも、二度も同じことしやがって、学習能力がねえのか、お前は!大体、なんであの時・・・」

「うるさい!!」

 真友ちゃんは仰向けに寝転んだまま怒鳴り返した。

「あたしが悪いってことくらい分かってる!全部、あたしのせいだ!言い訳なんかしない、みんなには申し訳ないって心の底から思ってるわよ!」

「じゃあ、俺の文句くらい素直に聞けよ!」

「聞けない!」

「なんで!」

「なんででも!他の誰から責められても、あたしは素直に受けてめるけど、あんたにだけは言われたくない!」

「だから、なんでだよ!」

「うるさい!うるさい!うるさい!!」

 真友ちゃんの目にうっすらと涙が浮かんだ。私はとっさに立ち上がり、知己を睨み付けた。そして、怒鳴りつけた。

「知己!しつこい!!」

 知己の顔色がさっと変わった。私は構わず、言葉を続けた。

「知己だって聞かれたくないことや、言われたくないことくらいあるんじゃないの!私はあるよ。きっと、みんなにもある。違う?」

「・・・」

 知己は黙ったまま首を横に振った。

「そうでしょ!言いたくないことは、誰にでもあって、それは簡単には言えないことで、興味本位で聞いたり、無理やり聞き出していいことじゃない!」

「・・・」

「もし、知己がこれ以上、真友ちゃんを責めるんだったら、私、許さないよ!」

 知己はゆっくりと立ち上がると、真友ちゃんのすぐ横に立った。真友ちゃんは、両腕で顔を隠したまま口を開いた。

「勝手にこっちにくるなバカ!」

 知己は黙ったまま真友ちゃんを見つめ、深々と頭を下げた。

「・・・ごめん。俺が悪かった」

「へ?」

「また、調子に乗ってたみたいだ。本当に俺ってだめだよな。ついさっき、お前に『反省してるなら態度でしめせ』って言われたのにな。希望に怒られるまで全然気づけなかった。本当にごめんな」

 そう言って、知己はもう一度頭を下げた。腕の間からうっすらと知己を見ていた真友ちゃんは、身体をごろんと横に転がし、知己から自分の顔が見えないようにした。

「・・・もういいよ。ボートが転覆したのは、全部あたしの責任だから。あんたを責められる立場じゃないよ、あたしは」

「けど、わざとじゃなかったんだろ」

「当たり前でしょ!だれが、わざとボートを転覆させるのよ!」

「そうだよな。俺だってわざと調子に乗ってるわけじゃないんだぜ」

「あんたの調子乗りと一緒にしないでよ」

「けど、俺もわざとじゃねえんだ。本当だぜ」

 それから、お互いに言葉を交わすことなく、沈黙の時間が過ぎた。

「・・・分かった」

 沈黙を破ったのは真友ちゃんだった。

「もう分かったから。いいよ」

 真友ちゃんは身体についた砂をはたきながらゆっくりと立ち上がり、神妙な顔で知己に向かい合った。

「知己、それにみんな。聞いてください」

真友ちゃんは、大きく息を吸い込むと波の音を掻き消すくらいの大きな声でこう言った。

「あたしのせいで、大変な思いをさせてしまって、本当に申し訳ありませんでした!」

 そして、もう一度頭を下げると、今度は晴れやかな笑顔を浮かべた。

「あー、すっきりした。ありがとうね、知己。あんたのおかげで、思い切りみんなに謝れたよ」

 面食らった知己が言葉に窮していると、リノンさんが笑いをこらえながら尋ねた。

「おい、おい。そんな一方的な謝罪でいいのか?」

「いいんです。あたし、自分の言葉には責任を持つタイプですから」

「そうか、なら、これからの真友をしっかりと見ていてやるよ」

「はい!」

「じゃあ、早速だが。お前に仕事をやる」

「はい!なんでもやらせてもらいます!」

 はりきって答えた真友ちゃんに、リノンさんは声を上げて笑った。

「ははは。張り切るのはまだ早いかな。まあ、もう少し休んでから教えてやるよ。とりあえず、ミズキが帰ってくるまでは、全員身体をしっかりと休めておけ。以上だ」

 そう言うと、リノンさんはもう一度砂浜に身体を横たえた。

「じゃあ、あたしも」

 真友ちゃんも続いた。私は、呆気に取られていた知己の方へ近づくと頭を下げた。

「ごめんね、知己。きついこと言っちゃって」

「別に、気にしてねえよ。昔から俺は希望に怒られてばっかりだったからな」

「そうだっけ」

「そうだよ」

「そっか」

「うん・・・けどよ、俺、希望に怒られるの嫌いじゃねえぜ」

「え!あんたって怒られるのが好きなの?」

 がばっと身体を起こした真友ちゃんが、驚きの眼で知己を見つめた。

「変態みたいな言い方すんな!俺は、希望に怒られるのは嫌いじゃねえって言ったんだ。他のやつは論外だ」

「ふーん、そっか。のぞちゃんだけ、特別か」

 そう言った真友ちゃんはなんだか寂しそうだった。

「けど、なんで私に怒られるのが嫌いじゃないの?」

「他のやつに怒られても、素直に話を聞けねえけど、お前に言われると不思議と素直に聞けるんだよ。多分だけど、希望が俺のことを怒るときは、俺以上に俺のことを考えてくれてるように思うんだ。だからじゃねえかな、嫌いじゃないのは」

(なんだろう、胸がドキドキする)

 真顔で私に語りかけてくる知己の姿を見ているうちに、胸の動悸だけでなく、頬も火照ってくるのを感じた。

「だから、俺は希望になら怒られてもいいぜ」

 昔から見てきた、変わらない知己の温かな笑顔がそこにあった。私は、何か話そうと思ったけれど、のどがからからで思うように言葉がでなかった。

(どうしたんだろう、あたし)

 なんで、こんなに身体が強張ってるんだろう。

「どうした?」

 知己があたしに近寄ってくる。私はとっさに後ずさった。

「あ・・・」

 ドサリ

 自分の体が砂浜に倒れこむ音と同時に意識が遠のいた。


 風の音が聞こえる。

 草や葉が風になびいて囁きあっているのが聞こえる。

 少し離れたところから潮騒が聞こえる。

 ・・・ここにいるから

 優しい声が心に響いた。

 ・・・大丈夫。心配しないで。

 『うん』

 心の中で返事をすると、不思議なくらい身体が軽くなったような気がした。

 風がそよぐ。

 肌の上をそっと横切っていく。

 『ああ、気持ちいいな。』

 自然と頬が緩む。きっと、私は今、笑ってる。不意に声が聞こえた。

「見て、のぞちゃんが笑ってる」

 真友ちゃんの声だ。

「眠りながら笑うなんて、器用なやつだな」

 知己の声だ。

「十六夜さん、ありがとうございます。高山さん、だいぶ良くなったようです」

 瞬の言葉で、ぼーっとしていた頭の中が回転を始めた。

(そうだ。私、倒れちゃったんだ。もしかしたら、熱中症だったのかもしれない。急に倒れたから、きっと、みんな心配してる。だったら・・・)

 私は、ゆっくりと目を開いた。

「あ、のぞちゃん、大丈夫?」

 心配そうに私の顔を覗き込む真友ちゃんと知己の顔が目に映った。

「うん。多分、大丈夫。ごめんね、心配かけちゃったよね」

「そんなこと気にしないで、今はゆっくりしててよね」

「うん、分かった。ありがとう」

「感謝するなら、あたしより、先に刹那ちゃんに言ってあげて」

 真友ちゃんの言葉で、私のために膝枕をしてくれている人の存在に初めて気がついた。

「刹那ちゃん、ありがとう。ずっと膝枕をしてくれてたの?」

 恥ずかしそうに頷いた刹那ちゃんは、私の額の上に右手をそっとのせた。

(あ)

 刹那ちゃんのひんやりとした手が額の熱を吸い取ってくれるみたいで心地よかった。自然とまぶたが閉じていく。すると、耳や肌の感覚がより強く感じられた。私の頭を優しく支えてくれている刹那ちゃんの膝のぬくもり。まるで、詩のように聞こえる刹那ちゃんの小さな息遣い。目を閉じることで、目には見えない刹那ちゃんの心が、見えるような気がした。

 私は目を開けて、刹那ちゃんの瞳をしっかりと見つながら伝えた。

「刹那ちゃん、ありがとう」

「・・・うん」

 嬉しそうに頷いた刹那ちゃんは、私の髪を優しくなでてくれた。その仕草があまりにも優しかったらから、

(まるで、お母さんみたいだ)

 自分よりも年下に見える女の子なのに、そんなことを思ってしまった。

「刹那ちゃんって・・・」

「・・・何?」

 思った事がそのまま口に出そうになって私は慌てて口を閉じた。

「・・・どうしたの?」

「ううん。なんでもない。気にしないで」

「・・・分かった。気にしない。だから、希望も、もう少しの間、目を閉じて身体を休めたほうがいいよ」

 刹那ちゃんの心が嬉しくて、私は笑顔で頷いた。刹那ちゃんは、もう一度私の額に右手をあてると、まるで鈴のような小さいけれど、よく響く声でこう言った。

「・・・ここにいるよ」

 不意にまどろみの中で聞こえた言葉を思い出した。私は目を閉じたまま、たずねた。

「もしかしたら、私のために歌ってくれてた?」

「・・・心の中で」

「聞こえてたよ。刹那ちゃんの詩」

「・・・よかった」

(ありがとう、刹那ちゃん。)

 感謝の言葉を最後に、まどろみが深くなり、いつしか眠りに落ちた。


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