休息二日目 校外学習(2)
今日の更新終了です。天気も悪く、仕事もあったので疲れました。今日は早く休みます。
「ごめんね。もう、大丈夫だから」
真友ちゃんが手渡してくれたハンカチで顔を拭ったあと笑顔を返した。
「本当に大丈夫、のぞちゃん?」
「うん、もう平気」
「だったらいいけど。でも、よかったね瞬が元気になって」
「うん!」
私は心からの共感を込めて思い切り元気に返事をした。
(あれ?)
見ると瞬が私に背を向けていた。
「どうしたの、瞬?」
顔を覗き込もうとすると瞬は慌てて両手で顔を隠して、また背を向けてしまった。
「大丈夫、瞬?もしかしたら、まだ身体の調子がよくないの?」
瞬は背を向けたまま上ずった声で返事をした。
「心配いりません、大丈夫です。ただ、ちょっと陽に当たったせいか顔がのぼせてしまって」
よく見てみると瞬の耳が真っ赤になっていた。
「私濡らしたタオルをもらってこようか?」
「いいえ、大丈夫です。しばらくこうしてればよくなりますから」
そう言って瞬はそそくさと船べりのほうへと歩いていってしまった。まるで、私を避けるようにして。
「本当に、大丈夫かな?」
私が不安になって後を追おうとすると、真友ちゃんに私の肩をつかまれた。
「今は、そっとしておいてあげたほうがいいと思うよ」
「そうだぜ、希望。瞬の男心ってやつを、ちょっとは汲み取ってやってくれよな」
知己がなんだか楽しそうにそう言った。
「???」
「まあ、お前には分かんねえだろうな。ま、いいか。俺、ちょっと、二人で話してくるわ」
そう言うと知己は駆け足で瞬の下に駆け寄り、二人でなにやら話し始めた。そんな二人の様子を見て、私は少し寂しくなってしまった。
「知己は何を言いたかったのかな?」
「まあ、男には男にしか分からない気持ちって言うのがあるんじゃない?」
「真友ちゃんには分かるの?」
「そりゃあ、ちょっとくらいならね」
「じゃあ、教えて?瞬はどうして私のことを急に避けたの?私が突然泣いちゃったからかな?」
「うーん」
真友ちゃんは腕組をして少し悩んだあと、はっきりとこう言った。
「きっと、瞬は嬉しかったんだと思う。のぞちゃんが、瞬の元気な姿を見て嬉しくて泣いたように。瞬は嬉しかったけれど、その気持ちを素直には見せられなかったんだと思うよ」
「どうして?」
「それは、のぞちゃんが考えること。尾田先生も言ってたじゃない『あきらめずに答えを求め続けることを大事にしなさい』って」
「そっか」
心は目には見えない。けれど、心は言葉に、態度に、表情に多彩に表れてる。だから、私はよく見て、よく聞いて、よく感じなくちゃだめなんだ。そして、何よりも人の気持ちを考えることをやめちゃいけない。
「うん。そうだよね。真友ちゃんの言うとおりだ。私、もっと瞬やみんなのことを考えるようにする。ありがとう、真友ちゃん」
真友ちゃんは、嬉しそうに微笑んだ後、私の首元に抱きついてきた。
「そんなのぞちゃんがあたしは大好きだよ」
真友ちゃんの肌のぬくもりが、言葉が、何よりもその心が胸に温かく染み渡っていった。
「よーし、みんな準備はいいかい」
「おー!!」
リノンさんの掛け声に、みんなが一斉に声をあげた。ボートの先頭に立ち、私たち6人を見渡すとリノンさんは、右手を振り下ろした。その合図で瞬と知己はオールを海面に下ろした。
「漕ぎ出せ、野郎ども!」
「よっしゃ!」「はい!」
二人は一斉にオールを漕ぎ始めた。ボートがゆっくりと島に向かって進み始めた。船よりも大きく揺れながら進むボート。私は、海面へと手を伸ばした。触れた指先に波が立つ。
(冷たくて、気持ちいい)
私は水平線のかなたまで伸びる海へと目を向けた。
(こんなに違うんだ)
船の上から、ずっと海を見ていたはずなのに、ここから見る海はまた別のもののように新鮮で綺麗で、深く、遠く見えた。
(不思議だな)
そう思ったとき、不意に尾田先生に会いたくなった。会って、この不思議な気持ちを話したくなった。
「どうしたの、のぞちゃん。ぼんやりして」
「ううん、なんでもない。ねえ、真友ちゃん。こんなに海が近いよ」
真友ちゃんも海面へと手を伸ばした。
「本当だ、気持ちいい。あーあ、こんなことだったら水着持ってくればよかったな」
「本当だね。そうしたら、向こうで海水浴ができるのにね」
つんつん
刹那ちゃんが私の腕を指先でつついた。
「刹那ちゃん?」
「・・・ある」
「???」
「・・・水着、ある」
「え、本当に!」
私が驚いて声を上げると、刹那ちゃんは恥ずかしげにこくりと頷いた。
「みんなの分も用意してる。リノンさんがそうしたほうがいいって教えてくれたから」
リノンさんのほうを見ると、得意げな顔で親指を突き立てていた。
「ま、そういうこった。気の利くお姉さんに感謝の言葉はないのかい?」
「ありがとうございます!」
「よろしい!それでは、さらにスピードを上げていくぞ!野郎共、気合をいれろ!」
「おう!」「はい!」
二人は、更に力強く漕ぎ出した。海面をオールが掻き分けるたびにボートのスピードが増していくのを感じた。
「知己さん、大丈夫ですか?」
いつの間にか知己の前に移動していたミズキが心配そうに声をかけた。
「こんなこと、どうってことねえよ。だてに野球で鍛えてるわけじゃねえからな」
知己は笑顔を見せながらオールを握る手に力を込めて、更に勢いよく漕ぎだした。
(無理しなきゃいいけれど)
こういう時、調子に乗って無理をするのがいつもの知己だけれど、今回も例外なくその通りになった。
「つらくありませんか?」
心配そうに声をかけるミズキに、知己は真っ赤な顔をして
「平気だっていってるだろ」
と返した。けれど、傍から見ても知己はかなりしんどうそうにしていた。怪我から回復したばかりの瞬のほうが本来なら心配なのだけど、むしろ瞬のほうが自分のペースを崩さずに安心して見ていられた。
(本当に、大丈夫かな?)
私が不安げに知己を見ていると、真友ちゃんが何故かいらだたしそうにつぶやいた。
「かっこつけようとするからよ、バカ」
「どうしたの?」
「へ、あ、ううん。なんでもない、なんでもない」
「知己のこと?」
「別に・・・あ!」
真友ちゃん何かに驚いたので私もすぐにその方向へと目を向けた。
(え!)
ミズキが立ち上がって、自分のワンピースのすそを持ち上げていた。すらりとした真っ白な脚がそこからのぞいた。
「ちょっと、あんた何してんの!」
たまらず真友ちゃんが叫び、立ち上がった。即座にリノンさんから叱声が飛んだ。
「バカ!急に立ち上がるな!」
「へ?」
ボートがぐらりと横に大きく揺れた。と、同時にバランスを崩したミズキが知己めがけて倒れこんだ。
「きゃあ」
「うわ」
ミズキをかばうようにして両手を広げて受け止めようとした知己だったけど、ボートの揺れにあおられてバランスを崩し、後方へと倒れた。
「・・・うそ」
わざとではないことも分かっているし、偶然そうなったことも十分理解しているつもりだったけど、目の前の光景を見ているとなんだか釈然としなかった。
「あ、あ、あんたら!いつまで抱き合ってんのよ!」
真友ちゃんが鬼の形相で怒鳴った。
「ててて、うるせえ、バカ真友!お前のせいでこうなったんだろうが!ちょっとは、心配しろ・・・って、えー!」
打った後頭部をさすりながら真友ちゃんに怒鳴り返した知己は、ようやく自分たちがどのような状況になっているかに気がついたようだった。知己の右手はミズキの胸に、左手はミズキの腰をしっかりとつかみ、まるでドラマの恋人たちが熱い抱擁を交わしているような形になっていた。
「うわ、ごめん!わざとじゃねえんだ!」
知己は慌てて手を離し、飛びのこうとしたがミズキはうっとりとした表情で知己の胸に頬を寄せていた。
「ちょっと、知己!早く離れなさいよ、この変態!」
「うるせえ、俺だってすぐどきてえよ!えーと、ミズキ。ちょっと、どいてくれるかな」
まるで小さな子をなだめるような知己の言葉に、ミズキはきっぱりとこう答えた。
「嫌です」
「だけど、このままじゃボートも漕げねえし・・・な、分かるだろ」
「分かりません」
「うーん、なんて言ったら分かってくれんのかな」
困った知己に、ミズキは知己の胸元でいたずらっぽくこう言った。
「私のこと、『好き』って言ってくれたらいいですよ」
「こらあ!ミズキ、調子に乗るな!」
堪忍袋の緒が切れた真友ちゃんは二人を引き離そうと飛び掛った。
「バカ!急に動くな!」
とのリノンさんの言葉と同時に大きな波がボートをぐらりと揺らし、私たちを乗せたボートはその場で転覆した。
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