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休息二日目 朝の会(1)

ぎりぎり今日中に更新完了です。5年前に書いた内容なので読み返すと設定を忘れていたりします。

 次の日の朝、私と知己と真友ちゃんは朝早くから医務室を訪れた。手には、温かなスープとりんごを携えて。

「瞬、起きてるか?」

 控えめな声でそう呼びかけると、知己は静かに扉を開けた。返事はなく、瞬の傍らに座っていた刹那ちゃんが口元に人差し指を立てて「静かにして下さい」と目で訴えていた。私たちは小さくうなずくと、そっと部屋の中に入り瞬の傍らに腰を下ろした。

「刹那ちゃん、もしかして一晩中瞬に付き添ってくれてたの?」

 私が聞くと、刹那ちゃんはコクリとうなずいた。そして、囁くような声で

「もう、大丈夫・・・じきによくなる」

 そう言った刹那ちゃんの目元には、うっすらと隈が出来ていた。

「刹那ちゃん、本当にありがとう。瞬を助けてくれて」

 私は刹那ちゃんの手を握ったまま、深々と頭を下げた。すると、私の手の上から真友ちゃんと知己も刹那ちゃんの手をしっかりと握った。

「瞬を助けてくれてサンキュウな。本当に、ありがとう」

「刹那ちゃん、本当にありがとうね」

 顔を上げると、戸惑いながらも、嬉しそうにはにかむ刹那ちゃんの姿があった。

「・・・私も、仲間・・・だから。できること、これくらいだから」

 刹那ちゃんがぽつりぽつりと発した言葉が、私の胸を更に熱くさせた。こみ上げる、気持ちを抑えきれずに、私は刹那ちゃんに抱きついた。

「ありがとう」

 何度も伝えた。けれど、この嬉しい気持ち全部を伝えることはできなかった。けれど、

「・・・希望の気持ち、伝わった。仲間のために力になれて、私も嬉しいから」

 そう言ってくれた。

「ぐす」

 鼻をすする音が聞こえた。

「あれ、お前。何、泣いてんだよ」

「うっさいわね、刹那ちゃんの健気さに感動したのよ。あんたは、何も感じなかったの」

「そりゃあ、嬉しかったけど、泣くほどじゃねえな」

 なぜか胸を張ってそう言った知己に、真友ちゃんは呆れ顔で一言。

「冷たい男ね。あんたって」

「なんで、俺が冷たい男なんだよ」

「徹夜で頑張ってくれた刹那ちゃんの一生懸命さに感動しない心なんて、冷え切ってるとしか思えないわよ」

「べつに感動してねえわけじゃねえ。ただ、お前みたいにメソメソジメジメ泣くほどじゃねえって言ってんだ」

「それを冷たいって言うのよ。だいたい、なんであんたにあたしの涙を気にされなきゃいけないのよ」

「そりゃあ、気になるだろ」

「何が?」

「お前が泣いてたら、心配になるじゃねえか」

「だから、何が?」

「何をって、そりゃあお前、あれだ、大切な・・・」

 知己は何かを言いかけてから口を閉じ、少し考えた後、こう答えた。

「地震でも起こるんじゃないかって」

 ポカリ

 知己の後頭部に真友ちゃんの拳が炸裂した。けれど、いつもに比べて優しい感じだった。

「手加減してあげたんだから、感謝しなさいよ」

「十分痛えよ。まあ、瞬がこんななのにこれ以上馬鹿騒ぎはできねえからな」

「そういうこと」

 ツンツン

 背中をつつかれて後ろを振り向くと、刹那ちゃんが困ったような顔でベッドを指差していた。

「おはようございます、高山さん」

 ベッドの上に腰を起こした瞬がそこにいた。まだ少し顔色は悪かったけど、昨日の夜よりもずっと元気そうで嬉しかった。

「寝てなくて大丈夫なの?」

「ええ、これくらないなら大丈夫です。それに知己と後藤さんのかけあいを横で繰り広げられては寝られるものも寝られませんよ」

 いたずらっぽくそう言った瞬を見て、私はすこしほっとした。

(いつもの瞬だ)

 昨日の夜のことを思い出しながらそう思った。

「思ったより元気そうでよかったじゃねえか」

 知己は瞬のベッドの傍らに立つと右手を差し出した。瞬は、にこりと笑みを浮かべてその右手を固く握った。

「ありがとう。心配したか?」

「心配はしてねえけど、正直、昨日のお前はくやしいくらいかっこいいって思ったぜ」

「本当か?」

「おう」

「なら、よかった」

「まあ、お前はいつでも約束だけは必ず守ってくれるからな。そのへんは心配してねえよ」

「なに、約束って?」

 真友ちゃんの問いかけに、二人はそろってこう答えた。

「内緒。」


「ところでさ、瞬。俺、お前に渡すもんがあるんだけど」

 そう言って知己はポケットから赤い液体の入った小さなビンを取り出し、瞬に手渡した。

「何だ、これ?」

「俺の血」

「???」

「だから、俺の血。血液」

「それをどうしろと?」

「飲め。」

「断る」

「なんでだよ」

「もうしわけないが、お前の気持ちや考えがどうあれ、生理的にお前の血を飲むなどという行為は受け入れられない」

「つまり、どういうことだ?」

「『気持ちが悪い、近寄るな。この変態!』とそう言ってるんだ」

「俺たち親友だろ」

「いや、親友だったと言い換えさえてくれ。むしろ、今まで親友だと信じていた俺の気持ちを返してほしいくらいだ」

「おい、おい、冗談でも、それはひどいんじゃねえか」

「だれが、冗談を言ってる。俺は本気だ」

 一瞬の間をおいて、二人はものすごい目つきでにらみ合った。

「てめえ、誰が変態だってんだ!」

「貴様だ、このバカ!自分の血を飲ませようとするなんて変態的な発想を思い浮かび、なおかつ実行するやつを変態と呼ばなければ、どいつを変態と呼ぶんだ!」

「俺が、思いついたんじゃねえよ!」

「じゃあ、誰だ!」

「私よ」

 背後からの突然の声に私たちは一斉にそちらへと目を向けた。扉を開けて姿を現したのはリノンさんだった。

「私が知己にお願いしたの」

 リノンさんの発言に、刹那ちゃんを除いたみんなが首をかしげた。

「どうしてそのようなことを?」

 いぶかしげに瞬が尋ねると、リノンさんは一言。

「あなたを一刻も早く回復させてあげたいから。それだけ」

「でも、これって知己の“血”なんでしょ」

 真友ちゃんが聞くと、

「そうよ。だから、いいんじゃない」

「でも、知己の“血”なんか飲んだら、余計病気になるんじゃない。なんか、棲んでるかもしれないし」

「てめえ、真友。喧嘩売ってんのか!」

 食って掛かろうとした知己をなだめながら、リノンさんはさも当然のようにこう言った。

「何言ってんのよ、“不死ノスフェラトゥ”の血液よりよく効く薬なんてこの世には数えるほどしかないんだから」

「“不死ノスフェラトゥ”?」

 刹那ちゃんを除いたみんなが異口同音に聞き返した。

「え、まさか。あんたたち、そんなことも忘れちゃってるの?」

 呆れ顔のリノンさんに知己が尋ねた。

「忘れてるって言うか、もともと知らねえって言うか、まあ、そんなのどっちだっていいんだけど、つまり、ノスなんたらっていうのなのか俺は?」

「そうよ。ていうか、自分のことでしょ」

 知己は頭の後ろをぽりぽり掻いた。

「まあ、なんていうか、あれだ。記憶喪失ってやつかもしれねえ。だから、詳しく教えてくれよ、そのノスなんたらっていうのを」

 リノンさんは、私たちの様子をざっと見て取ると大きなため息を一つついた。

「まあ、いいでしょ。・・・それに、明日から始まる、任務のこともあるしね。そこ、いいかしら」

 リノンさんは、ベッドの横にあった椅子に腰掛けると、話を続けた。

「知己、あんたにとっては自分のことなんだから、しっかり聞いて思い出すこと。でないと、本当に死ぬことになるわよ」

 真顔で『死ぬ』という言葉が出たことに、知己をはじめ皆の表情に緊張が走った。

「“不死”はね、簡単に言うと命をストックできる属性を持った生き物のこと。自然界には、この“不死”の属性を持った生き物が何種類か確認できているけど、人間でこの属性を持ったものはこの世で3人しかいない。そのうちの一人が知己、あなたなの。」

「???」

 知己は頭をかしげた。理解不能な知己を見かねた瞬が言葉を挟んだ。

「すみません、リノンさん。こいつのために、話を整理させてください。つまり、知己は“不死”の属性を持ち命のストックを持っているということなんですね」

「その通りよ」

「ということは、知己はそのストックがなくなるまでは決して死なないということですか」

「そう。だから、先日マストの上から落ちて血だらけになっても死ななかったでしょ」

「!!!それだ!」

 知己が大声を上げた。

「俺も不思議だと思ってたんだよな、普通死ぬもんな、あの高さから落ちたら。じゃあ、俺、あの時一度死んだってこと?」

「そうよ。その証拠に、あなたの胸に刻まれた星が一つ減ったはずよ」

「本当かよ!ちょっと、待っててくれ」

 そう言うと、知己は突然上着を脱ぎ始めた。

「ちょっと、あんた何するつもりよ!この変態!女の子の前なのよ!」

 大騒ぎの真友ちゃんを尻目に、知己は上着を脱ぎ捨てると自分の胸元を覗き込んだ。

(本当だ、星が三つ並んでる。)

 左の胸。ちょうど心臓の辺りに星の形をしたあざが三つ並んでいた。

「これのことか?」

「そうよ。いま、あなたの命は三つストックされてるってわけ」

「じゃあ、三回死んでも大丈夫ってことだな」

「いいえ、二回までよ。」

「なんでだよ。星は三つあるぜ」

「知己、よく考えろ。お前の命は三つだ。二回目までは生き返る事ができるが、三回目は生き返る事ができない。命のストックがなくなるからだ。理解できたか?」

 手をぽんと打つと、知己は大きくうなずいた。

「つまり、二回までは不死身の身体を持ってるってことだろ。それって、すげえことだよな」

「そうよ。あなたのその不死の身体を欲しがっている人間はたくさんいる。だから、あなたはこの船に乗った。あなたを人として認め、対等に接してくれる人がここにいたから」

「そっか」

 知己は私たちをぐるりと見回した。そして、満足そうにうなずくと。

「ああ、その気持ちならよく分かるぜ。だから、俺は頑張れる」

「分かってるじゃない、少年」

 リノンさんは、立ち上がると知己の頭をぽんと叩いた。

「まあ、そういうことだから、瞬。知己の血、ありがたくいただきなさい。“不死”の血は、一時的に身体の回復力を上げてくれるから」

 リノンさんの言葉に、瞬は顔をしかめた。

「どうしても、飲まなければだめですか?」

「もし、飲まないのなら私は副長に明日の作戦からあなたを除外するように申し出るつもりよ。あなたが、それでいいのならそうしなさい」

 真顔でそう言ったリノンさんの言葉に、瞬は返事の代わりに手に持ったビンの中身を一気に飲み干した。

「よろしい。じゃあ、あとは静かに寝てなさい。そうすれば、今夜には回復するから」

 そう言うと、リノンさんは病室を出て行った。首をうなだれたままピクリとも動かない瞬に知己が声をかけた。

「おい、瞬」

 うなだれたまま返事が返ってきた。

「なんだ・・・俺は今、機嫌が・・・いや、気分が悪い。どうでもいいことなら、後にしてくれ」

「どうでもいいことじゃねえよ、大切なことだ」

「なら、聞く。言ってみろ」

「俺の血の味どうだった?」

 長く重い沈黙の後、怒りに震えた低い声が返ってきた。

「・・・・・・出てけ。殺される前に」


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