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5月11日(金)「休み時間 新しい手がかり」&「放課後 社会見学」(1)

はじめての小説投稿となります。つたない文章ですが、書き溜めたものを少しずつ更新していきたいと思います。

5月11日(金) 「休み時間 新しい手がかり」


「やっぱり、誰かに聞いてみたほうがいいんじゃないか?」

 知己が言った。

「誰かって、誰だよ」

 瞬が言った。

「そりゃあ、昔のことを知ってる人だから、お年寄りがいいんじゃないか」

「へえ、知己にそんな知り合いがいるのか」

「いや、いない」

「いなかったら、どうやって聞くんだよ」

「探せば、いいだろ」

「どうやって、探すんだ?」

「それぐらい、自分で考えろよな、瞬。先生も言ってただろ、『考える前に、聞くな。』って」

「・・・。」

 何か言いかけて、瞬は黙った。きっと心の中では、「お前こそ考えたことがあるのか」とか思っているに違いない。

(瞬は、大人だな。)

 私だったら、10倍くらい言い返すと思うな。

「おい、希望。お前ん家のばあちゃんは何か知らないのか?」

「うん、私も聞いてみたけれど、橋がどこにあったのかなんて知らないって言ってた」

 私たち四人があれこれ話していると、里緒ちゃんがこちらのほうにやって来て、なにか話したそうに私のほうに目を向けてきた。

「里緒ちゃん、私に何か用?」

「えーと。あのね、昔の由愛美町のことを話してるのが聞こえたから、もしかしたら力になれるかな、と思って」

「本当に!ありがとう!」

 私は、お礼を言って、里緒ちゃんのかわいらしい両手を握り締めた。里緒ちゃんは、少し照れて頬を赤くした。

「あのね、由愛美公園の南側に昔あったっていう橋の場所を探しているの」

「それって、由愛美城の堀として利用されていた川のこと?」

 里緒ちゃんの言葉に、瞬が反応した。

「そうです。それです。何か知っていますか?」

「う、うん」

「マジかよ!すげえ!さすが学校一の読書好きだぜ!早く、早く!あー、もったいぶらずにさっさと教えてくれよ!」

 知己のあまりのはしゃぎように里緒ちゃんはすっかりおびえてしまった。それを見かねた真友ちゃんは、知己の背後にまわると右手を振り上げた。次の瞬間、真友ちゃんの右手が綺麗な弧を描いて知己の頭をはたいた。

(会心の一撃だ。)

 私は、真友ちゃんの平手打ちに思わず感心してしまった。

「里緒ちゃんをおびえさせるな、この変態!」

 真友ちゃんの言葉を知己は聞いていなかった。正確には、聞こえていなかった。知己は、立ったまま気絶していた。

「知己君。大丈夫・・・」

 心配そうに知己の顔を覗き込む里緒ちゃんに瞬は

「知己は、大丈夫です。時々、立ったまま眠る癖があるものですから。しばらく、そっとしておいてやってください。ところで、話の続きを聞かせていただけませんか」

 そう言うと、さわやかな笑顔を見せた。

「え、うん。あのね、由愛美公園の北側に皐月山文化センターってあるでしょ。そこの歴史資料室に由愛美城の模型があって、由愛美城の周りの川や橋や道も詳しく作ってあったから、もしかしたら、参考になるかと思って」

「うん!思いっきり参考になったよ。ありがとう、里緒ちゃん」

 私は、里緒ちゃんの両手をぎゅっとつかんだ。里緒ちゃんは、照れくさそうに笑顔を見せた。真友ちゃんも瞬も笑顔を見せた。知己はまだ気絶したままだった。けれど、なんだか口元が笑っているように見えた。


5月11日(金) 「放課後 社会見学」


 放課後、ランドセルを置いてから私たちは由愛美公園に集合した。由愛美公園から皐月山に向かって歩くこと15分。私たちは皐月山文化センターにたどり着いた。白い壁の3階建ての建物で、入り口のすぐ横に受付があった。

「すみません。歴史資料室はどこですか?」

「あれ、希望ちゃんじゃない。」

 私は受付のお姉さんの顔を見て驚いた。

「初音お姉さん。」

 本名、音無初音おとなし はつね。私の家の近所にすむ、従姉妹のお姉さん。たしか、今年大学を卒業してこの由愛美市の職員になったって聞いていたんだけど。

「初姉、久しぶり。元気にしてたか。」

「知己も一緒か。あんたら昔からいつも一緒ね。あれ、そこの二人は友だち。」

「うん。私の親友。川崎瞬君と、後藤真友ちゃん。」

 真友ちゃんは、さっと居住まいを正して、お辞儀をしながら初音さんにあいさつした。

「はじめまして、初音さん。私は、高山さんの友人の後藤真友です。」

「こちらこそ、はじめまして。へえ、しっかりしているね。それに、あなたとっても綺麗ね。うん、本当に綺麗。」

 きらきら光る瞳でまっすぐに話しかけてくる初音さん言葉に、真友ちゃんは耳を真っ赤にしてうつむきながら「そんなことありません。」と小さな声で返事をした。

(・・・真友ちゃん、かわいい!)

 こういうときの、真友ちゃんはいつもの3倍くらい可愛く見える。私は、思わず真友ちゃんの頭を優しくなでていた。

「もう、のぞちゃんたら・・・」

 そう言った、真友ちゃんの顔は何だか嬉しそうだった。

「変わってないね、その癖。」

 初音さんは、懐かしそうにそう言った後、今度は瞬のほうを向いた。

「そっちの君。えーと、瞬君だっけ。よろしくね。」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。」

 礼儀正しい、瞬の振る舞いを見て、初音さんは「なるほどね。」とつぶやくと知己の頭を鷲づかみにして髪をくしゃくしゃにした。

「何すんだよ、止めろよ初姉!」

「がんばれ、少年!」

「何をがんばるんだよ。」

「それは、自分で考えな。」

(何が言いたいのかな?)

 昔から初音さんは、突然意味不明なことを言ったりしたりすることがあった。でも、たいてい後からその理由はついてくる。だから、きっと今の初音さんの行動にも意味があるのだろう。

 知己にじゃれあう初音さんに瞬は

「お取り込み中すみませんが、今日こちらに来たのは、由愛美城の模型があると聞いたからです。実は、学校の授業で由愛美市の歴史を学習することになり、僕たち四人は由愛美城の歴史について調べることにしたものですから」

 と言った。いつもながら、落ち着いた口調で知らない人が声だけ聞いたら、きっと中学生か高校生と勘違いしてしまいそう。

「あら、ごめんなさい。希望ちゃんたちと会うの久しぶりだったものだから。特に、知己はからかうと面白いでしょ」

「その意見には、僕も賛成ですが、知己をからかうと際限なく脱線し続けるので、今日のところはこれぐらいにしておいていただけるとありがたいです」

「知己、あんた初音さんから離れなさいよ、いやらしい!」

 真友ちゃんは、初音さんに抱きつかれていた知己の右手を思い切り引っ張った。

「痛え!バカ力で引っ張るんじゃねえ!それに、だれがいやらしいだ!よく見てみろ。初姉が勝手に抱きついてきたんだろうが!」

 知己と真友ちゃんの本日7度目の戦いの幕がきっておとされた。瞬は「またか・・・」と言うと、軽くため息をもらした。でも、なぜかこんな時の瞬の表情は柔らかい。私も同じ。はたから見たらケンカのように見えるこの光景も、心がつながっていると違って見える。

初音さんが、私に耳打ちした。

「ねえ、止めなくていいの?」

「うん。二人とも本当に仲良しだよ。だって、私の大切な友だちだから。ね、二人とも。」

「仲良しじゃない!」

「仲良しじゃない!」

 知己と真友ちゃんはほとんど同時にそう応えた。

「ほらね、仲良しでしょ」

 初音さんは、少しきょとんとしたあと、会心の笑顔を私たちに見せた。

「なるほど、最強の四人組だね」

 

 それからしばらくして、知己と真友ちゃんが落ち着いたところを見計らって初音さんは、「ついておいで。」と由愛美城の模型のある部屋へと案内してくれた。その部屋の扉には『200年前の由愛美市の様子』と書かれていた。扉を開けると部屋の中は結構広くて、教室の半分くらいの広さがあった。壁側にはいくつもの展示品がならんでいて、部屋の中央にはショーケースに入った大きな由愛美城の模型が展示されていた。

「これが、あなたたちのお目当ての由愛美城の模型よ。私は、受付に戻らないといけないから、自由に見ていってね。ただし、大事なものも多いから、ここでは暴れたりしないように。分かりましたか。」

 初音さんが出て行ったあと、私たちは模型にかじりついた。

「川がある。たしかに、ここに川があるよ」

 私が興奮しながらそう言うと、真友ちゃんは

「じゃあ、この道が昨日歩いた道じゃない」

 と城の周りを走る道を指差した。

「そうですね。ここに『桃福』と書かれた店があります」

 瞬が指摘した場所をよく見てみると確かに『桃福』と書かれた看板が屋根の上に掛かっていた。

(昔も今も同じ場所なのに、違う世界が広がっていたなんて)

 私は、なんだか不思議な気持ちで胸がいっぱいになるのを感じた。 

「そんなことより、ここに橋があるぜ」

 知己の指差した先には確かに橋があった。木でできた質素な橋だけど、四つ角にある欄干は真っ赤に塗られてとても綺麗だった。

「ちょっと、待ってください。この場所を現在の地図と照らし合わせてみます」

 瞬は、模型の説明に書かれていた縮尺を調べると持ってきた定規で桃福から橋までの距離を測り、実際の距離を計算した。

「縮尺は200分の1、模型上の距離は15センチメートル。ということは実際の距離では30メートルになる。桃福から道沿いに30メートル西に向かったところに橋があったんだ。」

「ちょっと待ってくれ。」

 目をキラキラさせながら語っている瞬を静止したのは知己だった。

「もう少し分かりやすく説明してくれ」

 真顔でそう言う知己に瞬は懇切丁寧に説明し始めた。

「いいか、知己。ここに縮尺200分の1って書いてあるのが分かるだろ。これは、この模型を実際の長さを200で割った長さで作ったっていうことなんだ。たとえば、1mは何センチか分かるか」

「100センチだろ。それくらい俺だって分かる。」

「じゃあ、100センチは何ミリか分かるか。」

「そりゃあ、100センチは・・・。」

 考え込む知己に真友ちゃんが助け舟を出した。

「1センチが10ミリだから。100を10倍すればいいのよ。」

「じゃあ、1000ミリだな。サンキュ、真友。」

「そう、1mは1000ミリ。1000ミリを200で割るといくらになる。」

「1000を200で割るっていう事は、100のかたまりで考えると、10÷2と同じだから、答えは5だ!」

 知己の答えに瞬は、大げさに驚いてみせた。

「大正解だ!知己、いつのまにそんなに賢くなったんだ」

「おいおい、そんなに褒めるなよ」

 照れくさそうにそう言う知己。こんな時の瞬は、まるで学校の先生みたいだ。

(知己が計算が得意なことは知っているのに)

瞬は人ががんばっていることに対して決して『できて当たり前』とは言わない。どんな相手だろうとその人のことを認めることができる。そして、自分を頼ってくる人には、どんな相手であろうと嫌な顔一つせず力になってあげる。瞬のそんなところが、私は好きだ。

「つまり、この模型での5ミリは実際には1mになるというわけだ。これで、さっき言ったことの意味が分かっただろう」

「OK!バッチしだ!」

 知己は、親指を立てて快心の笑みを浮かべた。

「じゃあ、出発しようか!」

 知己が声をあげた。

「うん。」

 私の返事と同時に瞬と真友ちゃんもうなずいた。目指すは、『桃福』だ。


この度は、私の作品をご覧頂き誠にありがとうございます。感想、ご意見などございましたら、ご連絡をいただければ幸いです。

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