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理科「星空の観察」(2)

今日もようやく更新完了です。明日は日曜日ですがやること満載です。どこかで時間を見つけて予約投稿の準備をしようと思います。

「あー、もう!波と風の音がうるさくて、何を話してるのか全然聞こえやしない」

 真友ちゃんが、ぼやくように言った。

「じゃあ、もっと近づいてみる?」

「だめよ、のぞちゃん。それじゃあ、まるでのぞきをしてるみたいじゃない」

「でも、今やってることも十分のぞきだと思うけど」

「大丈夫、これだけ距離をとっていればのぞきとは言わないわ」

「じゃあ、何?」

「“観察”よ!」

「・・・。」

 真友ちゃんの自信満々の答えに、私はしばし言葉を失った。

「ね、刹那ちゃんもそう思うでしょ」

 コクリ、コクリ

 私の背中に寄り添うようにして話を聞いていた刹那ちゃんがうなずいた。真友ちゃんの答えの意味が私には全く理解できなかったけれど、それども真友ちゃんの今の気持ちは痛いほど伝わった。だから、私はそれ以上そのことを尋ねるのを止めた。

「高山さん、ちょっといいですか?」

 瞬に呼ばれ、元の場所へと戻った。瞬は真面目な顔をして開口一番こう言った。

「変だと、思いませんか?」

「何が?」

「この船のことです」

「???」

「周りを見てください」

 私はあたりをぐるっと見回してみた。けど、何も変わったところもなかった。

(あれ?)

 私は、あることに気がついて、もう一度船の上を見回してみた。

「もしかして、私たちのほかに、誰もいないってこと?」

「さすが、高山さん。その通りです。船は、朝だろうと夜だろうと停泊中以外は進み続けるものです。しかも、この船は海賊船で、政府からはお尋ね者として手配されています。なのに、操舵師を含め、監視員の一人いないというのは少し変だと思います。まあ、もともとこの世界自体が異常ではありますが」

 そこまで瞬が話した時、

「ぇぇぇ!」

 真友ちゃんの小さな叫び声が聞こえた。私と瞬は、すかさず真友ちゃんのもとに走り寄った。私が「どうしたの?」と聞くよりも先に真友ちゃんは知己たちのいる方向を指差した。

見ると

知己が

ミズキを

抱き寄せていた。

(うそでしょ・・・)

 どう考えてもありえないことが目の前で起こっていた。こともあろうに、あの知己が女の子を星空のもと抱き寄せている。そんな非現実的な光景を私はにわかには信じられなかった。

(夢の中でも夢は見られるのかな)

 そんな分けの分からないことを混乱した私の頭が考えている間に、目の前の光景は突然その様相を変えた。

「ミズキ!!」

 知己の叫ぶ声が聞こえた。その叫び声よりも速くミズキはまるで弾け飛ぶように知己から離れた。そして、船べりに叩きつけられるようにぶつかると、そのまま背中の翼を大きく広げ空に舞い上がった。

「ミズキ!」

 私は二人から隠れていたことも忘れて、そう叫んだ。ミズキの目がこちらを向いた。

 背筋に悪寒が走り、体が震えた。

(なんて、目なの!)

 ついさっきまで一緒に過ごしていた穏やかな瞳は、月明かりの中で真っ赤に染まっていた。紅蓮の瞳が放つ不気味な光からは、怒り、悲しみ、憎悪と言った負の感情があふれ出していた。

 ぐぅぅろぁぁあ

 獣の唸り声にも似た、声がミズキの喉から発せられた。と、その瞬間ミズキの瞳は、すさまじい怒りの感情と共に私を見据えた。そして、

「高山さん!」

 瞬が私を突き飛ばしたのとほぼ同時に、ミズキの翼は私のもといた場所を鋭い鉤爪で切り裂いた。

 うつぶせに倒れた私の頬が不意に濡れた。拭った左手が赤く染まった。驚き、振り向いた。

「瞬!!!」

 甲板の上に倒れたまま瞬は動かなかった。私は、はいつくばるようにして瞬に近寄った。月明かりに照らされた甲板に赤い血が広がっていた。

(なんで、どうして)

 私は慌てて瞬を抱き起こそうとした。

「動かすな、バカ!」

 見るとリノンさんが駆け寄ってきた。

「出血がひどい、今、無理に動かせば大出血を引き起こす可能性がある」

「じゃあ、どうすればいいんですか!私のせいで、瞬がこんなことになったのに!助けて、瞬を助けて!」

 混乱した私は目の前の現実に泣き崩れてしまった。

「・・・高山さんの、せいじゃ、ありません・・・」

 振り絞るような小さな声が聞こえた。

「瞬!」

 私は顔を近づけた。瞬の顔はひどく青ざめて見えた。私は、涙がこぼれるのを抑える事ができなかった。

「ごめんね。本当に、ごめんなさい。私のせいで、こんなことになって」

 瞬は、青ざめた顔で微笑んだ。

「あやまらない・・・ください。よかった・・・高山さんが・・・」

 不意に瞬の言葉途切れ、まぶたが閉じられた。

「瞬!!」

 私が泣き崩れるのをよそに、リノンさんは自分の袖を引き抜いて包帯上にすると止血を始めた。

「だめだ、出血量が多すぎる、刹那!詩だ!」

 リノンさんの呼びかけに呼応して、刹那ちゃんが詩を奏でた。優しく、力強い詩声に私はほんのすこしだけ落ち着きを取り戻すことができた。間近で金属がぶつかり合う音が聞こえる。私の名を呼ぶ人がいる。

(泣いてる場合じゃない!瞬のために、今、私にできることを探すんだ!)

 涙をぬぐい、今、自分が置かれている状況を確認した。

「希望!しっかりしろ!」

 知己の声が聞こえる。

「のぞちゃん!しっかりして!」

 真友ちゃんの声が聞こえる。

 その二人は、こちらを見ていない。見る暇がない。だって二人は、戦っていたから。私たち二人を守るために。

 月明かりがミズキの翼から繰り出される鉤爪の猛攻をかすかに映し出す。空気を切り裂く音とそれをはじき返す金属音が何度も何度も繰り返された。真友ちゃんが剣を振るうたびに、刃先が月明かりを反射して宙に放物線を描く。圧倒的なスピードで剣を振るう姿は、まるで戦の女神のように見えた。けれど、その真友ちゃんでさえ、ミズキの翼が繰り出す鉤爪を一人で防ぐことはできなかった。真友ちゃんが防ぎきれなかった鉤爪の攻撃は、すべて知己が受け止めていた。知己の手には、身の丈と同じくらいの棒が握られていた。お互いの背中を守る形で、ミズキの鉤爪を防ぎ続けてくれていた。

 二人が必死で私たちを守ってくれている。その事実が、私の中にうずまいていた不安と恐れを拭い去ってくれた。

(私も、絶対に負けない!何よりも、自分自身に!)

 私は立ち上がると、リノンさんに言った。

「瞬をお願いします!」

 そして、二人のもとへ駆け寄った。

「ミズキ!どうしたの!なんでこんなことをするの!教えて、ミズキ!」

 ミズキの真っ赤な瞳が、私をにらみつけた。私は、その憎悪に満ちたまなざしから目を反らさなかった。

「私のことが殺したいほど憎いのなら、その理由を教えて!」

 ミズキは瞬時に空高く上昇すると、獣のような雄たけびを発した。

「ミズキ!返事をして!」

 声を限りに呼びかけた。

 ・・・ウルサイ ・・・ダマレ

 ミズキのものとは思えないほど低く、野太い声が空から聞こえてきた。

「私、黙らない!友だちが悪いことをした時に、黙ってなんていられない!」

 ・・・ダマレ!

「黙らない!」

 ・・ダマレ!

「黙らない!だって、私はあなたの友だちなんだから!!」

 ダマレェェェェ!

 絶叫と共に、ミズキが空中から急降下してきた。真っ赤に光る目は、極限まで見開かれ、その目から発する負の感情は、全て私に向けられていた。

(ミズキは本気だ)

 本気で私を殺すつもりだ。私は直感的にそう感じた。だから、私は二人の名を呼んだ。

「知己!真友ちゃん!お願い!」

「りょーかい!!」

「任せて!」

 ミズキの鉤爪が振り下ろされると同時に、二人は私の正面に立ち、繰り出される鉤爪の攻撃を受け止めてくれた。二人の得物に弾かれた鉤爪は、いったんミズキの背中まで戻った。そして、ミズキの頭上でするどい鉤先をぶつけ合うと、堰を切ったような怒涛の攻撃が開始された。二人の顔色が変わったのが分かった。

(もう、余裕がない。)

 直感的にそう感じた。だから、私は自分の精一杯をミズキにぶつけた。

「止めて!ミズキ!あなただって、本当はこんなことしたくないんでしょ!思い出して、昨日の夜のことを!私は、あなたを信じてる!」

 ・・・ウソダ

「私は、ミズキのことを信じてる!」

 ・・・ウソ

「ウソじゃない!」

 不意に、ミズキの目の色が赤からもとの碧眼へと変わった。

 ・・・トモキ

「おう、なんだよ!」

 ・・・トモキハ、ワタシヲ

 ためらいがちなミズキの言葉をさえぎるようにして知己は言い切った。

「信じてるよ!こんなことされてもな!希望だって、真友だって、それに瞬だって今でもお前のことを信じてる!だから、この鉤爪を引っ込めやがれ!こんなもので、俺たちの気持ちは絶対に変わらねえんだからよ!」

 ・・・コンナ モノ

「そうだ!いいか、ミズキ!俺の尊敬する先生が俺に教えてくれたんだ!『心は目には見えないし、耳にも聞こえない。だから、心は心でしか動かせないし、磨けない』ってな!」

「知己の言う通りよ!」

 真友ちゃんが言葉をつなげた。

「殴って怖がらせたって、おどして、こわがらせても心は手に入らない。そんな簡単な方法で心が手に入るんだったら、あたしはこんなに悩まない!だって、」

 真友ちゃんは意を決したように言い放った。

「だって、好きな人の心を壊してしまったら、好きな人が好きな人でなくなってしまうから!だから、私は好きな人の心を守りたい!その上で、あたしのことを好きになってほしい!」

 そう言い切った真友ちゃんの横顔はどこか誇らしげだった。

「お前、好きなやつでもいんのか?」

 知己の言葉に、真友ちゃんが体を強張らせた。その隙を見逃さず鉤爪は真友ちゃんの右肩を切り裂いた。

「っつ!」

 真友ちゃんは痛みに顔をしかめながら、次の鉤爪の攻撃を剣で辛うじて防ぎきった。

「変なこと言わないでよ!このバカ!」

 真友ちゃんが怒鳴りつけると、知己は予想に反して素直に謝った。

「ごめん!俺が悪かった!もう、何も言わねえ!だから、集中しろ!これ以上、大切な仲間が傷つくところは見たくねえ!」

 真友ちゃんは、口元に笑みを浮かべると小さくうなずいた。

(そうだ、これ以上仲間を傷つけたくない!)

 昨日は無我夢中でミズキに抱きついたけれど、きっと今度も同じ方法でミズキを正気に戻すことが出来るはず。確証は何もないけれど、今の私にはそれくらいしか思いつかない。

(でも、どうやったら!)

 ミズキの翼から繰り出される攻撃は、荒れ狂う嵐のように強烈で昨晩の比ではなかった。今、ミズキの前に飛び出すことは自殺行為と同じかもしれない。だけど、

(ミズキの目から赤い光が消えている今しかチャンスはない!)

 私が意を決して前に飛び出そうとしたちょうどその時、誰かが私の肩をつかんだ。

「無謀と勇気を履き違えるな。」

 声の主は、こちらを見ようともせずに私の前に進み出た。月明かりに照らされた銀色の長い髪が風になびいた。

「あと、一人必要なのだろ。」

「はい。」

「なら、言うべきことは分かっているな。」

 私は大きくうなずき、思いのたけを言葉に込めて叫ぶように言った。

「力を貸してください!ユリアン副長!」

「了解」

 ぃきぃぃぃん

 腰の長剣を引き抜く金属音が鳴り響くと同時に、ミズキの鉤爪は宙に弾き返されていた。

「ノブレス オブリージュ 副長 ユリアン=シーザー参る!」

 知己と真友ちゃんの間を一瞬で駆け抜けるとミズキの懐に潜り込み翼めがけて長剣を薙いだ。火花が弾けるように散った。突然の攻勢に、ミズキの翼は狂ったように鉤爪を振りまわした。月明かりのもと、まるで鞭のように振り回される鉤爪の切っ先はとても肉眼で捕らえられるようなものじゃなかった。それなのに、ユリアン副長はその全てを紙一重で避け切って見せた。

「・・・うそでしょ・」

 食い入るようにその攻防を見つめていた真友ちゃんの口から嘆息が漏れた。私も知己も言葉を失った。昨日四人がかりで何とか抑えることができたミズキの攻撃をたった一人で受け切ってみせるなんて信じることが出来なかったからだ。

「何をしている!今、自分がなすべきことを忘れるな!」

 振り向きもせずそう一喝したユリアン副長の声に真友ちゃん、そして知己が放たれた矢のように前に出た。そうだ、今、私がなすべきこと。それは、

(時を待つことだ!)

 あせるな!恐れるな!あきらめるな!希望は必ずある!目の前の三人は必ずその時を作ってくれる。そう自分に言い聞かせ、全神経をその時を見極めることに集中させた。

 三人とミズキの攻防が次第にある一定のリズムを作り始めた。左右に展開した真友ちゃんと知己の攻撃がミズキの動きを一方向に封じ込め、ユリアンさんの長剣がミズキの懐に切り込むと、ミズキの翼は小刻みに数メートル後方へとバックステップを繰り返しながら態勢を整える。その攻防が数回繰り返したとき、私は走り出した。

(瞬・・・)

 走りだした先に倒れた瞬の姿が見えた。刹那ちゃんもリノンさんも必死で治療に当たってくれていた。心が揺れた。瞬の下に駆けつけたい衝動に駆られた。

(・・・瞬。ごめん。だけど、今は自分にしかできないことをするね。必ず、ミズキを正気に戻して、瞬も助ける!だから、待ってて!)

 心でそう叫ぶと、迷いを振り切りながら甲板を走った。自分の選択が本当に正しかったのかと、何度も不安になった。だから、私は走った。後ろを振り向かず、前に、前に。今、自分がなすべきことに集中しようとした。近くで、ミズキのうめき声が聞こえる。金属がぶつかり合う音が響いた。私は恐る恐る物陰から様子を窺う。

(いた!)

 ミズキの背中が数メートル先に見えた。私は、物陰から右手を振って見せた。それを見たユリアン副長が右手の長剣を差し上げた。

「いくぞ!知己、真友!」

「はい!!」

 ユリアン副長の号令で、二人が左右から突撃し動きを封じ込めた。

「来い!」

 ユリアン副長がミズキの懐に飛び込んだと同時に私も飛び出した。バックステップでその攻撃をかわしたミズキがすごい勢いで私のもとへと近づいた。

「ミズキ!!」

 私の声に、ミズキが振り向く。その目からは、驚きと、怒り、そして恐れが感じられた。

(拒絶されてる)

 自分を拒む人がいる。そのことを意識するだけで心が痛む。

(だけど・・・だからこそ・・・前へ進むんだ!)

 一瞬の心の迷いを振り切るようにして、私はミズキの体へと手を伸ばし背中から強く、強く抱きしめた。

・・・ワタシ ニ フレル ナァァァ!

 二つの翼を大きく羽ばたかせ、ミズキは私もろとも天高く急上昇を開始した。

(離すものか!)

 私は背中から回した両手に力を込めた。

・・・イタイ クルシイ ハナセ

「離さない!」

 上昇を続けていたミズキの身体が空中で静止した。そして、ゆっくりと背中越しに私の顔に視線を向けた。ミズキの目には涙があふれていた。

「だったら、いなくなって。お願い」

 ミズキの声が聞こえた。獣じみた狂気の声ではなく、私たちに笑顔を見せてくれたミズキの声が。けれど、その声は私を拒絶していた。心が痛い。泣き出しそうだ。だから、私は思い起こした。そして、願った。

(尾田先生!ミズキを救う力を貸してください!)

 めぐる思考の中に、尾田先生の言葉がいくつも閃いた。それらの閃きは束となって一つの思いへとつながった。

「私は、ここにいる!今いるこの場所から絶対逃げない!」

 自分でも不思議くらい力強い声が、心の奥から湧いて出た。ミズキの目をしっかりと見つめる。自分の気持ちを全て伝えるために。

「だって、どんなに逃げたって、自分からは絶対に逃げられない!だから、私は今、ここで自分に出来る精一杯をがんばる!」

 ミズキの目が大きく見開いた。

「逃げるな!あきらめるな!ミズキは一人じゃない!」

 ミズキの涙が私の頬を濡らした。涙であふれた瞳でミズキが言った。

「私・・・あなたの大切な友だちを傷つけてしまった」

「とりかえせない過ちなんてこの世にない!」

「・・・また、同じことを繰り返すかもしれない」

「それでも私は絶対にあきらめない!先生が言ってた、『人が偉大なのは、その人が偉大になろうと思えばどこまでも偉大になれること』だって!」

「・・・」

「大丈夫!ミズキはこの世で一番確かで強いものを持ってる!」

「・・・」

「ミズキがエヴァに言ったことだよ。見えないし、聞こえない。もしかしたら、この世の中で一番軽いものかもしれない。だけど、だからこそその人が望めばどこまでも大きく広げる事ができる。ミズキはそれが何かをもう知ってるでしょ」

「・・・こころ。」

「ほら!だから、大丈夫!私は、そんなミズキの心が大好きだから!」

 あふれる涙を拭おうともせず、ミズキは笑ってみせてくれた。

(届いた!)

 そう思った瞬間、身体の力が抜け落ちていくのを感じた。しがみついていた両手の握力がなくなっていくのを感じる。

「希望!!」

 ミズキの叫び声が聞こえた。

(落ちてるのかな?)

 真っ暗な海に向かって私は落ちていった。ううん。真っ暗な空と海の境など分かるはずもなかった。ただ、耳元を過ぎる風の音だけが、私が落ちていることを分からせてくれた。不思議と恐怖を感じなかった。

(届いたよ、みんな)

 みんなのおかげで、ミズキの心に届く事ができた。ミズキは、きっと笑顔になれる。

(だから、私は嬉しい。幸せだ)

 海面へと落ち行く自分を感じながら、私は静かに目を閉じた。

 遠くで私を呼ぶ声が聞こえた。

 目を開く。

 強い意志を持った瞳で私に手を伸ばすミズキの姿が見えた。私は吸い寄せられるようにその右手に手を伸ばし、そして、つかんだ。

「醜い私の翼!それでも、あなたが私自身なら希望を助けなさい!」

 目の前のミズキの翼が大きく広がり、力強く羽ばたいた。つかみ合った右手と右手が強く締め付けられ、私の全体重を支え始めた。翼が更に大きく、強く羽ばたくと身体が風を切る音が次第に小さくなり、ついには羽ばたく翼の音と、波の音だけが静かに聞こえるようになった。私はミズキを見た。月明かりに照らされたブロンドの髪と少し紅潮した白い肌、何よりも澄んだ碧い瞳が綺麗だった。

(ああ、やっぱりミズキは綺麗だ)

「間に合った。よかった。本当によかった。ごめんね、本当にごめんね」

 大粒の涙がこぼれおちてくる。私は、握り締めた手に力を込めた。

「人は変われるんだよ。今、この時に。その気さえあれば」

 ミズキは涙を浮かべたまま微笑んだ。

「・・・私も変われるかな」

 私は大きく頷いた。

「うん!絶対に!」


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