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四日目「三角関係?」 昼休み(3)

中々、物語自体が進展しなくてすみません。

 船内から甲板にでると、さわやかな風と眩しい日差しに瞬間心を奪われた。

(やっぱり、この世界は綺麗だ。)

 抜けるような青で埋め尽くされた空の天井に目をやると、さっきまで胸の中にあったわだかまりが薄らいでいくのを感じた。

(おばあちゃん、本当だね。空を見上げると元気がでてくる。)

 空を見上げながら、大きく深呼吸をした。

(大丈夫、私は元気だ)

 ゆっくりと目を閉じてみた。尾田先生の姿が浮かんだ。

(『どうせ向くなら下を向かずに前を向きなさい。』ですよね)

 今は、前に進むことを考えよう。私は、まだまだ力不足で、出来ることなんて少ししかないかもしれないけれど、それでもできることはある。やらなくちゃいけないことがある。だから、一歩ずつでも前に進むんだ。

(『今、出来る限りのことを精一杯』だ!)

 目を開き、もう一度天を覆い尽くす青へと目を向けた。

「よしっ!」

 自分だけに聞こえる小さな声で気合を入れた。

(さあ、ミズキたちのところへ行こう!)

 そこが私の戦うべき場所だ。

「あああああー!!!」

 絶叫が甲板を駆け巡った。聞きなれた声の主は、やはり真友ちゃんだった。

「あ、あ、あ、あんたたち、一体何してんのよ!!!」

 見ると知己とミズキがマストの上に二人きりで立っていた。しかも、腕を組みながら。

「お、真友じゃねえか。おーい!」

 にこやかに手を振る知己に、真友ちゃんの怒りは爆発した。

「おーい、じゃない!あんた、なんでそんなところにいるよのよ!」

 知己が答える前にミズキが口を開いた。

「真友さーん。すみませーん。私が知己さんにお願いしたんです。だから、知己さんを怒らないでください」

 無邪気にそう言ったミズキの姿に悪びれた様子は全くなかった。

「そんなことはいいから、早く降りてきなさい!だいたい、なんのためにそんなところにいるのよ、このバカ!」

「おい!ミズキにバカはひどくねえか!」

「何、勘違いしてんのよ!バカはあんたよ、この大バカ!!!」

「なんだ、俺のことか。なら、いいや・・・って、全然よくねえぞ!なんで俺がバカなんだ!バカはお前だ、バカ!」

「あたしが、バカならあんたは底なしの大バカよ!文句があるなら降りてきて勝負しなさい!」

「いいぜ、どっちがバカか勝負といこうじゃねえか。そこで、待ってろ!今すぐ降りるからって、あれ・・・」

 マストの上で立ち上がった知己は、突然の船の揺れにバランスを崩した。

「危ない!」

 私が叫んだのと同時に、知己はマストから落下した。

「きゃあああああ!」

 悲鳴が甲板中にとどろいた。あっという間に甲板へと向かって落下する知己の姿は、まるで先日の再現のようだった。

(誰か、助けて!)

 そう願ったとき、まるで鳶が獲物を奪い去るように緑の大きな何かが知己を掴み取った。そして、そのままマストよりも高く上昇しくるくると弧を描き始めた。

 目を凝らして見て、ようやく分かった。緑色の大きな翼を広げて、知己を抱いたまま大きく旋回しているのは、

(ミズキ!)

それは、紛れもなくミズキだった。背中の翼を大きく広げて、滑空飛行を続けながら徐々に高度を落としてきた。そして、甲板近くまで来ると、翼を数度羽ばたかせ、ふわりと着地した。

「大丈夫でしたか、知己さん」

「あ、ああ・・・」

 さすがの知己も肝を冷やしたのか、目を白黒させながらそう答えた。

「知己!!」

 私の背後からすごい勢いで真友ちゃんが知己に駆け寄り、抱きついた。そして、知己の胸元に顔をうずめたまま泣きじゃくりながら「バカ」を連呼した。

「バカはお前・・・」

 真友ちゃんの言葉に、反射的にそう答えそうになって知己は口を閉じた。そして、少し間をおいてから申し訳なさそうにこう言った。

「ごめん。心配かけた。本当に、ごめんな」

「・・・誰も、心配なんかしてないわよ・・・バカ」

「本当にごめんな」

「・・・もういいよ」

 二人はそれきり口を閉じて、そのままじっとしていた。

(よかったね、真友ちゃん。いつになくいい雰囲気だよ。今回は、知己の余計な言葉も出ないみたいだし、二人の関係も少し前に進むかも・・・)

と、そんなことを思った矢先、

「真友さんも、知己さんのことが好きなんですね」

(えええ!!!)

 ミズキの言葉に、即座に反応したのは他ならぬ真友ちゃんだった。

「違うわよ!!!あたしが、なんでこんなやつのことを好きにならなくちゃいけないのよ!」

 つかみかかろうかという勢いで否定する真友ちゃんに、ミズキは平然と答えた。

「でも、こんなにも知己さんのことを心配して、涙まで流して・・・だから、やっぱり真友さんは知己さんのことが好きなんだと思います」

「な、な、な、な」

 あまりにもストレートにそう言ったミズキに、真友ちゃんは二の句を告げる事ができなかった。

「へえ、真友って俺の事が好きだったのか」

「違うっていってるでしょ、このバカ!!!」

 振り向きざまに繰り出した右ひじが知己のみぞおちに入り、崩れ落ちるように知己は意識を失った。耳まで真っ赤にした真友ちゃんは、興奮しすぎたためか呼吸も荒くなり、肩で息をしていた。

「はあ、はあ、はあ。とりあえず、この話はここまでにしましょ。いいわね、ミズキ」

「どうしてですか?」

「そんなことあたしにも分からないわよ!」

「分からないなら、なぜ分かろうとしないんですか?」

「しつこい!」

 真友ちゃんがどなりつけてもミズキは話すのを止めなかった。

「私は、知己さんが好きです。理由は、私を助けてくれたから。優しくしてくれたから。元気をくれたから。だから、私は知己さんが好きです。好きだからそばにいたい。そう思うことは恥じることではないと思います。違いますか?」

「・・・・」

 真友ちゃんは、何も言わず黙っていた。

「真友さん、私に言いましたよね。『お互い好き同士なら抱き合ってもいい』って。私は、知己さんと抱き合いたいです。好きだから。だれよりもそばにいたいから。真友さんは、どうなんですか?私は正直に自分の気持ちを言いました。真友さんは、知己さんのことをどう思っているんですか?」

「あー、もう!うるさい、うるさい、うるさい!!」

「逃げるんですか!」

 ミズキの表情が変わり、背中の翼がぶるっと震えた。背中がぞくっとし、昨晩のことが思い出された。

(なんとかしなくちゃ。)

 何か言葉をはさむべきなのだろうけど、何も言えなかった。言えるわけがなかった。二人とも真剣に知己の事が好きだということを知っていたから。ただ、一人は素直に好きな気持ちを表現できて、もう一人はその気持ちを上手く表現できないということだけなのだから。

(私が口を挟むことじゃない。もし、挟むのなら・・・)

 私も、二人に負けないくらい知己のことを好きでなければならない。きっと、知己を大切に思う気持ちは二人にも負けていないと思う。けれど、その気持ちはきっと二人の好きという気持ちとは違うものだ。

(だけど、このままじゃ・・・)

 ミズキの翼が脈動を強めるたびに、不安が高まり、何もしてしない自分の姿に焦りが積もった。

「真友さん、知己さんのことを別に何とも思っていないのなら、今、ここでそう言ってください。そして、私と知己さんのことを二度と邪魔しないでください」

 ミズキの言葉にかっとなった真友ちゃんが言い返した。

「何で、あたしがあんたの言うことを聞かなくちゃいけないのよ!」

「私は子どもの頃から、『人生は勝負の連続』だと教わってきました。そして、『勝負とは最後まで戦い抜いたもの勝つもの』だとも。だから、たとえ真友さんが知己さんのことを好きであろうと、私は決してあきらめません」

 見つめるものを射抜くような強いまなざしでそう語ったミズキの姿は、誇り高き王族のように気高く見え、先ほど一瞬見せた爆発的な感情はなくなり、深く静かでゆるぎない意思が感じられた。私が感じ取ったものを真友ちゃんも感じ取っているのか、ミズキの言葉を身じろぎもせず真剣な表情で受け止めていた。

「私は、真友さんと本当の友だちになりたいと思っています。だからこそ、同じ人を好きになったのなら正々堂々と戦いたい。同じ人を好きになった者同士、競い合い、高めあいたい。私の言っていることは、きっと独りよがりの自己満足でしかないかもしれません。けれど、これが私の気持ちです。偽らざる気持ちです。」

「・・・まいっちゃったな。のぞちゃんと同じこと言われちゃった。」

 自嘲気味に笑いながらそう言った真友ちゃんは、大きく深呼吸をするとミズキへと向き直った。

「あたしは、知己が好き。世界中の誰よりも好き」

 そう言った真友ちゃんの横顔は、今まで見たどの真友ちゃんよりも綺麗だった。

(心一つで、こんなにも人は綺麗になれるんだ)

 そう実感した瞬間だった。

心臓が高鳴るのを感じた。

胸の奥から何かがこみ上げてくるのを感じた。

(あれ?)

 視界がぼやけ、涙が頬を伝わるのを感じた。

(私、泣いてるの?)

 理由は分からなかったけど、私は泣いていた。

(真友ちゃんの言葉を聞いて、嬉しいはずなのにどうしてなの・・・あ、そうか)

 私は駆け出して、真友ちゃんの胸に飛び込んだ。

「よかったね、真友ちゃん!」

「え、あ、うん・・・ありがとう」

 私の行動に少し戸惑いながらも、真友ちゃんは最高の言葉を返してくれた。私は、もう一度真友ちゃんを強く抱きしめた。

(そうだね・・・嬉しくても、涙は出るんだ)

「あー!希望さん、ずるいです!」

 そう言って、私たち二人をまとめて抱きしめたのは他ならぬミズキだった。

「ちょっと、ミズキ。あんた、あたしのライバルなんでしょ!あたしは、戦う以上馴れ合うつもりはないからね!」

 そう言って真友ちゃんはそっぽを向いて見せた。けど、その顔はなんだか嬉しそうに笑っていた。

「・・・では、恋はライバル。普段は親友っていうのでは、どうですか?」

 ミズキが真面目そうにそう答えると、私も真友ちゃんも声を上げて笑った。

「???」

 突然笑い出した私たちの様子に首をかしげるミズキ。私は笑いながら思った。

(この恋はきっと素敵な恋になる。だから、私は二人を応援しよう。)


「あの、すみません。」

 私たち三人に気をつかいながら瞬が声をかけた。

「あー!瞬、あんた今までの話ずっと聞いてたの!」

「聞くつもりはなかったんですが、聞こえてしまいました。僕も後藤さんの気持ちは知っていたつもりでしたが、まさか『世界中の誰よりも好き』だとは知りませんでした」

「あー!!!」

 真友ちゃんは真っ赤になって頭を抱えた。けれど、すぐに立ち直って瞬の胸ぐらをつかみぐいっと引き寄せた。そして、すごみのある低い声で

「知己に話したらどうなるか分かってるわよね」

「はい。それはもう、痛いくらいに」

「あんたは、何も聞かなかった。それでいいのよね」

「はい。・・・ですが」

「何よ。」

「本人に聞かれてしまえば、元もこうもないのではないかと思うのですが」

 そう言って、瞬が指差した先には知己がいた。

(いつの間に、復活したの!)

 私も慌てたけれど、それ以上に真友ちゃんが慌てた。

「あ、あ、あ、あ、あんた、いつから・・・」

 その後は言葉にならなかった。

「いつ?何のことだ?」

「後藤さんは、お前がいつから話を聞いてたのかって聞いているんだ」

「あー、なるほどね。そりゃあ、お前の『あー!!!』っていうアヒルのわめき声みたいな声が聞こえたときからだよ。いててて」

 そう言って、知己はみぞおちをさすると真友ちゃんに詰め寄った。

「お前なあ、さっきのはひどくねえか?」

「え、あ、え」

「お前、言ってたじゃねえか。ひじはやべえから使わないって。お前、思いっきり使ったじゃねえか。俺じゃなきゃ死んでるかもしれねえぞ」

「あんたが、変なこと言うからでしょ!」

「あれ、俺、何か言ったっけ?」

 知己は、腕組をしてうーんと唸ってみせた。

「だめだ、全然思いだせねえ。おい、瞬。俺、何を言ったんだ?」

「さあ、俺は読書に集中してたからな」

「おい、真友。俺が何を言ったって?」

 何の気負いもなく尋ねてくる知己に、真友ちゃんは耳まで真っ赤にして怒鳴り返した。

「そんなこと、あたしが知るわけないでしょ!!!」

「うるせえ!!大声だしゃいいってもんじゃねえぞ!大体、お前が俺が変なこと言ったって言ったんじゃねえか!」

「あー、もう、どうだっていいわよ!」

「何だよ、その言い方は!どうでもいいことであんな強烈なひじを腹に決められてたんじゃ命がいくつあってたんねえぞ!」

 しつこく食い下がる知己に、真友ちゃんはとっさに右の拳を知己に放った。かのように、見えた。けれど、実際は知己の胸に当たる寸前で拳を止め、そのまま引き戻した。そして、その拳を左手でぎゅっと握り締めまるで何かに祈るように目を閉じた。

「・・・ごめん。知己」

「へ?」

 突然の言葉に、知己はあっけに取られていた。真友ちゃんは、言葉を続けた。

「あたし、いつもあんたに手をあげてばっかりだね。特に、今回に関してはあんたは全然悪くない。全部、あたしが悪い。だから、ごめん」

 そう言って、真友ちゃんは目を閉じたまま頭を深く下げた。

「なんだよ、あらたまって・・・」

 一向に頭を上げようとしない真友ちゃんに、さすがの知己も何かを感じ取ったのか軽口をたたかずに少し考え込んだ。

「別に、いいよ。何がなんだか分からねえけど、謝ってくれたからそれでいい。俺はお前を許す。それに、俺だってお前に悪口言ったりして嫌な思いをさせてんだからおあいこだ。だから、もういいよ。調子狂っちまうぜ」

 知己の言葉に、真友ちゃんはゆっくりと頭を上げた。そして、目を開くと女の私でもときめくような珠玉の笑顔を見せた。

「ありがと、知己」

「!!」

 知己は慌てて真友ちゃんから目を反らした。

「どうしたの、知己?」

 そう言って一歩前に出た真友ちゃんから逃げるように知己は後ずさった。

「別に、なんでもねえよ」

 知己の頬が少し赤らんで見えた。

(わあ、なんだかいい雰囲気。もしかしたら、このまま真友ちゃん言っちゃうのかな。)

 和やかに会話を続ける二人の姿を私はどきどきしながら見守っていた。当然、瞬も刹那ちゃんも同じように見守っていてくれた。けれど、

「知己さん。ちょっと、いいですか?」

 二人の間に割って入ったのは、予想通りと言うかお決まりと言うかやはりミズキだった。

「ん、なにか用か?」

「知己さん、私に何か言うことはありませんか?」

「えーと。なんか、あったっけ?」

「さっき、マストから落ちた知己さんを助けたのは誰でした?」

 そう言ってミズキはニコリと笑ってみせた。

「あ、そうか!悪い、すっかり忘れてた。助けてくれて、サンキューな。お前のおかげで助かったぜ」

「どういたしまして。それで、お返しと言ってはなんですが、お願いを聞いてくれませんか?」

「おう、いいぜ。できることなら、何でもしてやる」

 胸をたたいてそう断言する知己に、ミズキは間髪入れずこう言った。

「今晩、二人きりで星を見てくれませんか」

(え!!二人きり!!)

 私以上に、その言葉に反応したのは真友ちゃんだった。とっさに、真友ちゃんは

「ちょっと、何言って・・・」

 そう言い掛けた矢先に、

「なんだ、そんなことか。別にいいぜ」

 あっさりと知己はOKの返事をしてしまった。

「じゃあ、夕食の後、少ししてから声をかけますね!」

「おう」

 嬉しそうにはしゃぎまわるミズキと、事の重大さに気づかずに平然としている知己。そして、知己に何かを言おうとして口を閉じた真友ちゃん。三人の姿に胸が苦しくなった。

(誰かを傷つけないと、手に入らないものもあるのかな・・・)

 そう思うと、さらに胸が苦しくなった。嫌な感情がこみ上げてくるのを感じて、私は自分で自分の考えを否定した。

(違う!違う!何か間違ってる!簡単に、答えを出すな!)

 そう自分に言い聞かせると、ふと、尾田先生の言葉が思い出された。

(『悩むことから逃げるな!』)

 そうだ、逃げない。私にとって二人とも大切な友だちなのだから。みんなが幸せになれる方法を考え続けるんだ。あきらめてなんかやるものか。

 そう心に決めると、胸の奥のもやもやしたものが少しだけ軽くなったような気がした。

「真友ちゃん。ちょっと」

 私はそう言って真友ちゃんの手を引くと、ミズキたちから少し離れた場所に移動した。そして、私は真友ちゃんの目をじっと見つめてこう言った。

「私は、二人とも応援する。そう決めたよ。だから、今は真友ちゃんを応援する」

 私の言葉に真友ちゃんは、少し表情を明るくした。

「私の気持ちを正直に話すね。真友ちゃんはミズキに『戦う以上馴れ合うつもりはない』って言ったよね。だから、ミズキは全力で戦いを挑んできたんだよ。だったら、真友ちゃんも全力で戦わなくちゃだめだよ。たとえ、ミズキとはやり方が違ったとしても、相手に気兼ねしたり、弱気を見せちゃだめだよ。真友ちゃんは空手の試合のときに、相手に負けてもいいと思って戦ったりしないよね。それが恋だろうと同じでしょ。同じ恋するなら、精一杯恋しようよ。だから、真友ちゃん、頑張れ!!」

 そこまで一息に言い終わった後、頭に上っていた血が一気にさめていくのを感じた。

(私、何偉そうなこと言っちゃったんだろう・・・)

 自分の言葉を思い出して、恥ずかしくなってきて私は俯いた。

「のぞちゃん」

 真友ちゃんの声に、私は体がびくりと震わした。

「のぞちゃん、顔をあげて」

 その声に、私は恐る恐る顔を上げた。

「ありがとう、のぞちゃん」

 そこには、いつもの真友ちゃんの笑顔があった。

「のぞちゃんは、人を元気にする名人だね」

 真友ちゃんの言葉に、私はなんだか申し訳ない気持ちになった。

「そんなことないよ。私こそいつもみんなに勇気をもらってばっかりだよ。それに、さっきは真友ちゃんの気持ちも考えないで自分の言いたいことばっかり言ってたと思う。だから、」

「ストップ!」

 真友ちゃんの言葉に、私は口を閉じた。真友ちゃんは、私の目をじーっと見つめた後、真面目な顔をして言った。

「のぞちゃんは、私のことを思って自分の気持ちを一生懸命言ってくれたんでしょ。だから、私の心に響いたんだよ。のぞちゃんの、その一生懸命さが私を元気づけてくれる」

 そこまで言って、真友ちゃんは少し考えた後、言葉を続けた。

「自分のことをすぐに反省するのは、のぞちゃんのいいところでもあるけれど、悪いところでもあると思うんだ。一度、自分がこうと決めたのなら、簡単に折れちゃだめだよ。私の師匠が言ってた。『一度刀を抜いたのなら、殺すか殺されるかを覚悟しなければならない。武道家が拳を相手に向けるのも、同じことだ。それと同じように、自分の放った言葉には責任を持つことだ。言葉は、時として刃よりもよく切れるのだから。』って。だから、ね、のぞちゃん」

 優しく微笑んで、真友ちゃんは言葉を更に続けた。

「のぞちゃんは、のぞちゃんが勇気を振り絞って放った言葉を、もっと強く信じていいと思うよ。そうじゃないと、せっかくの勇気が可哀想だよ」

 私は、真友ちゃんの言いたい事が胸に強く、深く響いてくるのを感じた。

(ありがとう)

 心の中でそうつぶやき、私は「うん」とうなずいた。真友ちゃんも、満足そうにうなずき、私の首元に抱きついてきた。そして、私の耳元で

「あたし、頑張ってみる。私らしく、精一杯知己に自分の気持ちを伝えてみる」

 そう囁くようにつぶやいた。


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