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四日目「三角関係?」 昼休み

今日の更新は少なめです。明日は朝が早いので早めに寝ます。

 艦長室での話の後、ユリアン副長から三日間の休暇を言い渡された。

「今回の作戦のミーティングは、三日後の夜に行う。貴様たちは、それまでゆっくりと体を休めておけ」

 なぜ、三日後なんですか?

「作戦区域に入るのが四日後だからだ」

 何か準備することはありますか?

「艦長と違い、私は貴様らに期待などしていない。ただ、作戦に参加する以上、せめて心の準備だけはしておけ。それと・・・」

 何ですか?

「いや、なんでもない・・・。とにかく、この三日間は艦内の仕事に従事する必要はない。以上だ、解散」


「といわれてもなあ、なにすりゃいいんだ?」

 海をぼーっと見つめながら、知己がぼやいた。そばに座っている瞬は、何も答えず真剣なまなざしで本に読みふけっていた。

「瞬、無視すんなよ」

「・・・・」

 こういう時の瞬には何を言っても無駄なのに、知己はしつこく話しかけた。

「おーい、聞いてんのかよ。おーい、おーい」

 何度声をかけても返事をしない瞬に業を煮やした知己は、本と知己の間に頭を突っ込んだ。

「無視すんな!」

 次の瞬間、分厚い本が知己の顔面に直撃した。ゴンッという、鈍い音がして知己は甲板に沈んだ。冷たい目で知己を一瞥した瞬は、また読書に集中し始めた。私はその様子を苦笑いしながら見守っていた。

(真友ちゃんたち、遅いな・・・)

 そう、私たちは真友ちゃんたちを待っていた。


 ことの発端は、艦長室を出た後のミズキのとった行動にあった。


「ちょっと、ミズキ」

 真友ちゃんの声に、ミズキは笑顔で応えた。

「えーっとね、別にどうでもいいことなのかもしれないけれどね、その・・・なんていうのか、その腕のことなんだけど」

「腕がどうかしましたか?」

 不思議そうに首をかしげるミズキに、真友ちゃんは少しいらだたしげにこう言った。

「どうもこうもないわよ!なんで、知己の腕にしがみついてるのかって聞いてるの!」

「だめですか?」

「だめってことないけど・・・あー、その、知己だって女の子にひっつかれてたら嫌だろうし」

 必死でそう訴える真友ちゃんに対して、知己はあっさりとこう言った。

「俺は、別に構わないぜ」

「あんたは、黙ってなさい!!!」

 真友ちゃんの一括で、知己は口を閉じた。

「とにかく、ダメったらダメ!!!」

 目にうっすら涙を浮かべながらそう訴える真友ちゃんに、知己も何か感じたのか「ごめん」と頭を下げ、ミズキから離れた。

「ごめんなさい」

申し訳なさそうに頭を下げるミズキの姿に、真友ちゃんも冷静さを取り戻したようだった。

「ううん。ごめんね、私もきついこと言っちゃって。でもね、やっぱり、こういうことは恋人同士ですることだから」

「はい。分かりました。これから、気をつけます」

 ミズキは笑顔でそう返事をすると、すぐに知己のそばに駆け寄った。そして、

「知己さんは、好きな人がいますか?」

 と瞳をキラキラさせながら問いかけた。知己は、じりじりと近寄ってくるミズキから距離をとりながら「別に、そんなのいねえよ」と答えた。

「私、知己さんが好きです!私を恋人にしてください!!」

 私たち全員、一瞬頭の中(今、なんて・・・)

 誰もが思考停止状態になるなか、刹那ちゃんがいち早く「おめでとう・・・」とつぶやいた。

「ちょっと、ミズキ、こっち来て」

「え、え、えー、真友さん、どうしたんですか、ってちょっと。知己さん!知己さーん!!」

 有無を言わさぬ迫力のまま、真友ちゃんはミズキの手を引きながら船内へと消えていった。


 そして、現在に至る。

「おまたせ」

 真友ちゃんの顔を見て、私は驚いた。あれから、まださほど時間が経っていないというのに、真友ちゃんの顔からは生気が抜け落ちたようになっていた。額に何本か垂れている前髪が真友ちゃんのやつれ果てた姿をより一層引き立てていた。

「どうしたの、真友ちゃん。大丈夫?」

「え、あ、うん。大丈夫、大丈夫、はは」

 力なく笑う真友ちゃんとは対照的に、後ろのミズキは活力にあふれていた。

「ミズキ、何があったの?」

「えーと、秘密です!」

 ミズキはにこやかにそう答えた。そして、真友ちゃんの腕に抱きついた。

「あのことは、二人だけの秘密でいいんですよね」

「ははは・・・」

 力なく相槌を打つ真友ちゃんが妙に痛々しかった。

「あ、知己さん!」

 ミズキは甲板の上に倒れている知己を見つけると、小走りに駆け寄った。

「知己さん。さっきは勝手に抱きついたりしてすみませんでした」

 ぺこりと頭を下げるミズキは、なんだかとても可愛らしかった。

「別にいいよ。俺は気にしてねえし」

 うつぶせに倒れたままそう答えた知己は、ゆっくりと立ち上がった。

「いててて。おい、瞬!少しは手加減しろよ!」

 当然のごとく、瞬からの返事はなかった。

「大丈夫ですか?」

 ミズキが顔を覗き込むように近づけてくると、知己はすばやく一歩後ずさった。

(知己、おびえてる??)

 なんだかいつもの知己らしくないように見えた。そんな様子をミズキも感じ取ったのか、それ以上知己に近づこうとはしなかった。そして、悲しげな表情を浮かべるとこう言った。

「やっぱり、私のこと怖いですか・・・」

 その言葉を聞いた途端、知己は怒ったように言った。

「お前のこと、怖いと思ったことなんか一度もねえ!それより、二度とそんなことを俺の前で言うなよ!いいな!あと、俺が、お前から離れたのは、何ていうか条件反射だ・・・その、なんて言ったらいいのか分からねえけど、あんまり顔を近づけれられると、やっぱりドキドキするだろ。俺は男で、お前は女なんだから。まあ、そんなことだから、気にすんな。いいな」

 恥ずかしそうに頭をかきながらそう言った知己の姿はなんだか新鮮に見えた。

(知己が女の子を意識してる!)

 実は、今までも知己にアプローチをかけてくる女の子は何人かいた(実は、知己は結構女の子に人気がある。)のだが、その度に持ち前の天然さ加減でそのことに全く気づかずにいた。こんなことは、私が知己のことを知って以来、初めてのことだった。

「では、私は恐れられても、嫌われてもいないということですね」

 ミズキが恐る恐るそう問いかけると、知己は「ああ」とぶっきらぼうに答えた。その途端、暗く沈みがちだったミズキの表情がぱっと変わった。

「嬉しい!」

 満面の笑顔でミズキは知己に抱きついた。

「だから、近寄るな!ちょっとは、恥じらいってもんをだな・・・げっ!」

 ミズキに抱きつかれたまま、何かに気づいた知己は顔を強張らせた。その視線の先には、真友ちゃんがいた。

「知己、楽しそうね」

 口元に笑みを浮かべ、優しい口調でそう言った真友ちゃんの目は笑っていなかった。

「おい、勘違いすんじゃねえぞ、俺からは何もしてねえんだからな。こら、いい加減に離れろ!」

「あ、すみません。つい、嬉しくって。・・・あ、いけない」

 ミズキは知己から離れると、真友ちゃんのそばに駆け寄った。

「すみません、真友さん。約束やぶっちゃいました。でも、知己さん、私のこと好きっていってくれたから、構わないんですよね」

 ぶちっ

 真友ちゃんの中の何かが音を立てて切れたような気がした。

「知己がいつ、誰を好きって言ったの?よければ、教えてくれる」

 ミズキと目を合わせようとせず、俯きながらそう言った真友ちゃんの声はかすかに震えていた。

「はい!知己さんは、私のことを嫌いではないと言ってくれました。嫌いではないということは、好きってことですよね。ね、知己さん」

「え、俺に聞いてんのか?」

 ミズキはコクリと頷いた。

「知己さんは、私のこと好きなんですよね」

 無邪気な笑顔でそう言ったミズキを見ていると、とてもじゃないけど「ちがうよ」とは言い出せそうになかった。私でさえそう思ったのだから、知己は予想通りこう答えた。

「えーと、まあ、そうだな。好きか嫌いかで言えば好きだぞ」

「ほら!真友さん、聞いてくれましたか。知己さんは私のこと『好き』って言ってくれました!」

「ちょっと、待て!好きとは言ったけど、それは友だちとして好きということであってだな、そのなんだ・・・え、おい。お前、なんで泣いてんだ」

 俯いたままの真友ちゃんの目から、涙がこぼれ落ちた。

「真友ちゃん!」

 私が駆け寄ると、真友ちゃんは船内に向けて駆け出した。

「待って、真友ちゃん!」

 速すぎる真友ちゃんの背中をかろうじて視界にとどめながら追いかけた。そして、ようやく追いついたのは、私たちの部屋の中だった。


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