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三日目 「信頼の意味」(7)

更新しながら、書き溜めた小説を読み返すと、本当にこんな文章書いたっけ、という気持ちになります。

 再び私たちは艦長室に呼ばれた。エヴァとは早々に引き離され、ミズキを含む私たち6人は前後を戦闘班に囲まれて艦長室へと向かった。みんな、口にこそ出さなかったけれど不安に胸をしめつけられているようだった。私はミズキの事が心配になりそっと様子をうかがってみた。緊張で真っ青になった顔が痛々しかった。けれど、そんな私の視線に気づいたミズキは私に心配をかけまいとして一生懸命笑顔を浮かべてくれた。

(ごめんね、ミズキ。こんなことしかしてあげられない)

 私は右手を伸ばし、ミズキの左手を力強く握った。すると、ミズキも私の手を力いっぱい握り返してきた。冷え切った私たちの指先がお互いの手のぬくもりで少しずつ熱を帯びてくるのを感じた。

(手のぬくもりが私に教えてくれる。私は一人じゃない)

 

「入りたまえ」

 ユリアン副長の合図で、艦長室のドアが開かれた。中には、一日前のあの時と同じ人たちがあの時と同じ厳しい表情を崩さずに立っていた。私たちは戦闘班にうながされるまま部屋の中央まで進み、そこで立ち止まった。

 目の前のケネス艦長が真剣なまなざしを向けながらこう言った。

「まずは、亜種と戦った感想を聞かせてもらおうか」

 ミズキの体がびくりと震えた。私は思わずカッとなって言い返していた。

「ミズキは人間です!!」

 みんなの目が私に集中した。私は構わず言葉を続けた。

「ミズキは、誰が何と言おうと人間です!そして、私の大切な仲間です!信じた仲間の心を傷つけるような発言をするのなら、私はケネス艦長を許しません!」

(私、頭に血が上ってる・・・)

 自分でも、大それたことを言ったことに気がついていた。もっと、落ち着いて伝えたほうがよかったのかもしれない。頭では分かっている事が、何一つ実行できなかった。それくらい、私はケネス艦長の言葉に腹を立てていた。

(尾田先生なら、絶対にそんなことは言わない!)

 そう心で叫んだとき、自分の中に生まれた怒りの感情の半分が失望だったことに気がついた。

 ケネス艦長は、私の怒りのまなざしから目を逸らそうともせず、落ち着き払った声で答えた。

「同じ人間なら、なぜ君たちに襲い掛かった。君たちは、それまでに彼女に危害を加えたのか?」

「いいえ」

「では、なぜだ。理由もなしに、人が人を傷つけるのか」

「いいえ」

「しかし、昨晩それは行われた。君たちに非はなかった。しかし、彼女は君たちに襲い掛かった。理由もなしに人が人を傷つける行為。その行為を行うものを亜種と呼ぶことが君には許しがたいことなのか?」

「・・・」

 私は下唇をかみ締めた。そして、ケネス艦長の言葉を否定している自分を確かめた。

(・・・艦長は間違ってる・・・)

 間違っていると分かっているのに、そのことをケネス艦長やみんなに伝える言葉が出てこなかった。くやしかった。

「まあ、いい。話を戻そう。では、真友。君の意見を聞かせてもらおう。昨晩、亜種と戦ってみてどう思った」

「私の大切な仲間を亜種呼ばわりするバカとは話したくはありません」

 その瞬間、ユリアンさんの右腰のサーベルが真友ちゃんに突きつけられた。

「貴様、艦長に対してその口の訊き方は何だ!」

「うるさい!それはこっちの台詞よ!」

 自分に向けられたサーベルの切っ先を避けようともせず、真友ちゃんはユリアンさんに食って掛かった。

「止めてください!!」

 叫んだのはミズキだった。

「私が悪いんです・・・すみません。私が亜種なんかになってしまったから・・・すみません・・・すみません・・・」

 消え入りそうな声で何度も謝るミズキの姿に胸が痛み、怒りがこみ上げてきた。私が怒りの声を発しようとする前に誰かが声を発した。

「お前は別に悪くない」

知己だった。

「誰だって心が折れそうになる時ぐらいある。俺だって、しょっちゅうそんな時がある。けど、その度に誰かが俺を支えてくれたんだ。昨日までのお前は一人だったかもしれないけれど、今は俺たちがいる。だから、『今、ここで、出来る限りのことを精一杯』をやればいいんだ」

 知己はそう言って、ミズキの頭の上に右手をのせ、優しくなでた。ミズキの頬を涙が零れ落ちた。

「おい、泣くなよ。ここは、『はい!』って元気よく返事するところじゃねえか」

 おろおろする知己の姿を見ているうちに、こみ上げていた感情がすっと抜けていくような気がした。

(そうだ。私に今できることを精一杯やろう。みんなは必ず分かってくれる。誰よりも私が信じるんだ!)

「ケネス艦長。お願いがあります」

「・・・聞かせてもらおう」

 私は深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから話を始めた。

「私たちにミズキのことを任せてくれませんか。昨晩、私たちは確かにミズキと戦いました。知己と真友ちゃん、瞬と刹那ちゃん、そして私の五人がかりで戦いました。正直な感想を言えば、恐ろしかったです。けれど、私たちはミズキを信じました。戦いながら涙を流すミズキの心を信じました。戦いをしかけてきたのもミズキなら、戦いを止めたのもミズキです。私は、その心を信じます。もし、任せてくれないというのなら、私はこの船をミズキと共に降ります」

 ケネス艦長は静かに目を閉じ、しばしの沈黙の後、また、目を開いた。

「いいだろう。彼女のことは君たちに任せよう。ただし、条件がある」

「条件?」

「そうだ。現在、君たちはそれぞれ違う部隊に所属しているが、今後はユリアン副長の直属の部下となってもらう。この条件を受けるのなら、君の提案を受け入れよう」

「あの、それってどういうことですか?」

 私には、ケネス艦長が何でそんなことを条件に出すのかが理解できなかった。ユリアン副長が前に出た。

「私の直属の部下になるということは、貴様たち全員がこれから行う作戦の実行部隊に編入されたということだ」

「???」

 私の頭の中のクエスチョンマークがまた一つ増えただけだった。

「まーだ、分からねえのか、情けねえな!」

 モレルさんが痺れを切らしたように大声を上げた。

「ミズキちゃんを連れ去ったやつらを叩き潰しに行くんだよ!」

(!!!)

 私は驚いて、前に居並ぶ人たちの顔を見た。ケネス艦長とユリアンさんを除くすべての人がさっきまでの厳しい表情から打って変わって、嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

「まったく、一番おいしいところを持っていくんだから、モレルさんは」

 そう言って、モレルさんの背中を思い切りたたいたのはリノンさんだった。こめかみを押さえながら、「やれやれ」とあきれた顔をしながらも、嬉しそうなジョヴァンニさん。

「悪い、悪い。けど、俺の言った通りだったろ。こいつらなら大丈夫だって。な、艦長」

「ああ、そうだな。モレルの言うとおりだった」

「だろ。ほれ、見てみろ」

 得意げにそう言うモレルさんにリノンさんが抗議した。

「みんなで話し合って決めたことでしょ。一人だけいいものになろうなんてずるいわよ」

 ジョヴァンニさんが言葉を挟んだ。

「そうですね。それに、ここにいる、全員、誰一人欠けることなく彼らのことを信じていました。ただ、念には念を入れただけです」

 私はあまりの急展開に一瞬思考が止まってしまった。

(これって、どういうこと?)

 目を白黒させている私の前にモレルさんがやってきた。そして、私の肩をぽんぽんとたたきながらこう言った。

「つまり、お前たちを試したってことだ。悪かったな、嫌な思いをさせて」

(そうだったんだ・・・)

 目の前で満面の笑顔を浮かべているモレルさんを見ていると、何も気にせずに笑顔を返さなくちゃという気になった。けど、笑えなかった。だから、せめて何か返事をしようと思い口を開いたけれど、言葉が出てこなかった。代わりに、涙がこぼれた。

「ふざけるな!!!!お前たち、何様のつもりだ!!!」

 怒りの声を上げながらモレルさんの胸倉につかみかかったのは、瞬だった。

「高山さんがどんな気持ちでこの夜を過ごしたと思ってるんだ!お前たちにどんな思惑があったにせよ、『試す』なんて安易な考えで高山さんの真剣な思いを弄ぶな!!」

 瞬の言葉に、モレルさんやみんなの顔から笑顔が消えた。

「人を試しておいて、本当は信用していたなんて言葉を俺は信じない!本当に信じるということはそんなものじゃない!!!そうじゃないのか!!」

 瞬の頬を涙が伝った。泣きながら、モレルさんの胸倉を揺さぶり続けた。

「もっと言ってやれ、瞬!俺だって頭に来てんだ!!」

「そうよ!そうよ!」

 知己と真友ちゃんが瞬の言葉に同調して、騒ぎ始めた。モレルさんたちは悲しいものを見るような目を瞬に向けていた。瞬の言葉は続いた。

「昨日の戦いをお前たちは見てたのか!!!一歩間違えればみんな死んでた!俺たちの誰一人が欠けていたとしてもこの結果には決して届かなかったギリギリの戦いだったんだ!!だけど、俺たちは一歩も引かなかった!逃げようともしなかった!なぜだか分かるか!!!高山さんが本気だったからだ!高山さんを信じていたからだ!その高山さんの心を『試す』お前らを俺は絶対に許さない!!!」

 ガツッッッ!!

 鈍い音が鳴り響き、瞬が床に崩れ落ちた。私はあわてて瞬のもとに駆け寄り、抱き起こした。瞬の左の頬が赤黒くはれ上がり、唇からは血が流れていた。

「甘ったれるな!!!」

 仁王立ちになり、瞬をにらみつけていたのはユリアンさんだった。

「モレルの言葉が気に食わないのなら、私が訂正してやる。ああ、そうだ。我々は、貴様たちを信用などしていない。信用していないからこそ、試した。これで、満足か」

 瞬は、口元の血を袖で拭うと、よろめきながら立ち上がった。

「俺は、そんなことを言ってるんじゃない!!」

「では、何だ。まさか、貴様は自分が信じられているとでも思っていたのか。思い上がるのもほどほどにしろ!貴様たちの何を我々が信じられるというのだ!何の結果も出していない、亜種の本当の恐ろしさを知りもしない、そんな貴様たちの何を信じろというのだ!」

 まるで身体を射抜くかのような眼差しでそう言い放ったユリアンさんに、瞬はたじろぎながらも言い返した。

「たしかに、あなたの言う通りかもしれない・・・けど、あなたたちが信じなくとも、俺は、俺たちは高山さんの言葉を、心を信じている。だから、俺は俺たちの一番大切なものを試した、あなたたちを許せない!」

 瞬は唇をかみ締め、ユリアンさんをにらみつける瞬の姿に私は胸が熱くなった。

(今の瞬は、きっと何をされようとユリアンさんに立ち向かっていく)

 そのことをユリアンさんも理解したのか、腰のサーベルをもう一度抜き、瞬の目の前に突きつけた。

「ならば、その覚悟を見せてもらおう」

「おい!ちょっと、待て、それはやりすぎだろう」

 モレルさんが止めに入ろうとした、その時ケネス艦長が口を開いた。

「許してもらおうとは思わない」

 重々しく、威厳に満ちた声だった。部屋にいた全員がケネス艦長へと目を向けた。

「ユリアン。一旦引いてくれないか」

「それは、命令ですか?」

「いや、友からの頼みだ」

「・・・」

 ユリアンさんは、突きつけたサーベルを腰にしまうと、うやうやしくケネス艦長に頭を下げて、元の位置に戻った。

「ありがとう、ユリアン。・・・さて」

 ケネス艦長は、私たちに向かって話し始めた。

「私は、君たちに許してもらおうとは思わない。君たちを試したことは事実だ。それを信頼とは言わないことも知っている。その上で、私は君たちを信じたい。いや・・・」

 一瞬の沈黙の後、

「君たちを私に信じさせてくれ。たとえ、何があろうとも今の君たちの気持ちを失わないということを、私に証明して見せてくれ!」

 まるで、私たちの心に見えない楔を打ち込むように、ケネス艦長はそう言い放った。

「君たちのことを試しておいて、こんなことを言うのは虫のいい話だと思う。だから、今、私が言ったことは命令ではなく、頼みだ。無理強いはしない」

 ケネス艦長は、口を閉じて、私たちの返事を待った。

(答えは決まってる。けど・・・)

 私の一存で決めていいの。そんな不安が心をよぎった。

(私のせいで、みんなを大変なことに巻き込んでいいの?)

 胸の鼓動が高鳴り、私は両手の拳をぎゅっと握った。俯いていた顔を上げ、前を見た。気づくと、みんなが私を見つめていた。

(瞬が、言ってくれた。私を信じてるって・・・なら、私もみんなを信じる!)

 私は、ケネス艦長の目をしっかりと見つめながら思いのたけをぶつけた。

「私たちは、何があろうと今のこの気持ちを忘れません。ミズキを信じ、仲間を信じ・・・何よりも、人間を信じます!そして、このことが言葉だけでないことをこれからの行動で必ず証明してみせます!だから、ミズキを私たちに任せてください、お願いします!」

 私が頭を下げると、みんなも一斉に頭を下げた。それを見て小さくうなずくと、ケネス艦長は椅子から立ち上がり机の前に立った。そして、深々と頭を下げた。

「ありがとう。よろしく、頼む」

 その姿を見たとき、胸がきゅっと締め付けられた。

(あの時と同じだ。)

 目の前の光景と、五年生になったばかりの放課後の光景が二重写しになった。あの時も、同じように尾田先生が私たちに頭を下げたんだ。そして、こう言ったんだ。

「私に君たちを信じさせてくれ!」

 ケネス艦長の言葉に、私たちは即座に答えた。

「はい!!」


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