5月9日(水)放課後 「宝探し」(2)
はじめての小説投稿となります。つたない文章ですが、書き溜めたものを少しずつ更新していきたいと思います。
私たちは、自転車で5分ほどのところにある、九頭竜神社の前にやってきた。道がくねくねと曲がり始めるのがちょうどこの神社の前からだ。
「しかし、いつ来ても古めかしい神社だな」
知己は、大人が手を広げたら届きそうなくらい小さな鳥居にもたれながらそう言った。
「ていうか、ここ本当に神社なの。ぼろぼろだし、小さいし、なんだか薄気味悪い」
真友ちゃんは、少し顔をこわばらせた。
「あ、真友。お前、確か、怖いのが苦手だったよな。幼稚園のころのこと覚えてるか。あの時、お前・・・」
そう言った途端、真友ちゃんの長い足が地を這って、綺麗な円を描いた。次の瞬間、知己は、足をすくわれ、宙に舞い、そして、地面に叩きつけられた。
「いてー!何すんだよ!」
知己のことを完全に無視して、真友ちゃんは私と瞬のほうを向いた。
「バカは気にせずに、早く宝探しを続けましょ。この神社から続く道がもともと川だったとして、橋はどこにあったのか予想できる?」
そう、それが問題。この道が川だったとして、橋がどこにあったのかなんて分かるのかな?瞬を見てみると、リュックサックからさっきの地図を取り出して地面の上に広げた。
「ここから続く道は、西に向かうほど次第に低くなっている。ということは、もし、ここに川があったと仮定するなら皐月山からこの九頭竜神社付近を水源として、川は流れていたと考えられます。道幅が狭いことから川幅も広くない小さな川であったことも推測されます。橋は人が川の向こうに安全に早く渡りたいという必要性から作られるものだから、当然人通りが多く便利な場所に作られたでしょう。また、人が多く通るため橋の幅は広めに作られたであろうことから、曲がりくねった場所ではなく、比較的直線的な場所にあったのではないかと考えられます。以上の条件から推測すると、星の宮神社前と高田燃料店前、そして、中田材木店付近、以上三箇所が候補としてしぼられます」
ほー。
みんなそろって感心のため息をついた。
(瞬って、本当に小学生なのかな?)
私は、なかば感心したような、なかばあきれたような心地で瞬の話を聞いていた。時折瞬は、変に大人びたそぶりを見せることがある。いつもは優しく見える表情が、その時だけは眉間にしわをよせて少しつらそうに見える。今も、眉間にしわをよせて自分の考えをひたすら話し続けていた。そんな瞬を見るのはちょっと嫌だ。だから私は、言葉をはさんだ。
「ねえ、瞬。とりあえず、道なりに歩いていかない。頭で考えるのも大事だと思うけど。実際に見てみないと分からないことってたくさんあると思うんだ」
「そうだぜ、瞬。とりあえず、当たってくだけてみようぜ。この前も尾田先生が言ってただろ。えーと、何だっけ。ほら、あれだよ。」
「『できる、できないを考えるよりも、やったかやらなかったのかを大事にしろ。』だろ。」
瞬はそう答えると、さっと立ち上がった。瞬の顔からは、いつもの優しい笑顔がこぼれていた。私も瞬にならって立ち上がった。知己も真友ちゃんも立ち上がった。みんな、なんだかニコニコしていた。ううん、ちょっと違う。きっと、ワクワクしている。そうだ、ワクワクした気持ちがだんだん強くなってきている。こんな時、真っ先に声を上げるのは知己だ。
「さあ、行こうぜ!宝探しに出発だ!」
九頭竜神社から、西に向かって歩いていくと、右手には住宅が。左手には、古くからある店舗が並んでいた。私の住む町。いつもの風景が、宝探しを始めると、なんだか違うものに見えてきた。気にもしなかった店先の看板や、住宅から伸びる木の枝、行きかう人々の様子まで新鮮に感じられる。
(なんだか、不思議な気分だな)
私たちは、ゆっくりと周りに目を配りながら歩いていった。
「あ、そうだ!」
突然、真友ちゃんが声を上げた。
「私、お母さんからお遣い頼まれてたんだ。ほら、昨日先生が話してくれた和菓子屋さん」
「『桃福』さんのこと」
「そう、『桃福』の大福。めちゃくちゃ、おいしいんだ。のぞちゃんも食べたことある?」
「うん。おばあちゃんが、よく買ってきてくれるから」
「というわけで、私、今から大福買ってくるから。ちょっと待ってて」
「あ、真友ちゃん。私も行くよ」
私が真友ちゃんについて行くと、知己と瞬も「しかたない」と言いながらついてきた。
「いらっしゃい。何か御用?」
店に入ると、白い割烹着をきた優しそうなおばあさんが声をかけてくれた。
「すみません、大福を10個ください」
「げ、真友。お前そんなに食うのかよ。だから、そんなに体がぶくぶく・・・」
瞬と私はとっさに知己の口をふさいだ。見ると真友ちゃんは北極の氷のように冷たくするどい目つきで知己をにらみつけていた。
(あぶない、あぶない)
さすがに、お店の中で真友ちゃんの正拳突きが炸裂したら大変なことになるからね。私は知己の口をふさぎながら話題をそらそうとおばあさんに声をかけた。
「そういえば、このお店はできてから138年になるんですよね。」
「あら、うれしい。よく、知っているわね。江戸時代にこのお店ができた時は、開店前からお客さんが並ぶくらい繁盛していたのよ」
(あれ?)
何か引っかかるな。真友ちゃんは、おばあさんとおしゃべりを始めていた。知己といえば、店のショーウィンドウをかじりつくように眺めていた。瞬だけが、難しい顔をしていた。
「すみません、おばさん。つかぬことをお聞きしますが、神社から通じているこの道は、この店ができた時から道だったのですか?」
そうそう、瞬が私の聞きたいことを聞いてくれた。
「?」
おばあさんは、不思議そうな顔をして瞬の顔を覗き込んだ。そして、瞬がしっかりと自分に目を向けていることを確認すると、少し考えてから返事をしてくれた。
「なにを聞いているのか、あまりよく分からないけど。私が、小さいころおばあさんから聞いた話だと、この道はお城の前の一番大きな通りで、とても古くからあったって聞いてるわ。なんでも、東西南北を結ぶ二つの街道がぶつかる場所でとっても人通りが多かったって」
「そうですか・・・」
瞬は、そう言うと黙ってしまった。
(宝探しは、最初からやり直しだな)
あーあ。せっかく盛り上がりかけてきたところなのに、始まってすぐに私たちの考えが間違ってるって聞かされるのは、ちょっとつらいかな。
事態を把握できていない知己は、あっけらかんとした顔でこう聞いた。
「おばさん、じゃあ、昔この店のすぐ近くに川とかってなかったかな」
「よく知ってるわね。そう、この道のすぐ横。今は家が建ってるけど、この道に沿って、朱鷺野川まで続く川があったのよ」
「本当!」
私と瞬と真友ちゃんは、一斉に声をあげた。おばさんはびっくりしながら「ええ。」と応えてくれた。
(すごい、また一つなぞが解けた)
瞬は、会心の笑みで語り始めた。
「そうか、考えてみれば簡単なことだ。道の左側には古い店が並び、右側には比較的新しい住宅が並んでいる。当然、古い店があったということはそこに古くから道が存在していたことを証明している。よって、川があるとすれば道の右側ということになる」
「はいはい、説明ありがとう。瞬」
そう言って、知己と真友ちゃんは、まだまだ語り続けそうな瞬の肩を軽くたたいて、我に返させた。おばさんと言えば、とつぜん騒ぎ出した私たちの様子を見て、きつねにつままれたような様子だった。
「おばさん。おどろかして、すみません。実は、私たち昔ここにあったていう橋を探しているんです。もし、何か知っていたら教えて欲しいんですが」
私が訪ねると、おばさんはすまなさそうな顔をして
「ごめんね。おばさん、川があったことは聞いたことがあるけれど、橋があったかどうかは、聞いたことがないの」
「そうですか。いろいろ、教えてくれてありがとうございました」
「いいのよ。若い人が、この町の昔のことを知ってくれるのは、うれしいことだから。力になれることがあったら、また、なんでも聞いて頂戴ね。」
「はい!ありがとうございました!」
私たち四人は元気いっぱいにお礼を言うと、お店を後にした。
「すげー!やっぱり、宝はこの町にあるんだ。おい、希望。もし、宝が手に入ったら、何が欲しい。って、真友!なに食べてんだよ!」
「・・・何って、大福。んぐっ。はー、おいしい。はい、のぞちゃんも食べて」
真友ちゃんから手渡された大福は、しっとりやわらかくてまるで小さな丸い生き物を抱えているような気がした。
「え、いいの。お母さんに頼まれたお使いなんでしょ」
「うん。みんなと一緒にでかけるって言ったら、一つずつ食べていいよ言ってたから。だから、遠慮なく食べてね」
「ありがとう。じゃあ、いただきます」
私は、真っ白な大福にかじりついた。
(おいしい!)
やわらかくてふっくらとしたお餅の中から、甘くてすこししょっぱいあんこが口の中に広がった。もう、それだけでなんだか幸せな気分に包まれてしまう。
「はい、瞬もどうぞ」
真友ちゃんが瞬に大福を渡すと、知己は真友ちゃんの正面にたって両手を差し出した。真友ちゃんは、冷たい表情で知己を見つめた。
「何のつもり?」
「大福」
「大福をどうして欲しいって?」
「くれ」
「いや」
「くれ」
「いや」
「・・・」
「・・・」
知己と真友ちゃんは、しばらく無言でにらみ合っていた。しばらくして、知己は大きなため息をつくと、意義を正して真友ちゃんに話し始めた。
「・・・真友さん、申し訳ありませんでした。今後、からかったり悪口を言ったりしないようにできるかぎり気をつけてまいりますので、なにとぞ、このあわれな私めにその大福をお与えください」
話し終えると、知己はうやうやしく頭を下げた。真友ちゃんも大きなため息を一つついて「どうぞ」と言うと、知己の手の上にぽんと大福を載せた。
「サンキュー!真友」
そう言って、知己は大福にかじりついた。本当に、知己ってお調子ものなんだから。まあ、そんな知己だから一緒にいて楽しいんだけどね。ふと、真友ちゃんのほうを見ると、大福をほおばる知己の姿をなんだか優しい眼差しで見つめていた。
大福を食べた後、私たちは道沿いに歩きながら、橋が架かっていた場所を探していった。けれど、新しい手がかりは見つからなかった。みんな、残念そうだった。瞬の提案で、今度の土曜日にもう一度、宝探しをすることに決まった。こうして、私たちの宝探しは、次の土曜日に持ち越されることになった。
この度は、私の作品をご覧頂き誠にありがとうございます。感想、ご意見などございましたら、ご連絡をいただければ幸いです。