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三日目 「信頼の意味」(4)

今日は少し早めに帰れたので早めに更新完了して、早めに寝ようと思います。

 それから、瞬と真友ちゃんの勧めもあって、私は少し休むことにした。知己と刹那ちゃんが寝ている二段ベッドの隣の一段目に体を横たえた。あまり疲れていないつもりだったけど、ベッドの上で目を閉じると、体中の疲れがベッドにじわりじわりと染み出ていくように感じた。

(私、こんなに疲れてたんだ)

 よく考えれば、この世界に来てから緊張の連続だった。私が知っていた今までの世界と全く違うこの世界では、何もかもが新鮮で知らないことばかり。きっと、一日中、私は知らず知らずのうちにこの世界の中で生きていくための努力をし続けていたんだと思う。知らないことばかりのこの世界では、生きていくこと自体が勉強みたいなものだ。ふと、尾田先生の言葉が思い出された。

(『学生』っていうのは、『学んで生きる』ではなくて、『生きることを学ぶ』から『学生』って言うんだ)

 なんとなく先生の言葉の意味が分かったような気がした。そう思うと、少し嬉しくなった。



「希望、起きろ。交代の時間だ」

 知己の声で目が覚めた。目をこすりながら窓の外を見ると、月の光に照らされた海面が静かに揺らいでいた。

「お前、眠りながらニヤニヤしてたぞ」

「え、うそ」

「変な夢でも見てたんじゃねえのか・・・って、この世界のほうが夢なんだよな」

「夢は見なかったけど、尾田先生のことを思い出してた」

 尾田先生の名前を聞くと、知己は途端に真剣な表情を見せた。

「会いたいな。先生に」

 知己の言葉に、私は深くうなずいた。

「まあ、それはそれとして次は希望と瞬の番だ。早く、起きろよ」

 そう言うと、知己はまた二段ベッドの上に登り、すぐに横になった。私が急いで起き上がろうとすると、ベッドの傍らに真友ちゃんがやってきた。

「よく眠れた?」

 笑顔でそう言った真友ちゃんに、私も笑顔を返した。

「うん!よく眠れたよ」

「じゃあ、交代」

 真友ちゃんの差し出した右の手のひらに私も右の手のひらを軽く合わせた。そして、私が起き上がり、真友ちゃんがベッドへともぐりこもうとしてお互いすれ違ったとき、小声で真友ちゃんがこう言った。

「後で聞いてほしい事があるんだ」

 緊張気味の声でそう言った真友ちゃんに、私は黙ってうなずいた。私の仕草を確認すると、真友ちゃんはまた笑顔を向けて、ベッドに寝転んだ。

「おやすみ、のぞちゃん」

「うん。おやすみ」

 私は、真友ちゃんが目を瞑ったのを確かめると、いそいそとミズキの眠るベッドの傍らへと向かい、瞬の向かいの席に座った。

「ごめんね。私、すっかり眠ってた」

 私がそう言うと、瞬は笑顔を返してくれた。

「ゆっくり休めて何よりです。きっと、疲れていたんですよ。それに、僕にとってはとても幸せな時間でした」

「どういうこと?」

「こんな時でもなければ、高山さんの寝顔を見ることなんて出来ませんでしたから」

 私は、瞬の言葉に頬が熱くなるのを感じるとともに、なんだか少し違和感も感じた。だから、私は率直に聞いてみた。

「ねえ、瞬。この世界に来て何か変わったことでもあった?」

 瞬は少し驚いたような表情をした後、クスリと笑った。

「おかしなことを言いますね」

「え、え。私、変なこと言った?」

「はい」

(私、そんなにおかしなこと聞いちゃったのかな?)

 私が頭をかしげて考えていると。瞬は、さも楽しそうに言葉を続けた。

「だって、そうでしょ。この世界に来て、変わってないことなんてありましたか?」

(・・・。)

「ない。」

「だから、高山さんの質問がなんだかおかしくて。すみません、笑ったりしてしまって。それで、本当は何を聞きたかったんですか?」

 私は瞬のこういうところも好きだ。

(少し自分の考えていることを頭の中で整理してみよう・・・)

瞬に自分の思っていることを正しく伝えるためにはどう言えばいいのかをしばらく考えてみた後、瞬に改めて質問した。

「この世界に来てから、なんだか瞬の様子がいつもとちょっと違うように感じるんだけど、何かあったのかな?」

 私の言葉を聞くと、瞬は即座こう答えた。

「はい、ありました」

 瞬の言葉に私は真剣なまなざしで自分の気持ちを言葉にした。

「よければ、その理由を教えて欲しい。私ね、もし、瞬が嫌なことやつらいこと、悩みや、問題を一人で抱え込んでしまっているなら、私、力になりたい」

 瞬は、照れくさそうに微笑んだ後、はっきりと聞こえる確かな声で話し始めた。

「ありがとうございます。僕は、本当に幸せです。高山さんのような人に出会えて。だから、正直に答えます。僕は、今、心の底から悩んでいます。どうしたら、高山さんやみんなを守る事ができるのかということを。この世界に来て最初の日、あの巨大イカを見た時、現実離れした出来事に対して何も出来なかった自分の無力さを感じたとき、僕はその思いに押しつぶされそうになりました。けれど、高山さんや、知己や、後藤さんの心が僕の心を支えてくれました。ここがどこかなんて関係ない。みんなのために、今、ここで出来る限りのことを精一杯やろう。そう心に決めたとき、悩みが悩みでなくなったような気がしたんです。不思議ですね。今でも、分からないことだらけで、不安でないことなんて一つもないのに、みんなのために出来る事がまだまだあるって思ったら。こんな自分でもみんなの役に立つ事ができると思ったら、勇気が湧いてくるんです。

 高山さん」

「はい」

 瞬の呼びかけに反射的に答えていた。

「僕は、この世界に来ることができて、初めてあなたに近づけたような気がします」

 正直、言葉の意味はあまり理解できなかったけれど、素直な笑顔でそう語った瞬の姿は眩しくて暖かかった。だから、私も今胸にこみ上げてきている気持ちを込めてこう言った。

「私も、そんな気がするよ」

 そう言うと、瞬は本当に嬉しそうに笑った。私もなんだか嬉しくなって笑ってみた。

(あ、そういえば)

 突然、さっきの瞬の言葉を思い出したので、思わず尋ねてみた。

「ねえ、瞬。」

「何ですか?」

「私の寝顔を見ると幸せになれるの?」

 途端、瞬は顔を真っ赤にした。

「え、あ、その。それは、なんていうか。普段、見られないものなので・・・別に、他意があったわけではなくて、その・・・」

「私の寝顔を見て幸せな気分になれるんだったら、いつでも見ていいよ。あ、でも、やっぱり少し恥ずかしいかな」

 途端、瞬は顔を真っ青にした。

「すみません!すみません!高山さんが、恥ずかしい思いをされるのなら、二度と寝顔を見たりはしません!本当に、すみません!」

 そのあわてっぷりが、なんだかとても可愛く見えて、私は思わずこう言っていた。

「瞬になら寝顔を見られても平気だよ」

 その言葉に瞬はまた、顔を赤くした。そして、そのまま黙ってうつむいてしまった。そんな瞬の様子を見て私は、

(やっぱり、瞬は瞬だ。)

 そんな風に思った。


 コンコン


 そんな時だった、扉の外からノックの音が聞こえたのは。

「誰かな?」

 私が立ち上がりかけると、瞬は手で制止して先に立ち上がった。

「僕が応対します。高山さんは、ここにいてください」

 私がうなずいたのを確認すると、瞬は扉の前にすばやく移動した。そして、

「どなたですか?」

 返事はない。瞬がもう一度、声をかけても返事は返ってこなかった。そのかわりに、


 コンコン


 もう一度ノックの音が聞こえた。

「どなたか知りませんが、返事をしてください。それに、この扉はこちら側からは開ける事ができません。用事があるのなら、そちらから扉を開けてください」

 瞬の言葉に、ドアの向こう側でガチャリと錠が開く音がした。そして、扉がギーっと音を立てながらゆっくりと開いた。瞬と私が身構えながら待つ中、扉の向こうから小さな女の子が現れた。

「エヴァ?」

 私の声を聞くと、エヴァは白い寝巻き姿で駆け寄ってきて、勢いよく私の胸に飛び込んできた。

「希望、会いに来たよ!」

 無邪気な笑顔でそう言いながら、私の胸に顔を摺り寄せてくるエヴァは、まるで生まれたての子猫のように可愛く感じられた。私は、エヴァの頭を優しくなでながらエヴァがどうしてここに来たのかを考えてみた。そして、私がどう行動すればいいのかを考えた後、言葉を選んでエヴァに語りかけた。

「エヴァ。どうして、ここに来たの?」

「希望に会いたかったの。どこを探してもいなかったから、ケネスに聞いてみたの。そしたら、ここだって言ってたから」

「その時、ここには来ちゃだめだって言われなかった?」

「・・・。」

 エヴァはうつむいたまま返事をしなかった。

(やっぱり。)

 私は自分の考えが間違っていないことを確認すると、言葉を続けた。

「来ちゃだめだって言われたのに、私に会いに来てくれてありがとうね」

 私の言葉にエヴァは満面の笑顔を返した。

「でもね、エヴァ。残念なんだけど、私たちはここでやらなくちゃいけないことがあるの。ほら、ここで寝ているお姉さんがいるでしょ。このお姉さんを元気にしてあげなくちゃいけないの。だから、とっても忙しいの。エヴァは賢いからわかるよね」

「うん!」

「じゃあ、もう遅いから自分のお部屋に戻っておやすみしようね」

「次はいつ会えるの?」

「このお姉さんが元気になったら、すぐに会えるよ。だから、待っててね。今度は、私がエヴァに会いに行くからね」

「うん!約束だよ!」

「うん!約束!」

 エヴァはもう一度満面の笑顔を浮かべた後、私の首元に飛びつき、私の頬に軽くキスをした。

「えへへ、おやすみのキス」

 そう言って、エヴァが私から離れようとしたその時だった。目を閉じたままのミズキの左手が動き出し、エヴァの小さな腕をつかんだ。私と瞬が驚きのため声を失っていると、エヴァはミズキの顔をしげしげと見つめながらこう言った。

「お姉ちゃん、起きてるの?」

 ミズキは目を閉じたままだったけれど、ちいさく頷いた。

「元気になった?」

 ミズキは今度も小さく頷いた。

「じゃあ、もう起きる?」

 その言葉を聞くと、突然、ミズキの翼がぶるぶると震え始めた。


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