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三日目 「信頼の意味」(3)

本日分、更新完了です。昨日は上手く更新できていなかったので、今度からきちんと更新されたかどうか確認するようにします。

 真友ちゃんへの質問を終えた後、瞬は少し調べ物をしたいからと本棚へと向かった。その間に私と真友ちゃんは女の子の体を拭いてあげることにした。

「瞬。分かってると思うけど、絶対にこっちを向いちゃだめだからね」

「僕は知己と違って、一時の欲望のために自分の命を投げ出すような真似はしませんよ」

 こちらに目を向けようともせず本に集中している瞬に真友ちゃんは満足そうにうなずいた。それから、二段ベッドにつかつかと歩み寄り、知己の耳元でこう囁いた。

「寝てるんならそのまま寝てなさい。ただし、偶然だろうが、たまたまだろうが、あの娘の裸を見たら二度この世界を見られないようにしてやるから、そのつもりでいなさいよ」

 知己は本当に寝ているようで、すやすやと寝息を立てていた。

「ふふ。かわいい顔して寝ちゃって」

 そう言って、真友ちゃんが知己の鼻の上を指先で軽くなでた。

「真友ちゃんは、知己の寝顔を見るのは初めて?」

 真友ちゃんは、知己の寝顔から目を離さずにこくりとうなずいた。

「知己って、寝てる時は可愛いでしょ。昔、私の家に知己が泊まりにきたときも、そうだったよ。起きてるときはうるさいくらいなのに、眠るとまるで赤ちゃんみたいに穏やかな顔になるの」

 私の言葉に真友ちゃんは少し驚いたような顔を私に向けた。それから、何か言おうとしたけれど、口を閉じて、また知己の寝顔を見つめ始めた。

(余計なこと言っちゃったかな)

 私は、真友ちゃんが知己に対して持っている気持ちを考えずに、知己との思い出を話してしまったことを後悔した。すぐに、真友ちゃんに何か話そうと思ったけれど、何を言っても言い訳になりそうな気がして何も言えかった。だから、私は

「先に体を拭く準備をしておくね」

 そう言って、体を拭く濡れタオルを用意しようと席から腰を上げた。

(え!)

 立ち上がろうとした私の袖を真っ白な指がつかんでいた。

「あなたは、誰?」

 うっすらと開かれたまぶたの奥から青く澄んだ瞳がのぞいていた。私は、思わずこう答えていた。

「私は、希望のぞみ。あなたは?」

「・・・こんな私でも、まだ希望がある・・・嬉しいな・・・希望・・・私は、ミズキ・・・」

 声はだんだんと小さくなり、ゆっくりとまぶたは閉じられた。そして、私の袖をつかんでいた指先からは力が抜け、彼女の細い腕はふわりとベッドの上に落ちた。私は、彼女の名前を呼ぼうとして止めた。彼女がさっきよりも幾分安らいだ様子で寝息を立て始めたからだ。ふと、気づくと瞬と真友ちゃんが私のすぐ後ろから彼女の様子を覗き込んでいた。

「のぞちゃん。今、この娘、一瞬だけど目を覚ましたよね」

「うん」

「何を話したの」

「『あなたは、誰?』って聞かれたから。名前を言ったの。そうしたら、この娘は自分のことをミズキだって。」

「へえ、この娘ミズキっていうんだ。こんな綺麗な金髪だから、もっと外国風な名前かと思ってた」

 真友ちゃんは、ミズキの前髪を優しく撫で上げながら「早く元気になってね、ミズキ」と優しく囁いた。

「他には何か言いませんでしたか?」

 少し興奮した様子でそう聞いてきた瞬に私は、さっきの会話をできるだけ丁寧に伝えた。

「『まだ、希望がある』そう言ったんですね」

「うん。確かにそう言ったよ」

「そうですか・・・ありがとうございます。僕はもう少し考えをまとめてみます。二人は予定通り、この娘・・・ミズキさんの体を拭いてあげてください」

 そう言うと、瞬はまた本棚へと戻っていった。私と真友ちゃんは手早く体を拭く濡れタオルを用意すると、ミズキの体にかけられているシーツをゆっくりと足元まで引きおろした。上半身が露わになったミズキの姿はお姫様そのものだった。

「綺麗・・・」

 真友ちゃんが思わず、そう漏らした。ミズキは純白のシルク地の布で体を装っていた。扇形に広がった布はちょうど肩のところで結び合わされ、ワンピースのようになっていた。真っ白のベッドに、真っ白のシーツ、真っ白の装いが、ミズキの透き通るような白い肌と長い金髪をより一層引き立て、美しく見せていた。けれど、

(ひどすぎる・・・)

 ミズキが美しく見えれば見えるほど、彼女の背中にある緑色の一対の翼は禍々しく、痛々しく感じられた。だから、私は

「真友ちゃん。私、この翼を拭いてあげたい」

 少し驚いた様子を見せた後、真友ちゃんは「いいよ」と答えてくれた。

「じゃあ、私は上から拭いていくね」

 真友ちゃんが首から体全体を拭き始めると、私は爬虫類を思わせる緑色の翼にそっと触れてみた。人間の肌とは思えないくらい、それは冷え切っていた。だけど、翼のところどころに浮き上がっている血管(?)は、小刻みに脈打っていて、この翼が作り物ではないことを私に強く感じさせた。

(この翼もミズキさんだ!)

 私の心の奥底に芽生えた暗い感情を振り払うようにそう心で叫んでみた。

(確かにこの翼はミズキさんの意に沿わない形で生まれたものかもしれないけれど、だけど、これも確かにミズキさんなんだ)

 ユリアン副長の言葉が頭の中に蘇った。

『我々の根幹をなす心が砕け散り、そのありようが根本的に変わるとき、あらゆる生物は亜種となる』

 けど、たとえ心のあり方が変わっても、それでもその心はその人のもののはず。だったら、どんなに変わってしまっても、私は私で、ミズキさんはミズキさんのはずだ。たとえ、目の前にあるこの翼がどんなに醜いものであろうと、ミズキさんの背中に生えているものなら受け入れてみせる。その覚悟がなくて、この人を救えるはずがない。けど・・・

 心の中の葛藤は続いていた。けれど、私は目の前にある緑の翼を優しく丁寧にタオルで拭き始めた。尾田先生の言葉を心に思い浮かべた。

(『迷ったら進め!』)

 尾田先生の顔を思い描き、先生の言葉を何度も繰り返すと、胸が熱くなってきた。目の前の現実に向き合う勇気が湧いてくるのを感じた。

(よし!今、出来ることを精一杯だ!)


 少し時間はかかったけど、私たちはミズキさんの体を無事拭き終える事が出来た。汗を綺麗にぬぐわれたミズキさんの寝顔は心なしか嬉しそうに見えた。

「瞬。もう、いいわよ」

 真友ちゃんの言葉に、瞬は本に目を通しながらこちらにやってきた。そして、元の席に戻ると、本をパタンと閉じた。そして、小さな声で話し始めた。

「後藤さん。質問があります。少し、近づいてくれますか。」

 瞬の手招きに応じて、私たちは顔を近づけた。

「『海賊紳士』の中に、刹那さんは登場しましたか?」

 瞬の問いかけに、真友ちゃんは即座に「うん」と答えた。

「では、刹那さんは第何巻から登場しますか?」

 今回も真友ちゃんはすぐに答えようと口を開いたけれど、言葉は出てこなかった。 

「あれ?えーと、ちょっと待ってね。すぐに、思い出すから・・・」

 そう言って、真友ちゃんは首をかしげて考えこんでしまった。瞬は、その様子を見ると、質問を変えた。

「では、昨日、刹那さんが歌った『うた』は物語の中に出てきますか?」

「あ、それならまかせて。昨日の『詩』は出てこなかった。けど、違う『詩』なら何度も出てくるよ。」

「たとえば、どんな時ですか?」

「『海賊紳士』で使われる『詩』はね、ちょっと特別なの。のぞちゃんも、知ってるよね」

「うん。たしか、『詩』には、誰もが持っている自分だけの『詩』と、『詩の担い手』が歌うことのできる『開きの詩』があって、自分だけの『詩』は、自分自身の心の力をいろいろな形で引き出すことができて、歌い手が使う『開きの詩』は、他の人の心からも力を引き出すことができる。ってことだったと思うんだけど、合ってる?」

「大正解!さすが、のぞちゃん」

「へへへ」

「今、のぞちゃんが言った通りで、ほぼ正解」

 瞬が怪訝そうな顔をした。

「完全な正解ではないのですか?」

「うん。のぞちゃんは二巻までしか読んでないから知らないけれど、五巻になって、第三の『詩』が出てくるの」

「それは、どういうものですか?」

「それはね、『言葉なき犬達』のサキ=アヤハが歌った『閉ざしの詩』。この『詩』は、いわば呪いみたいなものでね、さっき言った『詩』が心の力を引き出すものだったら、この『詩』は心の力を封じ込めるものなの。この『詩』の登場でケネス達は大ピンチになっちゃうんだから。それでね・・・」

 その後、しばらく真友ちゃんは目をキラキラさせながら五巻の内容を話し続けた。私は、真友ちゃんの話を楽しく聞いていたけれど、瞬は何か別のことを考えているようだった。


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