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一日目 夕刻 新たなルームメイト

今日もようやく更新終わりです。分量が少なくて申し訳ないです。

 あの後、リノンさんからいろいろ聞いたけれど、聞くこと全てが初めてで正直ほとんど頭に入らなかった。けれど、『マグード』という言葉だけは私の胸の奥深くに刻み込まれていた。

(『マグード』って言うのは、人の名前なのかな。それとも、悪の組織みたいなのかな)

 リノンさんに聞けばよかったのだけれど、『マグード』という言葉を発したときのリノンさんの怒りに満ちた瞳を見て何も聞くことができなかった。

(リノンさん、まだかな?)

リノンさんは、食事の用意に行って来るといってちょっと前に部屋を出て行った。私も手伝うと言ったけれど、「けが人はけがを治すのが仕事よ」と断られた。

(真友ちゃんたちは、どうしてるのかな?)

 本当は、ここを抜け出してみんなのところに行きたいのだけれど、リノンさんの気持ちを踏みにじってしまうような気がして、そうはできなかった。

(今、何時ごろなんだろう。お母さん心配してるかな?)

 そう思ったとき、私はあらためて気がついた。

(そうだ、ここは夢の中なんだ!)

 私は、目を閉じてじっと感覚を研ぎ澄ましてみた。まず最初に船の軋む音、それからどこかで木槌を打つ音、そしてその向こうから静かな波の音が聞こえてきた。次に、しだいに体全体の感覚が鋭敏になってきて、素足や手先に触れるベッドのシーツの感触がはっきりと感じられた。それと一緒に、世界全体がゆっくりと上下に揺れているように感じた。

(本当に夢なの?)

 さっき瞬が言ったことが思い出された。もしかしたら、本当にここが現実なのかもしれない。そんな気分になってくる。その途端、また心の奥底に不安がよぎった。けれど、その不安を振り払うように私は自分に言い聞かせた。

(『今、ここで頑張れ!』)

 たとえ、今までのことが夢だったとしても関係ない。私は、尾田先生の言葉を覚えているし、みんなもいる。そして、何よりもまだ頑張れる自分がここにいる。私は、目を開けると大きく息を吸った。そして、自分に言い聞かせるようにして言葉を吐き出した。

「絶対に負けてなんかやるものか!」

 脳裏にこんな私の姿を見て喜んでくれている尾田先生の姿が浮かんだ。なんだか嬉しくて、涙がでた。

 トントン

 扉をノックする声が聞こえた。そして、扉の向こうから真友ちゃんの声が聞こえてきた。

「のぞちゃん、起きてる?」

「うん、起きてるよ!」

 私は嬉しさのあまり、思わず大声で返事してしまった。木製の扉が音を立てながら開かれると、飛び込むように真友ちゃんが私のそばに駆け寄ってくれた。そして、私の右手を両手で額に押しあてると「よかった」とつぶやいた。

「ごめんね、真友ちゃん。心配をかけて」

 真友ちゃんは、額に押し当てていた私の手を離すと、少し怒ったような顔をした。

「本当にそうだよ。突然、倒れて本当に心配したんだからね。無理して元気に振るまったらだめだよ。自分の体のことは自分にしか分からないんだからね」

 私を気づかう真友ちゃんの思いが本当に嬉しかった。

「うん。分かった。今度から気をつけます。本当に、ごめんね。あと、心配してくれてありがとう」

「うん。のぞちゃんは素直でいい子」

 そう言うと、真友ちゃんは私の頭を優しくなでた。

「へへへ」

 なんだか照れくさかったけど、嬉しかった。

「あ、そうだ。あたし、この船で友だちができたんだ」

「え、本当?」

「うん。あたしたちのルームメイトなんだって。おーい、入ってきなよ」

 すると、扉の向こうの物陰から、あたしと同じくらいの少女がおずおずと顔をのぞかせた。

「恥ずかしがってないで、早く来る。のぞちゃんのことが心配なんでしょ」

 真友ちゃんの言葉に、少女は小さくうなずくと恐る恐る部屋の中へと入ってきた。白装束に赤い袴をはいており、明らかに今まで会った人たちとは違う格好をしていた。顔立ちはまだ幼い感じで、日本人形のように肩まで伸びた黒髪がとても綺麗だった。

(きっと、この子がリノンさんが話してくれた子だ。確か、名前は・・・)

「刹那ちゃんだよね?」

 女の子は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「違うの?」

 女の子は首を小さく首を横に振った。

(やっぱり、この子が十六夜刹那ちゃんなんだ。リノンさんが、見たらすぐ分かるって言ってたけど、本当だ)

 私は、リノンさんの言葉通り、なんでもいいから話しかけようと思った。けど、初対面なのに、初対面じゃない相手に何を話しかければいいのか分からなくて思わず考え込んでしまった。すると、刹那ちゃんが、着物の懐から何かを取り出して、私に差し出した。見ると、小さな手のひらの上に真っ赤な折鶴が乗せられていた。

「くれるの?」

 刹那ちゃんは、こくりとうなずいた。その姿は、まるで小動物のように愛らしかった。

「ありがとう!刹那ちゃん」

 私は本当に嬉しくて、精一杯の感謝の気持ちを込めて笑顔を返した。すると、刹那ちゃんは、更に顔を真っ赤にして、真友ちゃんの後ろの隠れてしまった。

「へえ、のぞちゃん刹那のこと知ってたの?」

「うん。リノンさんから聞いてたから、すぐ分かった」

「そうそう、この子だけ純和風な感じだからね。『海賊紳士』には出てこなかったキャラクターだけど、あたしこの子のことめちゃくちゃ気に入っちゃた」

 真友ちゃんは、刹那ちゃんを自分の胸に抱き寄せた。刹那ちゃんは、また顔を真っ赤にして俯いてしまったけれど、なんだか嬉しそうだった。

「あ、でものぞちゃんの次だから心配しないでね」

「うん。ありがとう」

 私が笑顔を返すと、真友ちゃんは照れくさそうに「へへへ」と笑った。

「あら、二人とも帰ってきてたの?」

 見ると扉からリノンさんが顔をのぞかせていた。

「リノンさん、おかえりなさい」

 私があいさつすると、真友ちゃんが私の耳元でささやいた。

「誰?」

 今度は私が真友ちゃんの耳元に小声で答えた。

「ルームメイトのリノンさん。いい人だよ」

「二人してヒソヒソ話なんて、怪しいわね。何か隠してるんじゃないの」

 いたずらっぽくそう言うと、リノンさんはベッドの傍らにあった小物入れの上にパンと木のお皿に入ったスープを置いた。

「無理言って、厨房から持ってきてあげたんだからね。感謝してよね」

「ありがとう、リノンさん」

「ふふふ。どういたしまして。本当に、希望は素直でいい子ね。真友とは大違い」

「えー!あたしだって素直ですよ!」

 真友ちゃんは、初対面のはずのリノンさんになんというか普通に接していた。

(さすが、真友ちゃんだ)

 真友ちゃんは、誰とでもすぐ仲良くなる。クラスのみんなに聞いても、真友ちゃんが苦手だって言う人は多分いない。そんな真友ちゃんが昔は、引っ込みがちで友だちもあまりいなくて、幼稚園の頃はよく男の子にいじめられていたなんて今でも信じられない。

「じゃあ、あたしのどこが素直じゃないって言うんですか?」

「言ってほしいの?」

「はい!」

「それじゃあ、聞くけど。あなた知己のこと好き?」

 その言葉に真友ちゃんは、突然直立不動の姿勢になり言葉を失った。リノンさんは、ニヤリと笑みを浮かべるともう一度言った。

「知己のことが好きなんでしょ?」

 真友ちゃんの顔は、見る見るうちに耳まで真っ赤になった。

「な、な、な、な・・・」

 何かを言おうとするのだけれど、言葉にならなかった。

「ほーら、素直じゃないじゃない。素直な子は、自分の恋にも素直なものよ。ねえ、希望」

 そう言ってウインクをしてくるリノンさんに私は思わず笑みを返してしまった。

「何で!」

 真友ちゃんは、顔を真っ赤にしながらリノンさんに詰め寄った。けれど、リノンさんはいたって平然と答えた。

「何が?」

「何で知ってるんですか!あ、まさかのぞちゃん・・・」

 真友ちゃんは、じろりと私をにらみつけてきた。こんな時の真友ちゃんはとても綺麗だけど怖い。私は、両手を大きく振った。

「ばかね、希望がそんなことするわけないでしょ」

 リノンさんは真友ちゃんの頭に軽く拳骨を当てた。

「いたーい。じゃあ、何でなんですか?」

「そんなの、見てれば分かるじゃない。この船であんたが知己のことを好きだって知らないのは、知己とエヴァくらいなもんよ」

「・・・嘘でしょ。みんな知ってるなんて・・・」

 真友ちゃんは、ヘタリとその場に座りこんでしまった。

「まあ、いいじゃない。当の本人は全くあんたの気持ちに気がついてないんだから」

「全然、よくない!」

 そう言って真友ちゃんは頭を抱えてしまった。

「あら?ふふふ、めずらしいわね。刹那が笑うなんて」

 見ると刹那ちゃんが口元を抑えて小さく笑っていた。まるで、ハムスターがひまわりの種を小さな口でポリポリとかじるような、なんともいえなく可愛い仕草だった。だから、私は真友ちゃんに悪いと思いつつも笑ってしまった。

「希望もだいぶ元気になったみたいね。けど、とにかく今はしっかり食べて体を休めること。元気になったらきっちりと仕事してもらうからね」

「はい!」

 私が元気よく返事をすると、リノンさんは放心状態になった真友ちゃんと刹那ちゃんを連れて部屋を出て行った。その後、私はパンとスープをお腹の中に入れると、言われたとおり体を休めた。目を閉じて今日の出来事を思い返しているうちに、眠気がさしてきた。そんなまどろみの中、夢の中で見る夢ってどんなものなんだろう。そんなことを考えた。


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