「放課後 リーダー会」(2)
ようやく第一章完結です。
その後、私たちはかばんを取りに教室へと向かった。
「あんたって、本当に女ったらしよね」
真友ちゃんの言葉に、夢見君は軽く微笑んで見せた。
「別に、ほめてるわけじゃないんだけどね」
「お前、本当に何考えてんのか全然分かんねえよ。いくら、顔が良くったって、それじゃあもてねえぜ」
「では、女になったほうがいいのか」
「まあ、お前くらい美人なら、男より女のほうが好かれるかもな」
知己の言葉に、真友ちゃんが激怒した。
「いいわけないでしょ!知己も、何言ってんのよ!」
本気で怒っている真友ちゃんの様子に、知己は震え上がり、夢見君は肩をすくませてみせた。そうこうしているうちに、みんなが教室に着くと瞬が改まった様子で話し始めた。
「ところで、朝来君。君に聞きたいことがある」
夢見君はかばんを肩にかけると瞬の方を見ようともせずに返事をした。
「どうぞ」
瞬は、夢見君から一瞬も目を逸らさず眼鏡の奥のまなざしをより強めて話を続けた。
「今日の夜、僕たちは古川さんの夢とつながるのだろう」
質問ではなく、問い詰めるような強い言葉に私は少しドキリとした。
(夢見君は、なんて答えるんだろう)
夢見君は、やはり瞬のほうへは目を向けずに教室の扉の前まで歩いていった。そして、私たちに背を向けたまま静かに答えた。
「『海賊紳士』の世界に行ってみたい。それが彼女の望みだ」
言い終わると同時に扉を開き、教室の外へと消えた。瞬は苦々しそうな表情を見せると、すぐさま真友ちゃんをにらみつけた。
「彼の言ったことは本当ですか!」
まるで、叱責のような強い語気に、真友ちゃんは気後れしながらも返事をした。
「なんで瞬が怒ってるのよ。どんな夢を見ようと私の勝手でしょ」
「夢を見るのは勝手ですが、後藤さんの願いが僕たち四人の今夜の運命を決定づけてしまった。彼の言うことが本当であるならばですが・・・けど、おそらく・・・」
瞬の声は次第に小さくなって聞こえなくなった。ただ、悔しそうな、つらそうな瞬の様子を見ていると、私もなんだか胸が苦しくなった。そんな私たちを尻目に、真友ちゃんは瞬の言葉を理解するや否や目をキラキラと輝かせ始めた。
「って、まさか。本当に?本当に?今日、『海賊紳士』の夢を見ることができるの?え、え、本当に!」
うきうき気分になった真友ちゃんの執拗な問いかけに、瞬はしぶしぶうなずいた。
「やったー!やった!やった!知己、やったー!」
真友ちゃんは、知己の手を取ると両手を握り締めて、上下にぶんぶんと振った。
「おい、よせよ。恥ずかしいだろ」
そういいながらも、本当に嬉しそうな真友ちゃんの姿に知己も表情を和らげてこう言った。
「ったく、しょうがねえな。そんなに嬉しいのかよ」
「うん!」
(綺麗!)
真友ちゃんの見せた会心の笑みは、瞬のことで暗くなっていた私の心を明るくしてくれた。
(そうだ、まだ起きてもいないことを不安がるよりも、友だちの笑顔を喜ぼう。夢見君とであったからのできごとは、何もかも初めてのことなんだ。何もかも初めてのことなら、やってみなくちゃ何も分からない。こんな時は、
『迷っても、悩んでも、前へ進め!』
だ!)
私は、気持ちの整理をつけると笑顔で真友ちゃんに話しかけた。
「よかったね、真友ちゃん。私も今日寝るのが楽しみになってきた」
「でしょ!やっぱり、のぞちゃんはそこのところが分かってるよね!」
(そこのところって、なんのことだろう?)
真友ちゃんの言葉に素朴な疑問は持ったけど、そのことには触れずにおいた。そんなことより、
「瞬」
私は瞬と目が合ったのを確認してから話し始めた。
「瞬。私、ちょっとうれしいんだ」
瞬は少し怪訝そうな顔をした。私は構わず続けた。
「だって、瞬が先生の前で言ってた通りこの四人で冒険に出られるんだよ。こんなに素敵なことはないと思うな。夢見君の話は多分本当だと思う。だから、今日の夜、私たちの夢はつながる。私一人だったら不安でいっぱいだけど、みんなと一緒なら大丈夫。
だから、瞬。そんな顔しなくていいよ。瞬が、みんなのことを心配して、私たち以上に考えて、悩んでくれていることを知ってる。本当にうれしい。けど、瞬は一人じゃないんだから。ね」
私は思っていたことを全部話し終えると、大きく息を吸った。心臓の鼓動が早くなっているのを感じた。顔がほてってきているのを感じた。
(私、何言ってるんだろう。¥)
瞬は、私よりも賢くて、しっかりしていて、責任感があって、そして、優しい。そんな、瞬に私は何を偉そうに言ってるんだろう。私は、すぐさま瞬に頭を下げた。
「ごめんなさい。偉そうなこと言って。¥」
私は、瞬からどんな言葉が返されるのかを頭を下げたままじっと待った。
「高山さん。どうか、顔を上げてください。¥」
私は恐る恐る顔を上げ、瞬の顔を見た。瞬は、いつもの優しい笑顔を見せてくれた。
「ありがとうございます。高山さん」
「ううん。こちらこそごめんなさい」
(あれ、私変な返事をしちゃったかな?)
私の様子を見ていた瞬は、くすりと笑うとこう言ってくれた。
「高山さんが謝ることなんかありません。むしろ、僕は高山さんに感謝しなければなりません。高山さんの言葉は、いつも僕に勇気を与えてくれます。だから、僕は高山さんの思いに必ず報いたいと思います」
そう言った瞬の表情は、とても凛々しく(こんなことを言うと語弊があるかもしれないけれど)男の子らしかった。私は、照れくささを隠そうとわざと大きな声で答えた。
「私、そんなにたいしたこと言ってないよ。それより、私こそ瞬に感謝しなくちゃいけないことでいっぱいだよ」
私の正直な気持ちに、瞬はこう答えてくれた。
「心からそう思ってくれている高山さんだからこそ、僕はその思いに報いたいと思っているんです。だから、まずは高山さんが言ったように今日の夜のことをみんなと一緒に楽しみにしてみようと思います」
「うん!」
私は、その言葉に心からうなずいた。
みんなと別れて家に帰ると、いつも通り食事をし、いつも通りお風呂に入り、いつも通り布団に入った。けれど、いつもと同じはずなのにそれら一つ一つがあまりにも長く、ゆっくりとした時間のように感じられた。布団の中に入り、電気を消してみても胸の鼓動が高まるばかりで一向に眠れそうになかった。
(まるで、初めて遠足に行った日の前日みたい)
小学校一年生のとき、みんなと一緒に遠足に行くのが楽しみで、その前の日の夜はあんまり眠れなかったことを思い出した。今日みたいに、目を閉じるといろいろなことが頭の中に浮かんでは消え、消えては浮かんで、どんどん頭の中が冴え渡ってきて、結局眠れなくなる。だからといって、目を開けていると目の前に見えている天井の模様や、壁のしみまで何かに見えてきて、頭の中で想像がどんどん膨らんでくる。そうして、結局眠れなくなってしまう。
(だから、こういう時は)
あせらず、とりあえず目を閉じる。眠れないうちは、いくらがんばってみても眠れはしない。だったら、眠れるようになるまで、目を閉じていよう。そうすれば、いつかその時はやってくる。眠れないのを恐れる必要もないし、眠るのをためらうこともない。ゴールは見えないだけで、必ずあるのだから。
(おやすみなさい)
私は心の中で、そうつぶやき静かに目を閉じた。
「一日の終わりは、一日の始まり。けれど、夢には始まりも終わりもない。」
次回から第二章に入ります。




