5月9日(水)放課後 「宝探し」(1)
はじめての小説投稿となります。つたない文章ですが、書き溜めたものを少しずつ更新していきたいと思います。
5月9日(水)放課後 「宝探し」
私たち四人は、学校が終わるとランドセルを家に置きに帰り、すぐに由愛美公園に集合した。由愛美公園は、皐月山のふもとにある大きな公園で、「桜の園」と呼ばれるほどの桜の名所でもある。春になると、由愛美公園の桜を見るためにたくさんの人たちでにぎわう。桜の花びらが散って、ピンクのじゅうたんのように公園を覆い尽くす時が私は一番好きだ。子どものころは、よく桜の花びらを小さなビニール袋一杯に拾い集めて遊んだことを覚えている。その時、私は忘れられない思い出を作ることができた。正確には現在進行形でその時の思いは続いている。
(もう一度会いたいな)
「どうしたんだよ、ぼーっとして」
知己の言葉に、私は我に帰った。
「ううん、なんでもない・・・。そういえば、知己」
「なんだよ」
「小さいころ、この公園でよく一緒に遊んだこと覚えてる?」
知己はほんの一瞬顔を曇らせた後、私の問いかけに答えずに、すべり台に駆け上がるとすごい勢いで滑り降りた。
「そんな昔のことは忘れた」
「そっか。そうだよね」
「それより、瞬たち遅いな。一体、なにやってんだよ。早くしないと、宝が逃げちまう」
知己がそうぼやいてから5分ほどして真友ちゃんが、それからさらに5分たって瞬がやってきた。
「遅くなってすみません。ちょっと用意するものがあったので」
そう言うと瞬は大きな紙を広げてみせた。それは、模造紙半分ほどの紙に描かれた由愛美市一帯の地図だった。
「宝探しに、これは必要だろ」
瞬の言葉に、知己は満足そうな顔で親指をつき立てた。
「グッジョブ、瞬!」
真友ちゃんと私はその大きな地図をまじまじと見つめた。その地図には由愛美駅を中心に、北は皐月山から南は米倉駅周辺まで描き込まれていた。
「へえ、よくこんな大きな地図が見つかったね」
私がそう言うと、瞬は照れくさそうにこう答えた。
「下手な地図で恥ずかしいですが、実は僕が描いたんです」
「えー!」
三人同時に驚きの声を上げた。そして、真友ちゃんは開口一番こう言った。
「あんた、バカ」
「ちょっと、待て!俺の心の友をバカ呼ばわりするとは聞き捨てならんな」
私はといえば、ちょっとびっくりしたものの、素直に瞬の努力に感心した。
「すごいね。私、こんなに上手に描けないや。」
私の言葉に瞬は、少し頬を赤らめると軽くうつむいて頭をかいた。私は無意識のうちに瞬の頭に手をのせると優しくなでていた。私は、自分がしていることに気づくとあわてて手をのけた。
「ごめん、つい癖で」
頬を真っ赤に染めた瞬は、「気にしていませんから。」と小声で言うと、地図のほうへと目を向けた。
「さあ、宝探しの始まりだ!」
知己の声を合図に私たちは、テーブルに広げた地図を一斉に見つめた。私たちが今いる由愛美公園には、『城跡』と赤字で書かれている。
「なあ、瞬。この地図で南ってどっちだ?」
「4年生の授業で習っただろ。普通、地図はどの方角を上にして描かれている?」
知己が首をかしげると、その横から真友ちゃんが答えた。
「北!それで、右が東で左が西。そんでもって、下が南でしょ」
「後藤さん、正解。知己、残念」
「くそー、よりにもよって真友に遅れをとるとは。俺も落ちぶれたもんだぜ」
「ふふん、こんなの常識よ。ね、のぞちゃん」
「うーん、まあ、そうかな」
「まあ、そんなことはいいや。それより、この地図を見ても、城の南に川なんてねえぞ」
知己の言うとおり。地図を見てみると、この公園の南に川は流れていない。川といえば、ここから西に行ったところに南北に伸びる朱鷺野川があるくらいだ。
「そうなんだ。そこで、二通りの解釈を考えてみた。一つは、ここに書いてある城が由愛美城でないという解釈。もう一つは、今はないけれど江戸時代には夢美城の南に川があったという解」
「なら、話は早いね。だって、とりあえず、ここからしか始められないんだから。」
私がそう言うと、みんな笑顔でうなずいた。
「そうと決まったら、昔あったという幻の川を探しに出発だ!瞬、大体の見当はついてるのか?」
「あ、それなら私分かるかも」
真友ちゃんは、地図を東西に走っている細い道を指差した。
「この道、なんだか川っぽく見えない。だって、途中で不自然なくらいぐにゃぐにゃまがってるし」
「本当だ」
真友ちゃんの言うとおりだ。他の道は、曲がってはいても比較的まっすぐに伸びているのに、この道だけ、まるで蛇のようにくねくねと曲がりくねってる。
「根拠は何もありませんが、僕も後藤さんの意見に賛成です。位置的にもこの公園からちょうど南にあたる場所を東西に走っているし、可能性は高いと思います」
「瞬がそう言うなら、決まりだ!さっそく、現場に直行だ」
私たちは、自転車で5分ほどのところにある、九頭竜神社の前にやってきた。道がくねくねと曲がり始めるのがちょうどこの神社の前からだ。
「しかし、いつ来ても古めかしい神社だな」
知己は、大人が手を広げたら届きそうなくらい小さな鳥居にもたれながらそう言った。
「ていうか、ここ本当に神社なの。ぼろぼろだし、小さいし、なんだか薄気味悪い」
真友ちゃんは、少し顔をこわばらせた。
「あ、真友。お前、確か、怖いのが苦手だったよな。幼稚園のころのこと覚えてるか。あの時、お前・・・」
そう言った途端、真友ちゃんの長い足が地を這って、綺麗な円を描いた。次の瞬間、知己は、足をすくわれ、宙に舞い、そして、地面に叩きつけられた。
「いてー!何すんだよ!」
知己のことを完全に無視して、真友ちゃんは私と瞬のほうを向いた。
「バカは気にせずに、早く宝探しを続けましょ。この神社から続く道がもともと川だったとして、橋はどこにあったのか予想できる?」
そう、それが問題。この道が川だったとして、橋がどこにあったのかなんて分かるのかな?瞬を見てみると、リュックサックからさっきの地図を取り出して地面の上に広げた。
「ここから続く道は、西に向かうほど次第に低くなっている。ということは、もし、ここに皮があったと仮定するなら皐月山からこの九頭竜神社付近を水源として、川は流れていたと考えられます。道幅が狭いことから川幅も広くない小さな川であったことも推測されます。橋は人が川の向こうに安全に早く渡りたいという必要性から作られるものだから、当然人通りが多く便利な場所に作られたでしょう。また、人が多く通ることから橋の幅は広めに作られたであろうことから、曲がりくねった場所ではなく、比較的直線的な場所にあったのではないかと考えられます。以上の条件から推測すると、星の宮神社前と高田燃料店前、そして、中田材木店付近、以上三箇所が候補としてしぼられます」
ほー。
みんなそろって感心のため息をついた。
(瞬って、本当に小学生なのかな?)
私は、なかば感心したような、なかばあきれたような心地で瞬の話を聞いていた。時折瞬は、変に大人びたそぶりを見せることがある。いつもは優しく見える表情が、その時だけは眉間にしわをよせて少しつらそうに見える。今も、眉間にしわをよせて自分の考えをひたすら話し続けていた。そんな瞬を見るのはちょっと嫌だ。だから私は、言葉をはさんだ。
「ねえ、瞬。とりあえず、道なりに歩いていかない。頭で考えるのも大事だと思うけど。実際に見てみないと分からないことってたくさんあると思うんだ」
「そうだぜ、瞬。とりあえず、あたってくだけてみようぜ。この前も尾田先生が言ってただろ。えーと、何だっけ。ほら、あれだよ」
「『できる、できないを考えるよりも、やったかやらなかったのかを大事にしろ。』だろ」
瞬はそう答えると、さっと立ち上がった。瞬の顔からは、いつもの優しい笑顔がこぼれていた。私も瞬にならって立ち上がった。知己も真友ちゃんも立ち上がった。みんな、なんだかニコニコしていた。ううん、ちょっと違う。きっと、ワクワクしている。そうだ、ワクワクした気持ちがだんだん強くなってきている。こんな時、真っ先に声を上げるのは知己だ。
「さあ、行こうぜ!宝探しに出発だ!」
この度は、私の作品をご覧頂き誠にありがとうございます。感想、ご意見などございましたら、ご連絡をいただければ幸いです。
是非、続きもご覧下さい。