「放課後 リーダー会」(1)
今日もようやく更新完了です。最近、更新を終えて、ようやく一日が終えた感じがします。
放課後に教室に残るのはなんだか楽しい。別に悪いことをしているわけではないのだけれど、なんだかドキドキしてしまう。一人きりだとさびしいけれど、友だちと一緒なら休み時間よりも楽しい時間になる。けれど、今日は少し違って、不安が8に好奇心が2の割合が入り混じったピリピリとした雰囲気が漂っていた。そう、私たち5人は、教卓の周りに座って昼休みの続きを話し合っていた。
「で、だ」
知己が話を切り出す。
「本当に、お前は夢をつなげることができるのか?」
「言葉で納得できるのか?」
「うんにゃ。内容が内容だけに、無理だろうな」
「なら、答えは簡単だ」
「だな。OK。それでいいぜ。みんなも、それでいいよな」
「・・・。」
知己の提案に、私たちは誰も返事をしなかった。
「???どうしたんだ」
「どうしたも、こうしたもないわよ」
真友ちゃんが、ため息混じりに話し始めた。
「なに、さっさと話を進めてんのよ。それに、夢をつなげることがいいことなのか、悪いことなのかも全然分かってないのに」
「だから、いっぺんやってみようって言ってんだろ。やってもいないことをぐだぐだ言ってもしかたないじゃねえか。だろ?」
知己の言葉が心に響いた。
(そうだ。やってみなくちゃ分からない。それに、私がまずしなくちゃならないことは)
私は意を決して口を開いた。
「夢見君」
私の声に、夢見君はゆっくりとこちらに目を向けた。そのまなざしは、とても穏やかで、まるで静かな水面のようだった。
「私は夢見君と友だちになりたい」
みんなが息を飲む音が聞こえた。
「だから、夢見君を信じることから始めるよ。それが、今私にできる一番のことだと思うから」
夢見君のまなざしは変わらず穏やかなままだった。けれど、なぜかさっきまでと違うように感じた。夢見君は椅子から立ち上がると右手を胸に当てたまま深々とお辞儀をした。そして、深く胸に響く声でこう言った。
「『友情とは、相手がどうこうではなく、自らが真の友たりえたかどうかで決まる。』古の先哲の言葉だ。それにならい、私は君に対して真の友にたりえる自分であらんとすることをここに誓おう」
正直、夢見君の言葉の意味を半分も理解することができなかった。けれど、私の言葉に対して真剣に答えてくれたことだけは分かった。
ガタッ
突然、瞬が椅子を押しのけて立ち上がった。そして、すごい形相で夢見君を睨みつけた。
「どうしたの、瞬?」
私が声をかけると、瞬は夢見君から目をそらして私の方へと向き直った。そして、消え入りそうな声で
「なんでも、ありません・・・」
そう言った瞬の顔は、なんだか悔しそうで泣き出しそうな顔だった。
(どうしんだろう)
瞬が、どうしてこんな顔をしているのか私には分からなかった。けれど、もし瞬が悲しい思いをしているのならなんとかしてあげたいと思った。だけど、こんな顔をしている瞬にどんな言葉をかけてあげたらいいのか、何をしてあげればいいのか分からなかった。
「まあ、とりあえず座ったら二人とも」
そう提案したのは真友ちゃんだった。真友ちゃんの言葉に、二人は静かに椅子に座った。その様子を目を細めて見つめる真友ちゃんは、すらりと伸びた両手を組んだひざの上に乗せて椅子に深々と座っていた。その姿は、女の私でもほれぼれするくらい絵になった。
(今の真友ちゃん、なんだかかっこいい)
真友ちゃんは言葉を続けた。
「まあ、いろいろ言いたいこともあるだろうけど、とりあえず今は今日見る夢をどうするかを話し合わない。のぞちゃんが、朝来君を信じると言ったのなら、私も信じてみる。瞬も知己もそうでしょ」
真友ちゃんが瞬と知己の顔を見回すと、二人はゆっくりとうなずいた。
「じゃあ、話は早いじゃない。あとは、だれの夢とつないで、どんな夢を見るかなんだけど」
そこまで言うと真友ちゃんは、組んでいた足を解いて突然私に向かって両手を合わせた。
「のぞちゃん、お願い!私の見たい夢にしちゃだめ?」
かわいらしくそう言った真友ちゃんに、私は思わず
「うん」
と答えてしまった。その瞬間、知己が怒鳴り声を上げた。
「ふざけるな!何、調子乗ったこと言ってんだ!」
「なによ、別にいいじゃない」
「別にいいなら、俺の見たい夢でもいいじゃねえか」
「残念でした。あんたの大リーグとやらの夢を見てる人は近くにいないそうですよ」
「じゃあ、別の夢にする」
「あ、ずるーい」
「別にずるくなんかねえよ」
「なによ、あんたの方が調子に乗ってんじゃないの」
「何だと」
二人のにらみ合いが次第に激しくなり、まさに一触即発といった様子だ。
(また、始まっちゃうのかな。)
いつものこととは言っても、友だち同士がけんかをするのを見るのはあんまり好きじゃない。だから、私は話題を変えようと思って思わず瞬に声をかけた。
「瞬が見たい夢って、たしかみんなで世界中を冒険するだったよね」
自分でも驚くくらい大きな声が出た。私の声の大きさと脈絡のない質問に、瞬は目を丸くしておどろいていた。けれど、すぐにいつもの冷静な瞬に戻って
「はい」
と短く答えた。
「いいよね。冒険。私もしてみたいな」
私の言葉に真友ちゃんは身を乗り出した。
「でしょ!だったら私の夢がおすすめ!」
「だーかーら、何でお前の夢なんだよ」
「そんな言葉は、私の夢を聞いてから言ってよね。それに、あんた昨日あたしに言ったよね。『お前の好きな劇をやってやる』って」
「う・・・」
「『男なら自分の言葉に責任を持て』って誰の言葉だったかな?」
真友ちゃんの言葉に、知己は何かを言おうとしたまま言葉を失ってしまった。
「瞬は、どう?」
瞬は、少し間をおいてからきっぱりとこう答えた。
「僕は誰の夢であろうと別に構いませんよ。みんなが危険な目にさえあわなければ・・・みんなが一緒ならどこにいようときっと楽しいですから」
そう言った時の瞬の横顔に私は少しドキッとした。
(かっこいい)
冗談のような話。今まで経験したことのないような話。私たちの理解を超えたような話。たとえどんな時だったとしても、みんなのことを考えていてくれるのが川崎 瞬だ。だから、私は瞬のことが好きだ。
「私も瞬の意見に賛成」
そう言って、私は思い切り右手をあげた。瞬は嬉しそうな顔をして
「ありがとうございます」
と頭を下げた。私も釣られて頭を下げる。顔を上げたときにお互いに目が合って、なんだかおかしくて思わずくすりと笑ってしまった。瞬もそんな私を見て笑みをこぼした。
「じゃあ、私の夢でいいわよね」
真友ちゃんの明るい笑顔に、みんな(一人をのぞいて)うなずいた。
「てことで、あたしの見てみたい夢はね」
言い終わらないうちに、夢見君はすくっと立ち上り、教室の外へと出て行った。
「ちょっと、待ちなさいよ。いまさら、夢をつなげるなんてできないっていうんじゃないでしょうね」
真友ちゃんは、すぐに夢見君に駆け寄り左肩をつかんだ。そして、思い切り引き寄せた・・・ように見えたのに、夢見君はびくともせずまるで真友ちゃんをひきずるかのように悠然と歩き続けた。それでも、真友ちゃんは追いすがって、なんとか足を止めようとしたけど無駄だった。
(一体、どこに行くつもりなの?)
途中から、夢見君停止作戦に参戦した知己を加えて二人の執拗な攻撃に微動だにせず、夢見君は図書館の扉の前まで歩いてきて、そこでようやく止まった。
「この中だ」
「???」
夢見君が何を言っているのかさっぱり分からない私たちを尻目に、夢見君は扉を開けると図書館の中に入っていった。私たちもあわてて中に入ると、カウンターのところに中島先生と里緒ちゃんが話しているのが見えた。夢見君はといえば、よどみない歩みで二人のところまで歩いて行き、そこで立ち止まった。
「あれ?朝来君?」
ちょっと驚いたような顔の里緒ちゃんに、朝来君は
「ちょっと、見てもらいたいものがある」
と言った。あまりに唐突な提案に里緒ちゃんが首をかしげていると、中島先生が助け舟を出した。
「へえ、何を見せたいのかな」
「巻物だ。希望が持っている」
「へ?」
突然のことに私は頭が混乱して、夢見君が何を言っているのかしばらく思考が停止してしまった。そんな時、瞬が後ろから小さな声で
「例の巻物を持ってきてください」
(あ!)
私は、夢見君の行動の意味を理解すると不思議そうな顔をこちらに向けている中島先生と里緒ちゃんに作り笑いを見せると、あわてて教室に戻り、かばんの中に入れていた巻物を持ってきた。
「これなんだけど」
私がおそるおそる巻物を差し出した。そして、カウンターの机の上に巻物の裏側を広げて見せた。
「うわー、すごい」
里緒ちゃんが目を丸くして巻物一面に描かれた文字を見つめた。中島先生も、興味をもったようで目を細めながらじっと巻物の文字をにらみつけていた。
「なにか、見えないか」
夢見君の言葉に、里緒ちゃんは少し間をおいてからポツリと一言もらした。
「・・・『海』」
(え!『夢』じゃないの)
私は驚いて机の上の巻物を見つめた。瞬や真友ちゃんも驚いた様子で巻物を覗き込んだ。
「里緒ちゃん、どこに『海』ってかいてあるの?」
真友ちゃんが聞くと、里緒ちゃんは小さなかわいらしい指で巻物の左端のほうを指差した。
「本当だ、『海』って読める。すごーい、里緒ちゃん。さすが、文学少女だね!」
真友ちゃんは、本気で感心しているようで真友ちゃんの両手をつかんで「すごい、すごい」を何度も繰り返した。里緒ちゃんは、ちょっと顔を赤らめて恥ずかしそうにしていたけれど、とてもうれしそうだった。
「ところで、これって何なの?」
ニコニコしたままそう聞いてくる里緒ちゃんに、私は思わず正直に答えてしまった。
「知らない」
「え?」
(しまった)
私は、とっさに言い訳を考えたけれど何も思いつかなくて
「えーとね、えーと」
を何度も繰り返してしまった。こんな時、いつも私に助け舟を出してくれるのは
「僕から説明させてもらってもいいですか。」
そう言ってくれたのは、瞬だった。
「昨日、高山さんの家で見つけたんですよ。ほら、高山さんの家は昔からあるので、押入れや、物置の中から結構珍しいものが出てくるんです。昨日も、高山さんのおばあさんに頼まれて物置の整理をしていたら真っ黒い箱の中からこの巻物が出てきたんです。おばあさんに聞いても何の巻物か分からないとおっしゃるので、僕たち四人でこの巻物が何なのかを調べてみることにしたんです。だから、まだ僕たちもこの巻物が何なのかは知らないんです」
(さすが、瞬!)
どうして、こんなにスラスラと言葉が出てくるんだろう。瞬の言葉に、中島先生も里緒ちゃんも心から納得したようで、さらに興味津々の様子で巻物を覗き込んでいた。
「ところで、里緒ちゃんは図書館で何してたの?」
真友ちゃんが聞くと、里緒ちゃんは中島先生の方をちらりと見た。その視線に答えるように中島先生が笑顔でうなずくと、里緒ちゃんはカウンターの下から一冊の本を取り出した。タイトルは
「『海賊紳士』!!!」
雷が落ちたときと同じくらい大きな音(叫び声)が図書館中に響き渡った。
「これ、『海賊紳士』の最新刊じゃない!どうしたの、ねえ、ねえ、ねえ!」
大興奮の真友ちゃんは里緒ちゃんにすごい勢いでにじり寄った。真友ちゃんのあまりの勢いに里緒ちゃんは後ずさり続け、あっというまにカウンター横の本棚に追い詰められた。
「ねえ、ねえ、ねえ!」
すっかりおびえてしまった里緒ちゃんの様子にも気がつかず、真友ちゃんはさらに追い討ちをかけようとしたその時、
スパーン
抜けるような綺麗な炸裂音が真友ちゃんの頭上から聞こえた。
「落ち着け、この馬鹿」
見ると、知己がどこから用意したのかこげ茶色のビニール製のスリッパ右手に握りしめていた。真友ちゃんは、一瞬何が起こったのかを理解できていないようで、頭の上を何度かさすった後、くるりと後ろを振り向いた。そして、ようやく何が起こったのかを理解した。
「何すんのよ!この馬鹿知己!」
「何すんのじゃねえ!古川がおびえてるじゃねえか!」
知己が指差した先には、里緒ちゃんが小動物のように小さくなってかすかに震えていた。
「知己の言うとおりです。さっきの後藤さんの様子は僕でも少し怖く感じましたよ」
瞬の言葉に、真友ちゃんは即座に里緒ちゃんのほうへ向き直り、頭を思い切り下げた。
「ごめん、里緒ちゃん。許して、お願い」
両手を合わせて必死で謝る真友ちゃんの様子に、里緒ちゃんはあわてて声をかけた。
「別に、怒ってない・・・ただ、ちょっと驚いただけだから・・・」
真友ちゃんが恐る恐る頭を上げると、里緒ちゃんは笑顔を見せた。その笑顔を見て安心したのか、真友ちゃんも笑みを浮かべた。そんな二人の様子を見ていた中島先生が楽しそうな顔をしてこう言った。
「後藤さんも、『海賊紳士』が好きなの?」
「はい!大、大、大、大好きです!」
一度落ち着いたテンションが一瞬にして最高潮に達した。その瞬間、
スパーン
二度目になる、抜けるような綺麗な炸裂音が再度聞こえた。
「だから、落ち着け」
「・・・ごめん」
知己の突っ込みに、少し恨めしそうな顔をしながらも真友ちゃんは素直に謝った。そんな二人の様子に苦笑いしながら、中島先生は話を続けた。
「後藤さんが、『海賊紳士』のファンだったなんて先生知らなかった。いつごろから好きなの?」
「去年の冬休みからです。お父さんが『漫画だけじゃなくて、本も読みなさい』っていうから、『じゃあ、私でも読める本を買ってよ。』って言ったら、次の日に『海賊紳士』を買ってきてくれたの。それで、しかたなく読んでみたら、もう、めちゃくちゃ面白いの!一週間くらいで、一気に全部読んじゃった。のぞちゃんも、大ファンなんだよ」
「へえ、高山さんも好きなの?」
「え、あ、はい」
とはいっても、真友ちゃんに薦められてようやく三巻まで読んだばかりだけど。けど、真友ちゃんが大ファンになった理由はよく分かる。『海賊紳士』は、主人公のケネス=ギルフィードが仲間たちと共に、無法地帯となった海の中で正義を貫き通すためあえて海賊となって名もなき人々のために戦いを繰り広げるというものだ。題名からも分かるように、主人公のケネスはとても紳士的で、礼節と仁義を重んじる男で、誰に対しても敬意を払い、謙虚に振舞うことを忘れない。以前、真友ちゃんからケネスが理想の男性だと聞かされたことがある。
(なんで、真友ちゃんは知己のことを好きなんだろう?)
ふと、そんなことを思った。
「じゃあ、ここにいる女の子はみんな『海賊紳士』のファンなのね」
「それって、先生も入るのか?」
知己の言葉に、中島先生は
「もちろん」
とうなずいた。こんな時の中島先生の笑顔は、なんだか本当に女の子みたいでかわいく見えた。知己は、少し顔を赤くしてから中島先生から目をそらした。そして、つぶやくようにこう言った。
「先生は、子どもじゃねえだろ」
「ありがと」
優しくそう答えた中島先生は、里緒ちゃんの持ってた『海賊紳士』の最新刊を受け取ると真友ちゃんに手渡した。
「はい、どうぞ」
「え!いいの!」
「うん。いいわよ」
「でも、里緒ちゃんが借りるはずだったんじゃないの?」
真友ちゃんが申し訳なさそうに里緒ちゃんのほうを向くと、里緒ちゃんは首を大きく横に振った。
「え、でも」
「里緒ちゃんは、もう読んじゃったのよ。それで、今日返しに来てくれたの。だから、どうぞ」
「え、え、えー!やったー!」
思いもよらない出来事に、真友ちゃんは受け取った本を胸に抱きしめながら図書館中を走り回った。あまりの喜びように、なんだか私も嬉しくなってきて顔がにやけてくるのを抑えられなかった。
「嬉しそうですね」
瞬がささやくように私にそう言ってきた。
「うん。真友ちゃん、本当に嬉しそう」
「僕が言ったのは、高山さんのことですよ」
「え、やっぱり分かる」
「はい。顔にしっかりと『嬉しい』って出てますよ」
「そっか。うん。そうだね。真友ちゃんの嬉しいがうつっちゃったかな。でも、瞬もなんだか嬉しそうだね」
「高山さんの『嬉しい』がうつったのかもしれません。」
「ふふふ、そうかもしれないね」
ひとしきり、図書館を走り回った真友ちゃんは、息を切らせながらカウンターへと帰ってきた。そして、カウンターの机の上に頭をぶつけるくらい下げた。
「先生!ありがとうございます!大事に読ませていただきます!」
「はい、よろしい。でも、さっきみたいに図書館の中を走り回るのはなしだからね」
「はい!」
ニコニコしたまま、気持ちのいい返事をした真友ちゃんは知己のほうを見た。
「ねえ、知己。あたし、めちゃくちゃ嬉しい」
そう言った真友ちゃんの笑顔はなんだかとても綺麗に見えた。知己もそう感じたのか、照れくさそうに頭の後ろを右手でかきながら答えた。
「えーと・・・まあ、よかったんじゃねえか」
「うん!」
真友ちゃんは、それから知己に『海賊紳士』の魅力を語り始めた。いつもの知己なら話半分で聞き流すか、余計なことを言って真友ちゃんを怒らせるところだけれど、今回は静かに聞き手に回っていた。たぶん、知己もこんなに嬉しそうにしている真友ちゃんの気持ちを壊したくないんだと思う。
(そういうところが、知己のいいところかな)
そんなことを思って二人から目をそらすと、里緒ちゃんが夢見君のほうをちらちらと見ているのに気がついた。
(何か、言いたいことがあるのかな)
私は、里緒ちゃんのそばに寄っていくと、里緒ちゃんの袖を軽く引っ張った。そして、小声で
「夢見君に何か聞きたいことがあるの?」
私の言葉に里緒ちゃんは、真っ赤になってうつむいてしまった。
(まずいことを聞いちゃったかな)
そう思った私は、あわてて話題を変えた。
「ごめんね、変なこと聞いて。それより、里緒ちゃんって『海賊紳士』が好きだったんだね。ねえ、里緒ちゃんは『海賊紳士』の中では誰が一番好きなの?」
里緒ちゃんは、うつむいたまま小さな声で
「・・・ユリアン・・・」
「へえ、里緒ちゃんはユリアンが好きなんだ。」
ユリアン・シーザーは、主人公ケネスの腹心で謎の多い男だ。女性と見紛うばかりの端正な顔立ちで、物腰も落ち着いており、どのような時でも沈着冷静に対処する。どうしてもお人よしになってしまうケネスを自分が悪役になることで守っていこうとする、そんなキャラクターがユリアンだ。
「いいよね、ユリアン。私も、好きだよ」
里緒ちゃんは、うつむきながら小さくうなずいた。
(そういえば、夢見君ってなんとなくユリアンに似ているかも)
そう思って夢見君の方へ目をやると、夢見君も私の視線に気がついたようで静かにこちらに寄ってきた。そして、うつむいたままの里緒ちゃんの右手を優しく握ってこう言った。
「『海賊紳士』の夢を君が今日も見られますように」
そう言って、私の時と同じように右手の甲に軽く唇を当てた。
それからが大変だった。何が大変かといえば、里緒ちゃんが真っ赤になって倒れてしまったこと、そのことをきっかけに知己と真友ちゃんが暴走してしまい収集がつかなくなったこと、ついには中島先生の逆鱗に触れてしまったこと。などなどである。思わず、大きなため息をついてしまった。
そんなわけで、私たちは追い出されるような形で図書館を後にした。
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