「昼休みと課外授業」(2)
昨日は職場でトラブルがあり、帰りも遅く、身体もぼろぼろだったので更新できませんでした。トホホです。
「おい、瞬」
「なんだ?」
「空って、こんなに青かったっけ」
「ああ、そうだな。俺も今そう思ってたところだ」
二人は眩しそうに空を見上げたまま、しばらくそうしていた。私も、空を見上げた。朝も見上げたはずの空が、まるで違って見えた。透き通った青に彩られた空の天蓋が見れば見るほど高く広くなっていくように感じられた。私は、不意に空の向こうに右手を伸ばしてみた。
「ねえ、真友ちゃん」
「何?」
「不思議だよ。こうやって、手を伸ばしてみると、届くはずがないのにね、この手が空に届くような気がするんだ」
「へえ。じゃあ、私もやってみようかな」
そう言うと、真友ちゃんは両手を空に伸ばして見せた。
「うーん。私は、あんまりかな。けど、こうやって空に向かって手を伸ばしてみるとすっごく気持ちがいいね」
「うん」
私も真友ちゃんを真似てみて、両手を空に伸ばしてみた。
(気持ちいい)
そういえば、朝の一件があってから授業中も休み時間も下ばっかり見て夢見君のことばっかり考えていたような気がする。
(『どうせ向くなら下を向かずに前を向きなさい』か)
尾田先生の言うとおりだ。こんなに綺麗で、こんなに気持ちがいい空に気づかないなんてもったいない。夢見君とのことはいろいろあるけれど、とにかく今は前を向いて進もう。そのためにも、まず第一に夢見君のことをもっと知ることだ。分からないから、理解できないからで自分から距離をおいていたら、いつまでたっても分からないままだ。尾田先生は私の背中を押してくれた。だったら、
(進むしかない!)
私は空に伸ばした両手をぐっと握り締めた。そして、
「よしっ!」
と気を吐いた。
「何かふっきれたみたいですね」
瞬の言葉に、「うん」とうなずくと、
「私、ちょっと行って来る」
「奇遇ですね。僕も今、行きたいところがあるんです。さしつかえなければ、教えてくれますか。」
「いいよ。私が行きたいのは・・・」
「というわけで、お前のところにみんなで来たわけだ」
銀杏の木にもたれかかったまま目を閉じてじっとしている夢見君に最初に話しかけたのは知己だった。
「なにが、というわけか全く理解できないが、用があるというのなら聞こう」
目を閉じたまま夢見君は穏やかな声でそう答えた。
「お前、夢をつなぐことができるって言ったよな」
「ああ。」
「それって、好きな夢をみんなで見れるってことでいいのか?」
「少し違うが、似たようなものだ」
「じゃあ、試しに俺が大リーグ選手になった夢を見せてくれ」
「別に構わないが、それでいいのか?」
同じように目を閉じたままなのに、その言葉だけが深くずしりと胸に響いた。
『それでいいのか?』
私は思わず聞き返していた。
「『それでいいのか?』ってどういうこと?」
この時になって夢見君はようやく目を開き、もたれかかった体を立ち上げるとこちらを向いて答えた。
「君も彼の言ったような夢を見たいのか?という意味だ」
「???」
私は夢見君の言葉の意味を理解できなかった。
(どうして、知己の夢と私が関係あるの?)
夢見君の言葉の意味をなんとか理解しようと考えていると、後ろにいた瞬が私の横に進み出てきた。そして、夢見君に声をかけた。
「少し、質問させてもらって構わないかな」
「構わない」
「では、まず始めに、君は夢をつなげると言ったが、それは世界中の誰とでもということだろうか?」
「そうだ。しかし、条件がある」
「その条件とは?」
「お前たちの見た巻物の裏を覚えているか」
「ああ」
「あれを見た者とだけ夢をつなぐことができる」
「では、たとえば尾田先生にあの巻物を見せれば、先生の夢とつながる。つまり、先生の夢の中に入ることができるということだろうか」
「まあ、そのようなものだ」
「・・・次の質問だ。先ほど、知己は『夢を見せてくれ』と言った。これは『夢をつなげる』こととは違うのだろうか」
「違う」
「どう違うのだろうか?」
「前者は、自分の夢の中に、後者は他人の夢の中にという意味だ」
「具体的には?」
「前者は、夢の中から戻ってこられなくなる可能性がある。違いといえば、それくらいのものだ」
「夢の中から戻ってこられなくなった場合、どうなる」
「言った通りの意味だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「・・・」
瞬の目つきがどんどん険しくなり、かすかに震える両手の拳はきつく握り締められて指先が白くなっていた。
(なんだか怖い)
二人の会話を聞いているうちに、私はなんだか怖くなってきてしまった。隣に立っている真友ちゃんのつばを飲み込む音が聞こえた。
(真友ちゃんも、怖いんだ)
きっと、ここにいる誰もが夢見君の話に恐怖を感じているのだと、この時の私は思っていた。けれど、それは間違いだった。
「あー、もう!分けの分からない話はどうでもいいぜ」
瞬と夢見君の間に割って入ったのは知己だった。
「まあ、ようするに、自分たちの夢の中には入らないほうがいいってことだろ。じゃあ、別のやつの夢の中に入れば問題ないんだろ?」
知己のあまりにも率直で、無邪気な様子に夢見君は口元を少しゆるませた。
「ああ、その通りだ」
「OK。じゃあ、話は早いや。俺が大リーグ選手になれる夢を見てるやつを教えてくれ。そいつに、巻物を見せに行くから」
「あ、なるほど!知己、すごいじゃない!たまには、いいこと言うじゃない!」
知己の言葉に、真友ちゃんは素直に感心していた。
「たまには、よけいだ」
「ごめん、ごめん。でも、それナイスアイデアだよ。それだったら、あたしも見てみたい夢があるんだ」
甘えるような声で真友ちゃんがそう言うと、知己は即座に
「却下」
「えー!何でよ!」
「お前の夢なんてろくなもんじゃねえ!」
「聞いてもいないのに何でわかるのよ!」
「分かるに決まっとろうが!お前のことなら、俺は何でも知ってる!」
「え・・・。」
知己の言葉に、真友ちゃんは言葉を失って真っ赤になった。そして、急にしおらしくなり、うつむいたまま黙りこくってしまった。
「なんだよ、突然おとなしくなりやがって」
知己は、自分の言った言葉の意味を全く理解できないようだった。
「君は罪作りな男だな」
夢見君の言葉に、私と瞬はうんうんとうなずいた。
「なんだよ、お前ら気持ち悪いな。まあ、いいや。とりあえず、話を戻すぜ。お前は、誰がどんな夢を見てるのか分かるのか?」
「ああ」
「じゃあ、大リーガーの夢は見れるのか?」
「残念ながら、君たちの知り合いの中に要望にあった夢を見ている者はいない」
「ちぇ、なんだよ。じゃあ、大リーガーの夢を見てるのは俺だけか」
知己が、つまらなそうにそう言い捨てると、夢見君はいつものいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「心の中は不思議だ。自分自身が本当に求めていることさえ分からずにいることがあるのだからな」
「それって、どういう意味だよ」
「言った通りの意味だ。それより・・・」
夢見君の言葉と同時にチャイムが学校中に鳴り響いた。
「昼休みが終わる」
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