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「集団下校」

今日も仕事後の更新です。少し分量は少ないかもしれませんが。

「おい、どう思う?」

「どうって何がよ」

「だから、あいつが希望の家に住んでるってことだよ」

「それを確かめるためについてきてるんでしょ」

 先頭を颯爽と歩く朝来君の後を、まるで尾行中の探偵のようにこそこそしながら歩いている一団があった。ていうか、私たちのことだった。

「朝来君と並んで帰ったほうがよくないかな?」

 私の言葉を真友ちゃんは即座にさえぎった。

「だめ!だめよ、のぞちゃん。あいつが何を考えてるのか分かるまで絶対に近づいちゃだめ!」

「でも、せっかく友だちになったんだし・・・」

「そんなのは形だけよ。それに友だちになるのと、一緒に住むのとは別問題。いい、のぞちゃん。『男女七歳にしてドウキンせず』という言葉があるのよ」

「『ドウキン』って何?」

「私も詳しいことは知らないんだけどね。まあ、男女が一緒にいちゃだめってことよ」

「へえー。お前、難しいこと知ってんな。ちょっとだけ見直したぜ」

「まあね」

 得意げな様子の真友ちゃんに、先ほどの一件以来沈黙を守っていた瞬が口をはさんだ。

「『同衾せず』というのは、同じ布団というよりは、座布団に一緒にすわらないという意味ですね。どっちかというと、『男女七歳にして席を同じゅうせず』の方が正式です。七歳にもなったら、男女がお互いにけじめをつけて慣れなれしくしないようにしなさい、という意味です」

「へえー。さすが瞬だな」

「ま、まあ、私が言ってた意味とだいたい同じね」

「そうか。ちょっと違うような気がするけどな」

「もう、そんなことどうでもいいでしょ。それよりも、大事なことはのぞちゃんとあいつが一緒に住んでもいいのかってことよ」

 真友ちゃんの言葉で、私たちはそろって朝来君のほうへと目をやった。朝来君は先ほどと変わらず、颯爽と歩いている。しかも、全く迷うことなく私の家のほうへと向かって歩いていた。

(やっぱり、朝来君は私の家を知ってるんだ)

 今日来たばかりの朝来君が、どうして私の家を知っているのか全く分からなかった。もっと言えば、何で私の家に住んでいるなんて嘘を言ったのか分からない。今朝、家を出たときも昨日の夜もお父さんもお母さんもおばあちゃんもそんなことは一言も言っていなかった。もし、新しく一緒に住む人が増えるなんてことになったら、絶対に教えてくれるはずだもの。でも、

(本当に、嘘なのかな・・・)

 振り返って見れば今日一日の間に、朝来君には何度も驚かされている。それも、私が今まで見たこともない、聞いたこともないようなことを平気でやってのけた。だから、もしかすると突然私の新しい家族になるなんてことがあるかもしれない。

(もし、そうなったらどうしよう)

 朝来君とは友だちになったけど、もし一緒に住むとなったら話は別だ。

「高山さん。大丈夫ですか?」

「え、あ、はい」

 瞬の言葉に我に返った。

「一つ聞きたいのですが、彼の言っていた言葉は本当だと思いますか?」

「うーん・・・」

 その後は言葉にならなかった。普通に考えれば嘘のはずなのに、朝来君にはそういった常識が通用しないような気がしていた。きっと、みんなもそれを感じているに違いない。だから、こうやって私の家までついてきてくれているんだと思う。

「まあ、普通に考えれば本当のわけがねえんだよな。ただ、あいつ、正直わけがわかんねえこと平気でしやがるからな」

 知己がみんなの気持ちを代弁するかのようにそう言った。

 その後も、いくつか会話を交わしたがもともと常識はずれな内容だけに結論が出るはずもなく、そうこうしているうちに私の家に到着した。

(朝来君、どうするつもりだろう)

 私たちは玄関の前に立っている朝来君の後姿を固唾を呑んで見守った。すると、すぐに玄関の戸がガラガラと音を立てて開いた。そして、中から私のお母さんが出てきた。目の前に立つ夢美君を見ると、笑顔を嬉しそうな笑顔を浮かべてこう言った。

「お帰り。夢美君。今日から、うちの子ね」

「お世話になります」

 深々と会釈する朝来君。

「もう、遠慮はなしよ。さあ、入って。って、あら?」

 呆然とその光景を見つめる私たちに気づいたお母さんが不思議そうな顔をしている。

「お母さん」

 私はお母さんのもとに駆け寄ってたずねた。

「お母さん、夢美君のことをなんで知ってるの?」

「なんでって。いとこの夢美君じゃないの。あなた、何度も会ってるでしょ」

「!!!」

 言葉が出なかった。お母さんの言っていることが全く理解できない。私には、いとこは一人もいない。ましてや、夢美君とは今日初めて会ったばかりだ。驚きで言葉がでない私にあきれたようにお母さんが言葉を続けた。

「あなた、忘れたの?一ヶ月くらい前に、お父さんが夢美君をうちで預かることになるからって言ってたじゃない」

(何がどうなってるの!)

 混乱する私を助けてくれたのは瞬だった。

「こんばんは」

「あら、瞬君。こんばんは。今日はどうしたの?」

「朝来君が高山さんの家に引っ越してきたと聞いたので、少しでも仲良くなれればと思って一緒に下校してきたんです」

「ありがとうね、瞬君。これから、夢美君のことをお願いね。あと、希望のことも」

「はい」

 瞬は、さわやかさ満開の笑顔で返事をした。

「おばさん。あいつのこと昔から知ってるのか?」

「ええ、知ってるわよ」

 知己の質問に言いよどむことなく答えるお母さん。

「あいつって、男だよな」

「そうだけど。トモ君、変なこと聞くのね」

「まあ、そうだよな。普通、こんなこと聞かないよな。ごめん、おばさん。俺、今日ちょっと変かもしんない」

「おかしな子ね。フフフ」

 お母さんの笑い声に、つられて笑う知己。その知己を押しのけるようにして真友ちゃんがお母さんに質問した。

「ねえ、おばさん。朝来君は、いつまでここにいるの?」

「まだ、分からないんだけど。多分、小学校を卒業するまではここにいると思うわ」

 お母さんの言葉に私はショックを受けた。

(朝来君と一緒に二年間も・・・)

 別に朝来君のことが嫌いなわけではない。けれど、同じ年の男の子と二年間も一緒に暮らすなんて突然、言われても到底受け入れられなかった。とくに取り柄もないし、真友ちゃんみたいに綺麗でもない私でも、好きな人はいる。それなのに、他の男の子と二年間もなんて・・・

(これは夢?)

 夢だと思いたかった。けれど、これが夢でないことを私の心は知っていた。

「おばさん。まさかとは思うけど、のぞちゃんと朝来君を一緒の部屋で寝させるなんてことしないですよね」

 真友ちゃんの言葉に、私の心は凍りついた。もし、そんなことになったら、

(死んでしまうかも・・・)

 私が暗澹たる思いにかられていると、お母さんはあっさりとこう言った。

「当たり前じゃない。いくら希望が子どもっぽいからって、もう五年生なんだから部屋は別々よ。そんなことより、もう遅いんだからみんな早く家に帰りなさい。いいわね」

 お母さんの言うとおり、もうあたりは暗くなっていた。瞬も知己も真友ちゃんも、まだまだ聞きたいことがいっぱいありそうだったけど、しぶしぶお母さんの言葉にしたがった。真友ちゃんが帰り際、「何かあったらいつでも連絡してね。何時でも必ず駆けつけるから。」と言ってくれた。知己も、瞬も真友ちゃんの言葉に深くうなずいてくれた。こんな時にだけれど、みんなの心遣いが力強く、本当に嬉しかった。けれど、結局のところ私はまったく事情が理解できないまま、なしくずしに朝来君と一緒に住むことになった。

 

  「宿題 新しい家族についての感想文」


 今日、私に新しい家族が出来ました。名前は朝来夢美君といいます。とても不思議な子です。男の子のはずなのに、女の子になることができます。それとも、もともと女の子なのかもしれません。けれど、今、私の家で見る朝来君は間違いなく男の子です。

 私はこの新しい家族に今日まで一度も会ったことはありませんでした。けれど、お父さんも、お母さんも、おばあちゃんもみんな朝来君のことをよく知っていました。

「私も朝来君に会ったことがある?」

 と聞いたら、みんなに笑われてしまいました。そんな風に言われると、だんだん自分の記憶に自信が持てなくなってきたので、朝来君に直接聞いてみました。

「ねえ、朝来君。私たちっていとこ同士なの?」

 すると、朝来君はいたずらっぽく口元をゆるませてこう答えました。

「『そうだ』と言って君は納得するのか。」

 本当にその通りだと思いました。だから、私はそれ以上は、このことについて聞きませんでした。


 私は、朝来君とお友だちになりたいと思っています。けれど、何もかもが突然で、何もかもが不思議で、どうしようもないくらい戸惑ってしまっています。だから、今日は早く寝ることにします。あせって答えを探してもいいことなんてないからです。尾田先生の言葉を思い出しながら今日は寝ます。

「前に進めないときは、じっと耐える時も必要だぞ。あせらず、たゆまず、そして決してあきらめずに前に進み続けようという意志を持ち続けること。それが耐えるということだ。そして、悩み苦しみながら最後まで耐え抜いた時に必ず道は開ける。」

 尾田先生。おやすみなさい。


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