5月13日(日) 「宝の在り処」(8)
今日も何とか更新できました。明日はもう少し早く更新して、早く寝るようにしようと思います。
「ちくしょう!何にも出てこねえじゃねえか!」
知己はスコップを投げ出し、地面の上に倒れこんだ。私たちの前には、2メートル四方に渡る大きな穴ができていた。
「これだけ掘っても、何も出てこないということは、見当が外れたということかもしれません」
スコップの柄にもたれかかりながら、ようやく立っている瞬が肩で息をしながら言った。
「大体、あの宝の地図が不親切なんだよ。『この下に宝あり』ってどの下かくらい書いとけってんだ!」
「本当よ。“ロ”の下ならあるのにね」
座り込んだ真友ちゃんがそう言った。
「何言ってんだ?」
「だから、“ロ”の下ならあるっていったの」
「どこに?」
「そこに」
そう言うと真友ちゃんは、建物の壁を指差した。そこには、確かに“ロ”の形をした瓦のようなものがタイルのように何枚もはめ込まれていた。
「ね、“ロ”に見えるでしょ」
真友ちゃんがそう言った瞬間、瞬が
「あー!!!」
びっくりするような大きな声を上げた。私たちがあぜんとする中、瞬は建物の壁にはめ込まれたタイルに駆け寄った。そして、一枚一枚丁寧に調べ始めた。あまりの真剣な姿に、しばらく声をかけるのがためらわれるほどだった。
「おーい、瞬。何してんだ?」
頭に?マークを乗せたままの知己が声をかけた。けれど、瞬はいっこうに返事をしなかった。そんな瞬の態度にいらついたのか、知己は少し険しい顔をして瞬の肩をつかんだ。
「おい!返事くらいしろよ!」
「あった・・・」
「?」
瞬は、傍目からも分かるくらいに身体を震わせながらもう一度言った。
「あった・・・」
「あったって、宝があったのか?」
知己の言葉に、瞬は振り向いてコクリとうなずいた。
「え、本当に?」
真友ちゃんの問いかけにも瞬はうなずいた。
「どこに?」
私の問いかけに、瞬は一枚のタイルを指差した。
「“コ”の下です」
瞬の指先には、地面に半分埋もれる形でタイルがはめ込まれていた。そして、そのタイルは左側が綺麗に欠けていて、“ロ”ではなく“コ”の形になっていた。
「思い出してください。あの言葉の最後を」
(たしか『この下にたからあり』だったような)
私が瞬が何を言おうとしているのか考えていると、真友ちゃんが叫んだ。
「あー!分かった!“この下”じゃなくて、“コ”の下だったんだ!」
「あー、うるさい!何言ってのかさっぱり分かんねーよ!」
しびれを切らした知己が頭をかきむしった。真友ちゃんは、勝ち誇った表情で知己に近づいた。
「知己、教えて欲しい?」
真友ちゃんの表情を見て、知己は嫌そうな顔をしたが、背に腹は変えられないとでも思ったのか、しぶしぶ頭を下げた。
「教えてください、真友さん。」
「ふっふーん。よろしい。では、これを見て」
そう言うと、真友ちゃんは砂場に近くにあった棒で最後の言葉を描いて見せた。
コの下にたからあり
「これがどうしたんだよ?」
知己がいぶかしげな顔を向けると。真友ちゃんは、さらに勝ち誇った顔をしてみせた。
「何か気づかない?」
「読んだとおりだろ」
「最初の文字を見てみなさいよ」
「???」
知己が腕組をして考え始めると、真友ちゃんはすぐに痺れを切らして
「あー、もう。最初の文字だけカタカナで書かれているのに気づかないの!」
「それくらい気づいとるわ!」
「じゃあ、もう分かるでしょ。カタカナのコの形と同じものが瞬の前にあるじゃない」
知己は、目を大きく見開いて瞬の見つけたタイルをまじまじと見た。
(あの言葉の“コ”の文字は、意味じゃなくて形をあらわしてたんだ!)
気づいたとたん、胸がドキドキしてきた。図書館で見つけた不思議な言葉をたどって、ようやくここまでたどり着くことができた。いろんなことで悩んで、いろんなことで考えて、その度に新しい発見をして、みんなで一歩ずつ前へ進んできた。あれから一週間も経っていないのに、まるで何ヶ月も経ったようにさえ思える。そんな充実した時間の積み重ねの果てに、ようやくたどり着いた答えが目の前にある。
(どうしたんだろう、この気持ち)
嬉しいはずなのに、どこかでさびしく感じている自分がいる。期待していたことが実現しようとしているのに、期待が高まれば高まるほど不安な気持ちがどこかで強くなってきた。私が自分の心に生まれたいくつもの感情に戸惑っていると、
「よっしゃー!」
知己は飛び上がり、瞬に抱きついた。
「すげー!瞬、お前、最高の親友だ!」
知己の突然の行動に瞬は、面食らった様子でしばらく知己のされるがままになっていたが、我に返ると知己を突き放した。その勢いで知己は盛大にしりもちをついた。
「やめろ、この変態!」
「いてー。なんだよ、冷たいな」
「そんな問題じゃない。俺には男同士で抱き合う趣味はない!」
「なんだよ。よく映画とかアニメとかで友情を確かめ合うときにやってるじゃねえかよ」
さらに抱きつこうとしてくる知己を両手でけん制しながら瞬は叫んだ、
「そんなに、抱き合いたいなら後藤さんにお願いしろ!」
言った瞬間、瞬は両手で自分の口をふさいだ。私はすぐさま真友ちゃんのほうを見た。瞬の言葉に、真友ちゃんは真っ赤になった。
「な、な、な、何言ってんのよ!勝手に、私に振らないでよ。あたしだって嫌よ、知己と抱き合うなんて」
真友ちゃん言葉に、知己は平然と答えた。
「安心してくれ、真友。俺だって相手くらい選んで抱きつくから」
そう言った瞬間、真友ちゃんの拳が知己の胸に突き刺さった。(かのように見えるくらい鋭い正拳突きだった。)知己は、そのまま眠るように崩れ落ちた。
「ったく。いつも一言多いんだから、このバカは」
ため息まじりにそうつぶやいた真友ちゃんの表情は、なぜか可愛らしかった。それから、真友ちゃんは、するどい目つきで瞬をにらみつけた。
「瞬!変なこと言わないでよね!」
瞬は、直立不動の姿勢で深々と頭を下げた。
「はい!本当にすみませんでした!」
「まったく。せっかく宝のありかが見つかったていうのに、これじゃあ、いつもと変わらないじゃない」
真友ちゃんの何気ない一言が、私の心に深く染み込んだ。
(そうだね。私たちが変わらなければ一緒だね)
そう考えたとたん、さっきまでの心の戸惑いが嘘みたいに消えてしまった。そして、何だか楽しくなってきて、つい笑ってしまった。
「ふふふ」
「あ、ひどーい。のぞちゃんだけは、私のことをバカにしないと思ってたのに」
「あ、ごめん。バカにして笑ったわけじゃないよ」
「じゃあ、どうして笑ったの?」
「あのね、真友ちゃんの言葉を聞いて、何だか嬉しくなったの」
「へ?私、何か言った?」
「うん。とっても素敵なことを言ってくれたよ」
「???」
「私ね、真友ちゃんてすごいなって思う。真友ちゃんは、私の憧れだよ」
私は、感謝の気持ちをいっぱい込めて真友ちゃんにそう言った。真友ちゃんは、表情をぱっと明るくすると私に抱きついてきた。
「何だか分からないけど。ありがとう。のぞちゃんのおかげで元気でたよ」
「私こそありがとう」
私たちが友情を確かめ合っていると、瞬がぼそっとつぶやいた。
「・・・うらやましいですね・・・」
「じゃあ、俺と友情を分かち合おうぜ!」
いつの間にか黄泉の国から舞い戻ってきていた知己が瞬に抱きつこうとした。
「やめろ!」
瞬がとっさに伸ばした右手がまるで相撲の張り手のように知己の顔面に直撃した。自分の勢いがカウンターとなって、知己は上半身をのけぞらせるように地面に倒れた。あまりにも綺麗に倒れたので、真友ちゃんはすかさず、
「瞬、お見事!」
瞬は自分のしたことが信じられないような顔つきで呆然としていた。
「簡単に倒れたからびっくりしたでしょ?」
「はい。僕は手を伸ばしただけなのに」
「伸ばした手とそれをささえる身体がしっかり安定してたからね。それに、あの時の知己みたいにふざけて重心を身体の中心から外してしまうと、簡単に倒れてしまうの。どう、面白いでしょ」
「はい・・・でも、これも暴力ですよね」
「何言ってんのよ。これは正当防衛じゃない。ねえ、のぞちゃん」
「うん。今のは知己が悪い。人が嫌がることを無理やりするのは絶対だめだよ。聞いてる、知己」
しりもちをついたまま、頭をさすっていた知己はうつむきながら小さくうなずいた。
(ちょっと、きつく言い過ぎちゃったかな?)
でも、やっぱり知己は調子に乗りすぎていたと思うし、さっきのことは瞬が悪いとは思えなかった。知己がはしゃぐ気持ちは分かるけど、自分の気持ちは人に押し付けていいものじゃないと思うから。
「大丈夫か?」
瞬は、まだ座り込んでいた知己の前に行くと、手を差し伸べた。知己は少し驚いた顔をして、それから恥ずかしそうな、嬉しそうな顔をしてその手を掴んで立ち上がった。
「ありがとな。あと、ごめん」
「こっちこそ、痛い思いをさせて悪かったな。けど、抱きつくのはもうやめてくれ。正直、気持ち悪いから」
「ああ、もうしない。ていうか、今考えたら、なんでそんなことしようとしたのか、俺にも分かんねえや」
そう言った瞬間、瞬が「ぷっ」と吹き出した。つられて、私と真友ちゃんも笑った。
「そんなに、笑うなよ!」
そう言った知己も大声で笑った。
笑顔が広がると気分が明るくなる。笑顔は広がるものなんだ。一人から、二人。二人から三人へと。きっと、世界の半分の人が笑ったなら、残りの半分の人も笑ってくれる。笑顔には、そんな不思議な力がある。
私が、そんなことを考えていると、瞬がパンパンと二回手を鳴らして笑いを止めた。
「じゃあ、いよいよ宝探しの最後の仕上げに移りたいと思いますが、みなさんいかがでしょうか?」
「OK!いつでもいいぜ。」
知己の言葉に、私たちも相槌を打つ。瞬は深くうなずくと、コの字形になったタイルの下にスコップを入れ、砂を掘り返し始めた。二度、三度、四度目にスコップを入れたとき、タイルの下から何かが見えてきた。
「知己!手伝ってくれ!」
「了解!」
瞬と知己は、両手でタイルの下の砂をかき出し始めた。砂がかきだされる度に、タイルの下に空洞があることが分かってきた。その空洞の中の砂を外へとかき出し始めたとき、
「何かあるぞ!」
知己が叫んだ。私と真友ちゃんは知己と瞬のすぐ後ろから空洞の中を覗き込んだ。瞬と知己は、その何かを掘り出そうと周りの砂を指先を使って少しずつ削っていった。次第に、それが木でできた箱だということが分かってきた。瞬と知己の手が箱をつかめるだけ掘り出すと、二人は声を上げた、
「せーの!」
次の瞬間、空洞の中から木の箱が抜き出された。箱の大きさは、ちょうど学校で使っているノートくらいの大きさで、厚さは国語辞典くらいで、ふたの上にはこげ茶色の紐の結び目があった。色は、こげた跡のように黒っぽく、決して綺麗なものとは思えない。でも、
「・・・見つけた・・・」
瞬がつぶやくように言った。
「・・・本当に、あったな・・・」
知己は手に掴んだ木の箱から目をはなさずにそう言った。
「どうする?」
知己が瞬に尋ねた。瞬は、
「空けるしかないだろ」
「誰が、空ける?」
「・・・」
二人は明らかに緊張していた。私も、夢のように思っていたことが、本当になったことで戸惑いを隠せなかった。
(本当にあったんだ・・・)
きっと、みんなも宝物が本当にあるなんて思ってなかったに違いない。だって、そうでしょ。図書館で見つけた一枚の紙に書かれた言葉が本物の宝の地図だったなんてできすぎている。そんなことは夢の中か、物語の中だけだと思ってた。でも、今、現実に私たちの目の前に宝が現れた。
(どうしよう。)
これが私の正直な気持ち。みんなの顔をうかがってみると、同じような難しい顔をしていた。私は自分に問いかけてみた。
誰が開けるのか?
誰がこの物語の終わりを告げるのか?
その誰かは私たちの誰かだろう
誰かが開けなければ終われない
誰かがやらなければならないのなら
そうだ!
(私がやろう!)
私は、大きく深呼吸をした。
ようやく導入部分が終わりそうな感じです。ご意見、ご感想あればご連絡下さい。




