5月13日(日) 「宝の在り処」(7)
今回の更新は少なめです。今週も仕事が忙しくなりそうなので、少しずつでも毎日更新を目指します。
私たちが帰ってきたころには、砂場はいたるところ穴だらけになっていた。
「ちくしょー!一体、どこに宝があるんだよ!」
汗だくになり、上着を脱いでタンクトップ一枚になった知己が言った。
「ここに宝があるなんて確証はどこにもない。あるのは可能性だけだ」
息を切らしながら、こちらも汗だくになった瞬が言った。
「可能性が一パーセントでもあったら、それに賭けるのが男のロマンだろ!」
半ば自暴自棄のようなことを知己が言った。
「ということは、残りの99パーセントは負けるってことだろ」
こちらも疲れ果てた様子で瞬が言った。
「とりあえず」
「疲れた」
二人は同時に砂場にへたり込んだ。真友ちゃんは、知己のそばにさっと駆け寄り、かばんから白いハンカチを取り出して渡した。
「ほら、これ使いなさいよ」
「おう、サンキュー」
そう軽く言うと知己は額や首元をハンカチでごしごし拭き始めた。
「ん、なんだかいいにおいがするな。これ、何のにおいだ?」
「へへへ。乙女のたしなみってやつかな。ちょっと、香水をね」
「へえ、俺、こういうにおい好きだぜ」
そう言って、知己は真友ちゃんのハンカチを鼻に当ててにおいをかいで見せた。それを見ていた真友ちゃんの顔が一瞬で赤くなった。夕焼けに照らされて分かりにくかったけど、私にはすぐに分かった。
「な、な、な、何すんのよ!もう、返しなさいよ!」
真友ちゃんは電光石火の素早い動きで知己からハンカチを取り返した。
「なんだよ、においかぐくらいいいじゃねえか」
「いいわけ、ないじゃない!あたしのハンカチなんだからね!」
「お前が貸してくれたんじゃねえか。まったく、分かんねえ。なあ、瞬」
瞬は、やれやれといった表情で
「俺は、お前の鈍さの方が分からないな」
「え、俺って鈍いか?だって、野球もそこそこ上手いし、スポーツは得意なほうだぜ」
「俺が言ってるのは、お前の心配りの足りなさだ。少しは、高山さんを見習え」
「何、言ってんだ。俺と希望だったら、断然、希望のほうが鈍いじゃねえか」
知己がそう言った瞬間、瞬と真友ちゃんは同時に
「ふざけるな!!」
二人の勢いに、知己は目を丸くして驚いた。
「何も、そんなに怒らなくてもいいだろ。そりゃあ、希望を鈍いなんて言ったのは悪かったかもしれないけどよ」
「いいか、知己。さっきも言ったように、お前に足りないのは人の気持ちへの心配りだ。その一点で言うなら、高山さんが太陽、お前は焚き火みたいなものだ」
「ちょっと、瞬。それは失礼よ」
瞬の言葉を、真友ちゃんがさえぎった。思わぬ加勢に知己はぱっと表情を明るくして
「そうだ、真友、瞬に言ってやってくれ!」
「知己に例えられたら焚き火がかわいそうでしょ。知己なんて、タバコの燃えカスで十分よ」
真友ちゃんの、追い討ちに知己はさすがにショックを受けたようだった。その様子を見て、私は、
「二人とも、言いすぎだよ。知己は、思いやりがあるよ」
思わず、そう口走っていた。
「でも、のぞちゃんのこと鈍いなんて言ったんだよ」
「うん。でも、いいの。確かに私、鈍いところあるもん。それに、知己は私よりずっと思いやりがあるよ」
私は、自分でも理由は分からないけど、なぜか一生懸命になって知己をかばっていた。その様子を見ていた瞬は、少しさびしそうな顔をしながら知己のほうを見て、
「分かったか、知己。分かったら、素直に高山さんに謝れ」
瞬の言葉に素直にうなずくと、知己は私にぺこりと頭を下げた。
「ごめんな。鈍いなんて言って・・・」
「別にいいよ、気にしてないから」
私がそう言って笑顔を返すと、知己はほっとしたように笑顔になった。
「あ、でも」
私は、言い忘れていたことを思い出した。
「女の子の持ち物のにおいを嗅いだりするのは、もうやめてね。私だって、そんなことされたら嫌だもの」
「おう、分かったぜ。もう、しない。約束する」
「私にじゃなくて、真友ちゃんに約束してあげてよ」
知己は、さっと真友ちゃんのほうに向き直った。
「におい嗅いだりして悪かったな。もう、しない。約束する」
真友ちゃんは、また真っ赤になって
「あ、当たり前よ。女の子だったら、誰だってそんなことして欲しくないんだからね」
「本当に、悪かった。だから、もうかんべんな。それと、ハンカチありがと。なんだかんだいって、嬉しかったよ」
そう言いながら笑った知己の顔は、まるで赤ん坊の笑顔のように純粋で嘘のないものに見えた。
(こういうところが、知己のいいところなんだよね)
不器用なくらい素直な知己の心は、いいところでもあり、悪いところでもある。時に憎たらしく思えることもあるけれど、そんなところも含めて私は知己が好きだ。真友ちゃんもきっと知己のそんなところが好きなんだと思う。
そんな知己の姿を見て瞬が小さくつぶやいた言葉が私の心に残った。
「かなわないな、まったく・・・」
私には、瞬が何を思ってそうつぶやいたのかは分からなかったけど、それでも瞬が何かに悩んでいることは分かった。
「はい、瞬に貸してあげる」
私は、かばんからハンカチを取り出すと瞬に差し出した。
「え?」
「瞬も汗たくさんかいてるから。知己には真友ちゃんが貸してあげたでしょ。だから、私は瞬に貸してあげる。でも、知己みたいににおいを嗅いだりはしないでね」
瞬は真っ赤になって否定した。
「当たり前です!僕は知己と違います!」
「ははは、冗談だよ。だから、はい」
私が差し出したハンカチを瞬は、少しためらいながら手に取った。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。使い終わったら、返してくれたらいいからね。さてと、私も一汗かこうかな」
私は持ってきたバケツに砂を詰めて邪魔にならないところに運び始めた。
「あ、待ってのぞちゃん」
真友ちゃんもすぐさま同じように砂を詰めて運び始めた。
「よーし、もうひとふんばりするぞ!」
知己がスコップを使い出すと、瞬もあわてて穴を掘り始めた。みんなで力を合わせてやることは、何かしら楽しい。誰かの一生懸命な気持ちが伝わってくると、私も負けてられないとがんばれる。しだいに額ににじんできた汗も、なんだか心地よく感じる。けれど、次第に明るさを失っていく頭上の空は、私たちに一日の終わりが近いことを告げていた。
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