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5月13日(日) 「宝の在り処」(6)

本日の更新完了です。朝から仕事の下見に行ったりなんだり用事を済ましていたら、こんな時間になってしまいました。

 しばらくして、瞬と知己が建物の裏から帰ってきた。

「え・・・」

 私と真友ちゃんは息を呑んだ。だって、瞬の左頬に大きなあざができていたからだ。

「どうしたの、瞬!大丈夫!」

 私は駆け寄って瞬の頬に手を伸ばした。すかさず、瞬は後ずさりさわやかな笑顔で一言

「ええ、大丈夫です。心配いりません」

「そんなわけないでしょ。そんだけアザになってたらかなり痛むだろうし、その痕、二、三日は消えないよ。知己、あんたがやったの?」

 真友ちゃんは、知己に詰め寄った。

「ああ、俺がやったぜ。でも、責められるのはおかど違いだぜ。だって、瞬が自分で殴ってくれって言ったんだからな」

「何言ってんのよ!瞬がそんなこと言うわけないでしょ!」

「言ったんだから仕方ねえだろ!ぐだぐだと、うるせえんだよ!」

「なんですって!」

 更に詰め寄ろうとした真友ちゃんに、知己は

「男と男の間に女が入ってくるな!」

 と一喝した。その声と視線は、幼馴染の私でも怖気づいてしまうような鋭いものだった。知己の一喝に真友ちゃんは言葉を失ってしまった。

「すみません。後藤さん、高山さん、心配をかけてしまって。でも、このことは僕も知己も話し合って納得した上でのことなんです」

 優しく微笑みながらそう語った瞬の頬のアザはやっぱり生々しく痛々しかった。

「でも、瞬。本当に大丈夫なの?」

 私の問いかけに、「はい」とうなずいた瞬の笑顔が私には泣いているように見えた。私が瞬に近づこうとすると、知己が私の手を掴んだ。

「おい、希望。お前だったら、どうする?」

 知己の突然の行動と言葉に、戸惑いながらも私は聞き返した。

「・・・どうするって、何を?」

「そんなの決まってるじゃねえか。宝を探し当てるためにどうやってこの建物の中に入るかだよ。せっかくここまで来たんだぜ。絶対、宝を手に入れてやる。そうだろ、希望」

 知己はさも楽しそうに振舞いながら私にそう言った。知己の一生懸命なその仕草が私にはとてもうれしく思えた。

(・・・そうだね。うん、分かった)

 私は、少し考えてから、思い切り元気な声で話し始めた。

「私だったら、まず建物の出入り口を調べてみて、中に入れるところがあるかどうかを探してみる。それで見つからなかったら、尾田先生にこの建物の鍵があるかどうかを聞いてみる。鍵があれば、中に入れてもらえるよう頼んでみるし、もしなかったら鍵の仕組みを調べてみる。その他のことは今はまだ思いつきません!」

 私は一息にそこまで言うと、おかしさがこみ上げてきて笑い出してしまった。

「なんだよ、突然、笑いだしやがって。変なやつだな」

「のぞちゃん、何がおかしいの?」

「うん、あのね。なんだか、思い切り声をだしたらね、元気が出てきて、楽しくなって、それでおかしくなったの」

「うん、ある、ある。私もね、大声で文句言ったり、叫んでみたりするとすっきりする時があるもん」

「それだったら俺だって、そうだぜ」

「あんたは、いつでも声がでかいでしょ」

「うっせーよ」

「ふふふ」

「あ、のぞちゃん、また笑った」

「そりゃあ、笑うよ。だって、さっきまで怒鳴ったり、ケンカしたり、でも、あっという間にいつもの二人に戻ってるんだもん」

 二人は顔を見合わせた後、くすくすと笑い始めた。私もつられて笑った。笑いながら瞬を見た。瞬は、唇をきゅっと噛み締めて、笑いをこらえようとしていた。

「瞬、こういう時は笑おうよ!」

 私は自分にできる精一杯の笑顔を瞬に送った。瞬の顔に影を落としていた何かがスーッと消えていくように見えた。

「はい、笑います!」

 瞬は、満面の笑顔でそう答えた。

「『はい、笑います』って言って笑うやつがどこにいるんだよ」

 知己が笑いながら瞬の肩に手をおいた。瞬はニヤリと笑って、右手の親指を自分に向けて立てた。

「ここにいるよ」

「『おかしなやつ』だな」

「ああ、『おかしなやつ』だ」

 二人は、顔を見合わせると、肩を組んで笑い始めた。真友ちゃんは、それを見て、あきれたような顔をしながら、それでいてなんだか嬉しそうにこう言った。

「あんたら、二人で『おかしなやつら』でしょ」

 私は、すかさず、「おかしいけど、素敵な二人だよね。ね、真友ちゃん?」と問いかけた。真友ちゃんは軽くウインクをして「そうかもね」と答えた。それを聞いた瞬と知己は、もう一度顔を見合わせると、満面の笑顔でまた笑い始めた。


 南の空から私たちを見守ってくれていた太陽も、今は西の空を赤く染めていた。いつもならなんだかさびしく、もの悲しい気持ちになるこの時間が、今はどんな時よりも輝いて感じられた。

(きっと、みんなと一緒にいるからだ)

 同じ風景が違って感じられるのは、みんなと一緒にいるからだ。宝探しだって、私一人じゃきっと続けられなかっただろうし、楽しくもなかったと思う。一緒に力を合わせて、一緒に悩んで、一緒に喜びを分け合ったから、みんなと一緒にいるこの瞬間がきらきらと輝いているんだと思う。

「ねえ、のぞちゃん。何、ぼーっとしてるの?」

 私の隣を歩いていた真友ちゃんが、心配そうに聞いてきた。

「あ、うん、ごめん。夕陽が綺麗だなーって。つい、見とれちゃって」

「あ、本当だ。いつの間にか、空が真っ赤になってるね」

 真友ちゃんも西の空へと目を向けた。

「早くしないと、日が暮れちゃうから、いそいで調べなきゃ。のぞちゃん、がんばろうね!」

「うん!」

みんなでひとしきり笑った後、私たちは建物の中に入る方法を探すために二班に分かれることにした。瞬と知己は建物の扉や鍵を、私と真友ちゃんは建物の周りを徹底的に調べることに

した。建物の周りを調べてみて分かったことは、ここが竹林に囲まれていること、四方の壁には窓らしきものが一つずつあるだけで人が入れそうにないこと、高さは学校の2階くらいだということだった。

「ちょっと、不気味だよね」

 真友ちゃんの言葉に、私はコクリとうなずいた。真友ちゃんの言った通りで、早くしないと日が暮れちゃうし、6時を過ぎたら校門を閉められてしまうかもしれない。それに、なによりも

(幽霊が出たらどうしよう・・・)

 真友ちゃんが言っていた幽霊の話が頭にこびりついて離れなかった。

(真友ちゃんは、怖くないのかな?)

 ちらりと真友ちゃんの顔を見てみて、私は息を呑んだ。夕陽に照らされた真友ちゃんの横顔はまるで女神様のように凛々しくて、綺麗だった。

「あれ、どうしたの?」

「ううん。なんでもない。ちょっと、ぼーっとしちゃった。えへへ」

 私は、照れ隠しに笑ってみせた。と、そのとき、何かに足を引っ掛けてしまい、勢いよく転んでしまった。一瞬、目の前が真っ暗になった。とっさに、両手で地面を押さえたけれど、支えきれずに胸とひざを強く打ったみたいだった。痛みに泣き出しそうになったけど、我慢した。

(大丈夫、これくらいで泣くもんか)

 それでも涙で目が潤んだ。

「のぞちゃん、大丈夫!」

 真友ちゃんが、すぐに私の身体を抱き起こそうとしてくれた。

「大丈夫。一人で起きられるから」

 私は、真友ちゃんにそう言うと、両手で地面を押さえながらゆっくりと身体を起こした。立ち上がってみると、両手とひざから血がにじんでいた。真友ちゃんは、私の服についた土ぼこりを手ではたいてくれた。私は、痛みをこらえながら、真友ちゃんに笑顔を向けた。

「ありがとう、真友ちゃん。もう、大丈夫だよ」

 真友ちゃんは、私の笑顔を見ると少しほっとした表情をしてくれた。

「よかった。でも、手やひざから血がにじんでるから、家に帰ったら絶対に消毒しておいてね。ちょっとした怪我だと思ってほっておいたら、大変なことになるかもだよ」

「うん、分かった。ありがとう」

「どういたしまして」

 手やひざはまだ痛んだけれど、さっきまでの痛みはもうなかった。誰かが心配してくれるだけで、痛みはやわらぐものなんだと思った。

(それにしても、私、何でこけたんだろう?)

 私が足元を見てみると、そこには地面から竹の根っこが突き出ていた。

(きっと、これでこけたんだ)

 よく見てみると、地面のいたるところに竹の根が顔を出していた。

(あれ?)

 私は、不思議なことに気がついた。

「ねえ、真友ちゃん。なんだか、あの辺だけ草も笹もないのはどうしてかな?」

 私がその場所を指差すと真友ちゃんは目を凝らして確かめた。

「本当だ。あの辺りだけ、ほかよりも綺麗だ。これは、ちょっと調べてみる価値があるんじゃない」

 そう言うと、真友ちゃんは草が生えていない場所に走っていった。私もすぐさま後を追った。調べてみると、建物の東側の壁の北側の角あたりの周りにだけ草も笹も竹の根っこすら生えていないことが分かった。

「ねえ、のぞちゃん。このあたりだけ、土じゃなく、砂みたいにさらさらしてるよ」

 真友ちゃんに言われて、地面を触ってみると言われた通りだった。少し、すくって握ってみると指の間からさらさらと流れ落ちていった。

(なんで、ここだけ?)

 私は周りを見渡してみて、理由を考えてみたけど、ちっとも思いつかなかった。

「分かった!のぞちゃん、分かったよ」

「すごい!真友ちゃん。教えて。」

「うん、あのね、ここだけ砂があるのは、ここが前は庭だったから。それで、ここは砂場で子どもの遊び場だったの。砂場だったら、草が生えなくても当たり前でしょ」

 真友ちゃんは、えっへんと胸を張って見せた。私は、真友ちゃんの話を聞いて

(本当に、そうなのかな?)

 と思いつつも、真友ちゃんがあまりにも嬉しそうにしているので、違うとは言い出せずにいた。

「おーい、何かあったのか?」

 私たちの様子を聞きつけた知己と瞬が駆け足でやってきた。知己が来るやいなや、真友ちゃんはさっきまでのことをかいつまんで話した。話し終わるやいなや、瞬は

「面白い考えですけど、おそらくその考えは間違っています」

 ときっぱり言い放った。自分のナイスアイデアを頭ごなしに否定された真友ちゃんは、瞬に食って掛かった。

「なんでよ!どこが間違っているって言うの!」

「まず、この建物はかなり以前から建っていたものと思われます。ということは、この場所には以前からこの建物が存在しており、建物のすぐ横のこんな場所に砂場をわざわざ作るとはとうてい思えません。しかも、ここは竹林に囲まれ、明らかに孤立した場所です。この建物の人が住むために作られたものではなく、おそらく倉庫か何かに使われたものでしょう。以上のことから、ここに庭があって砂場を作ったとは考えられません」

「・・・」

 瞬のマシンガンのような正論の連発に真友ちゃんは口を閉じたままにらみ返していた。

「じゃあ、瞬はなんでだと思うの?」

 私は、真友ちゃんと瞬との間に割って入るように質問してみた。

「今は、まだ分かりません」

「うん、私もまだ分からない。だったら、真友ちゃんの考えを頭から違うって決め付けないほうがいいと私は思うんだけど・・・どうかな?」

 私が上目遣いに瞬に視線を送った。すると、瞬は、はっと何かに気がついたようで、すぐに真友ちゃんのほうへ向き直り、頭を深々と下げた。

「後藤さん、すみません。僕の悪い癖です。直すようにできるだけ努力しますので、どうか許してください」

「い、あ、いいよ、いいよ。そんなのぜんぜん気にしてないから。ね、頭あげてよ。もう、あたしたち友だちなんだから、そんな堅っ苦しいのはなし、なし」

 瞬の突然の謝罪に戸惑いながらも、真友ちゃんは、はにかんだような笑顔で瞬に声をかけた。瞬は、ゆっくりと頭を上げると、「本当にすみませんでした」ともう一度謝罪した。

「本当だぜ、瞬。気をつけろよ。お前の悪い癖だぜ」

 知己の言葉をさらりと受け流した瞬は、地面の砂を手ですくってみせた。

「たしかに、綺麗な砂ですね。握っても指の間からさらさらとこぼれていく。自然にここにあったわけではなさそうですね」

「そうでしょ。だから、私は砂場を誰かが作ったのかなって思ったのよ」

「もしくは、誰かが何かの目的のためにここに砂を埋めたか」

 瞬の言葉に知己が飛びついた。

「ここだ!」

 私たちの視線が知己に集中した。

「きっと、ここに埋められてんだ!ほら、土とかだったら掘るのに大変だから、きっと砂で埋めたんだ」

 興奮しきった知己に瞬が声をかけた。

「おい、知己」

「なんだよ、瞬。もっと喜べよ」

「お前の話には主語が抜けてる。いったい、何が埋めてあるっていうんだ。まあ、だいたい察しはつくけど、一応聞いてやる」

「何がって?決まってるじゃねえか。宝だよ、宝。どうだよ、俺の考えは?」

「別に否定するつもりはない。というか、今のところ手がかりはこれしかないんだから、調べてみる価値はあるだろう」

「だろ。なら早速」

 そう言うと、知己は手で地面の砂を掘り始めた。

「えー!直接手で掘るの。あたしの手が荒れちゃうじゃない」

「いいから掘れよ、真友。希望はそっちを掘れよ。瞬はそっちな。誰が一番に宝を見つけられるか勝負だ!」

 知己は一人で盛り上がり、必死になって砂を掘り返していった。真友ちゃんは、しぶしぶ砂を掘り返し始めた。私も真友ちゃんの隣にしゃがみこんで砂を掘ろうとした時、

「ちょっと、待ってください」

 瞬に呼び止められた。

「何?」

「まさか、手でこの砂場を掘り返すつもりですか?」

「うん、まあ、知己も素手でがんばってるし、私もやってみようかなって」

「この広さの砂場ですよ。少なく見積もっても、縦横の幅が3m以上はあります。しかも、どのくらいの深さまで掘ればいいのかも分からないのに素手で掘るなんてバカのすることです」

「おい、おい、聞き捨てならねえな。じゃあ、素手で掘ってる俺はバカってことか」

「いや、お前はバカじゃない。大バカだ」

「じゃあ、ほかにどんな方法があるってんだ」

 その質問には答えずに、瞬はさっと踵をかえすと竹林から走り去って言った。そして、3分ほどして両手に二本のスコップを携えて帰ってきた。

「いいか、知己。人間がほかの動物と決定的に違う点は、道具を使う知恵があるかどうかだ」

 そう言って知己にスコップを渡すと、瞬は黙々と砂場を掘り返し始めた。

「ちぇ」

 知己はまだ不満そうにしていたが、スコップを使ったほうが断然早く砂を掘り返せることが分かっているらしく、瞬を見習って掘り始めた。

「ねえ、瞬。そのスコップどこにあったのよ。私とのぞちゃんも取ってくるから」

「その必要はありません」

「どうしてよ?」

「女性に力仕事をさせては紳士の名折れです」

「・・・。」

 瞬の言葉に真友ちゃんは絶句してしまった。その間も、瞬は額を汗で濡らしながら砂を掘り続けていた。そんな瞬を見ていると

(ただ見ているだけなんて、嫌だ)

 そんな気持ちがどんどん強くなってきた。

「じゃあさ、真友ちゃん。私たちで、二人が掘り返した砂を運ぼうよ。このままだったら、せっかく掘り返した砂がすぐに穴の中に落ちちゃうから」

「うん、そうしよう。瞬、これなら文句ないでしょ」

 えっへんと胸を張って瞬を見下ろす真友ちゃんに、瞬はわき目も振らず一言

「二人がそうしたければ」

「じゃあ、決まりね。のぞちゃん、バケツ持ってこようよ。人間なら、道具を使わなくちゃね。」

 さっきの仕返しのつもりなのか、ちょっと皮肉っぽく言った真友ちゃんの言葉が、私にはとてもおかしく聞こえた。そっと瞬のほうを見ると、少し不機嫌そうな顔をしながら黙々と穴を掘っていた。だから私はがんばって笑いをこらえることにした。そんな私の様子がおかしかったのか真友ちゃんはニヤニヤしながらこう言った、

「のぞちゃん。早く行こう。急がないと、間に合わないよ。」

 私は、うなずくと笑いをこらえたまま真友ちゃんについて走った。


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