5月13日(日) 「宝の在り処」(4)
今回は少し小難しい内容になってしまいました。数字の嫌いな方はすみません。
「さてと、時間を取ってしまって申し訳ありませんでした」
いつも通りに戻った瞬が話を進めた。
「別に気にしてないぜ。それより、早く宝探しに行こうぜ!」
「まあ、知己ちょっと待ってくれ。高山さんの方法でほぼ宝の在り処の見当はついたが、念には念をいれて、もう一つの方法でも宝の在り処を確認しておきたいと思う」
「え?他にも方法があるの?」
真友ちゃんが聞くと瞬は「はい」とうなずいた。
「後藤さんは算数は得意ですか?」
「うーん、ちょっと苦手」
「じゃあ、円周の長さを求める計算式は覚えていますか?」
「あ、それなら知ってる。『直径×3.14』でしょ」
「正解です。その公式を知っていればこの地図に描いた円の周りの長さを求めることができます。円の中心は大杉があった場所。そこからスタート地点までが半径になります。この定規で半径を測ってみると、18.8cmです。半径が18.8cmということは、直径は37.6cmになります。じゃあ、知己。お前、計算は得意だろ。『37.6cm×3.14』を計算してみてくれ」
「まかせとけ!」
知己は近くにあった棒切れで地面に『36.6×3.14』を筆算で書いて計算し始めた。実は知己は以外にも算数が好きだった。なんでも、2年生の時に学校の先生に繰り下がりの引き算を褒めてもらったことがきっかけだそうで、それ以来、計算が大好きになったと前に話してくれたのを聞いたことがある。
「よっしゃ、答えは118.064だ。めんどくさいから、小数点は四捨五入して118でいいだろ」
知己が自信満々に答えると、瞬はにこりとうなずいた。
「これで、この地図の円周の長さが118cmということが分かった。じゃあ、次に実際の長さを求めたいの『118cm×2500』を計算してみてくれ」
瞬の言葉に、知己は首をかしげた。
「ちょっと待ってくれ。なんで2500をかけるんだ?」
ここぞとばかり真友ちゃんが口を挟んだ。
「ばかねえ。この地図の左端を見てみなさいよ」
そう言って真友ちゃんが指差した先には、1/2500の文字が書かれていた。
「この地図は1/2500で描かれているんだから、元の長さに戻そうと思ったら2500倍しないといけないの。分かったかな、知己君」
「なるほど!真友、お前意外とかしこいな」
「以外は余計だけどね。一応、ありがとうと言っておくわ」
「よーし、じゃあ計算するぞ」
知己はさっき以上のスピードで計算を始めた。
「できた!答えは295000だ!」
「それをメートルで表すと?」
「おっと、いつぞや文化センターでのことを思い出したぜ。1mは100cmだから、295000÷100を求めればいいんだから・・・答えは2950mだ!」
「OK!円周の長さは2950m。ここまで分かれば答えはもう少しだ。七百歩歩いた距離は約490m。これは分かるよな?」
「???」
知己が不思議そうな顔をしたので、私が助け舟を出した。
「あのね、知己。前に瞬が言ってたでしょ。私たちの一歩は大体70cmくらいだって。だからね、『70cm×700歩』を求めると49000cm。メートルに直すと?」
「490mだ!なるほどね」
「じゃあ、今度は高山さんに質問です。円をちょうど半分に割ると円周の長さも面積も半分になりますが、もう一つ半分になるものがあります。何か分かりますか?」
(円周と面積とあと一つか・・・)
「円周と面積・・・あ、分かった。中心角でしょ」
「あ、それ知ってる!円の中心にできる角度で一周すると360°になるんだよね。私、図形は得意なんだ。一周で360°だから、半分だと180°。どう、瞬?あってる?」
「後藤さん、正解です。今、後藤さんが言ってくれた通り、円を半分にすると円周も、面積も円周角も半分になります。このように、円周と面積と円周角は比例の関係にあります。円周を1/3にすると円周角も1/3になります。同じように、円周角を1/4にすると円周も1/4になります。つまり、全体の円周の長さにおける目的の円周の長さが分かれば、その弧によってできる円周角も導き出せるということです。ということは,」
「ちょっと、まってくれ」
知己は更に説明し続けようとする瞬を右手で制止した。
「途中から、お前が何を言っているのか全く分からなくなった。瞬、お前の能力はそんなものじゃないはずだ。いいか、お前のような天才には、我々のような凡人に分かりやすく物事を教えなければならない責任がある。尾田先生も言ってただろ『他の人に分かるように伝えることができて初めて物事を本当に分かったといえる。』って」
「つまり、今の説明では難しすぎたということかな?」
「というか、話が長すぎるんだよ。もっと短く、簡単に説明してくれ」
「あ、私も。もっと、簡単なほうがいいな」
知己の意見に同調した真友ちゃんは、知己と顔を見合わせて、
「「簡単がいいよねー!」」
とハモった。瞬は、苦虫を噛み潰したような顔をしながら、リュックからノートを取り出して、そこにフリーハンドで円を描いた。
「これを見てください。ここに書いた円の周りの長さが100cmあると思ってください。この円を中心を通る直線で半分に割ります」
瞬は定規で直線を引き、円を半分にした。
「さて、この半分の円の周りの長さは何センチでしょうか?」
途端に、真友ちゃんと知己が手をあげた。
「「はい、はい、はい!」」
「では、後藤さん」
「50cm!」
「はい、正解です」
「よっしゃ!知己に一歩リードしたわ!」
ガッツポーズの真友ちゃんと、地団駄を踏む知己が対照的で面白かった。
「ちくしょう!瞬、ひいきすんなよな」
すねる知己を軽く無視して、瞬は説明を続けた。
「じゃあ次に、この半分の円の中心角は、何度でしょうか?」
「「はい、はい、はい!」」
「では、知己」
「180°!どうだ、あってるだろ!」
「はい、正解です。」
「いよっしゃあ!勝負はこれからだぜ、真友!」
「臨むところよ!さあ、瞬、どんどん問題だして!」
いつの間にか、知己と真友ちゃんのクイズ大会一騎打ちのようになってきた。私も参加したいなと思ったけど、やめておいた。
(二人を見ているほうがずっとおもしろい)
私が、くすくす笑っていると、瞬もくすくす笑い始めた。
「おい、おい。瞬よ。笑ってる場合じゃないぜ」
「OK、OK。分かったよ。じゃあ、今までの応用問題を出すぞ」
瞬は、ノートに書いた半円をさらに半分にする直線を描いて、その中心角のところに45°と書いた。
「じゃあ、この中心角90°の扇形の弧にあたる部分の長さはいくらでしょうか?」
「はい!」
悩んでいる真友ちゃんを尻目に知己が勢いよく手をあげた。
「じゃあ、知己」
「『こ』ってなんだ?」
知己の質問に瞬がずっこけた。
「そう、それよ。私もそれが分からなかったの」
「おい、おい。瞬よ。さっきも言ったけどな、難しい専門用語で話されても、凡人である我々にはだな・・・」
「学校で習っている!」
知己の言葉を瞬は切れ味のある言葉でさえぎった。見ると、瞬は少しむくれていた。
「え?」
「高山さん、『弧』という言葉は学校で習いましたよね」
「うん。扇形のこの丸っこい部分のことだよね」
私はノートに書かれた扇形の丸っこい部分を指でなぞってみた。
「ありがとうございます。というわけで、『弧』という言葉は学校ですでに習っている。自分の不勉強を棚に上げて、人を非難するとは。全く、お前ってやつは」
「えへへへへ」
知己は頭をかいて、白い歯を見せながらわざと可愛らしく笑ってみせた。
「えへへ、じゃない!まったく」
「まあ、まあ。ここは私の顔を立てると思って、許してあげて。ね、お願い」
真友ちゃんは瞬の腕に両腕で絡みつくと、パチリとウインクをした。突然の行為に、瞬は真っ赤になって後ろに飛びのいた。
「い、いいかげんにしてください。ふざけるんだったら問題を出すのをやめます」
「ごめん、ごめん。もうしないから。ね。今の問題をもう一度お願い」
(あー、びっくりした。真友ちゃん、大胆だな)
真友ちゃんは時折、大人びたことをすることがある。男の子に擦り寄るのが大人びたことなのかどうかは知らないけれど、真友ちゃんの仕草をみると女の私でもドキドキするときがある。
(私も、真友ちゃんみたいにしてみたら、もっと大人っぽくなれるのかな)
私がボーっとそんなことを考えているうちに、瞬はさっきの問題を繰り返していた。
「はい!」
手が挙がったのは真友ちゃんだった。真友ちゃんは、ちらりと知己を一瞥すると勝利を確信した笑顔で答えを言った。
「答えは25cmです。」
「後藤さん、お見事です。ちなみに、どうやって答えを出したのか説明できますか?」
「そんなの、簡単よ。だって、半分の円の弧の長さが50cmだったんだから、そのさらに半分は25cmに決まってるもの」
私は、すかさず拍手をした。瞬も合わせて拍手した。でも、知己だけはむすっとしていた。
「おーい、次の問題はまだかよ」
知己の言葉に、瞬はノートに描いた円をさらに小さな扇形に区切る直線を引いて、二人に見せた。
「じゃあ、次の問題は少し難しいぞ。この扇形の弧の長さが10cmだったとすると、中心角は何度になるでしょうか?」
今度の問題は二人とも「うーん」とうなりながらしばらく考えていた。知己は近くにあった小枝でまた地面になにやら数字を書き込んでは消し始めた。真友ちゃんもそれを見習って、同じようにし始めた。瞬は、チラリと私のほうを見ると笑顔を向けた。
「高山さんは分かりますか?」
「うーん。多分、分かると思うけど・・・あんまり自信がないな。それに、二人の邪魔をしちゃ悪いし」
「じゃあ、二人に考え方のヒントをあげたいので、高山さんの考え方の最初のほうだけを説明してくれますか。このままだと、今日中に宝の在り処までいけなくなりそうなので」
瞬は頭をぺこりと下げてみた。
「・・・うん。じゃあ、やってみるね。えーとね、あのね、もともとの円周の長さは何cmだったか覚えてる?」
真友ちゃんは、さっと手をあげて答えた。
「100cmでしょ」
「そう、円周が100cmの時に中心角は360°でしょ。問題は、100cmのうちの10cm分の中心角はいくらになるかっていうことだから、元の長さのいくつ分が10cmになるかが分かれば・・・」
「分かった!!」
知己の興奮した叫び声が近所にこだました。
「謎は全て解けた!真友、俺の説明をよく聞いておけよ」
そう言うと、知己は瞬から鉛筆とノートを取り上げると、そこにフリーハンドで大きな円を描いた。
「この円の周りの長さは100cmだ。これを半分に割ると50cm。この半分を綺麗に5つに分けると、10cmの扇形ができる。つまり、10cmの扇形は全体を10個に綺麗に分けたうちの一つだ。ということはだ、中心角も同じように10個に綺麗に分けてやればいいってことだ。どうだ、瞬!正解だろ!」
「じゃあ、答えは何度だ。」
「36°!」
「正解!見事な謎解きだったな知己」
「よっしゃあ!」
知己は飛び上がってはしゃぎまわったあと、真友ちゃんの前に立つと、人差し指を目の前に突きつけた。
「これで、二勝二敗の同点だぜ。最後に勝つのはこの俺だからな」
「ふん。敵ながら天晴れね。でも、勝負って言うのは最後に決定的な一勝を手に入れたほうが勝つって決まってのよ。さあ、瞬。最後の問題を出して」
真友ちゃんの言葉に促されるように、瞬は最後の問題を出した。
「では、最後の問題です。今、中心角を求めた方法を利用して、円周の長さ2950mの円のうち、弧の長さが490mになる扇形の中心角を求めてください。」
二人は一斉に地面に数字を書き込み計算し始めた。そして、2分後。
「できた!」
最初に手をあげたのは真友ちゃんだった。
「円周の長さを約3000m、弧の長さを約500mとすると、その割合は大体1/6になり、360°に1/6をかけると、答えは60°です。どうですか?」
(すごい!真友ちゃん、すごいよ!)
私と瞬が拍手をしようとした瞬間、知己が叫んだ。
「ちょーっと待った!」
あまりの勢いに、私たちが呆気にに取られていると知己は猛然と語りだした。
「真友の答えに拍手を送るのは早すぎるぜ。これは宝探しのための計算だ。多分や、およそはいらない。つまり、真友の計算方法では大雑把すぎる」
「だれが大雑把ですって!」
真友ちゃんの抗議の声も今の知己には届かないようで、語りはさらに続いた。
「そこで、俺は2950m分の490mを計算した。すると、0.166102・・・と割り切れなかったので、小数第三位を四捨五入し、その答えが0.17であることを割り出した。」
「ちょっと、待ってよ。あんた、さっき宝探しの計算だから『多分や、およそはいらない。』って言ってたじゃない」
「これだから困る、負け犬ほどよく吼えるからな」
「何ですって!もういっぺん言ってみなさいよ!」
真友ちゃんは知己の胸ぐらをつかみ寄せた。すごい形相の真友ちゃんを平然とした表情で受け流し、知己はさらに語り続けた。
「いいか、よく考えてみろよ。お前の計算では円周で125m、弧の長さで10mの違いがあるだろ。数字だけで見ればたいしたことないように思うかもしれないけどな、125mっていったら小学校のグランドの端から端くらいはあるぜ。俺の計算の四捨五入とは分けが違うのが分かるだろ」
「そりゃ、そうだけど・・・っていうか、あんた昨日ものぞちゃんに『人の一生懸命を他人と比べてバカにするなんてしていいことなの』って怒られたばっかりじゃないのよ。あんた、また同じこと繰り返すつもり!」
真友ちゃんの言葉に、知己は昨日のことを思い出したようで途端にさっきまでの勢いがなくなった。
「・・・ごめん。気をつけます」
素直に謝る知己を見て、真友ちゃんは胸ぐらから手を離した。
「なら、いいわ。じゃあ、さっさと続きを説明して。正直あんたの言い方にはむかついたけど、言ってることの意味は分かるから」
「本当か?」
「本当よ。いつもの知己より三倍くらいは賢く見えたわ」
(真友ちゃんは、何を基準に三倍くらいって言ったのかな?)
私はふとそんなことを思った。
(人の賢さに基準なんてつけられるのかな?)
私がそんなことを考えている間に、真友ちゃんの言葉に気をよくした知己は説明を続けた。
「2950m分の490mの割合は約0.17なので、この割合を円周角360°にかけると答えは61.2°になる。つまり、真友の出した答えでは約1.2°の違いができてしまう。たかが、1.2°だがされど1.2°だ。距離に直すとえーと・・・」
「約10m近くの誤差になる。」
瞬は目をキラキラさせながら知己に近づくと、知己の右手を高々と空に向かって振り上げた。
「勝者、前川知己!」
私も真友ちゃんも知己に惜しみない拍手を送った。それくらい、今の知己はすごいと思った。
(確かに、三倍くらい賢く見えるかも。)
真友ちゃんが『三倍くらい賢く見える』って言った言葉の意味が少し分かったような気がした。だって、いつもの知己より、ずっと考えて、ずっと一生懸命だったから。私たちの賞賛の拍手はしばらくの間続いた。
更新する量は少ないですが、頑張って続けます。




