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5月13日(日) 「宝の在り処」(2)

仕事が忙しくて更新するのが少し辛くなってきましたが、継続は力なりとの言葉を信じて頑張ります。

 その後、また一騒動あったあと、ようやく落ち着きを取り戻した知己はおもむろに切り出した。

「ともかくだ、瞬。大杉は見つかったか?」

「いや」

「真友は?」

「全然だめ」

「希望は?」

「私も、見つけられなかったよ」

「だろ?俺が見つけられなかったんだから、お前たちに見つけれるわけがないんだ」

 知己が自慢げにそう言うと、瞬は大きなため息をついた。

「知己」

「なんだ?」

「いいか、よく考えてくれ。この住宅街はそんなに広くないだろ。いくら分かりにくい場所にあったとはいえ、俺たちが1時間以上隅から隅まで探して見つからないということは、大杉の切り株はすでに取り払われていて跡形もないという可能性が高くなったということだ。ここまでの話は理解できたか?」

「OK。ばっちりだ」

「ということは?」

「切り株がないから見つけようがないってことだろ」

 知己があっさりと答えると、真友ちゃんが大きな声を上げた。

「えー!それじゃあ、宝探し続けられないじゃない!」

「マジかよ!そういうことか。ちくしょう、誰か手がかりか何か見つけてないのかよ」

 瞬は、さっき私に見せてくれた地図を広げた。

「知己。ここに俺が予想した大杉の場所に赤いシールが貼ってある。シールの貼ってある場所はすべてまわった。知己はどこを探した?」

 知己は地図をにらみつけながら、自分が探した場所を指差して言った。

「ここと。ここと。あ、ここも探した」

 瞬は手早く指差した場所に赤いシールを貼っていった。

「後藤さんと高山さんも教えてください」

 私と真友ちゃんも同じように探した場所を指差し、地図の上にたくさんの赤いシールが貼られていった。

「これで、みんなが探した場所全部に赤いシールが貼られたことになる。あと、探してない場所は、この地図で見ると塀の中とスタート地点のお堂のあたりだけになる。家の中に入ることは無理だから、まずはお地蔵さんのあたりをみんなで探してみよう」

「了解だ、瞬」

「後藤さんと、高山さんもよろしいですか?」

「うん。分かった」

 私たちは、急ぎ足でスタート地点に戻ると、早速大杉の手がかりを探し始めた。知己はお堂の脇に生えていた杉の木に登って、枝の上からあたりを見回しはじめた。瞬はお堂の周りの家や道を地図と見比べながらなにやら考えているようだった。真友ちゃんは、道端や塀の隙間から庭を覗き込んだりしていた。

(どうしようかな?)

 私は、どうしたらいいのか分からなくて、あたりを見渡した。すると、なんだかずっと昔にこんなことがあったような、そんな不思議な感じがした。お堂の前に立って左右を見渡すと道が四方に広がっていて、塀に囲まれたこの住宅街でここだけが開かれた空間のように思えた。ふと、おばあちゃんの言葉を思い出した。

― 祈りは力 ―

(そうだ。何も思いつかないし、何もできないのなら、せめてみんなのために大杉が見つかるように祈ってみよう)

 私は、お堂の前に立つと手を合わせて心の中で祈ってみた。

(どうか、みんなのために大杉の手がかりが見つかりますように)

 三回心の中で繰り返した後、深々と頭を下げた。

「何をしているんですか?」

「うん。探すところを思いつかないから、せめて、みんなのためにお祈りしようと思って」

「へえ。何に祈ってたんですか?」

「うーん。なんとなく、このお堂がこのあたりの守り神様みたいな気がしたんだ。だから、みんなのために大杉の手がかりを見つけさせてください、って祈ってみたの」

「高山さんは、ロマンチストですね」

「そうなのかな」

「じゃあ、僕も祈らせてもらいます」

 そう言って、瞬もお堂に向かって手を合わせた後、頭を下げた。

「おーい、何やってんだ」

 木の上から声がした。見上げると、知己が私たちを覗き込んでいた。

「あのね、手がかりが見つかるようにお祈りしてたの」

 私が答えると、真友ちゃんが木の上からするすると降りてきた。

「じゃあさ、お供えしない」

「いいけど。何をお供えするの?」

 真友ちゃんは、私のリュックサックのチャックをすばやく開けると、中から大福の入った紙袋を取り出した。

「これ、これ。やっぱり、神様もタダでお願いするよりお供え物があったほうがいいよね」

 真友ちゃんが紙袋から大福を取り出すと、木の上から怒鳴り声が聞こえてきた。

「こらー!真友!お前、何、勝手に賞品に手をつけてるんだ!」

「別に私が食べるわけじゃないわよ!神様にお供えするの!」

「神様なんかいるわけないだろ!」

「ここにいるじゃない!」

 そう言って、真友ちゃんはお堂を指差した。

「そんなの、ただの古い小屋じゃねえか!」

 知己は、するすると木から下りてきて真友ちゃんに詰め寄った。

「ただの小屋じゃないわよ!」

「じゃあ、何なんだよ!」

「のぞちゃんが、わたしたちのためにお祈りしてくれた場所よ!」

 真友ちゃんの言葉に、知己は口を閉じた。

「私は、それだけで十分。のぞちゃんが信じているなら神様はきっとここにいる」

 真友ちゃんの言葉を聞いて、私は胸が熱くなってくるのを感じた。

(何だろう、この感じ)

 きっと、私は喜んでいる。嬉しくなっている。でも、二人がケンカをするのは嫌だ。私は、こみ上げてくる思いを抑えながら真友ちゃんの袖をつかんでこう言った。

「真友ちゃん。ありがとう。でもね、大福はみんなのものなんだから、勝手にお供えするのはよくないと思う」

 真友ちゃんは、少し不満そうな顔をしながら、

「のぞちゃんが、そう言うんだったら別にいいけど・・・」

そう言うと、知己に軽く頭を下げた。

「悪かったわね、知己。勝手なことして」

 その様子を見ていた知己は苦虫を噛み潰したような顔をした後、突然、頭をくしゃくしゃとかきむしった。

「あー、もう、分かったよ!おい、瞬。お前はいいのか?」

「僕は、みんなの意見に従うよ」

「じゃあ、決まりだ。おい、真友。お供えってどうやってするんだよ」

「え?いいの?」

「俺だって、空気ぐらい読めるってえの。ほら、お供えするなら早くしろよ」

「OK!」

 真友ちゃんは嬉しそうに大福をお堂の扉の前の石段の上に持っていった。

「ねえ、のぞちゃん。何か敷くものない?」

「えーと、あ、これでいいかな?」

 私は、リュックサックに入っていたポケットティッシュを差し出した。

「OK!これをこうして、こうすれば完成!」

 真友ちゃんは、ティッシュを重ねた後綺麗に開いて花の形にした。そして、その花の上にそっと大福をのせた。

「よーし、準備OKよ!」

 そう言うと、真友ちゃんは私たちをお堂に向かって横一列に並ばせた。

「じゃあ、お祈りするわよ」

 そう言うと、真友ちゃんは両手を合わせて目を閉じた。瞬も知己も目を閉じた。私も静かに目を閉じて

(どうか、この素敵な友だちといつまでも一緒にいられますように)

 本当は宝探しのことを祈るべきだったのかもしれないけれど、私はそう祈った。静かな時が過ぎた。今まで聞こえなかった風の音や鳥の声が聞こえた。そして、私はゆっくりと目を開けた。

「これで、大丈夫!きっと大杉は見つかる!」

 真友ちゃんは自信たっぷりに宣言した。

「本当か?」

 疑わしそうな目を向ける知己に、真友ちゃんは断言した。

「ぜーったいの絶対、見つかります!じゃないと、大福をお供えした意味がないじゃない。こんなにおいしいものをもらったんだから神様も大サービスしてくれるわよ」

「だから、その神様はどこにいるんだよ」

「あんたもしつこいわね。そこにいるわよ」

「どれどれ」

 知己はお堂の格子戸に近づいて中を覗き込んだ。

「あんた、ばか。そんなことしてたら罰が当たるわよ」

 瞬が笑顔で知己に声をかけた。

「知己、神様はいたか?」

「・・・いた。」

「え?」

 私たち三人は首をかしげた。

「知己、何がいるんだ、そこに」

 瞬の問いかけに、知己は興奮した面持ちで答えた。

「だから、いたんだよ。いや、あったんだ。こんなところに・・・」

 次第に声が大きくなってきた知己はついに叫んだ。

「すげえ!みんな!見てみろよ!大杉がこんなところにあった!」

私たちは声も上げずに一斉にお堂の格子戸に詰め寄った。格子戸の隙間からほの暗いお堂の中を見渡すと、奥のほうに仏像が立っていた。そして、その仏像の足元には蓮の形を台座がおかれていて、その台座は大きな切り株の上に置かれていた。

「切り株の直径が2メートルはある。間違いない、大杉だ」

 瞬の言葉を聞いた瞬間、私は隣にいた真友ちゃんに向き直り、両手を握った。

(やった、やった、やったー!)

「やった、やった、やったー!」

心にあふれた思いがそのまま喜びの叫びになって胸の奥から湧き出した。真友ちゃんも、両手をぶんぶん上下に振りながら「やったね」を連呼して喜びを体全体であらわしている。知己なんか「すげえ!本当にすげえ!」と叫びながらあたりを駆け回っている。

(こんなことが本当にあるなんて)

 きっとみんなもそう思っているに違いない。漫画やテレビでなら観たことがある光景が現実に目の前で広がっている。しかも、この宝探しという物語では、私たちは主人公なんだから。興奮しないほうがおかしい。私は瞬に声をかけた。

「すごいね、瞬。本当にあったよ。」

 瞬は今日一番の笑みを返して大きくうなずいた。見ると、瞬は両手を力強く握り締めてかすかに震えていた。知己や私たちみたいに体全体で喜びを表す人もいれば、そうでない人もいる。でも、胸の内に広がる感動はちっとも変わらないんじゃないかな。そんなことを思った。


「それでは、『第一回大福争奪戦』の勝者を発表します」

 瞬がおごそかに勝者の名前を呼んだ。

「前川知己君!おめでとう!」

 私と真友ちゃんは歓声をあげて、大きな拍手をした。知己は少し照れながら頭をぽりぽりとかいた。

「知己。大福持って帰りなよ」

「何言ってんだよ真友。大福はお供えしただろ」

「いいのよ、いいのよ。お供えは自分たちの大切なものを捧げる気持ちが大事なんだから。お供えしたものは、最後には持って帰っていいの。私のおばあちゃんが言ってたもの」

「うん。私もおばあちゃんからお供えしたものをもらったことがあるよ」

 真友ちゃんと私の言葉を聞いて、知己は腕組みをしながら少し悩んだ様子で

「でも、一度あげたものだしな・・・」

 そうして、しばらく悩んだ後

「やっぱり、いいや。大福はここに置いていく」

 知己の言葉に真友ちゃんは意外そうな顔をして訊ねた。

「へえ、食いしん坊の知己がどういう風の吹き回し?」

「だってさ。なんとなくだけど、こいつ。俺たちのこと待っててくれたような気がするんだ。なんとなくだぜ。切り倒されても、いらないって言われても何百年もここで待ってくれてたのかもしれない。そんな風に思うと、大福くらいサービスしても罰はあたらないかな、って。あー、もう、分けわかんねえや。とにかく、この大福はこいつにやるって決めた!それでいいだろ」

 照れくさそうにしている知己が私には可愛らしく見えた。

(私も分かるよ知己の気持ち)

「うん。それがいいよ」

 私の言葉に知己は大きくうなずいた。

「知己が勝者なんだから知己の好きにすればいい。それに、知己の『なんとなく』っていうのが俺は好きだからな」

「何だよ、『なんとなく』って?」

「そのままの意味だよ」

「ちぇっ。お前の言ってることのほうが意味が分かんねえや」

 そんな知己を見ている瞬の目は、とても温かかった。

(あれ、真友ちゃんは?)

 さっきまであんなにしゃべっていた真友ちゃんが、口を閉じているので不思議に思った私は真友ちゃんの顔を覗き込んだ。

(あれ?)

 真友ちゃんは、瞬と話している知己の姿を見つめたままじっとしていた。その横顔はなんだかとても綺麗に見えた。

「大丈夫?」

「え、あ、うん。あ、のぞちゃん。ごめん、ちょっとぼうっとしてた」

「何か、あったの?」

「ううん。なんでもない。ごめんね、心配かけて」

 真友ちゃんは両手を腰に当ててぴんと背筋を伸ばした。

「よしっ!」

 自分に言い聞かせるように気を吐くと、知己と瞬に駆け寄り二人の背中を思い切り叩いた。

「痛てえな!何すんだよ!」

「いいから、いいから。気にしない、気にしない」

 笑顔で話す真友ちゃんに、「何が気にしないだ、バカ力・・・」なんてつぶやく知己とは正反対に瞬はいつもの笑顔で「後藤さんらしいですね」と答えていた。


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