5月13日(日) 「宝の在り処」(1)
はじめての小説投稿となります。つたない文章ですが、書き溜めたものを少しずつ更新していきたいと思います。
昼食をすませて家をでると、雲一つない空が強く深く目に入ってきた。上を見上げると、青く、青く、透き通った空間が遥か高いところまで伸びていた。
(きれい・・・)
時折、私は気づく。空の広さと美しさに。そして、次の瞬間、心の中でつぶやく。
(ありがとう)
って。そんな時、決まって心が弾んでいる。心が弾んでいたからそのことに気づいたのか、そのことに気づくことができたから心が弾んできたのかは分からない。だけど、今、心が弾んで楽しい気持ちになっていることは確かなことだ。
(今日一日も昨日に負けないくらい楽しい一日でありますように)
私は空をもう一度見上げてから、小学校の校門へと向かった。
私が小学校に着くと、他の三人はすでにそろっていた。
「遅いぞ、希望!」
「ごめんなさい。あれ?でも、まだ1時25分だよ」
私は、腕時計の時間を知己に見せた。
「何言ってんだよ、こんな大事な時に時間ギリギリに来るなんて、緊張感がないんじゃないか」
「そうだよ、のぞちゃん。私なんか、お昼ご飯食べてから、すぐに学校に来たもん」
「えー!じゃあ、1時間くらい待ってたの?」
「そうよ。知己なんて、私が来た時には、校庭でお弁当食べてたんだから」
「おう。今日は母さん、仕事だからな。弁当持って10時には学校に来てたぜ」
私は正直驚いた。真友ちゃんも、知己も私以上に盛り上がっていることに。
(乗り遅れちゃったかな・・・)
私は不安になって、瞬に聞いてみた。
「瞬も、そんなに早く来てたの?」
「僕は、昨晩から校庭の端にテントを張って待っていましたよ」
「え、嘘!本当に!」
「はい」
「瞬、早すぎるよ。じゃあ、私がお布団に入ったころには、もう学校にいてたの」
「はい」
「じゃあ、朝ごはんとか昼ごはんとか自分で作ったの?」
「はい」
「テントはどこにしまったの?」
「はい」
「そうじゃなくて、テントはどこにしまったの?」
「はい」
「???」
私は不審に思って瞬の目をじっと見つめた。するとみるみる瞬の口元がゆるくなり、しまいには大きな声で笑い始めた。
「あー!瞬、嘘ついたでしょ!」
「あははは。だって、高山さん、簡単に信じるから」
「そりゃあ、瞬に真顔で言われれば誰だって信じるよ」
「ちなみに、俺は信じなかったぜ」
知己が自慢げにそう言うと、真友ちゃんも
「私も、信じなかったよ。引っかかったのはのぞちゃんだけ」
(うー。恥ずかしいよ)
私は、少しすねてみせて瞬をにらみつける。
(私、怒ってるよ!)
って目で合図する。それなのに、瞬はまるでお父さんみたいな優しい目を私に向けてくる。その目を見ていると、何だか照れくさくなって、怒っていた自分を忘れてしまった。そして、いつのまにかみんなと一緒に笑っていた。
「ふふ、本当だね。なんで、私だまされちゃったのかな」
「そりゃあ、希望が単純だからだよ」
「のぞちゃんは天然だから」
知己と真友ちゃんに続いて瞬も何かを言おうとしたけど、結局何も言わなかった。代わりに、とびきりの笑顔を私に見せてくれた。なんだか心が温かくなった。
「よーし、さっそく出発だ!」
知己の号令で、私たちは学校の裏側に向かった。学校の隣にある警察署を右に曲がって、しばらく行くと小さな川が見えてきた。その川をまた右に曲がると細い路地に入り、ちょっとすると黒い木の壁が見えてきた。
「おじいさんの話だと、このあたりのはずですね」
瞬はそう言って、路地の角にあった小さなお堂の前で立ち止まった。
「じゃあ、ここから『大福争奪戦』開始しましょう。高山さん賞品は持ってきましたか」
「もちろん」
私は背中にしょっていた小さなリュックサックから紙袋をとりだした。
「ほら、この通り」
「了解しました。では、昨日に引き続き『大福争奪戦』を開始します。ルールはいたって簡単です。大杉が立っていた場所を見つけた人が勝ちです。見つけたら、大きな声でみんなを呼んでください。じゃあ、位置について」
知己と真友ちゃんがさっと身構えた。私も駆け出す準備をする。
「よーい・・・ドン!」
瞬の掛け声と同時に、みんなは一斉に走り出した。私は、最初の路地を右に折れて、それから次の路地を左に曲がった。似たような古い家が何軒も並んでいて、まるで昔の世界にタイムスリップしたような気持ちになった。
(どこかに、大きな切り株があるはず。)
私は、そう思って、路地の角や空き地を片っ端から探して回った。けれど、なかなか見つからない。第一、家が並んで建っているので、大きな切り株がありそうな場所がほとんどなかった。1時間くらい探してみたけれど、どこにも大きな切り株はなかった。
(真友ちゃんたちはどうしてるかな)
私は不意にさびしくなり、他のみんなを探し始めた。しばらく探していると、瞬が地図を片手に難しい顔をしながらあるいているのを見つけた。
「瞬、何か見つかった?」
私が声をかけると、両手を高く天に広げた。
「それ、何?」
「お手上げです」
「・・・」
「すみません、面白くなかったですね」
「あ、ううん。結構面白かったよ。けど・・・」
「けど、何ですか?」
「瞬がそんなことするなんて、本当にお手上げなんだなって思って」
「せっかく高山さんにいいところを見せようと思って、いろいろ作戦を練ってきたんですけどね」
「へえ、どんな作戦を考えてきたの。」
「これです」
そう言って、瞬は手に持った地図を広げて見せてくれた。その地図は瞬が手書きで作ったものではなく、本物の地図だった。右下の縮尺には1500分の1と書かれている。地図には、何箇所か青いシールが貼られていた。
「ねえ、この青いシールは何?」
「これは、大杉があったと推測される場所の候補地です」
「こっちの赤いシールは?」
「これは、このあたりに大杉があったと仮定したときの宝のありかを示したものです」
私は、地図と瞬の顔を何度も見直した。
(すごい!)
「すごーい!瞬、すごすぎるよ!」
心の中の声は、ほとんど同時に声となった。私は瞬の顔を見つめたまま、思わず瞬の両手を握り締めていた。私の行動に驚いて目を大きく見開いていた瞬は、さっと顔を背けて
「そんなことありません・・・」
と小さくつぶやいた。横を向いた瞬の耳が真っ赤になっていた。
「そんなことないことないよ。瞬はきっと誰よりも一生懸命に宝探しをしている。私は、一生懸命な人は、みんなすごいと思う」
瞬は、そろそろとこちらに顔を向けた。そして、少し照れくさそうに
「僕は高山さんのほうがすごいと思います」
「何で?」
「僕は、人を幸せにできる人をすごいと思うからです」
「私は、何もしてないよ?」
「そんなことないです。だって・・・」
瞬は言いかけて言葉を止めた。私はじれったくなって
「『だって』の続きは?」
瞬は意を決したように視線を空に向けた後、口を開いた
「だって、僕は今、こんなに幸せな気持ちになっているんですから・・・高山さんの言葉で」
私は少し頭に血が上ってくるのを感じた。頭?ううん。顔が熱い。
(私、きっと今赤くなってる。)
そう思ったら、何だか恥ずかしくなって瞬から顔を背けた。
「瞬ってさ。きっと女の子にもてると思うよ」
「どうしてですか?」
「だって、私どきどきしちゃたもん。瞬の言葉で。あ、でも、無闇にこんなふうに女の子に優しくしてたら、きっと誤解されちゃうよ」
私の言葉を聞いて、瞬はちょっとさびしそうな顔をして、それからいつもの笑顔を見せた。
「そうですね。気をつけます」
それから、私と瞬は一緒に大杉を探して回った。
(なんだか、気まずいな)
私は、何か瞬に悪いことを言ってしまったのか、だんだん不安になってきた。
(あれ?こんなこと前にもあったような。)
そんなことも思いながら、私は不安を言葉にしていた。
「ねえ、瞬。私、何か悪いこと言っちゃったかな?もし、私が瞬を傷つけていたんだったら教えて欲しい。だって」
「『瞬は、私の大切な友達だから。』違いますか?」
(え!)
私の言葉をさえぎって、瞬が私の言おうとしていたことをドンぴしゃり言い当てた。
「え、え、えー!どうして、どうして分かったの?」
「だから言ったでしょ。高山さんは僕が幸せになれる言葉を言ってくれるって」
「そんなことないよ。だって、私は瞬がどんな気持ちなのか、どんな言葉をかければ喜んでくれるのかなんて分からないもの」
「でも、分かろうとしてくれるじゃないですか」
「それは、大切な友だち何だから当たり前でしょ」
「そうですね。そうかもしれません。けれど、そんな高山さんだからこそ・・・」
言いかけて、瞬は
「何でもありません。さあ、そろそろ他の二人を見つけて情報交換をしてみましょう。」
(瞬、何て言おうとしたんだろう)
私は聞いてみようかとも思ったけど、瞬があまりにも素敵な笑顔で話しかけてくるので、いつの間にか気にならなくなっていた。私は、瞬や他の人の気持ちを分かるほど賢くない。だから、分かろうと努力してる。一生懸命やってみるしか、私にはできないから。そんなことを心の中で思った。
私たち全員が合流したのは、それから十分くらい後のことだった。真友ちゃんも知己もずうっと走りまわっていたようで、両手をひざについて肩で息をしていた。
「一体、どこにありやがるんだ。俺、もう隅から隅まで探したぜ」
「もう、私疲れちゃった」
そう言うと、真友ちゃんはぺたんと地面に座りこんだ。それを見て、知己も一緒に座り込んだ。
「大丈夫、真友ちゃん?」
「大丈夫じゃないよう。この足のね、このあたりが『もうだめだー!』って言ってるんだよう」
真友ちゃんは甘えた声でそういいながら、右のふくらはぎをさすっていた。
「じゃあ、マッサージしてあげるね」
私は真友ちゃんの横にしゃがみこむと両手で右足をやさしくもみほぐしてあげた。
「あー!真友だけずっけえぞ!俺だって走りまくったから足がパンパンなんだ。希望、俺の足もマッサージしてくれよ」
「え、あ、うん。いいよ」
その瞬間、真友ちゃんが私を抱き寄せた。
「だめよ、のぞちゃんは私のものです。知己の汚い足なんかさわったら、のぞちゃんの手がくさる」
「なんだと、真友!ケンカ売ってんのか!」
知己が真友ちゃんににじり寄ろうとすると、瞬が行く手をさえぎった。
「知己、落ち着け」
「でもよ、瞬。ちょっとひどくねえか」
「後藤さんの言い方はともかく。高山さんに対して、足をマッサージしてくれというのは俺も納得がいかない」
「何でだよ。本人がいいって言ったじゃねえか」
「どうしてもって言うんなら、俺がお前の足をマッサージしてやる。それで、文句ないだろ」
「え?お前、何言っての?」
あっけにとられた知己に、瞬は真顔で繰り返した。
「俺がお前の足をマッサージしてやるっていってるんだ」
「・・・?」
「何度言えば分かるんだ」
いつのまにか瞬の言葉に怒気が感じられるようになっていた。それなのに、知己は全く気づいていないようだった。
(瞬、何で怒ってるのかな?)
私がはらはらする中、知己はお構いなしに瞬に軽口をたたいていた。
「ていうか、お前が俺の足をマッサージしたいっていう熱意は分かった。けど、どうせマッサージしてもらうなら、希望のほうがいいな。昔は、よく希望にマッサージしてもらったし。なあ、希望」
「え、あ、うん」
私の言葉を聞いた瞬間、瞬は知己ににじり寄り胸座をつかんだ。そして、怒気を発した顔をこすりつけるようにしながら
「いいか、知己。この親友の俺がお前の足をマッサージしてやると言ってるんだ。お前は親友の頼みを断れるような男じゃないよな。どうなんだ、知己」
あまりの瞬の勢いに気おされて知己の顔は引きつっていた。
「そ、そ、そりゃあ、親友の頼みなら」
「そうだ、親友の俺の頼みだ。じゃあ、マッサージするぞ」
「お、おう。頼むぜ」
瞬は知己の胸座から手を離すと、知己のふくらはぎを両手で力強く握った。
「知己。一つ、いいか」
「なんだよ、マッサージするなら早くしてくれよ」
「俺のマッサージは特別でな。どうやら、激しい痛みを伴うらしい。まあ、知己なら大丈夫だよな」
「ちょっと待て。激しい痛みって、どれくらい?」
「しばらく、違う世界に行ってしまうくらいだと言われたことがある」
知己はさっと立ち上がるとまじめな顔で瞬を見た。
「・・・瞬。」
「何だ?」
「せっかくの申し出なのに申し訳ないんだが、いつのまにやら足の疲れがきれいさっぱりなくなったようなのだ」
「ほう。それで?」
「つまり、そこにへたり込んでいる軟弱な真友と違って、この俺様にはマッサージは必要ないということだ」
「ほほう。ようするに、知己は親友であるこの俺のマッサージを受けたくないと、そういうことだな」
「悪いな、瞬。今この時ほど、健康で丈夫な俺の体がうらめしいことはない。もし、どうしてもというのなら真友をマッサージしてやってくれ」
「私は結構よ。だって、のぞちゃんのマッサージ気持ちいいもん」
「こら!真友、いつまで希望にくっついてんだ!さっさと起きろ!宝探しの途中だぞ!」
知己は、真友ちゃんの腕をつかむとひっぱりあげた。
「はい、はい。起きればいいんでしょ。起きれば。のぞちゃん、サンキュー。足、とっても楽になった。のぞちゃんて、マッサージ上手いね」
「うん。おばあちゃんもよくほめてくれるよ」
「へえ、おばあちゃんもよくマッサージしてあげるの」
「うん。おばあちゃん、とっても喜んでくれるんだ」
私と真友ちゃんが話をしていると、知己が間に割って入ってきた。
「あー、もう!話が進まないだろ。今は宝探しに集中しろよ。なあ、瞬」
「宝探しの話を進めるのは同感だが、マッサージの件はどうなった?」
「あー、もう!俺はそんな過去の話をしているんじゃない。今、この時に大切なことをやろうって言ってんだ。尾田先生も言ってただろ『今が大事』だって」
その後、知己のなぜ今が大事なのかという分かったような分からないような、どちらかというと分からない話を延々と聞かされた。ようやく話が終わった後、真友ちゃんが言った。
「あんたの話が『今』を一番無駄にしたね。」
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