宿泊の裏で
今日の試合が終わっていて静かになっている闘技場から出ると、屋台がそこら中で開店していて、客が酒を飲みお祭り騒ぎになっている。今更だが私達には「気配遮断」があるので、こんな人混みの中でもばれずに通れるのを忘れていたので、少しうっかりしていた。
今日はアリアさんが泊まる部屋に泊まらせてもらえる事になっているので、アリアさんが泊まる宿屋に賑わっている道を歩いて行く。帰ってから夜食を作るのも面倒なので途中の屋台で買う事なり、アリアと何を買うかで話し合っていた。
「アンナは何がいい?私は焼きそば、焼き鳥にするけど」
「じゃあ、私は違うのにした方がいいか………イカ焼き、たこ焼き、唐揚げにしようかな。買ってくるよ」
「え、駄目よ。アンナは年下なんだから、年上の私が奢らないと」
「いや、私お金有り余ってるから使いたいんだよ」
「ダーメ。アンナは大人しくここで待ってて、買う時に「気配遮断」解かないといけないんだからバレたら大騒ぎになるでしょ?」
「そうだね……分かった、待ってるよ」
「買ってくるわ」
「いってらっしゃいーーって言う前に行ってしまったか」
人混みの中を歩いて行くアリアさんを見ながら、私は壁にもたれかかり、真横にある路地に行く細く暗い道を見つめる。
「ねぇ、出てきなよ。さっきから気付いてるよ?」
人の姿のない路地に話しかけると、暗くて分かりにくいが人影が出てくる。
私はさっきの件もあり少し警戒して話しかける。
「どこの人?結構手慣れてるみたいだけど」
「私は答えられません。ただ言える事は貴女様には手を出す事はしません」
「………意外、返答するとは思ってなかったよ、しかも女性のだなんてね………それに貴女様って私を何の人だと思ってるの?ただの冒険者だけど?」
「私はそれ以上答えられません」
「………そう、頑張ってね」
そう言うと人影は闇に消えた。
あの女性からは悪意、敵意が感じられなかった。多分だが、誰かの命令で私を護衛してるのかもしれない。誰の命令かは1人だけ心当たりがある。それは意識を失っていた私を医務室に運んだ人物だ。シェイルさんはその人物について口止めされていたと言う事は………。
「うわぁ、なかなか面倒くさい人に助けて貰ったのか………はぁ、お礼はどうするか」
「どうしたの、アンナ?お礼って?」
私は急に話しかけてきたアリアさんの声に驚いて飛び上がりながら振り向く。
「……ビックリした……」
「そこまで驚かれるとは思ってなかったわ。買ったから行きましょ」
「う、うん」
少し面倒ごとが増えた思い、どうするか考えながら宿屋に向かったのだった。
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流石はAランク冒険者、泊まっている宿屋は最高級クラスで部屋もスイートルーム程の広い部屋である。流石に異性である相棒のジョーとは別室である。
そんな部屋で私とアリアさん、2人でご飯を食べながらワインや日本酒、ASOでの酒を飲んでいた。
「アンナ〜、貴女は高校生でしょ〜呑んでていいの?」
「まぁ、こっちに来てから結構呑んでるしね。これでも呑める方だよ」
「嘘だぁ、絶対勘違いしてると思う。今だってもう酔ってるでしょ?」
「それはアリアさんでしょ。ちょっと喋り方違うし」
「変わらないわよぉ。アンナの方が顔が真っ赤でしょ」
「それを言うならアリアさんもだよ」
言い争いながらもお酒を飲む2人の顔は赤くなっており確実に酔っ払っている。それでもなおお酒を飲み続ける。
「これも美味しいよね〜名前なんだっけ?」
「これは龍が自身の血と炎で作った「龍驤」だよ。ASOでもかなりレア度高いお酒」
「やっぱりASOでのお酒は美味しいよね………そうだ、私のも凄いのよ!こっちに来てから貰った知り合いのドワーフが作った中でも最高のやつよ「天昇」って名前」
「結構辛味があるけど美味しい……」
お酒を呑んで少し頭が回らない中ふと思い出す。
「あれ、アリアさんは明日試合じゃなかった?お酒呑んでていいの?」
「………そうだけどいいの。アンナと2人っきりでお酒を呑めるの今日ぐらいだと思うし」
アリアさんは呑んでいたグラスを傾けカランと静かな空間に寂しげな氷の音がなる。
「そんな事ないしまた来るよ。毎日来てもいいよ」
「………毎日は無理でしょ」
「そんな事ない。ここの部屋借りたらすぐここの部屋来れるしね」
「ふふ、私に告白してるの?」
「な、何言ってるのよ!そろそろ寝るよ」
私はさっさと寝る事にし、すぐにベッドに横になるが、
「どうしてアリアさんもこっちに寝てるの!」
「いいじゃん。こっちにいい抱き枕もあるしね」
アリアさんは同じベッドに寝て、私を後ろから抱きしめて来る。さっきの話のあってかアリアさんの事を変に意識してしまう。
「もう……いいけど、アリアさんは明日試合あるんだから、ちゃんと寝て備えてよ」
「分かってるわ。あと、さん付けそろそろ辞めない?」
「いいけど……おやすみ、アリア」
「………おやすみなさい、アンナ」
アリアに抱きつかれながら目を閉じる。久し振りに人肌の温もりを感じながら眠ったのだった。
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闘技大会開催で夜でも王都全体が賑わっている中でも裏路地では暗い所が多く、また人も出払っていて殆ど無人になっている。
その一角の路地で黒装束の5名が地に伏せ、1人の茶髪の女性だけが立っていた。
「はぁ、君達の相手してたらアンナを見失っちゃったよ。どうしてくれるのよ?ねぇ?」
地に伏せている1人の顔を踏み付け悲鳴が上がる。静かな路地に響いて人が寄って来るかもしれないが関係ない。怒りの感情に任せ更に足に力を込めていく
しかし、茶髪の女性は急に頭を抱えて、足を顔から離し少しよろめく。
「殺しは………駄目だ………マスターに…………」
チャンスだと考えた黒装束の人達が合図し、全員で一斉に女性の手足を持ち地面に組み伏せる。女性は動けない状態になったが、全身から剣を突き出し、周りの黒装束の人達はいきなりのことで避けれず身体中を串刺しにされる。喉から血が出て倒れる者や腕の太さと同じ横幅の剣を突き刺さされた者などが倒れ、女性は血まみれで立ち上がる。
「やっぱり…………殺しといた方がいいな」
冷徹な眼差しで手から剣を取り出してトドメを刺そうとするが、路地の先から明かりが見え、兵士が来たことに気付く。
「………時間切れか」
女性は剣を手にしまい、明かりとは反対方向に颯爽と走って行く。
(流石に1人でアンナを探すのは無理があるか。それにアイツらも面倒だしな…………アレでも出すか)
急に立ち止まると両手を広げると、ドロリと手が溶けていき人の形になって行く。そして両側に黒髪の女性と茶髪の女性が現れる。
「分かってると思うけどアイツらの気を引いといてね」
「まぁ、「私」自身のお願いだからね。私はアンナを探したいけど仕方ないからしてあげるよ」
「僕も同じだけど「私」が狡いと思う。まぁ、僕も「私」なんだけど……」
「そう、あとで呼んであげるから。じゃあ、よろしく」
そう言い女性は髪と顔が変わり、短髪金髪の女子になり走って行くのを、2人はその姿が暗闇に消えるのを見届けてから振り返り、茶髪の女性が黒髪の女性に話しかける。
「どうする?」
「どうするって僕はアイツらの気を引かないといけないからね。まさか僕1人でやらせる気?」
「まさかあの人が居るから1人だと死ぬに決まってるよ」
「昼間のは酷かった。力の差を思い知ったね。まぁ、数でかかれば勝てるかもだけど」
「そうかなぁ……あっ、来た来た」
茶髪の女性が指をさした方向から人影が来るのが見え、2人は何も言わずに剣を抜いて向かって行ったのだった。
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