第4ブロック開戦
この世界に来てから何度目だろうか。今回も目が覚めて初めて見る天井だ。
何故ここで寝てるのか思い出す。確か見知らぬ女性に捕まって………ここに運ばれた?
手錠もされておらず、体を起こし周りを見るとベッドのカーテンで区切られている。まるで学校の保健室のベッドだ。
寝た事なかったなぁと思いながらカーテンを開くと、後ろ姿だが椅子に座った女性が居るのが見えた。看護師の姿で銀髪を後ろに纏めた綺麗なエルフの女性がカルテを見ていた。
カーテンが開く音で気付いたのか、こちらを向き微笑みを見せる。その笑顔を見ると何だかドキッとする。
「アンナさん、体はもう大丈夫ですか?」
「は、はい、大丈夫ですけど、ここは?」
「ここは闘技場の医務室ですよ。アンナさんは気を失っていましたので」
「気を失ってた……えっと、誰が気を失ってた私を運んで来たんですか?」
「ごめんなさい、それは言えないわ。その人に口止めされてるから。けど、その子と一緒に来たのよ」
エルフの女性が指を指すのは私の隣のベッド、カーテンで区切られているところだ。開けて良さそうなので開くと、アリアさんがベッドで寝ていた。
「え、アリアさん!?アリアさんに何かあったんですか?」
「お腹に剣を貫通して刺されてたわ」
「誰が………」
アリアさんは完全に治っているようだがこんな事をした奴を許せない。犯人はと考えたら、すぐに1人の人物が頭に浮かぶ。
それと同時にエルフの女性も私の言葉に答える。
「犯人はアンナさんを気を失わせた人、黒髪の女性だと推定されています。今は逃走中ですが、目撃情報が多いのですぐに見つかり捕まると思いますので、アンナさんは安心してください」
「そうですか……」
少し安心した。私の事を知る人物だと思うが、私より強く、いきなり襲って来た相手なので捕まってくれると安全に会えるかも知れない。
そう思っていると大歓声が響き渡って来て、ふとある事を思い出す。
「すみません、次のブロックて何番ですか?」
「次は………第4ブロックですね」
それを聞き私は急いでベッドから降り靴を履く。
「すみません!私第4ブロックなんで行きます」
「分かりました。ご武運を」
走らず早歩きで部屋のドアまで行き、開こうとドアノブに手を掛けるが、その前に後ろに振り返る。
「怪我とかなくても………また来てもいいですか?」
自分でも何を言ってるか分からないが、何故かこの人には親近感を抱いている。
エルフの女性は驚いたようで少し瞬きし、微笑む。
「はい、いつでも来てください」
「ありがとうございます。また来ます」
そう言い私は廊下に出てお辞儀をし、急いで受付に向かい受付を終える。
「頑張ってきて、アンナ」
私の周りは人だらけ、この人混みの中で小さな声だが確かに聞こえた。
その小さな声で凄く力が湧いて来る。
私は大胆不敵な笑みを浮かべ試合会場に向かった。
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もう殆どの選手が出ているようで、ステージまでの通路で運営の人達は居たが、殆ど選手と会わなかった。
ロウソクだけの薄暗い通路を進み、光が差す出口から出ると快晴の空、ステージ上の沢山の選手達、見渡す限り満員である観客が目に入って来る。
この感覚、懐かしい。ASOでのトーナメント戦の時と同じ感覚だ。周りの観客がこの入り口から入ってきた選手を一斉に見て、一点に視線が集中するのは何かぞわぞわする。
それに合わせ、ステージ上の選手達も私の事を見て来て見定めをしてくる。
だが、すぐに視線が逸れる。まぁ当然こんな少女に強さなんてものを見出すのは難しいのだろう。
逆にまだ見てくる奴は、ただの変態か強者である。前者はどうでもいいが、後者は数名いるのが分かる。
後で必然的に当たるのだから、初めの方はその人達より離れた場所に行くか。
そう考え、均等な離れた距離の場所に行くと選手達が居らず、ステージ上で少し開けて1人だけポツンと立っている私より少し高い背丈の少女を見つける。
何で周りの選手が近づかないのか気になっていると、近くの選手が小声の話しているのが耳に入る。
(おい、あいつ例の奴だ)
(本当だ、近づかないのが1番だな)
その選手達は話しながら、そこから離れて行く。少女の見た目は獣耳と尻尾を生やしてある獣人だと思うが、獣人には無いこめかみの部分に黒い角が生えていた。
どういう事か不思議がっていると、いつの間にか私の周には選手達が居なくなっていて、目の前にその少女が歩いて来て開口一番に、
「貴女、目障りだからどっか行って」
と赤い目で睨みつけて来たので、当然の反応を返す。
「え、嫌だけど?」
「…………………………は?」
「聞こえなかった?もう一度言うね、嫌だ」
そう言いながらその場に腰を下ろす。
「聞こえてるわよ!って何で座るのよ!私がどっか行けって言ってるのよ!」
「だから嫌だって言ってるじゃん。話聞いてた?」
「聞いてるわよ………それじゃあ一番最初に殺してやるわ」
「へぇー、その度胸があればね」
少女を軽く殺気を向ける。
ビクッとしたのでもう話し掛けては来ないだろう。そう思い少しの間、瞑想しようと座禅を組むと後ろからまだ話し掛けて来ている。
そこまでする意味はあるのか?まぁ、ほっとくか。
そう思い瞑想を開始したのだった。
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暫く時間が経った。
周りが少し煩くなったのに気付く。目を開けると目の前では試合が始まっていて、選手同士激しく剣をぶつけ合っていた。
「さて、やるか」
「死ね!」
突然の死ね発言に少しは驚きはあるが、すぐに飛び上がり横に逸れると、さっきの場に剣が振り下ろされる。
「クソ!さっきまで無視してたくせに!」
「まぁ、さっきはさっき、今は今だ。負けるつもりはないからね。それにゆう「余所見するなよ、ガキンチョ!」って煩い!」
後ろからの急襲を華麗に避けて、背中の「春光」を抜き、首を断ち一瞬で退場させる。少女の方を見ると襲われていて、そいつを素早く撃退していた。
「へぇーなかなかやるじゃん」
「……貴女もね!」
またも襲って来るのを次々とかわして行き、背後からも襲われるのでそれも撃退して行く。
「クソ!何で!当たら!ない!のよ!後ろからも!襲われ!てるくせに!」
「話を区切りながら切って来るのは面白いけど、普通に話した方が楽だよ?」
「誰のせい!だと思ってる!のよ!」
「ん?自分のせいでしょ?」
「ーーーー!!!!」
悲鳴にもならない声を上げて襲いかかって来るのを同じように避けていくが、後ろから少し面倒なのが来るのに気付き、少し顔を後ろを向ける。
地響きと共に歩いて来るのは体が人の数倍あり、振るだけでもひとを薙ぎ払える腕を持つ巨人がこちらに来ていた。
それに耐えようと選手達も盾を構えたりするが、まるで膝カックンされたみたいにいきなり足が崩れて倒れ、巨兵に吹き飛ばされて退場している。
マーニさんが言ってた中にこんなのいたなぁ。と思いながらどう対処するか目の前の少女の攻撃をかわしながら考えるが、足元から何か来るのが分かり、「空歩」を少し使い空中に逃げる。
下を見ると、手のひらサイズの大きさのネズミのような小人が紐を持ってこちらを睨んできていた。
「ちゅっ!逃げられたか」
「それはこっちの台詞だよ!邪魔するんじゃねぇ!」
少女が剣を振り下ろし小人に剣を振り下ろすが小人は紐を使い剣を上手く受け流す。
「ちゅっ!邪魔な小娘が!ってこいつ忌み子か!?」
「気付くのがおせぇよ!」
下の小人と少女の攻防を降りながら鑑賞していると、横から私の体ほどある拳が飛んでくる。
「ばはははは!残念だったな。空中に飛ぶなんざ、俺の的になるようなもんだ」
「へぇー、けどその的にちゃんと当てれなかったら意味ないよね」
「は?」
私は巨人の伸ばした腕の上に乗っていて、驚いている巨人の顔を見て少し笑ってしまう。
「ぷっ、当てれてないよ?w」
「雑魚が舐めるな!」
「遅い、大太刀五ノ型「一閃」」
巨人がもう片方の腕を振り上げて殴ろうとしたが、私はその有り余った時間の間に一瞬で巨人の首を断ち切り、姿が消え退場させる。
足場の腕が消え私が空中から降りて来ると周りから大歓声が上がる。前を見ると少女と小人もこちらを見て驚いて固まっている。
「な、な、相棒のガギルダルがなられた!?こんな子供に!?」
「貴女、何者!?」
「まだ自己紹介をしてなかったね。私はアンナ、そこら辺にいるただの冒険者だよ」
さぁこれからだ。かかってこい。
私は大胆不敵な眼差しで周りの選手を見渡し、指で手招きしたのだった。
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