サルナの初恋
昼まで稽古をして私が疲れたのもあるが、昼食を取りに休憩に入った。
家に戻ると玄関でエミリさんが靴を履いて出掛けようとしていた。
「あ、マーニ。今日は焼き飯作ってテーブルにおいたから、じゃあ行ってくるわ」
今から仕事に行くのだろう。
エミリさんは少し躓きながらも私達の横を走って行った。
マーニさんとリビングに行くと焼き飯が置いてありいい匂いがする。
席に座り2人でこの後の予定を話しながら、食事をしていると玄関に誰か帰ってくる音が聞こえ、リビングにサルナさんが戻って来る。
「今日は早いわね」
「早くに仕事が終わっただけだよ。姉さんはアンナさんと稽古してたんだっけ」
「そうそう。今日、主要武器を剣から槍に変更したのよ」
「………槍にしたのか?」
「アンナさんは剣より槍の方が向いてるって言うからね」
料理が置いてある席に座るサルナさんとマーニさんに見られる。サルナさんは説明して欲しいのだろう。急いで口の中を飲み込む。
「マーニさんは両刃の剣を使ってたけど、刀身が重くてちゃんと触れてなかったから、軽い槍にして槍術を鍛えた方がいいと思ってね」
「姉さんは槍の方がやりやすかったのか?」
「段違いね。剣なら振り下ろした後が重くて大変だったけど、槍なら突き刺してからも槍の前後を持てるから動かしやすいのよ。しかも、剣より近づかないから間合いが広いしね」
「へぇー………そうだ、新聞に大会のこと書かれてたぞ」
「え!本当!見せて見せて」
サルナさんが傍から新聞を取り出し、テーブルにこちらが正面になるよう広げる。
新聞の両面に大会の事が大々的に書かれている。
「今回は国王様出るって!」
「久し振りだな。確か前に出たの6年前だったな」
「また凄い試合が観れるかもね。他の出場選手で今分かってるのは…………格闘家ラークスも出るよ!それに轟音スブル、無剣ヘルメル、元老ハールデルトも出るだって」
マーニさんが興奮するぐらい有名人なのだろうが私が知らない名前ばかりだ。私も新聞を見ていくと賞品一覧が書いてある。
「えっと入賞が1000万メルで、3位が世界で一輪だけの花「ナナ」、2位があらゆる物を断てる名剣「アロンダイト」、1位が国王が王権を使って出来る事を1つ叶えるか………凄いな」
商品の事はあまり知らないが凄そうなのは分かる。1位なんて何かと夢が叶いそうな物だ。
「今年も凄い事になりそうね………サルナも頑張りなさいよ」
「だから毎日頑張ってるだろ。食い終わったから俺は庭に出てるぞ」
サルナさんは食べ終わり台所に食器を持って行って玄関に行き庭に出ると倉庫に向かって行き、中から一振りの古くなって持ち手が痛んでいる剣を取り、剣の稽古を始める。
「サルナさんはいつも1人でやってるの?」
「そうよ。いつも1人で黙々と剣を振ってるわ。たまに私が相手してあげるけど結構強いのよ」
「へぇー………嫌がってたけど今度相手して貰おうかな」
「アンナさんならいい相手になってくれると思うから、私からじゃなくてアンナさんが頼んでみたら絶対OK貰えるよ」
「そうかな………」
私は食事をしながら外で剣を振り続けているサルナさんを見ていたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜サルナ視点〜
1人で剣を振る修行を続けて5年はやっている。ただ2年に1回ある闘技大会で名を刻もうと思ったからだ。何もない人生よりかは大会で入賞でもすれば華やかになるだろと思い、ただがむしゃらに剣を振っていた。
だが今日、アンナさんの剣を振るのを見て自分は何をやっているだと思った。俺がやっているのとは格が違う。ただ剣を振っただけなのにだ。
だからこそ、今日はアンナさんに教えてもらおうかと思っていたが、目の前に来ると急に緊張してしまい、すぐに離れてしまった。
何で緊張したのか分からない。前日までは普通に喋れたと思うが………それより、どうやって誘おうか。
剣を振るのを下ろし溜息をつく。
「あれ?邪魔だった?」
急に声がして体が飛び跳ねる。
すぐに後ろを向くとアンナさんが立っていた。
「ごめんね。さっき見てたんだけど邪魔だったよね、戻るよ」
「い、いえ、全然大丈夫ですます」
「ですます?まぁ、大丈夫なら良かったよ。そうだ、用があるんだけどいいかな?」
「え?な、何ですか?」
アンナさんが俺に用がある!?
鼓動が高くなるが抑えるように気をつける。
「えっと、大丈夫?顔が真っ赤だけど?」
「大丈夫です。それでアンナさんの用って…」
「昨日嫌って言ってた事なんだけど、ちょっと私の稽古の相手になって欲しいんだ、駄目かな?」
「も、勿論いいですよ。昨日のはなんかその……姉さんに言われたからです。だから問題ないです」
「良かった、断れると思ってたよ」
ニコリとアンナさんが笑う。アンナさんの笑顔は凄く可愛いため真正面から見ないように横を見る。
「じゃあ早速やろうか」
アンナさんは少し離れて剣を構える。
さっきまでの笑顔とは違い真剣な眼差しになる。
俺も深呼吸をして心を整えて剣を構える。
「行くよ!」
アンナさんの声と共に俺はアンナさんに向かって行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
何分やっただろうか。
俺は疲れ果ててその場で寝転がり、青空を眺めていた。
結果は5回やって全敗、やはりアンナさんは強くて、全ての攻撃がかわされ、いなされ、弾き返される。
そして1試合ごとに悪い点を指摘してくれて、分かりやすく教えてくれる。
アンナさんは凄い人だなぁ。
今はアンナさんは久し振りに張り切り過ぎて疲れたらしく、家に戻りシャワーを浴びている。俺も後でシャワーを浴びるが流石に中で待つのも悪いと思い外で横になりそよ風に当たっていた。
自分はまだまだだなっと思っていると、顔に影が当たる。
「おつかれ、サルナ凄かったね。はい、これジュース」
「ありがと姉さん」
姉さんが氷の入ったジュースを渡してくれる。飲むと冷んやりしていて気持ちいい。
自分の分を飲みながら姉さんが俺の隣に座る。
「姉さん見てたんだな」
「まぁね、アンナさんがサルナと戦うの見てみたかったしね」
「アンナさんに俺を相手にしてもらうの提案した?」
「したよ。私の弟が惚れている子に近づけるように気遣いしてあげたんだよ」
姉さんの発言に俺の口に含んだジュースが飛ぶ。
「ぶぅっ……な、何言ってんだよ!」
「あれ?気付いてない?サルナの顔は結構表情出るから分かりやすいよ」
「え、嘘だろ……?」
「本当よ、顔を赤くする所とか特に」
俺は苦笑しながらジュースを飲んで深呼吸して心を落ち着かせる。
まさか俺がアンナさんに惚れている!?
「まぁ、アンナさんは気付いてと思うけどね。アンナさん、純情だから」
「そ、そうかな?」
「まぁ、押したらイケそうなタイプだと思うけど高嶺の花よね。かなり可愛いし彼氏とかいそう、逆に彼女とか」
姉さんは1人で冗談を言って笑っている。
「ぷっふふふ、まぁ私は応援してるわ」
「はぁ………まずは心の整理から始めるよ」
ジュースを飲み切ると玄関からアンナさんが出て来る。風呂上がりなので少し髪が濡れている。まだ心の整理が終わってない俺にはきつい姿だ。
「あ、居た居た。シャワー出たよ」
「はい、シャワー入ってきます」
すぐに立ち上がり玄関にダッシュし、シャワーを浴びて心を落ち着かせたのだった。
よければブックマークと下の評価ボタンを押してください。執筆が捗ります。不備な点があれば報告お願いします。