封殺するは手段④
リヴァイアタンの鼻先ではアンナ、私がシルヴィアを攻撃されたことへの怒りを込めた魔法「五鐘球」をリヴァイアタンにぶつける。
「デカブツが、倒れろ」
「グォォオオオ‼︎‼︎‼︎」
リヴァイアタンの顔に直撃し叫び声をあげ、巨体が海に倒れこみ、その衝撃で海が激しく荒れる。
私はクロワを体に纏わせ海面に着陸し、すぐにシルヴィアの元に向かう。シルヴィアも同じ考えだったようで私に向かって来ていた。シルヴィアに勢いよく抱きつかれて体が宙に浮く。
「シルヴィア!大丈夫?」
「こっちの台詞よ!遅かったわよ」
「我も居るぞ。どうやってダンジョンから出て来たんだ?」
「あ、スイゲツ気づかなくてごめんね。私はクロワに助けてもらって、アーチさんも一緒に脱出出来たんだ。今は街の中心で教員の人に預けて来たよ」
「それは良かったわ。あと、さっきのありがとう」
「当然の事だよ、前にガウェインも言ってたからね」
「当然ね、って来たわよ」
海中から振動が伝わって来てリヴァイアタンが動いたのが分かる。
体制を整え出て来るのを待つが、探知で倒れた場所ではなくもっと奥、沖の方に移動したのに気付いた。
すぐに振り返ると少し遠い沖の海中から出て来たリヴァイアタンが見え、こちらに口を開けている。大体あの構えのモンスターを見ると、私は咆哮か何かの準備、充填だと考える。
「マズイかも…あいつに近付こうか」
「私も何か嫌な感じはするわ」
私達はリヴァイアタンに向かって不安定な海面を走っていると横からガウェインが近づいて来た。
「マスター!ご無事でしたか」
「ガウェインも無事そうだね」
ガウェインに負傷がなさそうに思えたが、ガウェインは顔を横に降る。
「いえ、私は「王秘武技 焔」を使えないので無事とは言えません」
「どう言うこと?」
走りながらガウェインはリヴァイアタンの能力を一から説明していった。
「……なのでマスター、さっき使った魔法は今後は使えないと思います」
「まぁ使えないのは大変だけど、倒せば問題ないよね。セッカも居るし」
「セッカも使えませんよ」
「………あの火力をもう使ったの!?さっきの場所で使ったらレベラルが半壊してると思うけど?」
「かなりデカイ津波を相殺するために少し小さめのを撃ち落としてましたね」
「マジか……」
その知らせに少し考えが甘かったことを自覚する。私はいつもそうだ、何かと甘いから失敗ばかりする。
「マスターが悩む事ではないですよ。今はただ未来のこと、目の前のアレをどうにかすることですね」
近づいてくるリヴァイアタンの巨体を前にどう止めるか考える。
怯ませるのが1番だが、私の最高火力はさっき使ってしまった魔法だから使えないだろう。ガウェインは「王秘武技 焔」だが、私の最高火力を上回る攻撃はまだあるから問題ないのだが。
「ガウェイン、「火炎葬」「灯火の聖衣」は使えるよね?」
「まだ使ってませんので使えますね。まさかとは思いませんが…」
「そのまさか。「火炎葬」でリヴァイアタンを焼いて気をそらし、炎の中でも歩ける「灯火の聖衣」を私に掛けて、私とガウェインが突っ込んで目をやれば流石に怯むと思うしね」
私が言い終わり少しの静寂の後、シルヴィアが私の肩を持ち自身ごと押し倒し海面に叩きつけられる。
「うっ…」
「アンナ、どう言うこと、私を作戦に入れてないのはどう言うことよ!私を傷付けない為だとか心配だからって言ったら、ここから動かさないわよ!」
シルヴィアは眉間にしわを寄せ、凄い剣幕で見つめてくる。
「そ、それは…」
「私を舐めないでよ!アンナは私の事を…」
「シルヴィア!辞めなさい!」
『シルヴィア辞めて!』
クロワがシルヴィアの手を弾き、ガウェインが私の上からシルヴィアを手を抑えて持ち上げる。
「離してガウェイン!これは私とアンナの問題よ!」
シルヴィアはガウェインに押さえつけられながらも手足を動かして暴れる。
「私にも関係ありますし、今はそれどころではありません!リヴァイアタンが動き出しました!」
その言葉にシルヴィアも暴れるのをやめ、ガウェインに降ろされ、私も急いで海面から立ち上がる。リヴァイアタンの方を見ると顔を閉じ、下を向いていた。
「なんか不味そうだから一気に行くよ」
「アンナがどう言おうと私も行くわよ」
「分かったよ。それにアンナの事は心配だけど、はぶいてるわけじゃないんだよ」
「はぁ……またあとで話し合いましょ」
まだ怒ってるようだ。マズイ、シルヴィアに嫌われるのだけは嫌だ。帰ったら何が悪いか考えないと。
と、考えて走っていてリヴァイアタンから目を離した隙に顔を上げ、口の中に青白い光が見え、血の気が引く。まさにこの感覚はベヒモスのタックルを食らったのと同じだ。
「マスター‼︎‼︎」
先頭に出ていた私とシルヴィアをガウェインが思いっきり自身の方へ引っ張り、背をリヴァイアタンの方に向けて私達を体の中に引き込む。私が「辞めろ!」と叫ぶよりも前に私の体がフワリと少し軽くなる。
『大好きなマスター、また後で逢おうね』
その儚げな言葉と共に周りに青白い光で満ち、その一瞬に黒い影が私達を覆い被さった。
光が収まった後、攻撃は止んみ私達だけが海面に立っていて、私はガウェインに抱きついたまま震えていた。あの真実から逃れたい為に。
「マスター、今ある時間はクロワが身を呈して作ってくれた時間です。この時間を無駄にせず、奴に仇を取りましょう…」
何で?どうしてクロワが、私が弱いから?私は何が足りない、私を苦しめるのは何故だ? 嫌だ、失うのは、嫌だ、そうだ、仇を、仇を取らなくちゃ、どうすれば取れる?
思考が定まらない、考えれば考えるほど暗い闇の中に埋まっていく。その側から囁きが聞こえる。
《簡単ナ事ダ。足リナイノハ、力ダト分カッテイルダロウ?》
そうだ、分かっているが、今の私には足りない、到底無理だ。
《ソンナ事ハ無イ、我ガ、授ケヨウ。奴ヲ滅ボス力ヲ、破滅サセル力ヲ…》
アンナはガウェインを突き飛ばし、1人リヴァイアタンの方に歩いて行く。
先程までのアンナなら無理矢理でも付いて行こうと思っていたシルヴィアだが、アンナが離れた瞬間自身が圧倒的な気迫、覇気、殺気で体が固まってしまう。
ガウェインと胸ポケットに入っていたスイゲツも同様でアンナを止める事は出来ない。
《サァ、目覚メヨ、ソシテ滅ボセ》
アンナの歩みが止まり、身体中から常闇が突き出す。
ガウェインは自身にマスターを助け出せと、自身の忠誠心にて無理矢理動き出しアンナに迫り手をかけようとするが、突き出た闇に弾き返され、シルヴィアの側を通り抜け、街の方に吹き飛ばされる。
「……よし動けた!シルヴィア、暗示を掛けるぞ「動き出せ」」
「……ありがとう!」
シルヴィアとスイゲツはすぐに振り返るが、もうその場にアンナはおらず、その場にあったのは周りの空間を歪ませる常闇の丸い球体があるだけだった。